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ブラッド・ヴァース~血の大地~  作者: 月影 亨
第四章~それぞれの死闘~
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“生き残り・そして……”

 数時間後、ビル群があった場所は全てが跡形もなく消し飛んでいた。 

 大地が剥き出しになり、所々ではまだ赤く燃えて燻っていた。そんな中を二台の装甲車が悪路となった大地を進んでいた。


 一台の装甲車には医療班が乗り、もう一台の装甲車にはA・O・(えーおーえー)大木(おおき) 天空(てんくう)と総司令の春野(はるの) 涼巳(すずみ)とアルテミスの鹿野(かの) 隆起(りゅうき)達が後部席で対面式に座っていた。


 車内は重い空気に包まれていたが、最初に口を開いたのは鹿野(かの)だった。


「現在、目標のビルから半径七km圏内の全てが無酸素爆弾により壊滅。敵保有している武装兵器は消滅したと断定できます。爆発による大規模なクレーターも出来ています」

「そうですか……他には?」

「衛星と地上からの観測により地下から大爆発があったとの報告がありました」

「地下からも……」

「これが地上と衛星からの写真です」


 鹿野(かの)は二枚の写真を正面にいる涼巳(すずみ)に渡した。


「地下の爆発……桜燈滅斬(おうとうめつざん)闇弾(やだん)ね……この二つが衝突したみたい」

闇弾(やだん)……そういえばあの大戦でも食らった記憶があるな」

天空(てんくう)、それは私も同じよ」


 鹿野(かの)は二人の顔を見ると、表情は至って普通にたいし目が鋭く座っていた。


「(……さすがは大戦を経験しただけはあるな……)」


 鹿野(かの)が二人の表情に驚いていると装甲車が急停止で止まった。


「お話中にすみません!」

「ん?どうした?」


 天空(てんくう)は助席と運転席の間から身体を少し乗り出して聞いた。


「クレーター端まで到着しました。装甲車でも下まで降れますが……」

「どうする?涼巳(すずみ)?」

「いえ、歩いていきます。クレーターと言っても大きくはありません」

「そうか、判った。他の隊員はここで待機だ」

「判りました」


 涼巳(すずみ)はいち早く装甲車のドアを開けて、外に出て行った


「ったく、おてんばなお嬢さんだ」


 天空(てんくう)はそう言いながら外に出て、鹿野(かの)もその後に続いた。

 三人はクレーターの底へと一気に降りた。


「中央付近まで降りてみましょう。まだ瘴気がありますので、気だけはしっかりと持っていてくださいね」

『了解』


 鹿野(かの)天空(てんくう)涼巳(すずみ)の言葉に頷き、三人は駈足で下に降りていった。

 三人は、クレーターの中央付近に到着すると、上よりもどす黒く変色した土からはうっすらと煙が上がっていた。


「くそ!気が狂いそうだ」


 鹿野(かの)は汗を拭いながら言うと、涼巳(すずみ)は左手を前にかざした。


「出ておいで……“神器(じんぎ)水華(すいか)”」


 蒼い光と共に一振りの鍔がない長刀が出てきた。


水華(すいか)か……桜花(おうか)と二刀一対の刀。涼巳(すずみ)が持っていたのか」


 天空(てんくう)は腕組みをしながら言うと、涼巳(すずみ)水華(すいか)を手に取った。


水華(すいか)桜花(おうか)の在処を探ります。桜花(おうか)の近くに蒼野(あおの)隊長がいるかもしれません」


 涼巳(すずみ)は鞘から水華(すいか)を抜くと、青く透き通った色を放っていた。


「準備はいいですか?」


 天空(てんくう)鹿野(かの)はコクリと頷いた。


「それでは……いきます!」


 涼巳(すずみ)水華(すいか)を前にかざし目を瞑った。


「《水華(すいか)……汝と共に生まれし、無二の存在しもの、汝らの呼応を合わせ給え》」


 その言葉に水華(すいか)は数回震えると、剣先から一本の青い線が伸び、ある場所を指した。


 天空(てんくう)鹿野(かの)はお互いに頷くと、その青い線が指した場所に走り出した。

 二人がそこに着くと、地中から桜色の金属が見え、天空(てんくう)鹿野(かの)は急いで周りの土を払い除けると、そこから桜花(おうか)が見つかりその下には黒い繭があった。


「これは桜花(おうか)……黒い繭は……」

「……羽根の繭だな……」

「羽根の繭?」


 鹿野(かの)がオウム返しに聞くと天空(てんくう)は答えた。


「あぁ、この黒い羽根の繭は無意識に(ゆう)をガードしてくれる……涼巳(すずみ)


 天空(てんくう)は顔を上げると、そこには春野(はるの)もそばに駆け寄って来ていた。

 涼巳(すずみ)は黒い繭を見ると、軽く頷くと繭に軽く手を触れた。


「ルシファーを守る為の羽根……解!」


 涼巳(すずみ)が少し気を流すと、黒い羽根の繭は土から迫り出して羽根は細分化されていった。


 三人はその光景を静かに見守ると、繭の中からは一人の男性が出てきた。

 男性は体中に傷を負い、腹部(ふくぶ)からも血が滲み出ていた。


 天空(てんくう)鹿野(かの)で男性の体を支えながら地面に降ろすと、涼巳(すずみ)は男性に駆け寄った。


(ゆう)……目を開けてください!」

「こ……ここは……涼巳(すずみ)か」


 (ゆう)は目を細めながら周りを見渡した。


天空(てんくう)に……鹿野(かの)もいるのか……」

「立てるか?(ゆう)

