フォト・スクロール
「眠れない」
凝り固まった目蓋を開けて、ユカリはつぶやいた。
深夜なのに眠れない。
熱くなければ寒くもない。
布団も枕もあって眠るにはもってこいだけど、奇妙なことに、眠気が存在しないのだ。
「変な感じ……むぅ」
左へ寝返りをする。
ユカリの目先には、布団にくるまった親友二人がいた。
微動すらしない様子から、修学旅行で歩き疲れているのだろう。
「二人とも寝た?」
二人は無反応。
そのためユカリは溜息をついた。
みんなは京都観光の疲れで眠ったのに、まだ熱に浮かされているのはわたしだけだ、と思ったのだ。
「そわそわする」
まるで小学生みたい。そう嗤笑して、どうするべきかユカリは悩む。
明日は早い。
寝られないでいると、寝過ごしてしまいそうだ。
とっとと眠るために、おまじないをするべきであろう。
幼いときに教えてもらったおまじない。
ふわふわな羊を数えよう。柵と草原を用意して……そこに、
「ユカリ、ユカリったら……まだ起きてる?」
ひそりと、横隣り。
夢の羊を思い描くと、右から友人であるハルカのささやきを聞く。
声あるほうへとユカリは顔を向けた。
ハルカは背丈が小さい子で、まんまるの目を開けている。
一目で眠たさとは無縁だとわかった。
「うん、起きているよ。ハルカ」
ユカリはハルカにうなずいた。
眠るためのおまじないは、頭の消しゴムでさっさと忘れる。
するとハルカが安堵した様子で、
「そう……よかった。眠れないのはあたしだけかと思ったよ」
今のハルカは、目に見えて元気がない。いつもなら太陽みたく元気いっぱいなのだが。
「どうしたの、ハルカ? なんだか元気ないよ」
「うん、ちょっぴり」
「悩みがあるみたいね、わたしでよければ相談に乗るよ」
「ありがとうユカリ。でも大丈夫。自分で解決できるから」
親友の『大丈夫』にユカリはしぶしぶうなずいた。
ハルカが大丈夫と言うなら深入りはしない。
本当に助けが必要ならば、頼ってくれるだろう。
「わかった。それでも、無理はしないでね」
「うん……なんだかごめんね」
「いいよ、きにしないから」
できる限り優しい言葉を返す。
そうして疑問を口にした。
「しかし珍しいよね。ハルカが夜遅くに起きているなんて」
「いつもだったらそうかも。あたしって夜に弱いから」
「ほんと。ちょっと前のお泊まり会でも、一番先に寝ちゃっていたね」
「だって仕方ないもん」
「仕方ない?」
「たぶんそういう体質なの、きっとそう……でも今はぜんぜん眠たくない。なんだか不思議」
そう言って、ハルカは笑顔を見せた。
それにユカリは同調。
「ペアルックみたいだ。不眠もハルカとならわるくない」
「ふふっ、仲良しの証。てな感じ?」
眠れないことも、二人一緒なら嬉しい事柄だ。
「ねぇユカリ」
「なに?」
「そっちに行っていいかな」
「いいけど、結構せまいよ」
「きにしなーい」
もぞもぞとハルカが寄ってくる。
ハルカのパジャマには、ウサギがたくさん刺しゅうされているはずだが、照明がうすいのでシルエットでしか見えなかった。
しかしハルカが布団に入ってくるのはわかった。
二人仲良く毛布を共有する。
するとハルカが喜ぶ。
まるで子猫のように喉を鳴らし。
「えへへー」
「なんだか嬉しそうだね、ハルカ」
「だってー、特別な感じがするもん」
「特別な感じ?」
「そうだよ。こんなにユカリが近いんだもん。すごく嬉しい」
ハルカの嬉しいに、ユカリは幸せな気分となった。
甘いキャンディを食べたみたいで、ずっと溶けないでほしいと願う。
「……わたしも嬉しい」
「やった。これも一緒だね」
そうしてハルカがスマートフォンをとりだす。
電源を入れて、あたりがちょっぴりライトアップ。
ハルカのマシュマロみたいな頬が、くっきりと見える。
「ねぇねぇ。どうせ眠れないからさ、退屈しのぎに写真を見ようよ」
「うん、見る」
時間つぶしにもってこいだ、とユカリは賛成。
お互いに寄り添って、小さな画面をのぞいた。
