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ハジマリノジケン

 大型船が何艇も停泊し、高く積み上げられたコンテナ郡。

 深夜の外国貨物船専用(がいこくかもつせんせんよう)の港には、数十名の人影がコンテナに映し出されていた。


「お待ちしておりました。将軍」

「将軍は辞めろ。もう昔のことだ」

「失礼しました!」


 作業着を着た男の言葉に将軍は手を振りながら言い、男は敬礼すると将軍の後ろにいる人物達を横目でみた。


「……気になるかね?」

「ハッ!……すみません」

 男は今一度、直立不動になると、将軍は笑いながらいった。


「心配するな。彼らも同士だ……それよりも……」


 斜め上を見ながら呟いた。


「どうやらネズミが動いているみたいだ」

「ネズミですか?」


 男は将軍が見ている斜め上を見ると、そこにはコンテナ用の大型クレーン二基に中型の倉庫ビルが建っていた。


「私には見えませんが……」

「フフフッ……肩慣らしだ。始末して……いや、数人はメッセージ付きで殺すな……血も忘れるなよ」


 フード付きコートを羽織(はお)った数名が軽く頷き、その場から消えた。


「か・彼らは……」

「ネズミ駆除に行った。さて、これからが楽しみだな」


 将軍は笑いながら歩きだすと、声がコンテナ群で反響し、真夜中の港に響いた。

 次の日、港には警察と報道陣が詰めかけていた。


報道関係者(ほうどうかんけいしゃ)と一般人は中に入れるなよ!!規制テープ張れ!!」

「了解しました!」


 スーツを着た刑事は、パトカーから降りてきた警察官達を怒鳴った。


「先輩!木野(きの)先輩こちらに来てください」

「まったく……朝からなんだっていうんだ。殺人か?それとも窃盗か?」

「……まだ殺人ならいいんですが……」

「何だ?はっきりしろ!」

「……現場を見れば判ります」


 木野(きの)と言われている刑事は若い後輩の刑事の言葉に首を傾げながら、案内されるままにコンテナ群の奥へ歩き始め、ある一つのコンテナの角を曲がると、酷い光景が見えた。


「……なんだ、これは……戦争でもあったのか?」

「いえ……殺人現場です。但し……普通の殺人現場ではありません」


 コンテナは紙を打ち抜いたように穴だらけで、大きな凹みすらあり、地面やコンテナの至る所に変色したドス黒い血が飛び散り、血溜まりも出来ていた。他にも緑色の液体も一緒に飛び散っていた。


「先輩!こっちに来てください!!仏さんがいるんです!!」

「お……おう!今行く!!」


 木野(きの)刑事は唾を飲み込むと規制テープを潜り、後輩のいるブルーシートへと駆け寄った。


「これが、仏さんか?大量にいるな……」

「最初に現場へ駆けつけた警察官によると、重体ですが四名の生存者を確認。後は死亡と報告が来ています。鑑識からの報告は……二~三日は飯食えないと」

「ふむ……第一発見者と駆け付けた警察官は何処にいる?」

「……」

「どうした?」

「……第一発見者は通報すら辛うじてで、体調不良の為に病院です。数人の警察官が気絶。意識を保っていた警察官も今は奥の方で嘔吐中です。」


 木野(きの)刑事はコートのポケットから白い手袋を取り出し手にはめて、溜め息をしながら座り込み、ブルーシートの端を持ち上げる時、横に立っていた後輩に声をかけた。


「お前も気分悪くなったら奥にいけよ」

「わ・わかりました……」


 二人は唾を飲み込みながらブルーシートを持ち上げるとそこには、手足のない死体や腹部(ふくぶ)胸部(きょうぶ)に大穴があいた六~七人の遺体があった。


「これは……」

「うぐっ……すみません!」


 後輩はコンテナの奥へ走り出し、木野(きの)刑事も胃から込み上げてくる異物を押し込めながら立ち上がり呟いた。


「何があったんだ。戦争でもあったのか……」


 数体の遺体は、顔すら判別出来ないぐらいまで潰れていた。それらを確認していると、一人の警官が近寄ってきた。


「すみません!!病院に搬送された一人が亡くなりました。それと重傷者の一人が、救急隊員に伝言と物を預けたそうです」

「見せてみろ」

「これです!」


 警察官の手には透明ビニール袋を持っており、中には血まみれの小型ボイスレコーダーと血に染まったエンブレムだった。

 エンブレムは白い羽根をモチーフしたデザインだが、血で染まっている為に部隊名までは確認出来なかったが、羽根の上に書いてある文字に木野(きの)刑事は驚いた。


「……伝言はなんて言っていたのだ」

「は・はい!え~と、『連絡を、AS……に……急いで……』と。英語の所はどうも聞き取れなく、ボイスレコーダーもパスワードが掛っているため聞けませんでした」

「伝言を残した人物の容体は?」

「意識不明です。名前を確認しようにも判らず、どうやら武器も所持しているので、どこかの暴力団同士の抗争ではないかと睨んでいますが……」

「そうか……これで現状が読めた……」


 木野(きの)刑事は、声を上げた。


「全ての押収品を集めろ!!現場と遺体の写真を今すぐ現像!!何も逃すな!!急げ!」

「はい!!」


 警察官は慌ててその場を去り、鑑識も慌ただしくなった。


「先輩……どうしたのですか?」


 後輩は脂汗をかきながら聞いてきた。


「さっきの伝言は聞いたな?」

「はい、ASがなんとかと……」

「これを見ろ」


 木野(きの)刑事は後輩にエンブレムを渡すと、後輩は書かれている文字を読んだ。


「A……S……S……F……ASSF(あしーふ)!」

ASSF(あしーふ)武装奇襲特殊機構(ぶぞうきしゅうとくしゅきこう)。国連に所属し、国際テロの鎮圧や殲滅などを専門にし、政府や自衛隊・警察機構にも顔が利く組織」

「その組織の一員……」

「そうだ。何処の所属部隊か判らないが……恐らく偵察(ていさつ)諜報部隊(ちょうほうぶたい)戦闘部隊(せんとうぶたい)ならもっと滅茶苦茶になっている」


 後輩の油汗は引き、逆に冷汗が出てきている。


「これは、暴力団同士の抗争なんて生優しいものではない……この事件は俺らでは何も出来ない。出来る事は証拠と亡き者達の遺品を集めることだ」

「はい。課長にもそう連絡してきます」

「あぁ、この事を言えば納得するだろう。頼む」

「行ってきます」


 後輩は連絡を取るために、パトカーへと戻り、木野(きの)刑事はコートの内ポケットから携帯を取り出すと、アドレス帳からある番号を検索して画面にでた番号にかけた。


「お久しぶりです。木野(きの)です。早朝からすみませんが、急ぎの連絡がありまして……」


 その日の新聞には、『港でコンテナ爆発。負傷者多数』とだけ掲載された。


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