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世界を終わりに導く悲劇

魔女の弟子は、真実を知る。

作者: 悠木おみ
掲載日:2014/09/15

「魔女は、世界を閉じる。」の後日「片隅」と同時間軸。魔女の弟子視点。


『だから私は祈るの。大切な人たちが、生き続ける未来を』



 ふいに、懐かしい声が聞こえた気がして、意識を浮上させた。

 最初に視界に入ったのは、黒く渦巻く混沌の空。

 夜よりもなお深い闇と、灰色に渦巻く雲。それは、一切の希望もない闇。


 意識が落ちる前より少し倦怠感の減った体に力を入れて、上半身を起こす。

 パラパラと砂埃が髪から零れ落ちるが、その感触ももう、馴染んでしまった。


「またダメかぁ」


 わかっていたこととはいえ、何度も繰り返した失敗に頭を抱えて髪をぐしゃぐしゃにする。

 そしてパラパラと零れ落ちてきた砂に、深い溜息を吐いて顔を上げた。


「世界間転移魔方陣の理論は証明されたんだ。実際、勇者様だって召喚された。だったら理論的には送還することだって可能なはずなんだ……問題は、世界間転移場所の設定ができないだけで、世界は、渡れる」


 半ば自分に言い聞かせるように断言しながら、陣の外に積み上げた本に向かった。

 くよくよしている時間はない。いつまで“もつ”かわからない。



 時間は、いうほどなかった。



「人外級じゃなくても、僕にだって並はずれた魔力はある。勇者様召喚の陣と、この魔力溜まりでなら、一人分の魔力でも道は開けるはずなんだ。実際、導も扉も作れた……なのになんで扉が開かないんだ」



『だからアンタはダメなのよ。悩む暇があるんなら、魔力と知恵を絞りなさい。仮にも魔法使いなんだから』



 今はもういない、厳しい師匠もどきの女性の声が聞こえた気がして、苦笑した。


「はいはい。わかってますよ、師匠」


『あら、生意気。それに師匠? 誰が? 魔術師はね、誇り高くあるべきなのよ。ちょっと人より魔力が多いくらいで、制御できずに泣きべそかいて? あんまりにもしつこく無様に縋ってきたから基礎を叩き込んだだけでしょう』


「無様って……そりゃないですよー」


『仮にも私の弟子と名乗りたいのなら、もっと精進なさい』



 記憶の中でも厳しい言葉しか発しない人は、魔術師であることに、他の力を必要とせず魔力のみで現象を起こすことに拘り、最期までその考えを譲らなかった。



『思い知れ』



 最期の言葉は、なんだったのか。


 あの時、あの場所で、彼女は公開処刑になった。

 誰もが知っていた、魔女と呼ばれた天才魔術師。その彼女と全く同じ貌をした、宮廷魔術師の直弟子。あらゆる属性の精霊を行使することのできる、魔法使い。

 炎の精霊を従えて、魔法使いは自分の片割れをその手で火炙りにかけた。


 ズタズタに傷付けられ、ボロボロになりながら、それでも目だけは死んでいなかった彼女を。



 憎しみに濁ってはいなかった。


 誰かを羨むことも、妬むことも、彼女は禁じなかった。それは誰もが持つ感情で、同時に自分を奮起させる感情だと、彼女は言った。


 屈辱に曇らせてはいなかった。


 自分を恥じる必要も、屈する必要もないと、彼女は言った。けれど自分の考えに固執しすぎて、視野が狭まってはダメだと、彼女は言った。



 その彼女が最後に言った『思い知れ』というあの言葉は――




『勇者召喚のシステムは未完成――いえ、不完全と言ってもいいわ。不完全である物を完成としたのよ』


 誰かが聞いた、召喚陣の術式に、彼女は珍しく嫌悪感をあらわに吐き捨てた。


『不完全を、完成とした?』


『そうよ。元々“指定した場所”から“対象者(対象物)”を“指定した場所”に動かす転移の術式の“場所”を、理論上存在するといわれていた異世界に変えた物。それなら、召喚された対象者がいる限り、最初に指定した場所が存在する……指定できない、なんておかしいもの。送還陣は作れないのではなく、作らなかったと考えられるわ』


『何のために?』


『決まってるわ。召喚者――今回は勇者、ね。彼を元の世界に帰さないためよ。全てが終わったその後も、彼を取り込めた陣営が権力を握るからだわ。……王家と神殿の権力争いの駒にしたいのよ』


『……』


 その言葉に、全員が沈黙した。


『世界の扉が閉ざされていない限り、理論上、送還はできるはずだもの』




 そこまで思い出して、目からうろこが落ちた気分だった。


「そうか! 世界間の扉!」


 慌てて陣に視線を走らせて、そしてまた、陣の中央で陣を起動させる。

 大量の魔力を吸い上げられながら、もうろうとする意識の中で現れた扉を必死で見つめる。


 世界を渡る扉、その扉の鍵は――


 ぐらぐらと不自然に揺らぐ視界のなかで、陣に魔力を送ることを止めて陣の上に仰向けに倒れこむ。

 見上げた空は、ついさっきよりも深く、低く世界を呑み込もうとしていた。



「はははっ。そっかぁ、師匠かぁ……道理で、無理だと……」



 世界を隔てる、世界を渡る扉はしっかりと閉ざされていて、鍵穴は二度と使えないように壊されていた。

 これでは、世界の扉は開かない。

 この世界の扉は閉じられた。二度と、開かない。


「誰も、この世界からは出られない……」



 結末は、変わらない。

 魔術師は真実、魔女へと姿を変えて、裏切られた世界を滅ぼす勇者の手助けをした。


 ただ、全ては、それだけの事。



(あなたの祈りは、届かなかったみたいだよ。聖女様)

前回(魔女)の最後がなんか唐突な気がして、書いてみた世界を閉じた後の話。

魔女(魔術師)の弟子もどきの少年は、聖女に仄かな恋心を抱いていました。

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