画面にはトップ画像らしきオーロラが映っている。
ハルカはオーロラを指でスクロール。今日撮っていた写真を閲覧するために操作を始めた。
「フォト、フォト……あった。ほら見てみて。これ空港で撮ったやつだよ」
「こっちにくるときのやつだね」
写真は自撮り棒を駆使していて、四人が入れるようにせまいスマートフォンのなかで、おしくらまんじゅうの如くぎゅうぎゅうになりながらスマイルとピースサイン。
棒を持っているのはハルカで、写真係をしている。
「たしかこのとき、ハルカが金属探知機に引っかかっていたね」
なにげなくユカリは言った。
ほんとうにびっくりしたのだから。そう付け加える。
「あ、あれは仕方ないよ。まさか酔い止めに反応するとは思ってなかったもん」
「コントみたいに焦っていたのが、とてもおもしろかったよ」
「むーユカリのイジワル……」
電子の光によって照らされたハルカのほっぺが、ぷっくりと膨らんだ。
ぶつくさと、
「ユカリのわるいところだよ。このイジワルめ」
と言われて、ユカリはにやけながらも謝る。
ユカリにとってハルカのふてくされた顔は、綿菓子のような飽きのない癒しがあった。
変な気分。
でもやめられない。
「ごめんごめん」
そしてこれを繰り返し、なんとか許してもらう。
次の写真を映すために画面をスクロール。
映るのは観光バスでの写真だ。
ユカリとハルカそろって隣同士で、息ぴったりにピースサインした一枚である。
うかれすぎだ、とユカリは一言。
「みんな騒いでばかりだった、わたしもハルカも」
「だって高校生史上最大のイベントだもん。騒がなきゃ後悔するかも」
「それもそっか」
ハルカが次の写真をスクロール。
同じくバスのなかでの写真だ。
ポテチを食べていたり、景色を眺めている友達にちょっかい出したりと、いつも通りだけど幸せな写真でいっぱいだ。
楽しい時間だった。
ユカリは今でも思い返せた。
バスのエンジン音。
建物だらけの景色。
ポテチのしょっぱい味。
そして、ハルカの子供じみた浮かれよう。
どれも大切な思い出だ。
「楽しかったね、ハルカ」
「ほんとそれだけど、これからがもっと楽しくなったでしょ?」
そしてスクロール。
今度は旅館に着いたときの写真だ。
宿泊客を歓迎する自動ドアをバックにした一枚。
自撮り棒以外でも撮るため、先生にカメラマン役をお願いし、四人仲良く映っている。
「旅館、とても綺麗な場所でよかった。ハルカもそう思ったでしょ」
「そうだけど、うーん。少しだけ残念かな」
「どうして?」
「もっとね、こう……お化けが出そうなのがよかったかも」
怪談話に花が咲くから。
その一言にユカリは、引きつった笑みで返した。
数日間の住まいが、化け物屋敷と同格なのは遠慮したい。
「お、おう……そうだね。ところで次の写真は?」
「気持ち悪いって思ったでしょ、ユカリ」
「そんなことないよ、だから次の写真を見せて」
恨めしそうに、目を細めたハルカ。
お茶を濁したいユカリは視線をそらす。
するとハルカは追及をやめた。
「わかった。ちょっと待ってて」
指が写真を横にスクロール。
映ったのはお寺の風景だ。
それとわかる山門が立派に立っている。
ユカリは疑問の声をあげる。
「ここ、どこだっけ?」
「龍安寺だよ」
「あぁ、なるほど。思い出した」
龍安寺。
綺麗な紅葉で彩られたお寺だ。
「日本の伝統に触れたよね。あたし、ひさしぶりに感動しちゃった」
と、ハルカが遠くの景色を見透かして述べた。
ユカリも、ハルカと同じ景色に思いをはせる。
「うん。なんだか和を直視した感じ」
「ところでさ、龍安寺ってなんのお寺だったんだろう。ユカリはわかる?」
「まぁあれじゃない。どんなお寺かわかんないけど、古きよき日本がとても綺麗なのはわかった」
ハルカが笑いを押し殺して、
「なにそれー」
「おもしろいでしょ?」
「バカっぽーい」
笑いを堪えながら、ハルカは画面をスクロール。
次の写真が出てくる。
