そこに並ぶのは
あれから66年ちょうど、クリムゾンキングの町から
今日もこのアンクルフォーンにパレードの一団が
やってきた。一日限りの大パレード、世界各地を移動し
ここに来るのは、キッカリ66年後だ。
弱った足をさすりながら、人込みをかき分け、
荒く息を吐き、今年で78歳になったアン・チャールズは
白髪の混じった髪をカールにして、淡いスカートをなびかせながら
一心不乱に探していた。
あの日を取り戻すために、たとえどうなろうとも、、、この日のために
彼女は生涯結婚もせず、身寄りもいなかった。この日のために。
ーーーーーーー
「さぁ、一人5ドルだ。パパとママは一緒に行くけど
お前らは来ないだろ?んん?」
「僕は、猛獣ショーをみにいくんだ」
今年で8歳になる弟のトムはそういうと、5ドルを握りしめて
人込みの中へと消えていった。
「ここでおち合うんだぞぉ!!トォォム!!!まったく、、
さぁ、アンはどうする?」
「私はリサと待ち合わせしてるから、パパたちは楽しんできて」
「キッカリ6時までよ。遅れないで」
「えぇ、ママ」
両親は、12歳の娘のほっぺにキスをすると、手をつないで
反対側の大きな観覧車の方へと歩いて行った。
ーーーーーーー
それから、待ち合わせ場所の大きな時計台の
下でアンはリサが来るのを待っていたが、一向に
リサは現れず、ジッと待つのも飽きたアンは、時計台から
色鮮やかに装飾された様々な店をグルリと見渡し、
[ゲームショット]とネオンが輝く看板が目に留まった。
近づいていくと、ほかの店には大勢の客がいるのに
そこには誰もいない、そして、店の横の立て看板には
「あなたの幸福が的を射抜き、また、幸福が景品となります」
と意味不明な言葉が書かれていた。
「いらっしゃい♪1回1ドルで球は5個あげるよ♪」
店中からアンに語り掛けてきた男は、40ぐらいの
白髪まじりの紙を短くカットし、前髪はおしゃれに
カールされている。着ている服も、店には似合わない
白いタキシードで、胸ポケットには黒いバラが飾られていた。
「景品は何があるの?」
「なんでも」
男はそういい、横に体をずらすと、3段ある横に長い棚には
男の言う通り、様々なものが陳列されており、さらに
それすべてがアンが欲しいと思っていたものばかりだった。
「さぁ、1回1ドル、5個の球をプレゼントするよ。
倒せば君のもの、棚に飾れない大きな景品は
景品の写真縦を倒せば、、ホラ、ここに、」
アンに見えるように男がテントの奥のシートをどけると
そこには、自転車に、ゲーム、大型のテレビまで
新品同様のものが隠されていた。
「やるわ!!5ドル!!」
「おぉ♪太っ腹なレディーにはおまけで、30個あげるよ。」
大きな木箱には様々な色のゴムボールが入っており、
硬さも重さも十分だった。
アンはすっかり、友達のリサのことを忘れ、30個目の
一つを手に取ると、狙いを定めてボールを投げた。
ーーーーーーー
アンの投げるボールは的に当たりさえすれば倒れるはずなのだが、
不思議と一つも当たることなく、的すれすれを通過し、壁に当たって
跳ね返っていく、そして、いつの間にか最後の一つとなった
ボールも自転車の写真が入った写真立ての横すれすれを通過し、
壁にあたって、大きく跳ね返えった。
「あら~おしかったけど、残念ながら景品はなしだよ
それとも、まだやるかい?」
「お金がないからできないわ」
アンはどうしてこんなものに全部のお金を使って
しまったのだろうかと後悔し、すっかり忘れていた
友達のリサを会うために歩き出そうとしたとき、
「君の大事なものを差し出すなら、一つにつきそうだな、、
50個ボールをあげるよ♪」
アンは足を止め怪訝そうにニコニコと笑う男の
顔を覗き込んだ
「大事なものって??」
「君の両親や家族♪」
この男は何をいっているのか?っとアンは思ったが
「あげたら50個くれるの?」
目の前の景品が彼女の思考を麻痺させていた。
「もちろん、どうする??」
「いいわ!じゃ、あげる!!」
男はその返事をきくと愉快そうに道化のようにわらい
「太っ腹のお嬢さんだ♪だったら、君のパパと弟をもらおうかな
ママは次の機会に」
「次の機会?」
「いいから、さぁ、どうぞ100個だ♪」
大きな木箱にはぎっしりと球がはいっており、リサは
考える間もなく、嬉しそうにボールを手に取ると
目当ての景品めがけてボールを力いっぱい投げた。
ーーーーーーー
「いやぁぁ~おめでとぉぉ♪」
大きな鐘の音は何度も鳴り響いたが、リサ以外には
聴こえないのか、大勢の通行人は誰一人として
足を止めず、両手いっぱいに景品を抱えたアンは、最後の
自転車をうけとると嬉しそうに跨り、頭を抱えている
男に笑顔を向けた。
「全部私のだよね!!」
