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由衣の冒険2  作者: 和瀬井藤
帰宅
5/33

 由衣達は国道二号線を通って、岡山市の中心部に向かう。次の目的地は靴屋だ。

 一年ほど前に国道二号線から少し南に、大型ショッピングモールが出来ていた。青江から南に少し走ったらすぐに見えてくる。大型とはいえ、イオンモール岡山などに比べるとかなり小さいのだが、それでも大型のスーパーマーケットよりかなり大きい。

 由衣が入院している時期にオープンしていた為、以前から行ってみたいと思っていた。出店している店舗はアパレルや飲食が多い。高級ブランドも幾つかあるが多くない。カジュアルなものが多いと紹介されていた。

 由衣は、ここに靴を買いにいくつもりだ。由衣はスニーカーが好きで、若い頃からいくつも購入していた。入院中に一足だけ買ってもらっていたが、三千円程度の安いもので、大して気に入っていなかった。サイズも直接穿いてみた訳ではない——足の寸法を測って、そのサイズで購入した——このアディダスのスニーカーは、実は少し大きい様に感じる。

 欲しいブランドもあるし、やっぱり直接見て穿いて、それで買いたいと思っていた。


「ほら、あれじゃないの」

 宣子が道沿いの看板を見つけて言った。

「あ、ホントだ」

「割と近かったなあ。もっと向こうと思っとったが」

 駐車場に入っていくと、止められる場所を探す。敷地面積がかなり広く、空きは割合多い。出来れば店舗の入り口付近が良いが、見た感じではなさそうである。結局入り口から少し離れた場所に止める事になった。

 とりあえず近いところで由衣と宣子を下ろした。そして光男が車を駐車して、入り口の所で待っている由衣と宣子と合流した。

「さあ、入ろうか。由衣ちゃん大丈夫?」

「……大丈夫」

 由衣は松葉杖を使いながら歩いた。その隣で由衣が転ばないか注意しながらついていく宣子と光男。杖をついて歩く由衣を、小さい女の子が不思議そうな顔をして見ていた。

 正面の入り口を入ってすぐに、案内の地図がある。これを見て靴屋を探す。一応ネットで店がどこにあるか確認はしていたが、それでも何となく見てしまう。確認していた通り、靴屋は二階のエレベーターから出てすぐにあるみたいだ。もう一軒の靴屋が更にその奥にある。

「二階だね。ここだ……」

 由衣は地図の中の店の位置を指差した。

「割と遠そうだけど、大丈夫?」

「大丈夫だと思う」

「エレベーターはどこかしら?」

「ここだね」

 由衣は正面入り口から入ってすぐ真正面にある事を、地図のその位置を指差して示した。

「じゃあ行こうか」

 光男が歩き出す。由衣と宣子も続いた。店内は人が多い。埋め尽くされていると言うと大げさだが、どっちを見ても人だらけだ。


 エレベーターに乗って二階にやってきた。二階にも様々な店がある。左手の方には大きな本屋があった。由衣は後で覗いてみたいと思った。

 <シューズランド>という店名の看板が見える。ここには靴屋が三店舗出店しているらしいが、店はとりあえずどこでも良かったのでエレベーターから一番近いこの店で買う事にしていた。

 店の前まで来ると、たくさんの靴が並んでいる。入り口の両脇にはそれぞれナイキやアディダスのスニーカーが並んでいた。

 由衣はネットで現在販売されているものをいくつか候補にしていた。

 アディダス、スタンスミス。

 プーマ、スエード。

 プーマ、GVスペシャル。

 この辺りを買うつもりでいる。早速、奥に入っていって探した。

「いらっしゃいませー」

 店員の声が聞こえる。

 アディダスのコーナーにやってくる。スタンスミスはすぐに見つかった。その隣にはプーマのコーナーがある。スエードを探すが、欲しい色が無い。が、GVスペシャルは発見した。色も買おうと思っている白に赤の差し色の入ったものだ。

 由衣はスタンスミスか、GVスペシャルのいずれかにしようと考えたが、少し迷う。が、よく見るとスタンスミスはサイズが無いみたいだった。棚の下部に積まれている箱のサイズには二五センチより下は見当たらない。GVスペシャルは二三センチから、大きいのは二九センチまで揃っている様だった。……結局、GVスペシャルしか選択肢が無い為、これにする事になった。

