警視庁最上階 最重要会議室(さいじゅうようかいぎしつ)
港での事件発生から1日後、警視庁では緊急会議が開かれた。
部屋の後ろには巨大なモニターがあり、その前には警視庁の官僚の人達が細長い円を作るように座り、その中にはASSF司令の春野 涼巳と諜報部隊長の鹿野 空、ASSF副司令にして実行部隊隊長の蒼野 邑が座っていた。
最初に話を始めたのが、治安部の堀村警部だった。
「今朝の港での事件について、犯人が潜伏している場所が特定できました。今夜犯人の逮捕を行うのですが、ASSFの春野司令官殿からお話があるとの事です。では、春野司令官殿どうぞ」
露骨な嫌味交じりで涼巳の名前が呼ばれた。
「ただ今ご紹介に挙がりました『ASSF』の司令官、春野 涼巳です。宜しくお願いします。それでは……」
涼巳は手元の資料を見ながら言葉を続けた。
「皆さんのお手元にある資料は、警察関係者が判明した敵の情報ですが、新たに情報が入りましたのでご報告いたしますが……」
「ちょっと待てくれ!今になって新たな情報が入った。そんな話は聞いてないぞ!?」
涼巳は体をビクッと震えさせたが、邑と鹿野がフォローに入った。
「それについては理由があります」、
「理由?どんな理由があるのだ。聞かせて欲しいな。そうですよね、長官」
堀村警部は、今までのことの成り行きを見ていた警視庁長官に同意を求めた。
「うむ。堀村警部の言う通り、理由を聞かせて貰いたい、こちらもある噂が耳に入っているのでね。しかしながら、実行部隊と諜報部隊の二隊長が言うのだから何かあるのだろ?春野司令官」
長官はそれを言うと、涼巳に答えを求めた。
「はっ、はい。昨日の事件には隊員からも情報が来ています。隊員は半数が死亡しましたが、警察にはない新たな情報が判明しました。諜報部隊長の鹿野隊長から説明して頂きます。鹿野隊長、宜しくお願いします」
「はい、ご説明させて頂きます。今回、我々諜報部が再度の調査で判明したことですが、敵の裏の存在です。堀村警部の方では“過激派組織による抗争”との事ですが……よろしいですか?」
「そうだ。我々の情報は正確だ。それに何か不満があるのか!!」
堀村警部は、机を叩くと鹿野はそれを臆せずに話を続けた。
「部下が命と引き換に得た情報です。確証はありますし、すでに裏も取れています」
「……それで、その情報とは?」
長官は腕を組みながら言った。
「敵組織は、余り大きい組織とはいえませんが、バックは大物です。そして、相手も相当な手慣れです。潜伏先も判明しました。結果、今回の港を含め、さらに調査員の数名が死亡しました……」
鹿野は報告書のことを話し、長官は鹿野に質問した。
「……質問だが、生き残った者達の状況と潜伏先の監視は?」
「数人は手足が無い者に精神崩壊も起しますので、現場復帰は無理です。監視の方はASSF専用静止軌道衛星『カイム』を使用中です」
「そうか、バックは判っているのかね?」
長官は鹿野を見て、鹿野は一呼吸置いて言った。
「……バックには『デス・スコルピオン』と言う、国際指名手配されている危険因子テログループの存在を確認しました。このテログループは、ここにいるASSF実行部隊A.O.Aチーム隊長の蒼野隊長がよく知っていますので、説明していただきたいと思います」
鹿野は、邑の方見て”頼む”と頭を軽く下げた。
邑はと目で合図し、席を立ち説明した。
「私の方からご説明させて頂きますが、このグループは皆さんが考えているテロとは全く違う事を覚えておいてください。『デス・スコルピオン』とは、軍事産業から麻薬などの裏産業に精通し、ボスの正体は分からず、正体を知ろうとすれば、ボス側近の部隊に消されます。私達は、このテログループとは何十回と対戦しましたが倒すのは無理でした」
一通り説明すると、周りからは騒めきが起こった。
「うむ。間違っていたらすまないのだが、聞いていると普通よりは脅威だとは思うが、他とは違う所がまだあるのかな?」
