サービス開始三か月目 【セパラシオンの森】 最後の希望が出会うとき 2
「仲間を置き去りにして逃げるなんてゴミの中のゴミだな」
黒尽くめの人物は視線を戻し、そう言うと倒れたプレイヤーに歩み寄る。
「ま、待ってくれ! 何がどうなっているんだ!?」
俺が声を張り上げストップをかけた。
黒尽くめの人物は一瞬こちらに注意を向けた。
「メタルウォーターか……」
どうやら俺たちのことを知っているらしい。
「狩りの最中だ、邪魔するなよ?」
!!!
「それはPKってことかな?」
あやめが声を低くしながら聞いた。
そういえばパーティを組む前に、あやめは悪質なPKに襲われて友達が引退したと言っていた。だからなのか、あやめはPKに過剰反応する。いつもの明るい性格は想像もできないダークモードになってしまうのだ。
「そんな生ぬるい表現をしないでもらおうか」
「なに?」
「俺はこいつらを地獄送りにするんだよ」
どういうことだ? 何を言っているか理解不能だ。
「まあいい。理解してもらおうとは思ってないからな」
そういうと黒尽くめの人物は、倒れている男の背中に投げ刺した剣の柄を握りしめた。
「刀炎の息吹」
そう唱えた瞬間、剣から炎が噴き出し倒れている男の体を燃やし始めた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!」
その野太い悲鳴は、長く続かなかった。
炎が消えたとき、焦げ跡以外の痕跡はなくなっていた。
今の技は見たことがない。情報が多すぎる。
「覇陸! 見てください!!」
ランザンが黒尽くめの持っている剣を指さした。
「刀です!! いまだ、誰も作れていない刀です!!!」
刀だって!!? 刀はいまだにプレイヤーメイド品が出ておらず、製造している地域も遠いため高いのだ。それにランザンは侍オタクであり、刀を手に入れようとしているプレイヤーの筆頭格だ。
見間違うはずもない。
「あぁぁぁ!! 一度に情報が多すぎる!! 一体お前はなんだ!!?」
俺が黒尽くめに問うと、シュッ……タスッという音が聞こえた。自分の足元にカードがいつの間にか刺さっていた。
「ここで話すことじゃない。そこなら落ち着いて話ができるだろう」
黒尽くめは一回軽く飛ぶと
「興味があるのなら、来い」
そう言って消えた。
もうここには俺たちと静寂しか存在しない。