打ち合わせと準備
このセーフティーハウスは、ASSFが管理する家の一つで、隊員の休息や作戦前の会議・隠れ家として使用され、特にA・O・Aが使用している二階建てのセーフティハウスだ。
駐車場には4tトラックが止まっていた。
「(ん?トラックのタイヤが沈んでない……荷物は降ろしているのか……クリスかな……)」
玄関のドアを開けて入いると、クリスとレイが玄関で待っていた。
「あっ、クリス、レイ。ただいま帰ってきました」
「お帰り。お疲れ、涼」
「お二人ともおかえりなさい。」
涼巳はそう言うと靴を脱ぎ始め、邑は少し遅れて入り、靴を脱ぎながらクリスに聞いた。
「皆は何処に?」
「リビングで待っている」
「了解、荷物を部屋に置いてから行く」
「じゃ、先に行っているぞ」
クリスはそう言って、レイと共に廊下の奥へと小走りで行った。
二階に上がり、それぞれの部屋に荷物を置き階段を降りて、リビングへと向かった。
邑はリビングのドアを開けて、先に涼巳を入らせてから入った。
中は広く、部屋の中央にはコの字型に配置された三つのソファに、その真ん中にはガラステーブル、部屋の右側には大型テレビと横にはパソコンが置かれ、左側にはテラスに出られる窓があり、部屋の奥にはキッチンもあった。
「全員いるな」
邑はソファに座っているメンバーを見た。
キッチン側のソファに座っていた女性二人が邑達の姿を見て挨拶した。
「ひさ~邑、涼ちゃん」
「お久しぶりです。邑さん、涼巳さん」
「久しぶりだな。瞹、多恵」
「お久しぶりです。お二人とも」
邑は軽く手を上げ、涼巳は頭を下げた。
水野 瞹。髪は赤色のセミロングで年齢よりも童顔な上、小柄で活発なことから、妹的存在になっている。
崎月 多恵。髪は透きとおるグレイ色のロングヘアーにいつも三つ編みで、冷静沈着、お姉さん的存在だ。
多恵と瞹は対称的な二人だが、一緒にいると姉妹のように接していた。
二人に挨拶した邑は、レイを呼んだ。
「レイ。天空と天海はどうした?」
レイは奥のキッチンから人数分の飲み物を持って現れた。
「天空と天海はソファにいるはずですけど……」
レイと邑はドア側にあるソファを見た。
「天海と天空は……寝ていますね」
二人は双子の兄弟で、兄の大木 天空と弟の大木 天海である。
兄の天空は薄茶の髪をスポーツ刈りにし、活発な性格、弟の天海は黒色の普通の髪に、天空とは反対に物静かな性格から、兄は空の様に広大で弟は深海の様に静かだと言われている。
レイは、飲み物をガラステーブルに置きながら言った。
「瞹、多恵さん。起こして」
「わかりました~」
「はい」
二人は起こしに向い、涼巳はクリスのいる窓側のソファに座った。
「涼。頼まれていたやつ買って、部屋に置いたけど見た?」
「うん。ありがとう。助かったよ」
「そうか。良かった」
会話を聞いていた瞹と多恵は、天海と天空を起して隣に座りながら笑った。
「うわ、ラブラブですね~。付き合っているだけあるなぁ~」
「自分もそうでしょう、瞹。天空さんと付き合っているのに」
「うっ……多恵ちゃんもでしょ~!」
「何をやっているのだが……」
レイは溜め息を吐いてキッチン側のソファに座り、瞹は笑いながら体を乗り出した。
「あれ~?レイちゃんは?」
「わ・私は関係ないでしょ!叩くよ!」
「こわ~い!」
レイは、腕を上げて叩く真似をし、瞹は天空の腕にしがみついた。天空はジェスチャーで謝りながら瞹を軽く小突いた。
「ほら、会議始めるぞ」
邑はパソコンの前に立ち、手を叩きながら全員を注目させた。
全員が注目すると、室内の空気が一気に張りつめた。
「昨日、デス・スコルピオンに動きが確認された。目的は不明だが、『A/N』及び何かしらテロ行動が予想される。まずはこれを見てくれ」
邑はテレビに繋がれたパソコンを操作して、テレビ画面にビルの正面図を出した。
「これが潜入・破壊するビルだ。潜入方法は、夜間専用無消音ヘリUHー60J改に搭乗、ビルの屋上に着き次第ロープで降下し潜入する。その際の警備システムと電子ロックの解除はレイにやってもらう。いいな、レイ」
「了解しました」
「次に『A/N』及び『A/N』の開発資料を発見次第に情報を回収、破壊する。それと同時進行でビルの地下も調べる」
クリスは、不思議に思い邑に質問をした。
「地下を?地下に何かあるのか?」
「静止軌道衛星『カイム』を使っても、地下の状態がまだ解析されていない。更に周りには強力なジャミングが掛かっている」
「ジャミング?無線連絡は?」
「装備には対ジャミング装置の衛星無線を使用するから大丈夫だろ」
「なるほど」
「地下には何があるのか。これを調べて、破壊できる物は全て破壊する。その後はビルを爆破するので、多恵と天海で爆弾の設置場所を考えてくれ」
邑がそう言うと天海が立ち、質問をした。
「しかし、爆弾の設置場所を考えるにも、今出ているビルの正面図だけでは、難しいです」
「わかっている。ビルの青図面と3DCGのビル図面を用意した」
