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由衣の冒険2  作者: 和瀬井藤
帰宅
4/33

 十月二十一日、土曜日。今日は退院してから三日後になる。家に戻ってきて少し落ち着いたので、いろいろと必要なものを買いに行こうという事になった。

 由衣には色々と必要な物があった。ざっと並べてみると、

 服や下着、それに履物。

 化粧品やアクセサリーなど。

 既に古くなったiPhone。

 失効された運転免許証。

 このうち、服や下着はやっぱり数を揃えておか無いといざという時に無いと困る。それにこれから寒くなってくるので、冬物の衣類を揃えておかないと良くない。履物も、今履ける靴が一足しかない。入院中に買って貰っていた安物のスニーカーだ。スニーカー以外も欲しいし、気に入ったものを履きたい。

 化粧品やアクセサリーは正直なところ、今はまだ不要だろうと思った。この少女の姿では、アクセサリーで飾り立てるのはどうも違和感がある。化粧もそうだ。そもそも由衣は飾り立てるのは余り好きじゃなかった。

 iPhoneは買い替え予定である。これは昨日、両親に言って近日中に買い替えに行く事に決めていた。最新モデルとなるiPhone7Sに買い替えるつもりにしていた。

 免許証は……警察からまだ連絡が無い。現在どうするか検討中という事らしいが。免許が失効して困ってる人も多いだろう。早めにどうにかして欲しいと思った。

 そして、今日は衣類と靴の買い替えに出かける事になる。


 由衣が現在持っている着る事が出来る服は、入院中に宣子が買ってきたものが殆どだ。その為、宣子の好みが反映されたチョイスとなっていて、比較的可愛らしいデザイン、ちょっと子供っぽい感じのものが多い。シンプルでスマートなデザインが好きな由衣の好みとはちょっと合わなかった。無論、好みじゃないから着ないという訳ではない。折角買ってくれたものだし、見た目は完全に中学生な由衣には、子供っぽい服も客観的に見て何の違和感も無かった。


 今日、由衣はライトグレーのニットの上に、赤いカーディガンを羽織っている。下はブルージーンズである。全て入院中に母が買ってきたものだ。由衣が女の子になってから、いつの間にか宣子はあれこれ由衣の服を買ってきていた。

 どうも由衣に色々と着せたいらしく、由衣にこの服を着てくれだの言っている。自分は着せ替え人形じゃあないんだ——と言いたとところだが、そのうち飽きてくるだろうし、それまでは好きにさせておいてもいいと思っていた。

 とりあえず、光男の運転する車で宣子と由衣を乗せて出発した。


 由衣達はまず市内のスーパーマーケットにやってきた。家から車で十分かからない。食料品から日用雑貨、服に靴に鞄、本や玩具などほぼひと通りのものが揃っている。もっとも、ブランド品など高額なものは全く置いていないが。

「由衣ちゃん、これは可愛いよ」

 宣子は、真っ白はノースリーブなワンピースを由衣に見せる。由衣は——まあ確かに可愛らしい服だけど、そういうのは……しかもこれからの季節的にもどうかと思った。今は十月なのだ。

「もっと暖かい服の方が……」

「そう? でもこれは買うね。気に入ったのはある?」

 ——買うのか……まあ買ってくれるんだから文句は言うまい。

「うーん」

 由衣は周りの服を見渡して、一着手に取った。紺色のパーカーだ。前がジッパーで開くタイプのものである。Tシャツの上に羽織る服が欲しかったので、これはいいかもしれないと思った。

「それがいいの? もうちょっと可愛い色のがあるよ」

 そう言って明るめのピンクのパーカーを差し出してきた。——いや、そういう派手なのは好みじゃないし。

「いや……それはちょっと……。こっちがいいな」

 由衣は、着ているカーデイガンを脱いで、ニットの上から羽織ってみた。サイズは思った通り良さそうに感じる。

「そのサイズで問題なさそうねえ。他にも欲しいのある?」

「うーん、Tシャツも欲しいな」

「こっちにあるよ」

 宣子が向こう側にあるTシャツが置いてある売場に行く。由衣もついて行った。

 この一角にはTシャツばかり沢山並んでいた。目の前にはクルーネックの長袖Tシャツが虹色に並べてある。こうして陣列してあると、結構綺麗なものだと感心していたところ、

「これはどう?」

 そう言って宣子は、また派手なピンク色のTシャツを持ってくる。所謂ショッキングピンクというのだろう。

「そういうのはイマイチだな」

「そうなの? 可愛いと思うんだけど……」

 宣子は残念そうに戻した。

 いくつか選ぶと、また次の場所に移動した。


 次は下着だ。宣子は由衣を連れて、店内奥側の婦人下着の売場に連れて行った。由衣はちょっと躊躇した。元が男である由衣には、ここは近寄りにくい場所だった。下手に入ってしまうと変な目で見られてしまう様な気がしていた。今の姿で、変な目で見られる事は無いのは分かっているはずなのだけど。

