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月の綺麗な夏祭りの夜、

七夕のお話の翌日の話。覚えてない方は一つ戻るといいかも?


サークル同人誌用に書き下ろした作品ですがお蔵入りになりそうなので掲載することにしました。

「ん……」


 深い睡眠から意識が段々と浮上していく。

 身体のあちこちに軽い痛みが走り、それが覚醒を加速させていく。


 のそのそとベッドの枕元に置いてある携帯電話を手に取ると、そこに表示されていたのは時刻はもう夕方を過ぎた時間だった。帰宅して寝たのは朝になってからだったので仕方ないとも思えたが、それでも少し寝過ぎたと言えるだろう。


 昨夜の仕事は神奈川県山中での魔獣退治だった。

 弟子の優綺ゆきと二人で行ったその仕事はそこまでの苦労もなく終えたのだが、結局山を下ったのは陽が昇り始めた頃だ。


 特に今日は用事があるわけでもないので問題はない。ゆっくりと疲れを癒しておこう。


 そう思って寝返りを打つと、外から何かの音楽が聞こえ始めていることに良治よしはるは気がついた。――これは、祭囃子だ。


(……ああ。今日まで夏祭りだったっけ)


 近所では七月の六日から八日にかけて毎年お祭りがあるらしい。

 去年までこの周辺には住んでいなかったので知らなかったが、ちょうど今朝帰宅した時にマンション一階にある掲示板に祭りのポスターが貼ってあったことを思い出した。

 夏祭りと言えば夏休み中のことを思い浮かべるが、この辺では一足早く行うことが多い。早いところなど五月にあるくらいだ。


 お祭りというものに良治はあまり縁がなかった。

 今までたくさんの土地を転々としてきたが、タイミングが良くなかったのかほとんど遭遇したことがない。特に一緒に行くような仲の人がいなかったのもある。


 起きて少しくらい屋台を覗いてみようか。

 頭の覚醒が進んできてしまったこともあり、このまま怠惰に寝続けるかなんとなく楽しそうな雰囲気に誘われて外に出るかを天秤にかける。

 元来仕事以外に関しては出不精で面倒くさいことは後回しにしがちな彼にとっては迷うところだ。


「――あの、先生起きてますか?」

「起きてるよ。どうした優綺」


 控えめなノックと声。

 静かに開かれた扉から見えた彼女の姿に、良治は身体を起こしてひとまず寝ると言う選択肢を消し去った。


「失礼します。その……良かったらお祭り、行きませんか?」

「……わかった。行こう。準備するから十五分ほど待ってくれ」

「っ! はい!」


 いつもは下ろしてあるセミロングの髪を結い上げ、恥ずかしそうにもじもじとしている女子高生。

 桃色の浴衣姿の美少女のお誘いに、良治は一瞬意識を持っていかれながらも即答した。











「身体は……大丈夫みたいだな」

「はい。もう全然。疲れも残っていません」

「なら良かった」

「あ、向こうにお好み焼きありますよ! ちょっと待っててくださいっ」


 行き交う人々の隙間から目ざとく店を見つけて小走りに駆けていく。お好み焼きの店まではまだ二十Mくらいあったが良く見つけてものだ。


 良治は屋台の途切れた道の端に移動し、優綺を視界に捉えながら少し休憩を取る。


(元気だなぁ。さすが高校生。まだまだ若い)


 良治もまだ二十代半ばなので若いはずなのだが、それでも十代の行動力には敵わない。更に言うなら良治が十代の頃でも無理だっただろう。

 それくらい今日の優綺は今までになくはしゃいでいる。


「買ってきましたっ」

「おかえり。じゃあそろそろ食べようか」

「はい!」


 そろそろ、というのは優綺の買ってきたお好み焼きだけを指しているわけではない。良治の両手にある焼きそばとりんご飴、たこ焼きも指しての発言だ。


「先生、どうぞ」

「……うん。ありがとう」


 良治は両手が塞がっているので自分では食べられない。そこに当然のように優綺がお好み焼きを一口サイズに切って食べさせてくる。


 正直に言って少し恥ずかしい。

 だが優綺が内弟子として良治と同居を始めてからもう四か月になる。

 一緒に暮らしていればそれなりに恥ずかしいことや姿を見られることもあり、この程度のことはさして気にならなくはなって来ていた。

 ちなみに同居人はもう一人いるが、家事のほとんどは優綺が行っている。洗濯もその一つで、当然彼の下着も優綺が洗ってくれている。


(でも外でってのはまた違うもんだな……)


 恥ずかしさには慣れたがそれは誰も見ていない室内であってのことで、周囲に大勢のいる屋外ではやはり気になってしまう。


「どうしました?」

「いや、なんでもない」

「? そうですか? あ、焼きそばも美味しいですよ」

「ありがと」


 優綺はどう思っているのか気になり見るが、彼女は特に気にしていないようだ。

 良治の視線を催促だと思ったらしく、彼の手にあった焼きそばに手を伸ばして口まで運んでくれる。


 まるで付き合っている恋人同士のようなやり取り。

 良治は優綺のことを気に入ってはいるがそれは恋ではなく。


「楽しいですか?」

「ああ。うん、来てよかったよ。ありがとう優綺」

「いえ。その、昨日もご迷惑かけてしまって、そのお詫びと思ったんですけど、私ばっかり楽しんじゃってるかなって……」

「いーや、楽しいよ。優綺も楽しんでくれてるならその方が良い」

「……ありがとうございますっ」


 そして優綺から良治に向けられているもの、それは――


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