「これにするの?」

「うん、でも先に穿いてみないと……」

 由衣が言うと、宣子は近くの店員に声をかける。呼ばれた若い女性店員が側にやってきた。

「あ、はい。これですね。サイズは分かりますか?」

「たぶん、二四センチ前後だと思うんですが……」

 店員は二四センチの箱を取り出して、中の靴を取り出した。そして側にあった椅子に座る様に勧めてくれた。

「どうですか?」

 由衣は履いてみる。特に問題無く、丁度良さそうだった。

「良さそうです」

「そうですか。一応、前後のサイズも確認してみますか?」

「……そうですね」

 店員は二三・五センチと二四・五センチを出してきた。由衣はそれぞれ履いてみた。やっぱりどちらもしっくりこない。

「やっぱりこれがいいと思う」

 最初に履いた二四センチを手に取った。

「わかりました。では、こちらにどうぞ」

 店員は笑顔でレジの方に案内した。

 宣子が精算している際に、由衣は光男と一緒に側のベンチに座っていた。

「由衣ちゃん、履き替える?」

 精算を済ませた宣子が由衣の元にやってきた。

「うん」

 由衣は座ったまま新しい靴に履き替える。紐を通そうとするが、うまく穴へ通せない。そんなに苦労するとは思ってなかったが、まだ指の動きが完全ではないという事か。モタモタしていると、先ほどの女性店員がやってきて「私がやりましょうか?」と言った。うまくいかない事に少し焦っていた由衣は、やってもらう事にした。

 綺麗に紐を結んでもらい、由衣が嬉しそうにしているのを見た宣子が由衣を見てニコニコしていた。

「ちょっと休憩していく?」

 宣子が由衣に言った。

「うん」

 由衣達は近くにあったベンチに座った。光男が「何か飲むか?」と聞くので、コーヒーが飲みたいと言った。宣子が、すぐ向こうに紙コップの販売機があるのを見つけて、買ってくると言って向かった。

 程なく戻ってきた宣子は由衣と光男にコーヒーの入った紙コップを渡した。そして自分の分を買いに再び販売機に向かっていった。


「どう? その靴気に入った?」

 宣子はコーヒーを飲んでいる由衣の足元を見て言った。

「気に入ってるよ」

「やっぱり良い靴は高いのねえ」

「良いと言う程でもないけど……」

「そうなの? でも一万円近くしたでしょ……三千円くらいかと思ってたけど」

 宣子は少し困った顔をした。

「うーん、そんなに高いと思った?」

「ううん、いいのよ。由衣ちゃんが喜んでくれるんだから」

「ならいいんだけど……」

 やはり宣子などから見ると一万円するスニーカーは高額に感じる様だ。由衣は、早く収入を得られる様になって、自分の気に入ったものを自分のお金で買える様になりたいと思った。

「向こうの本屋を見たいな」

 由衣は言った。

「本屋? じゃあ本屋に寄って帰りましょ」

 宣子は由衣が立ち上がるのを補助しながら言った。


 この本屋は初めて見る本屋だった。『文橋堂』なる店である。ネットだったかで覚えのある名前なので、ここへの出店を機に岡山へ初出店したのだろうと思う。

 中に入ると割合広い。大型書店と言っていいくらいの敷地面積だ。数年前から本屋は景気が悪いとか言われているが、この規模の本屋が出店するとは。

 宣子についてきて貰って、あちこち見て回る。新刊コーナー、雑誌コーナー、実用書……順番に見ていき、最後に文庫の所でしばらく見ていく。何か一冊買ってもらおうと思ったからだ。

「由衣ちゃん、どれを買うの?」

「うーん、そうだな……」

 しばらく眺めて、新潮文庫の棚の所で筒井康隆の小説を二冊ほど買う事にした。

「これにする」

 買う本を取り出して宣子に渡した。そしてレジに言って精算、店を出た。

 その後もいつくかモール内の店を見て回った。しかし半分も見て回ると、由衣は辛くなってきたので帰る事になった。

「色々買ったわねえ」

 帰りの車の中で宣子は由衣に言った。

「そうだね」

 由衣は服と下着は買い過ぎじゃないかとも思った。おそらく売れ残りと思われる夏服なんか今頃買ってしまうし。——まあいいか、自分のお金じゃないし……。そう思って窓の外を見ていた。


 家に帰ると、宣子は早速購入した服を着て欲しいと言った。由衣はあまり気が進まなかった様だが、折角買ってくれたのだし、という事もあり、渋々ながら着せ替え人形になる事になった。宣子は嬉しそうに今度はこれ、次はこれと要求してきた。終わった頃にはもう日が暮れ始めていた。

 夕食の後、由衣はネットを見ていた。あまり注目するべきニュースは無い。

 由衣はベッドに寝転んで、実家に戻ってきての三日間を思い出した。

 ——この家に戻ってきて本当に良かったのだろうか? わたしはまだ体が満足に動く訳ではなく、誰かしらの補助がないと生活が困難だ。それに収入もないから食べていけない。それを考えると、ここにいるのは適切なのかもしれない。でも……やっぱりどこか居心地が悪い。ここに長くいるのは良くない気がする。

 由衣は元々実家を出たいと思っていた。しかし腰が重く、誰かに背中を押されないと一歩踏み出せないこの性格の為に、社会に出て二十年以上も実家に住んでいるのだ。

「やっぱり、ここを出たいな……」

 由衣はふいに呟いた。でも今はまだ無理か……少し嫌な気分になったが、目を閉じて少し眠りにつくことにした。

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