同時刻 “崎月(さきつき) 多恵(たえ)と大木(おおき) 天海(てんかい)の戦闘”
レイがガシンと死闘を繰り広げている中、天空と多恵はビルの中で下の光景を見ていた。
「堀村警部はこの後どうするのかな」
「やっぱり、撤退すんでしょうね」
天海と多恵が話していると、遠くの方からサイレンが聞こえ始めた。天海が確認すると、それは自衛隊が呼んだ消防車であった。
「消防車ですね、特に問題は……」
「天海?」
多恵は不思議そうに振り返った。
「目標ビルの屋上!」
天海の言葉に、多恵は双眼鏡で目標ビルの屋上を確認すると、そこには二つの人影が見え、拡大すると人影の姿がハッキリと見えた。
白い身体に膝と肘にはプロテクターをして、目は不気味な程の深緑色をしていた。
「ちょっと待って!あいつ等は!」
「……アンドロイド」。
「なぜアンドロイドがここに……まだ試作段階のはずよね?」
天海は双眼鏡を外し、多恵の質問に答えた。
「確かそのはずですが、考えられるとしたらデス・スコルピオンが完成させて投入してきた、と考えた方がいいですね」
「デス・スコルピオンが……あっ!天海!見て!」
多恵の言葉に天海はもう一度、双眼鏡でアンドロイドを見た。
アンドロイドの一体が筒状の物を担ぎ、何処かを狙い定めている。
「あの筒状は……対戦車ロケット砲!狙いは……」
「消防車!!」
多恵は双眼鏡を投げ捨てて、サブマシンガンでアンドロイドを撃とうとしたが、一足遅くロケット砲から対戦車ミサイルが撃ち出された。
発射音とミサイルのブースト音で下にいた自衛隊隊員や堀村警部は、ビル屋上と白い煙の線を目で追いかけた。
数秒後には、遠くの方で爆発音と黒い煙が空高く上り、それを見た天海と多恵はマイクイヤホンで連絡を取ろうとした。
「間に合わなかった……」
「こちらANGEL4!応答せよ!」
『ザー、ザザッー……』
「ANGEL各位!応答せよ!」
『ザー、ザザッー……』
「駄目……誰からも応答がないわ」
「多分、またECMだろう。発生源はあのアンドロイドか。ほら、下も大騒ぎだ」
『連絡が着かない!!』や『救援部隊はまだか!!』など色々と騒いでいた。
多恵は「なるほど」と頷いた。
「そうなると、あのアンドロイドを倒したらいいわけですね」
「そうだね。デス・スコルピオンも出てきている事だし……行きますか?」
二人は頷くと、下から悲鳴が聞こえた。
「な・なんだ!こいつは!」
「撃てぇ!撃てぇ!!」
自衛隊や特殊部隊が何者かに発砲していた。それは、目標ビルの正面入口から出て来た一体のアンドロイドだった。
手にはまだ燃え上がっている装甲車を片手で軽々と持ち上げ、自衛隊の攻撃にもビクともしてなかった。
「マズイ!自衛隊と特殊部隊が危ない!」
天海と多恵が窓から身を乗り出した途端、装甲車を持ち上げていたアンドロイドが二人に向かって燃え上がる装甲車を投げてきた。
『!!』
二人は同時に部屋の入口に走り、出ると同時に中からは爆音と共にドアが吹き飛んだ。
「気付かれたか!?」
「多分、そうですね」
天海と多恵は、階段で一階まで駆け降り外に出ると、そこは地獄絵図となっていた。
まだ動ける筈の戦車は燃え盛り、装甲車も何かに殴られた跡に真紅の血が大量に付いて、車両の近くには、自衛隊隊員や特殊部隊隊員の無残な姿でおり、燃えている者までいた。
天海と多恵は、サブマシンガンを構えながら進むと、燃え盛る車両の上に三体のアンドロイドがいた。一体の手には血だらけの自衛隊隊員が頭を鷲掴みされていた。
「動くな!」
天海は、サブマシンガンを構えながら言い、多恵は何とか生き残っている自衛隊と特殊部隊の隊員達に警告した。
「早く退避しなさい!!死にたくなければ急ぎなさい!!」
多恵の言葉に各隊員達は、まだ動ける車に乗り込んで退避した。
アンドロイドは、手で鷲掴みしていた自衛隊員を逃げ惑う隊員達の車に放り投げ、天海達向かって言った。
「貴様ら…A・O・Aか?」
その言葉に二人は驚きながら、天海は答えた。
「ああそうだ!それがどうした!?」
アンドロイドは笑いながら言った。
「はははっ!これはいい!蘇えった価値はあるぞ!!」
「蘇る?何のことだ!」
天海は更にマシンガンを突き出しながら言うと、隣の多恵が小刻みに震えた。
「……いや、そんなはずは……けどこの声は……」
「多恵さん?」
「あなたは……死んだはず……私か倒した……グリミー?」
多恵の言葉に天海はギョッとした。
「!グリミー!?切裂き魔のグリミーか!?」
「えぇ、あの声は記憶があります。ブラット・ヴァースで私と戦った相手ですが、最後に私が抹殺したはずです!」
多恵の言葉に天海はアンドロイドを見るが、表情がないため良く判らなかったが、深緑の目を細めていた。
「そうだ!グリミー様だ!!懐かしいなぁ~グレーセ・パンツァーよ。それにフレイム・イニシエーター!!」
