【ファエードの裏町】 この町で一番の鍛冶師
「信用できるのかな?」
懐疑的な発言をするあやめ。
「とにかく行ってみようということになったじゃないですか。いったい何回目ですかその発言」
ランザンの言うように、セパラシオンの森から何回もあやめはぼやいていた。そんなに自分の探知に引っかからない相手に近づくのが嫌なのだろうか?
「いやに決まってるじゃん」
だそうだ。
黒尽くめからもらったカードにはアドレスコードが刻まれており、ゲームメニューの地図機能に読み込ませると、ファエードの裏町を指していた。
「知りたければ来い! みたいなこと言ってましたが、少し怪しい気がしますよ」
ポワンも黒尽くめに不信感があるらしい。
「……」
ドレッドノートは寡黙だ。一回決まったことに口出ししない。いい奴だ。
「ほっといて、何かしら大きい被害が出てからじゃ遅い。いま対処できるんならしておくべきだろう?」
俺はこの会話を打ち切った。
「ここだな」
地図が示していたのは、【スカル工房】の看板がかかった店舗だった。
「何のお店だろう?」
「たしか、裏町はファエード第2の職人街とも言われています。工房と名前がついていますから、何かを作っていることは確かですね。あ、それにこれを見てください」
ランザンが指したのは、入り口に飾ってある「職人ギルドランク:鍛冶マイスター(ファエード)」のエンブレムだった。
「このエンブレムがあるということは、この町で一番の鍛冶師であるということです。」
マイスターとは職人ギルドでその技術が特に認められた職人や工房に贈られるランクで、各都市で一人ずつしか選ばれない。求められる品質や技術力はかなり高いらしく、大都市でもマイスターがいない都市があるほどだという。
もし選考に不正があれば、それに関わった者はすべてのギルドから追放されるのだ。
閑話休題
「つまりここはギルド公認、この町最高品質の工房ってわけか」
「そういうことになります。むしろここに来れたのは行幸でした」
ランザンは目を輝かせている。「刀が手に入るかも」と顔に書いてある。
「とにかく入ろう」
俺はその工房の引き戸を開けた。
工房の中は特に飾りもなく、剣の一本も陳列されていない。
カウンターには猫獣人の少女がいる。
「いらっしゃいませ」
「どうも」
「お客様、紹介状をお持ちですか?」
「紹介状?」
「はい。この工房はオーダーメイドのみで品物を作っております。さらにマイスターのランクもいただいているので冒険者ギルドか店員の紹介状が必要です。お持ちですか?」
少し、目線の温度を下げながら再び確認してくる少女に焦る。あの時渡されたのはアドレスコードの書かれたカードだけ……あ。
「これでいいか?」
カードを見せると少女は驚いたように
「あら、店長のカードじゃないですか。あるんだったら早く出してくださいよ」
といって、奥へと引っ込んだ。
「ということは、あの黒尽くめが店長ということでしょうか?」
ポワンの同じことを思ったらしい。
「お待たせしました。応接間にお通しするようにと」
少女は確認が取れたのか、俺たちを奥にある応接間へと案内してくれた。
「いま、お茶とお菓子をお持ちします」
少女が出ていくと、俺たちは用意してあった椅子に座った。
「何か仰々しいですね」
ランザンは落ち着かない様子で、応接間をきょろきょろ見回している。ポワンとドレッドノートはきれいな姿勢で目を閉じている。あやめは借りてきた猫のようだ。
ガチャ
扉が開くと、俺と同い年ぐらいの青年が応接間に入ってきた。俺たちと対面の椅子に座ると自己紹介を始めた。
「俺の名はカムラギ。このスカル工房の店長兼鍛冶師だ」