 しかし宣子はお構いなしに由衣を下着売場に連れて入った。

「由衣ちゃん、これはどう? 可愛いよ」

 母は、ピンクのパンツを由衣の目の前に持ってくる。縁にレースがついて赤いリボンが付いた、確かに可愛らしいが……そういうのはどうも……。

「う~ん、どうかなあ……」

「そう? じゃあこれは?」

 今度は、淡い黄色に白の縁が付いたパンツを持ってくる。まあまあ悪くない感じだ。

「まあ、いいんじゃないかな」

 あれこれ言っても選ぶまで持ってきそうだし、この黄色を選ぶ。

「これは可愛いわよ。これも買ったげる」

 と言って、母は白地に水色の熊? と思われるイラストの付いたパンツを持ってくる。丁度お尻の所に割と大きめのイラストが描かれている。子供が履くようなデザインのものだ。

「え? それはちょっと……子供じゃあるまいし」

 ——幾ら何でも、それは小学生までではないだろうか。

「いいじゃない。由衣ちゃんなら似合うわ」

 ——買いたければ買えばいいけど、多分わたしは履かないと思う……。

 あまり宣子の好みのものばかり買われても嫌なので、由衣も二、三枚、好みに合うのを選んだ。一枚を覗いて揃いのデザインのブラジャーがあるので、セットで購入した。

 それから食料品の売場に行って、今日の夕食の食材を購入する事になった。


「由衣ちゃんは何か食べたいものがある?」

 宣子は食材を様々見比べながら由衣に尋ねた。

「うーん、特には……そうだな、ハンバーグがいいかな」

「そう! じゃあ今日はハンバーグにするわね」

 宣子は満面の笑みで答えた。

 ハンバーグ用の食材を買うために、精肉コーナーに移動する。由衣は松葉杖をついてゆっくり歩いた。そこへ幼稚園くらいの男の子が走ってきて、由衣にぶつかった。

 由衣はバランスを崩してその場に転倒してしまう。

「由衣ちゃん!」

 宣子が慌てて由衣を抱え起こそうとする。

 男の子の方も反動で転げて、その拍子に商品棚にぶつけて泣き出した。近くにいたおばさんが、慌てて、「だ、大丈夫?」と声をかけている。

「だ、大丈夫ですか!」

 側にいた若い女性店員が、宣子と一緒に由衣を抱え起こした。

「……あ、はい。だ、大丈夫です……」

 由衣は愛想笑いしながら答えた。

「誰なの! 由衣ちゃんは杖で歩いてるのよ!」

 怒り心頭の宣子は周囲に吠えていた。

 ——は、恥ずかしい……由衣は「大丈夫だから、もういいから」と慌てて言うが、聞いていない様だ。

「す、すいません……」

 若い母親が、さっきの男の子と由衣の目の前に来て謝った。

「何てことしてくれるの! 由衣ちゃんはまだ体が言うこときいてないっていうのに!」

「ご、ごめんなさい……」

 半泣き状態で男の子は由衣に謝る。さすがに小さい子にまで大きな声を出せないらしく、宣子は吠えるのをやめた。

「あ、あの……わたしは別に大丈夫だから……」

 由衣は男の子の前にしゃがんで、語りかけた。男の子は由衣の顔を見た。

「……気をつけようね」

 由衣は普段しない様な笑顔をわざわざ作って男の子に見せた。

「う、うん」

「まあまあ、お孫さんが大丈夫だって言ってるんだし……ねえ」

 近くにいた中年の主婦が宣子に言った。

「ま、まあ……由衣ちゃん本当に大丈夫? どこも痛いところ無い?」

「だから大丈夫だって」

「それならいいんだけど……」

 その後、宣子はしばらくグチグチ言っていたが、なんとか丸く収まった。夕食の食材も購入して、スーパーマーケットから次の店に出発した。

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