21:45 目標ビル
天海達が二瓶と接触する頃、邑達は部屋で身を低くしていた。
「ANGEL6、外の様子はどうだ?」
「変わりねぇ、奴等こっちを時々見てやがる。ウザって奴等だよ」
「そうか。ANGEL5、そちらはどうだ?」
「正面ビルの奴等は消えましたよ。その他は未だにいますよ。ストーカーみたい」
二人の返答に邑は考えた。
「(治安部絡みだと、堀村警部が関わっているのは確かだ。周囲にECMを展開しているということは、仲間同士の無線連絡をさせないため。このビルには強力なECMも展開しているし、仲間同士は“衛星特殊無線”でしのいでいるが、今度、強力なECMを掛けられると、無線連絡は不可能になってしまう)」
邑が考えていると、レイが呼んだ。
「邑、邑」
「ん?どうした、レイ」
レイは手帳型の携帯端末を持ちながら、邑に言った。
「クリスと一緒にECMの範囲を調べたのですが、周辺ビルから発信されていたECMの電波が次々と消えて行っているんです」
「消えているだと?どうゆう事だ」
「ECM自体のシステムが停止したためだと思います」
「システムが……」
邑が疑問に思っていたが、次の言葉にその疑問は晴れた。
「ANGEL5より報告。左側方面にいた奴らが次々と消えていますよ」
瞹が報告をすると、天空も言った。
「ANGEL6より報告。右側方面にいた奴等も消えたぜ」
「消えた?居なくなったのか?」
「判らん。ただ、何かあったことは確かだ」
邑は周辺のビルで何が有ったか、天海達に連絡しようとしたら、レイが叫んだ。
「邑!またECMです!先程より、強力な電波です!」
「また起動したのか?」
邑はレイを見ると、レイは首を横に振った。
「いいえ、違います!ECMは周辺からでは無く、こちらに向かって来ています!」
「近づいて来ている?車輛か!クリス!能力を許可する!至急、調べろ!」
「了解!」
クリスは窓辺に立ち、人差し指を口に当て、『呪文』を唱えた。
『能力』・『呪文』は、邑達が使える特殊能力である。
力は自然界を司る『八式神』があり、それぞれ自分に合った『八式神』が憑いており、『八式神』は失なわれた力のため、邑達は〈ロスト・ゼネレーション〉“失われし世代”と呼ばれている。
そして、クリスは人差し指を口に当てて、『呪文』を唱えた。
「〈我、機械を統べしアルケミスト。機械よ、声を我に聞かせたまえ!〉」
《オート・ボイス》
クリスは目を瞑り、耳を澄ました。機械達の声を聞くために……
「(……ヘリのローター音。それとこの甲高にエンジン音は……AH―1S対戦車ヘリコプター「コブラ」か!重低音で大地に響くのは……新型機の99式戦車に強襲装甲車両じゃないか!)」
クリスは目を開けると、邑を呼んだ。
「対戦車ヘリのコブラに強襲装甲車両と新型機の99式戦車まで来ている!」
「距離は!」
「ヘリが二km!車輛は一kmを切っている!」
クリスの言う通りに微かなローター音とエンジン音が聞こえ、邑は即座に反応した。
「ヘリの二kmならすぐ来る!正面窓はクリス、レイ!右側は天空!左側は瞹!目視出来次第、報告せよ!窓は開けるなよ!」
「了解!!!!」
邑が皆に指示したその時、部屋の天井に付いていた赤ランプがなり始めた。
「クソっ!気付かれたかっ!」
皆は指示通り、指定された位置に着き、柱や窓から顔を少し出して、外の確認をした。
外は作戦通り車両おろか、市民は一人も居なく静寂な街並みが広がっていたが、直ぐに天空、レイ、瞹から報告が入った。
「二時方向!上空に発光物確認!数二!」
「一二時方!同じく上空に発光物確認!数二!」
「九時方向!地上に発光物確認!車輛多数!上空にも発光物確認!数二!」
「サイド!赤外線から双眼鏡に移行!武装確認!ドアの固定とトラップ設置は?」
「完了!」
「完了しています!」
天空と瞹は、ゴーグルを操作しながら言い、邑は指示を飛ばした。
「レイ!妨害電波が、何処から出ているか調べてくれ!急げ!」
「了解!!」
皆は邑に言われた通り、各々の仕事に取りかかった。
そして、すぐに両サイドから確認の声が上がった。
「二時方向、コブラ確認。武装ミサイル八発に七0mmロケット弾二基、二0mm三銃身ガトリング砲、戦争でもする気か!」
天空が怒鳴ると、クリスが叫んだ。
「一二時と九時方向、コブラを確認。武装も一緒だ!」
続けざまに瞹も叫んだ。
「九時方向、強襲装甲車両を先頭に戦車隊も来ています!」
ヘリ武装を聞いた邑は舌打ちをした。
「チッ!コブラに新型機の戦車まで引っ張り出すか!レイ!妨害電波は何処から出ているかわかるか?」
「判りました!上空より高速で接近中!」
「何!?天空!わかるか?」
邑は天空に言うと、天空は双眼鏡を外して、もう一度コブラの腹を見た。
「全機の腹にECMが付いています!」
「(これでは天海達との連絡は完全に遮断されたか……)」
邑がそう思った時、軽い衝撃と揺れがビル全体に広がった。
「なんだ!?何があった?」
衝撃と揺れの後に、レイが持っている手帳型の携帯端末が鳴った。
「邑!このビルから出ているECMが無くなりました」
「消えたのか!?」
「ええ、どうやらECMの動力部が破壊されたためだと思います!」