現れるのは、舞妓さんと映っているハルカの姿だ。
よくわかんないお寺を背景に、舞妓さんとツーショット。
舞妓さんは京都の絢爛な着物を着ていて、まさにお人形のような造形美がある。
だから綺麗でうらやましい、とユカリは思う。
「舞妓さん、綺麗な舞妓さんだ」
「なんで二回も言ったの?」
「大事なことだから二回言いました」
ハルカが大きな目をしかめる。わけがわからないよ、と訴えていそう。
だからユカリは、おちょくりたくなった。
この愛らしい顔が、どんな七変化をするか見たくなる。
「ハルカ。舞妓さんて、とても綺麗だよね。お肌白塗りでさ、メイクもバッチシで、着物とか超凄すぎ」
「あたりまえでしょ。こんなにも素敵なの羽織ってるもん。立ち振る舞いとか京都美人まっしぐらだし、そりゃ綺麗だよ」
「それとスタイル抜群なのが決め手。もうほんと隣にハルカが居るとさ、お姉さまと妹ちゃんって感じだね」
「仕方ないよ。だって舞妓さんが凄すぎるもん。あれには勝てないよ」
「勝てなくてもハルカはかわいかった、ちっこくて」
ちっこくては余計だ――ハルカの口元が、お化けみたく張り裂けそうになったから、ユカリは謝罪した。
ユカリのバカ。
そう念を込めるかの如く写真がスライド。
次の写真がスクロールされる。
今度は和菓子屋だ。
日本独特の和みある店内でくつろぎながら、甘味を味わおうとする写真。テーブルには羊羹、大福、あんみつ、抹茶、どら焼き、みたらし団子などなどエトセトラが、甘露の魅力を漂わせている。
甘いお菓子によって、さっきのはお互いに不問とし、写真にのめりこんだ。
「ハルカの抹茶アイス、おいしかった」
「ほんとそれ。すごくおいしかったよねー。市販のアイスとは格が違うね格が」
「うん、まったくもって同意」
何度もユカリはうなずいた。
みんなでいろんなお菓子を食べ比べして、一番おいしかったのはハルカの頼んだ抹茶アイスだ。
「甘いもの食べられて大満足だった。そうでしょ、ハルカ」
「そのとおりかも」
「なんだかいつもと同じで、幸せだ」
写っているのは、日常のことばかり。
ユカリとハルカが毎日しているのと変わりはない。
みんなでお話しして、バカ騒ぎして、甘いものを食べる。
変わりのない楽しい日常だ。
「でもね、ユカリ……少しだけ違うのもあったよ」
「え、なに?」
「きになるでしょー」
ハルカの含みある小さな問に、ユカリはうなずいた。
「じゃぁさ、これ見て」
スッとスクロール。
写真が現れた。
写っているのは古い神社だ。
「ここ知っている。たしか――」
「――地主神社。恋愛成就のパワースポットだよ」
ユカリの言葉にハルカはかぶせた。
パワースポット、不思議な力がある場所だよ、て。
写真には、えんむすびの神を祭っている神社が写っていた。
年季ある石畳を敷居に、灰色の鳥居が立つ。そこをくぐれば目が覚めるほどに華やかな本殿と、おみくじとかを販売している拝殿が見えるはずだ。
「あぁ、そうだ。みんなお守りとか買っていたよね。勉強のヤツとか、健康のヤツとか」
「それもあるけど、今度はこっち」
そうしてスクロール。
次に出てきた写真は、今までのとは違っていた。
石が写っていた。
なかなか大きい石。
そこには恋占いの石と書かれた札が飾られていて、周りにあるお寺と一線を引いている。わざわざ名称をぶら下げているあたり、珍しさと異常さで目立つ。
異物が、石畳の上にぽつんと鎮座している。
「恋占いの石、て言うの」
ハルカが説明。
「二つある守護石の間を、目をつむったまま一方の石からもう一方の石へたどり着けると、恋の願いが叶うんだって」
「……そう言えばみんな参加していた。彼氏と幸せになりますようにーとか、彼氏ができますようにーとか」
「ユカリは参加しなかったね」
「うん。彼氏とかいないし、好きな男子もいないから」
それになんだか悲しかった。
だからユカリは、幾分も声色を暗くした。
みんなが参加している姿を見ていると、自分だけ置いていかれたように感じたのだ。