邑は、ポケットから一枚CD―Rを出した。
「これは、諜報部が危険を冒して手に入れた物だ。これを使ってくれ」
「了解しました。それと、爆弾設置は誰が行うのですか?」
「爆弾はこちらで設置をするので、天海と多恵は監視をお願いしたい」
「監視ですか?」
多恵と天海は首を傾げると、邑はパソコンを操作し、別のビルの図を出した。
「そうだ。目標の前にあるビルは、目標より1階ほど高い、ビル屋上からスナイパー・ライフルでの目標ビル及び周辺の監視をやってくれ」
「了解しました」
「了解です」
天海と多恵は、お互い見合わせてから頷いた。
「班編成だが、今言った多恵・天海の両名は狙撃班。レイはビルの集中制御室でビル全体の全セキュリティーを解除、そこから俺達のサポート班。俺・クリス・瞹・天空のアタックチームの三編成でいくが、異議がある者はいるか?」
誰も異議を起てる者はいなかった。邑は話を続けた。
「では次に、鹿野からの情報だ」
テレビ画面には、何人かの男達が写った拡大写真が映し出された。
「これは、港に入航してきた外国船から降りてくる際に撮られた写真だ。『デス・スコルピオン』の暗殺部隊だ」
それを見た邑・涼巳以外のメンバーは息を呑んだ。
天空は声を震わせながら邑に聞いた。
「邑……こいつ等が来ているのか?」
「未確認情報だが、『デス・スコルピオン』の幹部が日本に来ている情報もあった。暗殺部隊は強敵で、それは皆が体験しているはずだ」
「……『力』の使用許可は?」
『力』……邑達に備わった『特殊能力』のことで、涼巳は座ったまま静かに言った。
「『力』ですが……最初は消耗を抑えるため、通常武器を使用してください。しかし、『デス・スコルピオン』が現われた場合は、『力』の開放を許可します」
それを聞いたメンバーは頷き、邑は説明の続きをした。
「クリス、表に止まっているトラックには積まれている荷物はどうした?」
「あぁ、荷物は既に運んでおいた。全員の武器に装備一式。一階奥の部屋に置いてある。足りない場合はここの武器庫から足してくれ」
「判った。今は17時過ぎか……一時間後、駐車場に集合。それまでに装備と武器を各自確認し準備しろ。集合後、車で夜間専用無消音ヘリUHー60J改がある航空自衛隊基地に行き、ヘリに搭乗する。コールサインは【ANGEL(エンジェル)】だ。質問はあるか?……無いな。これで終わる以上、解散」
全員席を立ち敬礼をしてリビングを後にしたが、涼巳は邑を呼び止めた。
「邑、ちょっといいですか?」
「どうした?涼巳」
邑はリビングに戻ると、レイ・クリス・涼巳が居た。
「今回の作戦ですが……かなり危険はずです……昔みたく私も一緒に戦えればいいのですが……司令官としての責任もあるので出来ません……デス・スコルピオンと一戦交えるのは数年ぶりです……皆が心配で……」
涼巳は俯きながら言うと、邑は涼巳の頭を撫でた。
「心配してくれてありがとう、涼巳」
涼巳は頭を撫でられたまま頭を上げると、邑は微笑みながら言った。
「俺達は大丈夫だ。必ず帰ってくる。そうだろ皆」
「もちろん。涼、心配するな」
「涼巳、私達は大丈夫だよ」
クリスは親指を立てて笑い、レイは涼巳を後ろから優しく抱いた。
「涼巳、お前は妹みたいな存在だ。後ろの奴らも大丈夫だから」
邑に言われて、リビングのドアを見ると、天空・天海・瞹・多恵が笑いながらそこにおり、四人は涼巳に頷いた。
「皆……」
「さぁ、妹を泣かせないようにするぞ!」
「了解!」
邑はもう一度、涼巳の頭を撫でるとレイ・クリスと共にリビングを後にした。
一時間後……全員がガレージに集合し、邑達は涼巳の前に整列、敬礼をした。
「A・O・Aチーム集合しました」
涼巳は、敬礼をした邑達を見て敬礼を返し、邑の号令で敬礼を止め、邑達に言った。
「皆さん、今回の作戦は大変危険を伴いますが、必ず無事に帰還することを願っています。私も本部の方で援護しますので、共に作戦を成功させましょう!」
涼巳は力強く言うと邑は頷き、涼巳に言った。
「大丈夫です、春野司令。我々は必ず無事に帰ります」
邑は隊員の前に行き号令を掛けた。
邑達は、A・O・A専用の戦闘服を着ていた。
戦闘服は、防弾・防刃効果のある黒シャツに黒ベストに黒ズボン、手には革製の茶色のグローブをはめており、両太股や腰の周りには各自が得意とする武器を装備している。サイレンサー付きサブマシンガン等を携帯し、耳にはイヤホン型のマイクイヤホンの無線機を付けていた。
A・O・Aチームは、邑を隊長としてクリス・レイ二人が副隊長、瞹・多恵・天空・天海が隊員という構成になっている。
そして、邑は整列した皆の方を向いて言った。
「これから航空自衛隊基地に向かい、夜間専用無消音ヘリUHー60J改に搭乗して目的地へ出発する。危険な任務になるが、無事帰還する!いいな!A.O.Aチーム出動!」
「了解!」
涼巳を残して全員車に乗り、航空自衛隊基地に向かった……。
車を見送りながら、涼巳は心で祈った。
「(神よ、彼等を見守りたまえ……)」