21:20 警視庁作戦本部
邑達が目標ビルに侵入をしている頃、警視庁に設けられた作戦本部では、警視庁の幹部以外、警備部と治安部にASSFのスタッフが集まっていた。
巨大スクリーンに、目標ビルを中心にマップが映しだされており、赤点の中に一から七までの数字が書いてあった。
赤点は邑達であるが、しかし本部では、まだ邑達が作戦を遂行することに『問題がある』と治安部 堀村警部が騒いでいた。
「ですから!!あんなヒヨッ子共に、作戦を任せるなど、ありえないことです!!しかも司令官もまだガキではないですか!!」
春野 涼巳は、それを聞いて激怒した。
「どうゆう意味ですか!?『ASSF』はあなた達より強いですし、何より蒼野隊長が率いる、武装奇襲特殊部隊『A・O・A』は最強チームです!役立たずの貴方よりいいです!」
涼巳は、立ち上がりながら言った。
だが、堀村警部はそれを鼻で笑った。
「フンッ、ヒヨッ子共の話なんて信じられん!それに貴様はここに居る我々を侮辱したな」
「いいえ、貴方と治安部の事を言ったんですよ!」
堀村警部の鼻笑いを返すように、涼巳も笑いながら言った。
「貴様っ!!作戦本部から出て行け!川渡!谷口!!ガキを連れ出せ!」
「さぁ、立ってください」
部下の一人、川渡が涼巳の腕を掴んだ。
「やめなさい、川渡巡査!私はあなた達より階級は上なのですよ!!」
「関係ありません。上司の命令なので」
もう一人の部下、谷口も涼巳のもう片方の腕を掴もうとした時、逆に谷口が腕を掴まれ、更に腕を捻られた。
「イタタタッ!!だ・誰だ?!」
「谷口巡査?!」
音もなく近づき、腕を捻り上げたのは、『ASSF』諜報部隊長の鹿野 隆起だった。
鹿野は、邑達と同じの黒い戦闘服に身に纏っていた。
鹿野は低い声で、谷口と川渡に言った。
「うちの司令に何やっているんです?」
二人はその場を即座に離れ、川渡は混乱していた。
「お前、何処から出て来た!?」
「さっきからいた。気付いていないとは情けない」
「何だと!?何様のつもりだ!!」
谷口は腕を捻り上げられたことに腹を立て、鹿野に向かって殴り掛かってきた。
鹿野は振りかざして来た拳を片手で受け止め、そのまま受け止めた拳を下へと払った。
次の瞬間、谷口は空中を回るように背中から床へと叩きつけられた。谷口は息を吐き出したような声を上げ、川渡は何が起こったか判らなかった。
鹿野が行った行動は、『合気道』の払いで、鹿野は床に倒れている谷口に言った。
「もう少し相手の力量を見極めてから望んでください。春野司令、警視庁長官より伝言です。『春野司令官は、貴殿の本部に戻り、そこから作戦の指示をだす事』とのことです」
鹿野は涼巳に頭を下げながら伝えると、涼巳は席を立った。
「出迎えご苦労様です、鹿野隊長。それでは、春野 涼巳は退室します」
涼巳は一礼すると、入り口へと向かった。部屋を出る時、堀村警部が何かを言って騒いでいたが、それを無視して鹿野と一緒に作戦本部を後にした。
作戦本部から出て、エレベーターの前で涼巳はため息をついた。
「先ほどはありがとうございます。鹿野さんが来てくれて助かりました」
「司令を守るようにと蒼野隊長やクリス・レイフォード副隊長から強く言われましたので」
「帰ったらお礼を言わないといけませんね……クリスにも言わないと」
涼巳は微笑みながら言った。
エレベーターが着くと、鹿野が先に入り、続いて涼巳が乗ってドアが閉まった。エレベーターは一階に下りるのでなく、上へと上がった。
「司令、書類に目を通してください」
「何の書類ですか?」
涼巳はペラペラと書類を見ていくと、顔が険しくなった。
「これは……」
「『デス・スコルピオン』が、この日本に密輸入したと思われる物です」
「この重軽金属があれば、高々度ミサイルなどの兵器が作れますが……高性能ICチップも気になりますね……」
「蒼野隊長らも気付くはずですが、作戦開始前に伝えられなかったのが悔やまれます」
鹿野の言葉が終わると同時に、エレベーターが止まり、ドアが開くと非常階段とまた別のドアがあり、鹿野がドアを開けると、警視庁屋上のヘリポートに出た。
そこにはブルーペイントされた高速機動ヘリが、アイドリングをして待機していた。
涼巳と鹿野は、ヘリに乗り込みパイロットに発進の指示を出すと、ヘリのエンジンは回転数を上げ、ゆっくりと浮び上がった。
鹿野は説明の続きをした。
「この密輸入で最悪なのは、輸入・輸出を管理する治安部の低落ぶりです」
「それはどう言うことですか?」
「どうやら、治安部の堀村警部は輸入物を適当に検査、上陸を許可するらしいです。このため密輸入が容易に出来る訳です」
「恥さらし者ですね。堀村警部や治安部がどのような行動に出るか心配ですね」
「大丈夫ですよ。堀村警部に発信機と盗聴器を仕掛けましたから、今頃は『ASSF』の本部でモニターしているはずです」
「いつの間に仕掛けたんですか?」
不思議そうに聞く涼巳に、鹿野は笑いながら答えた。
「堀村警部と廊下ですれ違う際に」
「さすが諜報部隊長ですね」
「いえ……あっ、ちょっとお待ちください」
「何かありましたか?」
涼巳は鹿野の表情を見ながら聞くと、鹿野は慌てて座席に置いてあったノートPCを取り出した。映し出された画面に鹿野の顔をしかめた。
「司令……緊急連絡です。こちらをご覧ください」
鹿野はノートPCを涼巳に見せた。
「これは……」
「はい、今入った情報です」
「……新しく出て来たECM……しかも電波パターンは陸上自衛隊の物……横槍が入ったのは間違いないですね」
「他にもあります。治安部の特殊部隊が出動しました。さらに陸上自衛隊第7師団特殊部隊、第45普通科師団戦車連隊3個大隊、第11師団空挺部隊、航空自衛隊も緊急出動しました。出動内容は、『大規模なテロ組織を壊滅する』との事です。既に、こちらから中止命令と特殊部隊の撤退を出しましたが拒否されています」
「なるほど……どうやら堀村警部より更に奥があるみたいですね……」
「他にもあります。この写真を見てください」
写真を見た涼巳は驚きと苦渋の顔をしたが、鹿野はその表情をみて話した。
「大丈夫ですよ、春野司令。彼等はこんな事で倒れる奴らではないです。私達は彼等の支援をしましょう」
「そう……ですね。うん、一つ賭けをしてみましょう」
「賭け……ですか?」
「鹿野隊長、お耳を貸してください」
鹿野は不思議に思いながら、鹿野は涼巳の顔に近づいた。
涼巳は鹿野の耳元で、ゴニョゴニョと囁いた。
「それは危険な賭けです!」
「危険な賭けかもしれませんが……完全消滅しないといけません」
「……判りました。こちらで救援部隊を編成して送ります。救援部隊には“あの三人”に任せます。この賭けも伝えておきます」
「よろしくお願いします。三人にもご迷惑を掛けますね」
「救援部隊には元々“あの三人”を推薦する予定でしたので」
「そちらはお任せします。そして、ワイークスの艦長に緊急連絡をしてください」
「判りました」
鹿野はヘリのパイロットと話始め、涼巳は外を見ながら思った。
「(お願い……どうか間に合って!!)」
涼巳は心の中で祈った。