「(誰が動力部を破壊した時の揺れか)」
「強力なECMが一つ無くなった為、ASSF専用静止軌道衛星『カイム』経由で司令部から特殊無線が来ています」
「衛星『カイム』から?繋いでくれ」
ASSF専用静止軌道衛星『カイム』。
通信・偵察・戦略などの多様目的使われている静止軌道衛星である。
レイは急いで携帯端末を操作して、通信可能にした。
「通信可能!イヤホンで聞けます!」
「回線開け!」
邑は、司令本部からの応答を待った。
『ザザッー、ピーピー、ザザザッ……ち……です。・・応…………・す。聞こ・・ま・・か』
「レイ、もう少し感度を上げてくれ」
「感度上げます」
レイは、受信感度を上げるために感度数を打ち込んだ。そうすると……
『ピー、……こちら通信室。A.O.AチームANGEL1、応答お願いします』
「A.O.Aチーム、ANGEL1!司令部、応答せよ!」
『っ!通じた!通じました!ANGEL1大丈夫ですか?』
「ああ、実夏さん。こちらは何とか大丈夫だよ」
『良かった!今、諜報部の鹿野隊長と変わります!』
実夏は喜んだ声をしながら鹿野隊長を呼んでおり、後ろでは大勢の歓声が聞こえてきた。
『蒼野さん大丈夫ですか?』
「俺達の方は大丈夫だ。無線はどのくらいもつ?」
『今、俺の部下がビル周辺のECMを破壊ために連絡が出来ていますが、簡単に傍受し易くなっていますので、長くはないです。手短に伝えます』
「了解した」
『堀村警部は自衛隊を丸め込みました。そちらに自衛隊が来ていますか?』
「戦争でも起こす勢いでな」
『どうやら、あなた達に手柄を持って行かれるのが嫌なのでしょう。他にも上の方にも黒幕がいるみたいです』
「堀村警部以外にもいるのか……どうりで……」
と言っている後ろから、何か言っている声がした。
「どうした?何かあったのか?」
『自衛隊が逆探知を始めました。猶予は二分弱』
「要件を伝えてくれ」
邑は頷いた。鹿野は一呼吸置いて言った。
『作戦続行。『能力』は最大まで使用、派手に暴れてください。俺の部下に伝えてあります』
「了解!」
『蒼野さん、死なないでください』
「ああ」
邑の言葉に鹿野は答えた。
『無事を祈っています!通信終了』
鹿野の無線連絡が切れると、レイが言った。
「軌道衛星『カイム』との通信が切れました。司令本部に逆探知の手は伸びませんでしたが、こちらの位置はばれました」
レイの言葉に天空が言った。
「じゃ、隠れる必要は無いんじゃ?」
「……そうだな、全員でヘリのパイロットに挨拶するか」
天空、瞹、レイ、クリスは窓際に立ち邑はその真ん中へと歩み、外を見据えたその瞬間に強烈な光が邑達を照らした。
邑達は目を細めると外には、対戦車ヘリコプターAH―1S『コブラ』がいた。
『コブラ』は三機しか居なく、残りの二機は上空で待機して、邑は攻撃ヘリ『コブラ』を見てから、邑は隣にいたレイに言った。
「レイ、『コブラ』の火器操作と飛行機能を乗っ取れ。そして、堀村達も携帯パソコンを持ってきているはずだから、『邪魔するな、帰って静かに黙っていろ!』と表示してやれ」
「能力を使っていいのですね?」
「ああ、『バーチャル・ブレイン』の実力を見せてやれ」
「了解」
レイは腕を前に出してクロスさせ、目をつぶって『呪文』を口にした。
「〈……我の体にやどりし、電脳の妖精達よ。力を我に貸したまえ……バーチャル・ブレインの名において!〉」
レイの周りに、小さい光の礫が無数に現れ強い光を発し、邑はそれを見て、
「(後は、ヘリの腹に付いているECMだけか……)」
邑が思っている同時刻に、攻撃ヘリ『コブラ』三機は、ライトで邑達を照らし出しながら、堀村に連絡した。
「フォックスリーダーより入電。武装した者を五人確認。その内一人は……金色に光っていて、他の者は手を振っているそうです!指示をお願いします」
堀村は、フォックスリーダーに聞いた。
「フォックスリーダーへ通電。ECMは起動しているか?」
『フォックスリーダーより堀村警部へ。全機、ECMは起動しています』
堀村は納得いかなかった。
「(ECMが起動しているのなら、奴等は、あの生意気な司令官と連絡出来ないはず。それが、手を振っているだと?とうとう頭が変にでもなったか)」
堀村はそう思いながら、フォックスリーダーに指示した。
「フォックスリーダーへ通電。そこで奴等の監視をしてくれ」
『フォックスリーダー了解。フォックス各機もその場で待機』
『了解!!』
『コブラ』が攻撃して来ないのを見て、邑は安堵の息が出た
「フウゥー、攻撃はされないようだな。レイ、準備は出来たか?」
「いつでもOKです」
レイの体は、黄金に輝き始めた。
「ECMだけでも撃つか」
「止めておけ、天空」
「しかし、このままこっちが殺れちまう」
「ECMの方は、直ぐ解決する。お前の弟がやってくれるよ」
「天海が……」
そう言うと、天空が笑った。
「そうだな、天海ならやってくれるな」
「そういうことだ。各員、行動があり次第作戦の実行!」
「了解」
邑が言い終わると同時に、攻撃ヘリ『コブラ』の後ろで何かが光り、その瞬間にヘリの腹に付いていたECMが火花を吹いた。