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掌編008『大阪LOVER』

作者: 綾野祐介

『大阪LOVER』

               綾野 祐介


 大阪市此花区に日本で初めてオープンした

海外発信のテーマパークがある。今やTDL

を追い越す勢いのテーマパークだ。

 そのほぼ中央を縦横無尽に駆け抜けるジェ

ットコースターは一風変わっていて後ろ向き

で滑走する。前向きでも運行しているのだが

人気なのは後ろ向きだ。

 本来絶叫マシンは苦手なので普通のジェッ

トコースターも乗らないのだが、初めてのデ

ートで付き合い始めて一月ほどの彼女にせが

まれたら、もう乗るしかない。覚悟を決めて

一番前、つまり後ろ向きなので一番後ろに思

える席に陣取った。

「楽しみね。」彼女は無類の絶叫マシン好き

だ。私の顔は少し蒼ざめていたと思う。動き

出し徐々に高さを増していく。もう頂上だ。

「きゃぁ~。」隣で彼女は嬉しそうに叫んで

いる。私といえば絶叫することすらできない

ほどの恐怖に包まれていた。

 その時だった。私は耳元になんだかふわっ

とした感覚を感じた。突然冷静になる私。そ

れは、確かに髪の毛の感触だ。長い黒髪が風

になびいて私の耳からほほの辺りを触ってい

る。もちろん自分のものではない。そして、

隣の彼女はショートカットだ。

 なんだか覚えのある感触。匂い。なぜ絶叫

マシンに乗っているのに、そんなことが感じ

られるのだろう。しかし確実に覚えのある匂

い。

 一番前に乗っているので私の後ろには誰も

居るはずがない。頭では判っていた。振り向

けない。すぐ後ろに居る。声が聞こえてきそ

うなくらい。そういえば元カノも絶叫マシン

好きだった。私は一度も一緒に乗ったことは

なかったが。

 その匂いは確実に私が2ヶ月前に埋めた筈

の元カノの匂いだった。

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