「あぁ何とか……」


 (ゆう)天空(てんくう)鹿野(かの)に手を借りながら起き上がった。


「クッ!……横腹と肋骨はイッたかな」

「何を言っているのですか!これで助かったのは奇跡に近いですよ!あれ程、ミサイルが来る前に撤退してくださいと伝えたのに」


 涼巳(すずみ)(ゆう)の前に立って言うと、天空(てんくう)鹿野(かの)は苦笑した。


「すまん、撤退出来るような相手でも無かったが……どうやらまだみたいだな」


 三人は(ゆう)の言葉に一瞬首を傾げたが、正面から急に鋭い殺気が生まれていた。

 涼巳(すずみ)はバッと前に振り向き、天空(てんくう)鹿野(かの)は警戒をしていると、地中から声がした。


『クソッ!!俺様ガ、負ケルワケガナノダ!!ナニカノ間違エダ!!』


 その言葉と同時に黒い塊が出てきた。

 塊はニクル・ゴーワンであったが、既に人の形を留めておらず、腕は捥げ取れ腹には穴が開いていた。


「まったく、タフな奴だよ」


 (ゆう)は二人の支えを外し、フラフラしながら前に歩き始めた。


(ゆう)!無茶はいけません!」

「大丈夫だ。すぐに終わる」


 (ゆう)は、涼巳(すずみ)の肩に手を置き離す時に手信号を見せると、涼巳(すずみ)はボソリと言った。


「なるほど……“すぐに終わる”ね……」


 涼巳(すずみ)天空(てんくう)鹿野(かの)を見ると、二人も理解して頷いた。

 (ゆう)は足を引きずりながらニクルに言った。


「お前を仕留め損なったのは失敗だった」

『ソレハコチラノセリフダ!!』


 ニクルは力を溜めると体の前には闇弾(やだん)が作られたが、先ほどまで戦っていた程の大きさではなかった。


「お互い満身(まんしん)創痍(そうい)だが……お前とは違うものがあるな……」

『貴様と俺様デナニガ違ウト言ウノダ!』


 ニクルは口から血を出しながら叫び、(ゆう)は軽く微笑えんだ。


「……仲間だよ」


 (ゆう)は横に倒れるように移動すると、真後ろには天空(てんくう)鹿野(かの)が構えていた。


黒炎弾(こくえんだん)!!」

水神龍覇刃(すいじんりゅうはじん)!!」


 鹿野(かの)黒炎弾(こくえんだん)天空(てんくう)水神龍覇刃(すいじんりゅうはじん)が二つ同時にニクルを襲った。


 ニクルは慌てて闇弾(やだん)を打ち出し二つの技を打ち消したが、既に(ゆう)の姿は無かった。


『何処ニ消エタ!!ルシファー!!』


 辺りを見渡しながら叫んだ。


「……お前の横にいるよ……二人でな……」

『ナッ!!』


 ニクルは驚いて左右を見ると距離をつめた(ゆう)涼巳(すずみ)がおり、手には鞘に収まった桜花(おうか)水華(すいか)を手にしていた。


『イツノ間ニ合ワセタノダ!!』

「簡単だ。合図さえ送れば判る……これでお前の負けだ!!涼巳(すずみ)!」


 二人は一気に刀を抜くと叫んだ。


水桜斬刃(すいおうざんは)!!』


 ニクルとすれ違う瞬間に技を繰り出し、二人は左右入れ替わりながら刀を鞘に収め、ニクルの体には無数の刀傷が生まれ、血が噴出していた。


『クソッ!!!!我ガ野望ガァ!!!ダガ!俺様以外ニモ我が野望ヲ成就スル者ガ現ワレル!!ソノ時ハ俺様モ蘇リ貴様ノ前ニ死人ヲ築イテヤル!!』

「……その前に止めてやる。必ずな」

『ナエル様!!!!!』


 ニクルの断末魔を残し、霧散していった。


「今度……こそ……闇に朽ち……ろ」


 (ゆう)はそう言うとその場に崩れ落ち、涼巳(すずみ)は駆け寄ると、(ゆう)の上半身を起こした。その後に天空(てんくう)鹿野(かの)も追いついた。


(ゆう)(ゆう)!大丈夫ですか!!」


 涼巳(すずみ)は何回か体を揺さ振ると(ゆう)


「……血が足りないんだ……あまり動かすなよ。傷に響く」


 天空(てんくう)鹿野(かの)は顔を見合わせ笑うと涼巳(すずみ)は顔を赤くしながら慌てた。


「と・取りあえず帰還しますよ!天空(てんくう)!!笑ってないで(ゆう)を背負ってください!鹿野(かの)は情報の整理をすぐにしてください!」

「あいよ」

「了解です」


 二人は頷くと天空(てんくう)は背中に(ゆう)を背負い、鹿野(かの)は携帯で電話を始めた。


(ゆう)


 涼巳(すずみ)が呼ぶと、(ゆう)は頭を動かし涼巳(すずみ)を見た。


「……なした」

「傷が癒えるまでは休養を命じます。判りましたね?」

「了解しました。司令」


 (ゆう)涼巳(すずみ)の会話を聞いていた天空(てんくう)


「今の状況をクリスが見たら……」

天空(てんくう)!切りますよ!」

「冗談!冗談だって!!」

「お前ら……病人いるのを忘れるなよ……」


 茶化す天空(てんくう)水華(すいか)を抜きそうな涼巳(すずみ)に、天空(てんくう)の背中にいた(ゆう)がため息交じりに呟き、クレーターの上には出迎える隊員で一杯だった。


 それから一ヶ月、報道などで色々な憶測が流れたが、真実は闇に葬られた。


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