サービス開始3か月目 【セパラシオンの森】 最後の希望が出会うとき 1
最初から飛ばします。
「ねー、覇陸」
「なんだ、あやめ?」
「ホントに居るのかな?」
俺たちは今、ユニークMOBが出現したと噂のある【セパラシオンの森】に来ていた。
ファジュルの町にいた情報屋によると
『見えないところから奇襲され、気がついたときには既に全滅ってことが六人組でもある』らしいということだった。
「所詮噂だ。五分だと俺は見ている」
「だよね、この森に入ってからポップしたMOBもそこまでのレベルないもんね」
あやめはこのマップに飽きが来ているようだ。
あやめはガントレットを装備した腕をブンブン振り回す。
彼女の武器はその肉体。殴り蹴りで相手をボコボコにしてしまう。うちのパーティーの切込隊長を自称するだけあって頼りになるが、作戦も聞かず特攻する悪い癖がある女だ。
「もしいると仮定して、一番最初に狩ることが出来れば、経験値をより多く稼げますからね。それだけ強いならドロップも期待できそうですし」
そう答えるのはランザン。侍を目指す片手剣の剣士だ。今はまだ刀を作れる鍛冶師がいないことから、主にバスターソードを使っている。
ランザンの言う通り、ユニークMOBを一番早く討伐したパーティーには5倍、経験値が入る。初回討伐報酬もかなりいい。それに討伐されてしまえばいつリポップするかわからない。
「それに、この森の調査依頼も結構金になる。いなくとも損にはならないはず……。出発前にそう説明しただろう?」
そうあやめに問うのはドレッドノート。壁役、つまりタンカーを務めてくれているいい奴だ。口数が少ないが自分の役割を全うする不言実行の男でもある。
「それにここのMOBが味気ないと思うのは、あなたを含めてパーテーの平均レヴェルが高いからです。私たち以外の攻略組と比べても頭一つ抜けていることを忘れてはいけませんよ、あやめ」
そうあやめを諭すのはポワン。名前の通り言動はぽわーんとしているが、頼りになるサブリーダーだ。
パーティーメンバー唯一の専門魔法使いでもある。得意属性は水だ。
「とにかく、油断すんなよあやめ。いくらトップでも」
「『死ぬときは死ぬ』でしょ? 耳にタコができちゃうよ、覇陸。別にVRMMOで死んだってホントに死ぬわけじゃないのよ。ただ、経験値リセットされるだけよ」
「それが大問題なんだろう!! 一から経験値溜めるにもレベルアップまでの時間が大幅にかかる。レベルが下がるわけじゃないが経験値不足でステータスは下がるんだ。かなりキツイことなんだぞ!!」
しかし、あやめにはどこ吹く風、馬耳東風、馬の耳に念仏らしい。
「さ、とにかく早く終わらせよ。ねっ!」
そう言ってまた、一人でどんどんと進もうとするあやめの姿に思わず溜息がこぼれた。
まさに豆腐にかすがい、ぬかに釘、暖簾に腕押しだ。
「まあ、覇陸は慎重すぎるきらいがありますからね。直感型のあやめにはじれったく思えるのかもしれません。私はどちらの意見も正しいと思いますよ」
ランザンの言葉にウォールの頷いている。確かに突っ込んでいく割にいつもぎりぎりで生還するあやめには驚かされることも多い。たまには俺も直感で動いてみてもいいかもしれないな。
そう考えていた時のことだった。
「ぐあっつ!!」
「ぎゃーーーー!!!」
森の奥から野太い悲鳴が聞こえた。
全員が顔を見合わせ、一斉に声の聞こえたほうに駆けだした。
しばらく駆けていると、その方向から何かが出てきた。大柄な男性プレイヤーで折れた剣とずたずたの防具を装備していた。
「!!」
男性プレイヤーは驚いた後、助かったとでも言いたげに肩の力を抜き膝をついた。
「お、おい! 大丈夫か!?」
そのプレイヤーは口を開きかけた瞬間、後ろから何かに貫かれてしまった。
「……がはっ!!」
血を口から吐き出しながら、前のめりに倒れたプレイヤー。
その後ろから、足音がゆっくり近づいてくるのが聞こえた。数秒もしないうちに現れたのはドクロの仮面をつけた全身黒尽くめの人物だった。
「こんな近い距離にいて気が付かないなんて……」
あやめがなぜか驚愕していた。しかし、その理由を問う余裕はない。
黒尽くめの人物が俺たちを一瞬見た気がした。仮面のせいで目線を追うことは出来ないが、そう感じた。
合わない人はターンを