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 1節 私が犯した本当の罪は

 罪の告白をします。

 私は、親友を殺しました。動機などもはやどうでもよいのです。大切な親友をこの手で殺した事実、この罪を償いたい。

「罪を償うだって?」

 隣りに座る少年は、私の告白を聞いて嘲笑う。

「犯した罪を償うのは、人間として当然のことです。だから私は神父様のところへ告解に来たのですよ」

 月詩市にある、それなりに歴史のある教会。人の赦しはもらえずとも神の赦しはもらいたいと、すがる思いで辿り着いた教会にはすでに先客がいた。それがこの少年である。

 血を連想させる不吉な赤い髪に、悪魔のように血色の悪い肌。蒼灰色の瞳には陰鬱な輝きが宿り、私はこの浮き世離れした少年が一体、何の罪を犯したのか厭に気になった。

「何を勘違いしているのかは知らないけど、僕はその罪を裁きに来たんだ」

「? 罪を裁くことが出来るのは、神だけです」

 少年はなにを傲慢なことを言ってるのだろう。ここが神の御前だということをわきまえているのかしら。

 少年はしなやかな動きで私を見ると、無表情を崩さないままこう言いのけた。

「ならば、その神に代行者がいるとするなら?」

「……代、行……?」

 少年は立ち上がる。月明かりが差し込んだステンドグラスを背にしたその姿には、妖しげな美しさがあった。

「君は愚かだよ。親友を殺した罪の赦しを神に請うだなんてね」

「さ、裁きは受けるつもりです。ただ、人が私の行為を理解せずとも、神は理解して下さると――!」

「違う。僕が言っているのは、<親友を殺した罪ごときでは神は見向きもしない>ということだ」

「??」

「――鮎河聡美。君は、親友を殺す以上に凶悪な犯罪を犯している。それは、魔王ですら擁護出来ない、世界の破滅に匹敵する罪」

「なにを……おっしゃってるのか……」

 わからない。なのに私の身体は震え、少年から逃げ出そうと走り出す。

 あと少しで出入り口に――そんな時に、私は後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を感じ、倒れ込む。同時に床をゴロゴロと転がる塊に目を奪われた。

(これは……氷?)

 どうやら直径30センチほどの氷の塊が私の後頭部に投げつけられたようだ。でも、こんな暑い季節にどうして氷が。

 私は、背後からゆったりと接近する気配に気付き、怯えた。

 背後の気配は、笑っているのか呆れているのか、はたまた怒っているのか――わからないまま、神の代行者と名乗る少年は非情なる右手を振り上げていた。

「尤も――僕が望む世界と神が望む世界が同一とは限らないけどね」


 罪の告白をします。

 私は、親友を殺しました。動機などもはやどうでもよいのです。大切な親友をこの手で殺した事実、この罪を償いたかった。

 しかしどうやら、世界にとってこんな罪は些細な出来事らしい。

 私が犯していた本当の罪。それは、影人となって世界の均等を崩していることのようでした。

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