みんな好きな人がいる。
友ではなく恋として。
ハルカもその一人だ。目を閉じて恋を願った人だ。ハルカは、手の届かないところへ離れてしまう不確定要素を孕んでいる。
「あたしはね、好きな人がいるの」
「知っている。ハルカも参加していたし。で、好きな人って誰?」
ユカリはハルカにそれとなく聞いた。
まっすぐに、大きな目を見つめて。
もしかするとこれから飛び出す名前が、一番の親友をどこか遠くにさらってしまうだろう。
なぜだか、ぎゅっと握りこぶしを作ってしまう。
するとハルカは目を曇らせて、不安そうに答えた。
「ユカリ、だよ」
「……わたし?」
「そうだよ。あたしの好きな人はユカリ、ただ一人」
「そ、そう……わたしもハルカのことは好きだよ」
「それは嬉しい。でもでもユカリの思ってる好きと、あたしの思ってる好きは、だいぶ違うかも」
さっきまで見ていたスマートフォンのことなど忘れたみたく、二人は見つめあう。
時間が進む。
聞こえるのは吐息だけ。
数刻おいて、ハルカが沈黙を破る。
すぅ、と小さく息を吸い。
「あたしの好きはね、ユカリとずっと一緒に居たいって意味なの」
ハルカの答え。
このことは、ユカリも同じであった。
みんなが石に願いを込めているのを見ていて、傍に居てほしいと願ったのだ。
「それ、わたしも一緒だ」
また同じだね。
ユカリはハルカと、一緒に居たいと思ったのだ。
これもまたペアルックになったので、ユカリは内心喜んだ。
けれどハルカは違うみたいで、否定した。
「違うよ。絶対に違ってる」
「同じだよ。わたしとハルカはずっと一緒だったじゃん。だからこれからも一緒に居たい」
「やっぱり……似ているけど違ってる。あたしの一緒に居たいは、『ユカリにキスしたい』と同じだもん」
キス。
その言葉に、ユカリは目を丸くした。
すると、
「好きなの、ユカリのことが」
ハルカの目から雫が流れる。
「ごめんね、ごめんね……変だよね、気持ち悪いよね。女の子同士なのにキスしたいとか、変態だよね」
一つ二つと、あふれてくる。
「でもねでもね、このままで居たくなかったの。せっかく石に勇気もらったもん、ここで言っておかないと後悔する……だから」
ハルカは雫をぬぐった。
けれどまた濡れる。
「ユカリに、この気持ちをぶつけたかった。あたしを全部さらけだして、伝えたかった」
涙も感情も止まらない。
必死に声をかみ殺して、いままであったすべてが崩れ去ってしまう恐怖と、振り絞った勇気の代償に堪えている。
それゆえにユカリは、言葉を紡ぐ。
「もういいよ」
「……ごめんね」
「みんな起きちゃうから、静かに」
そう言ってから、ユカリはハルカに手を伸ばして、涙を拭いた
「え、ユカリ?」
「ごめん。なんだかこうしたくなった」
ユカリの声が、困惑しているハルカの耳元に、くすぐったく鳴った。
「ハルカの好きがどんなのか理解したよ。恋、なんだね。わたしのとはぜんぜん違う」
「だよね。違ってるよね」
「けれど好きだよ。そこは一緒だ」
「でもユカリは友達としてで……」
「そうじゃない」
否定して、ユカリは語り出す。
「わたしはハルカが好き。今のいままで一緒に居たから言える……だけど友情なのか恋愛なのかは、正直わかんないや」
あっけらかんと、微笑んで見せた。
自身に生まれた好きが、どんな名称かわからないのだ。友情と言われたらそうだと思い、恋愛と言われたらそうなのだね、とあいまいだ。
結論として、この感情はどっちにもつかない。
「だから友情とか恋愛とかよりも、ハルカが好き。ただそれだけ」
「それだけ、なの?」
「そのとおり。簡単でしょ」
「……簡単すぎるよ」
「ハルカは難しく考えすぎ。大切なのは、好きかどうかだから」
「でも、でも……あたしの好きは、ユカリの好きと違っているの。思いは一緒になれない」
「そう言うなら試してみる。ぜったい動かないでね」
試す、とユカリは、顔を近づける。
「ユカリ……なにするの?」