「なぜだ!死んだお前がここにいる?」
「魂さ!貴様らに抹殺されて死んだが、冥土から魂を呼び寄せ、ガシンが作ったこのアンドロイドに定着させたのよ!!他の魂もあるみたいだがな」
「なんてことを……」
多恵は悔しそうに呟き、グリミーは高々と笑った。
「またこれで人を切裂ける!女・子供をな!!楽しみだぜ!!」
その言葉に二人は怒鳴った。
「二度とそんなことさせない!!」
「もう一度、永遠の眠りを与えてあげますよ!!」
二人は、同時にサブマシンガンを撃ち込み、グリミーと一体のアンドロイドは飛び逃げたが、もう一体はタイミングを逃し、サブマシンガンの弾丸をタップリと浴びて糸切れた人形のようにその場に倒れた。
「グリミーと一体逃がした!」
「天海!後ろ!!」
天海は後ろを向くと、逃げた一体のアンドロイドが目の前に迫ってきていた。
「チッ!」
サブマシンガンを盾にすると、アンドロイドは腕に仕込んでいたナイフでサブマシンガンを綺麗に真っ二つに切った。
天海はサブマシンガンを放して、後ろに跳び下がると、多恵も同じ状況であった。
二人は背中を合せるように集まった。
「どうします?多恵さん」
「倒したアンドロイドやグリミーから火薬の匂いがします」
「爆弾?」
「その可能性もありますね。自爆用かと思います」
二人の会話にグリミーは腕のナイフを振りかざしながら近づいてきた。
「どうした!なんの打ち合わせをしている!?どんな話をしても今更遅いぜ!!」
グリミーの言葉に天海は多恵に言った。
「多恵さん、例の呪文を唱えて」
「!あれを!?」
「一発で倒すにはそれしかありません!唱えている間は僕が食い止めます!」
そう言うと天海はグリミーに向かって走った。グリミーも腕のナイフを構え叫んだ。
「一人で来る気かぁ!細切れに刻んでやる!!!!」
「来い!!“神器・双劉剣”!」
両手には二つの双剣が現れ、それを掴むと同時にグリミーの超振動ナイフを受け止めた。
一方、多恵は後ろに下がり天海が言った呪文を唱えていた。
『八式神の弐神朱雀・陰よ。汝ら二つの力を我の前に立ち塞がりし者を闇の炎で消し去りたまえ……』
もう一体のアンドロイドが多恵に襲いかかり、多恵が呪文を唱えるのを止めようとしたが、後ろから氷柱がアンドロイドに襲った。
「(これは、氷縛陣!)」
それは双劉剣の片方で放ち、もう片方の剣でグリミーの超振動ナイフを受け止めていた。
「多恵さんは呪文で集中して!そのアンドロイドは少しの間は動かない!」
氷縛陣を食らったアンドロイドは、氷で全身が固まり動けなくなっていた。
「いいぜ!グレーセ・パンツァー!!切裂きがいがあるぜ!!イーヤッハー!!」
グリミーはもう片方の腕から超振動ナイフを一本だして二本で乱撃を始めたが、天海も双剣で乱撃を全て弾き返し、双劉剣をクロスしながらグリミーの横腰に当てて、身体を前のめりになりながら叫んだ。
「轟け!白虎の咆哮よ!!白虎氷檄咆!」
双劉剣を一気に引き出すと剣と剣の擦れ合った場所から氷の白虎が咆哮をあげてグリミーに向かった。
「こんなのがなんだぁーーー!!!」
グリミーが叫びながら、腕の超振動ナイフを投げていた。
大きな煙と氷柱が上がり、多恵は呪文を唱え終ると天海の名前を叫んだ。
「天海!!」
煙が徐々に晴れると先に天海の姿を見せたが、腕や足にグリミーの超振動ナイフが刺さっていた。
「天海!?」
多恵は、天海の側に行き天海を支えた。
「大丈夫ですか?」
「ハァハァ……何とかな……グッ……」
天海は自分でナイフを抜くと、グリミーの方を見ると言った。
「ハァ……グリミーはどうです?」
「判りません。死んではいませんが、無事ではないでしょう」
多恵の言葉と同時に、グリミーがいた場所には瓦礫の山が盛り上り、現れたのは、右腕が捥ぎ取られ、身体中から青い火花が飛んだグリミーだった。
「まだだ!!まだ終わらないぞ!!」
グリミーは、深緑の目を赤くして言った。
「俺の中には高性能爆弾がある!他の二体にも詰まれている!一緒に死んでもらうぞ!」
グリミーは小走りで天海達に近づいたが、天海と多恵はニッと笑って言った。
「グリミー……お前がそれを積んで自爆するのは判っていましたよ」
「な・なに!」
「あなたの自爆では私達は死にません」
二人は手を前にかざした。
「多恵さん、呪文の方は?」
「いつでもOKです」
「……いきますよ!」
「はい!」
「何をする気だぁ!!」
多恵は目を閉じ、最後の呪文を唱えた。
『《爆炎の精霊。集いて全てを塵とかせ!》』
二人の周りには赤き光の粒子が集まり、収縮すると眩い光を発した。
『《ダーク・エクスプロード》!!』
赤き爆炎が辺り一面を包みこんだ。
「ガァッーー!!!」
グリミーは叫びながら、塵とかしていった。
それと同時に目標ビルからも爆発音と眩い光が生まれていた。
二つの戦闘が終わり、レイ・天空・多恵の生死は、誰にも判らなかった……