「はい、一番の違いが、『ブラッド・ヴァース』にて中心となった敵組織です」
邑の言葉に会議室は騒然とした。
「なるほど……君達から提出された書類に『A/N』とあるが……これは?」
「それは、アイス・ニトロ 通称『A/N』という興奮剤です。先の大規模戦争時に、敵戦力の殲滅や少人数精鋭部隊で、戦闘が出来ないかという思考から医療用ニトログリセリンを特殊な液体と混合し、錠剤にして精製・服用します。その結果、服用した人間は、一時的に思考能力を下がりますが、運動能力を人の許容範囲以上まで上げ、狂戦士を作り上げることが出来ます。ただし、服用した人間は記憶喪失・意味不明な言語を言い、最後には廃人状態にする『諸刃の剣』です。現在は、国際条例にて精製・売買を全面禁止されてますが、未だに裏社会では作られており、私達はクスリ精製・売買をしてきた組織の完全壊滅を行ってきましたが、壊滅しても精製・売買する組織は後を絶ちません」
一気に説明をすると、官僚達はザワザワと話始めた。
「ふむ、堀村警部」
「は・はい!」
「どうも君達が調べた物と彼らが調べた物は違うようだが?」
「え~、これにつきましては……、時間が無かったものですね……」
「言い訳いい。彼らは犠牲者まで出ている状況でも一日で調べあげている。違うのかね?」
「……いいえ」
長官の言葉に堀村警部は委縮した。
「蒼野君、話を進める……いくらあの『ブラッド・ヴァース』戦の中心になったとは言っても、君のチーム全員、何か“特殊能力”があると聞きているが……」
長官は真剣な面持ちで邑を見た。
邑は、どう返答していいか考えながら答えた。
「はい、自分達には“特殊能力”が有りますが、敵方にも自分達と似た能力を持っていますので、容易ではないのです」
長官は少し苦い顔をしたが、納得したようだった。
「なるほど……敵が潜んでいる場所は特定出来ているのだね?」
「はい。敵本拠地は、数年前から郊外で建設中の工業地帯にあるビルの一つです。この工業地帯の建設にあたりましても不明な点が多く、ASSFでも調査していたとこでした。報告では、現在建設業者の姿が確認されておらず、今は無人の状態にあります。潜伏しているビルからも半径5kmの範囲に渡って、強力なジャミングが確認されています。何かあるのは確かです」
「……では、警察は愚か自衛隊の手出しは、逆に貴方達の邪魔になりますね」
「出来れば後方支援をお願いします」
「判りました。私から聞きたい事はもうない……後、君達から何か他にあるかな」
「はい、私達が作戦行動中は、敵本拠地から半径十km以内を完全封鎖お願いします。後、マスコミなど報道のシャトアウトもお願いします」
邑はそれだけ言うと自分の席に座った。
「わかった。こちらの方で手配はしとくよ。鹿野君、作戦開始時刻を言って会議を終わりにしよう」
「はい、作戦開始時刻は今夜21:00時となっています」
「うむ、それでは会議を終わる。ASSF司令官、春野君にA.O.Aチーム隊長、蒼野君。掃討作戦を頼むぞ」
「了解です!!長官」
二人は急いで席を立ち敬礼し、長官も敬礼をして席を立った。
これが最重要会議の内容だ。
涼巳は、車内で会議中に話されたことを思い出しながら、ボーと外を見ていると、誰かが呼んでいるのに気づいた。
「……、・・巳、涼巳、涼巳!聞こえているか?」
「えっ!あっ!ごめんなさい。少しボーとしていたもので、何かありました?」
涼巳は謝りながら邑を見た。
「くくっ、涼巳らしいな。もう少しでセーフティーハウスに着くぞ」
「『涼巳らしいな』ってどういうことですか!邑!」
涼巳は少し怒った口調で邑に反論した。
「まぁ気にしない。ほら着いたよ」
「もうっ!邑はすぐはぐらかす!」
「はははっ」
邑は笑いながら車をセーフティーハウスの駐車場に入れた。
エンジンを止め、二人は玄関に向かった。