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由衣の冒険2  作者: 和瀬井藤
白い吐息の季節
10/33

 ――では……次は<若返り>についてですが。これについて皆さん、どうでしょうか?

 ――「若返っていく」んですよね。アイドルの女の子が言った。ちなみにABCだとか、何とかいうグループのメンバーだ。すかさず「そんなん誰でも分かるわ!」というツッコミが芸人から入った。

 ――えー<若返り>というのは、まあ、まさにそういう事であったりします。「そのまんまやん!」というツッコミがあった後、VTRに切り替わって帝国大学の教授が映し出される。この教授から説明される様だ。

 ――<老化>、これは急速に年老いていく訳ですが、この<老化>の発症の際に何かしらのイレギュラーな事が起こって、反対に若返ってしまった症状の事ですね。

 ――そんなのってアリなんですか? なんかすごい映画の世界なんですが。

 ――確かに通常ではまずありえない事なんですよね。時間を逆行する様なものですから。しかしそれが現実に起こっている。どうしてそうなるのかが、未だに解明出来ていないのがもどかしい訳なのですが。

 ――若返ってしまうというのは、多くの人には嬉しい事の様に思いますが。

 ――そうですね。ただ単に若返るだけなら、そうだと思います。しかし……<若返り>というのは大変な苦痛と戦う覚悟が必要なのです。

 ここで一旦スタジオに画面が変わった。

 ――僕も聞いた事ありますが、凄い痛いと聞いたんですよ。若手俳優が言った。

 ――そうなんですよね。肉体の変化が、通常の逆に働くので、身体へのダメージが大きいのです。<老化>は年を取るという、自然の流れが早まるだけですが、<若返り>は自然ではありません。それゆえに程度によっては、かなり辛い苦痛に耐えなくてはならないのです。

 ――実際どのくらい辛いんでしょうか?

 ――個人差がありますが、何かしらの鎮痛剤で和らげないと耐えられない場合が多いようです。実際、耐えられずにショックで亡くなられた方もいます。

 ――ええ! スタジオが騒めく。

 ――怖っ! めっちゃヤバいやん。恐過ぎやろ!

 ――それから、この<若返り>には体が変化する際に、別人の様に変わってしまうのです。

 ――別人?

 ――そう、目つきや顔の大きさ輪郭……以前の顔を知る人には同一人物である事が信じられないくらい変わってしまうのです。また、顔だけでなく体全体が、です。

 ――ええっー?

 ――これがかなり問題でして、その為に久しぶりに会ったら全く気付いてくれなかったり、本人か疑われて揉め事になったり。非常に辛いところですね。

 ――どうにかならないんですかね?

 ――<老化>同様にどうして発病するのか、どうやって治療すればいいのか、など分からない事も多すぎるのです。


 ――えー、そして……<老化>と<若返り>の患者の方々に対する対応、ですね。

 大型モニターに様々な表やグラフなどが映し出されている。

 ――これは厚労省が現在やっている患者に対する対応策です。『老化・若返り対策センター』というのがあり、ここが国内の患者の対応の窓口になりますね。まず、患者だと判断された場合、すぐ病院の方からセンターに連絡されます。担当の医師から患者とその症状に対する情報と、医師の認定した『容姿年齢』というがあって、これらをセンターに送る訳ですね。

 ――容姿年齢? ってまた聞きなれない言葉が出てきましたね。と、芸人が言った。

 ――容姿年齢とは……<老化>や<若返り>の患者は、発病前とは実年齢と見た目の容姿がかなり違っている場合が多く、その為発病後の姿の年齢を決めてしまうのです。どうしてかというと、後で出てきますが、症状の程度がどのくらいなのかを数字ではっきりさせる為だという事ですね。これはアメリカで始まって、日本も導入したみたいです。

 ――へぇ~、そんなのがあるんですね。

 ――さっきおっしゃってましたが、それはお医者様が決めるんですか?

 ――その様です。ただ時々揉める事もあるそうですね。

 ――まあ自分で思ってるのと違うと、あれ?ってなるよね。

 ――そうですね。


 ――次は、『老化・若返り症状等級』です。これは、先ほどの容姿年齢と実年齢の差を比較して、どれだけ症状が重いかを等級にしたものです。一番重いのが、一級で、最も軽いのが五級となっています。症状の重さは実年齢との差が開けば開くほど重くなるので、この年齢差がどの等級にあるかを表にしています。……で、これですね。

 大型モニターに表が表示された。

 一級、二十歳以上

 二級、十五歳から十九歳まで

 三級、十歳から十四歳まで

 四級、五歳から九歳まで

 五級、四歳まで

 ――となっていますね。

 ――もし二十歳の人が<若返り>で一級になる場合は……赤ちゃんに? アイドルが

 ――いえ、若い人が一級認定される程に若返る事は今の所無いそうですね。それに、未成年の年齢まで容姿年齢が若返る場合は、相当の重症と言われています。日本では二十人もいないと言われていますね。

 ――そんなに少ないんだ……。

 ――<若返り>で一級の場合だと、四十代から五十代くらいの方が二十代、三十代くらいになる場合が多い様です。

 ――乗り越えられるといいんでしょうけど、やっぱり辛いんでしょうね。

 ――そうですね。苦痛によるショックで亡くなられる方は、やっぱり一級認定の方ばかりの様ですね。

 ――なんかもう、あけましておめでとうムード全く無しですね。 芸人が言った。

 ――こんなにしんみりした、正月番組初めてかも……。ベテラン女優が苦笑した。

 ――まあ随分暗いムードになってしまいましたが、<老化>と<若返り>について、皆さんご理解いただけましたでしょうか? それでは……


 由衣は、ベッドに寝転んで観ていたが……まあ、現状を確認するにはいい番組だったかなと思った。テレビを消すと、仰向けになって天井を見た。

 二〇一八年になった。由衣が発病してから二年半を過ぎた。今年の四月で三年になる。これだけの年月が過ぎたにも関わらず、分かる事はこれだけだという……当然まだ公になっていないが判明している部分もあると思うものの、意外と難航しているんだな、と思った。

「由衣ちゃん、お風呂入りましょ」

 宣子が部屋に入ってくる。

「うん」

 由衣はゆっくりと上半身を起こして、ベッドから立ち上がった。

「大丈夫?」

「大丈夫だって」

 由衣は風呂場まで自分の足で歩いて行った。もうこのくらいなんでもない、と言わんばかりに。

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