「もちろんだとも、いやぁ~お嬢さんにはやられちゃったな
今日は店じまいだよ。なんせ、的あての景品がないんだから♪」
男は、そういいながらもニコニコとどこか嬉しそうで
立ち去ろうとするアンに
「次は、もっといい景品を用意しておくよ♪」
「これ以上の景品なんてないわ!バイバイ」
アンは新品の自転車に跨り、大きな袋に入れてもらった
景品をサンタクロースのように肩に抱えながら、フラフラと
時計台の下へと向かった。
「あるとも、、素敵な景品は、、君だけの景品が」
ーーーーーーー
時計台の下では、友達のリサが怒ったようにアンに
向かって走ってきたが、彼女が抱えている景品を見るや否や
怒りは吹っ飛び、自慢気に語りだすアンの話をうらやましそうに
聴き、最後に
「私も一緒に行きたかったわ。もう、店じまいしたみたいだし。」
「全部じゃないわ、まだ、テレビとかいろいろ残ってたわよ」
「だって、そんな店なんてないわよ」
「えっ!?」
夢中で語っていたアンがリサに指さした場所には
ポッカリと小さな空きがあるだけで、さきほどまであった
店は影も形もなくなっていた。
「そんな、、ほんの数分前にはあったの、、あったのよ」
「いいから、次は私につきってよね。あーん、どうしよっかな」
まだ、店があったはずの場所を見つめてるアンをよそに、リサは
10ドルを握りしめ、ごった返し、にぎわい続ける
様々な店を眺めていた。
ーーーーーーー
それは、家に入り、自分の部屋に景品の入った袋を
置き、いやに静かな1階のリビングに降りて行った
時だった。
「パパ?ママ?待ち合わせ場所に来なかったでしょ??」
そういいながら、リサがリビングに入ると、ママが一人で
テレビを見ており、振り返ったその顔はどこかいつもと違い、疲れ
憔悴していた。
「おかえりなさいアン、パレードは楽しかった?」
「楽しかったって、ママたちも楽しんだでしょ??」
「ママはいかないって言ったでしょ?」
「何言ってるのよ。そういえば、カールは帰ってないの??」
「カール??誰なのそれは??」
アンはしばらくその場で立ち尽くし、目の前のママが笑い出し
どこからか、パパとカールが飛び出してくるのを待った。
しかし、母親は深いため息をはくと、面白みもないワイドショーに
目を戻しただけだった。
「ママ!!パパとカールはどこ??」
「やめてちょうだいアン、、仕事で疲れてるの、、」
「ふざけてるんでしょ!!私だって怒るわよ!!聞いてるの
パパ!!カール!!早く出てこないと」
「アン!!!やめて!!!」
「ママ、、だって、パパとカール」
母親は、もう一度深いため息を吐くと、泣きそうに
なっている娘の方を振り返り、
「もう、大丈夫だっていってたでしょ?パパの事は
ママだってつらいの、、でも、二人で頑張っていこうって
決めたでしょ。」
それは、小さなリサでもわかる嘘偽りのない真剣な言葉だった。
自分をみつめる母親の目にも涙があふれており、それに気が付いたのか、
母親はテレビに顔を戻した。
「もう寝なさい。パレードはおしまいよ。明日は学校なんだから
ママも、いつも通り朝早く出るから、ちゃんと何か
食べて学校にいくのよ。」
「カールはママ、、覚えてるでしょ?」
「カール、、だれのことかしら、、カール」
アンはゆっくりと、後ろへ後ずさりし、その時、壁にかかった
家族写真が目にはいった。そこには、笑顔で両親の間で笑うアンと
右側に母親が、そして、母親と娘の方に手を置いている見知らぬ
男が写っていた。
ーーーーーーー
人でごった返し、賑わい、様々な店がネオンで輝く
パレードは50年前とあまり変わらず、そこにたたずむ
アンだけが、年寄りになったという感覚に襲われる。
そして、ゆっくりと歩き出した彼女の行き先には
あの店が、当時のままにそこに存在し、心臓が
激しく脈打つ中、アンが店の前にくると、店の横には
あの意味不明な言葉がかかれた立て看板があり、
「やぁ、太っ腹なお嬢さん♪」
当時のまま、時計の針が止まったかのように、男は
そこで彼女をまっていた。短く切られた髪は前でカール
されており、店に似合わない白いタキシードの胸ポケットには
枯れることのない黒いバラが一凛、、
「景品は何があるの」
「なんでも」
男はそういい、同じ様に横にどけると
3段の横長の棚がそこにはあったが、あるのは
最上段にある二つの写真立てだけだった。
「私をあげるわ。いいでしょ?」
「太っ腹なお嬢さんだ♪ただし、ママもセットじゃないと
今回はできない。君とママの魂で200個のボールを
プレゼントするよ♪」
見上げた男の目は燃えるように赤く、年老いた
老婆が小さく頷くと、道化のようにピョンピョンと
飛び跳ね、アンの前に大きな木箱に入った様々な
色のゴムボールを差し出した。