「いいから。目、開けていて」
ユカリの言葉がハルカを射抜く。
そしてハルカは瞬きをしなくなった。
困惑の金縛りをくらったようだ。
見つめあい、ユカリはさらに寄り添う。
吐息が聞こえるぐらい近く。
鼻と鼻が触れ合えるほどに、もっと近く。
そして、ユカリはハルカに、額をあわせた。
「キスはできないから、おでこで我慢してね」
息がかかり、キスができる距離。
おでこ同士をくっつけて体温を共有する。
「友情か恋愛かわかんない半端なわたしの、好きがこれ」
「これがユカリの好き……」
「うん」
そして沸々と、言葉を交わす。
「……ユカリのおでこ、あたたかいよ」
「ハルカもあたたかい。なんだか気持ちがいいね」
「あたしは、ちょっと苦しいかも」
「苦しい?」
「うん。ユカリのことが好きだから、心臓を握られてるみたいに、ぎゅってなる」
「それは息苦しいね、どうにかしなくちゃ」
「大丈夫。これは苦しいけれど、とても大切だもん」
「そうなんだ」
「そうだよ……我慢しなきゃ」
ハルカの目から、また涙が流れる。
「変だね。悲しくないのに辛い」
「落ち着くまで、こうしてよっか」
「うん……ごめんね」
おでこ同士あわせたまま、ユカリは微笑み返す。
するとハルカはユカリの熱に、落ち着きを求めた。
好きに、押しつぶされそうだ。
そんな様子をくみ取ったユカリは、涙がなくなるまで待つことにした。今はハルカにとって気持ちの整理する必要があるだろうと思考し、まんまるで幼げな目を見つめて、時が流れるのを待つ。
時間が気持ちを整理させる。
涙が乾く頃、ハルカはつぶやいた。
「もう大丈夫だよ」
「ほんとうに?」
「たぶん、落ち着いた」
ハルカの目に水滴はない。
確認をして、ユカリはおでこを離す。
密着していた部位から、熱が抜けていった。
「ごめんね、ユカリ。あたし、いろいろと迷惑かけちゃった」
「迷惑かけても無問題。ちっこいハルカのためならね」
「ちっこいは余計だ……でもありがとう。ユカリのおかげで元気出た」
「それはよかった」
ハルカに笑顔が戻るのなら喜ばしい。
「わたしとハルカ、これからも一緒だよね」
「もちろん一緒……恋人じゃないけれど、好き同士で一緒」
「恋人になりたかった?」
「なりたいから告白したんだよ」
「そうだよね……なんかゴメン」
「いいよ、まだ振られたわけじゃないもん。それに脈アリみたいだから、ユカリの気持ちが変わるように、めっちゃアタックする」
「えっ」
「だってユカリは、今まで通りあたしと一緒に居たいって思ったのでしょ。だったらその考えを変えさせる。今まで通りじゃなくて、恋人同士で一緒に居たいって思わせるよ」
「だ、大胆だね」
「それぐらいあたしは、ユカリが好き」
ハルカの言葉に、ユカリは驚いた。
大胆な言葉には、どうにも免疫がない。
「石にもユカリにも、勇気をもらえた……だから頑張る」
頑張る、とハルカは意思表明。
そしてスマートフォンを構える。
カシャ、と乾いた電子音。
フラッシュで目をくらませたユカリは、驚いた様子でハルカに尋ねた。
「どうしたのハルカ?」
「写真、撮ってみた」
そう言ったハルカは、ユカリにスマートフォンの画面を見せた。
画面には、ユカリが写っている。
「これからユカリをいっぱい撮るの。そしてたくさんアルバム作って、またユカリと一緒に、写真を眺めるんだ」
嬉しそうに微笑んで、
「そのときにはね、ユカリはわたしのお嫁さんになってるかも」
「お嫁さんって……なんか照れちゃうよ」
ユカリは、やはり大胆な言葉に弱くて、顔を赤くしてしまう。
「でもわるくない、かな」
「だったらコレ。たくさん写真撮って、いっぱい思い出作ろう」
「うん」
ユカリは、照れくさく答えた。
なぜならハルカと一緒に、写真を撮って保存して、もっとたくさんの好きを、共有し合えるからだ。
だから、約束を紡ぐ。
「これからもよろしくね、ハルカ」
「こちらこそだよ、ユカリ」
二人して、未来を過ごせるように。