対決 賭け-2-
五人は少し入るとバリケードに気付き、通路の仲間に合図した。そこから三人程来ると、周りに展開しつつ、アサルト・ライフルを構えながら叫んだ。
「そんなバリケードを建てても袋の鼠だ!大人しく降参しろ!!」
敵兵がジリジリと近づいて来ると、邑は距離を測り手信号で“待て”と出して、邑はいきなり敵兵に叫んだ。
「貴様らは人間ではないな?!」
その言葉に天空と瞹は驚いた。
「どういうことだ!人間ではないって!」
天空の言葉に瞹は頷いたが、クリスは静かに言い放った。
「……アンドロイドか」
アンドロイドとは、無人兵器であり一体で何十人分の働きをする為、近未来の兵器として注目を集めているが、まだ試作段階でまともに歩けないはずであった。
「見た目も赤外線でも人間のように見えるが、その中に流れているのは緑色をした液体……合成循環オイル!その肌も培養した人工皮膚!身体はカーボンナノチューブ繊維で作られた白いボディ!違うか!」
邑の言葉に敵兵の一人が答えた。
「普通の部隊ではないな……いつ気づいた」
「さっき瓦礫に埋まっている貴様らを見て確信した!」
「……」
敵兵は黙り、そのやり取りを聞いていた天空と瞹がクリスに聞いた。
「〈おい、アンドロイドは未完成の技術ではないのか?〉」
「〈確かに未完成の技術だが、デス・スコルピオンなら完成させたかもしれない〉」
「〈でも、あの声や動きは人間そのものだよ。気配だって本物だし……〉」
「〈考えたくはないが……まさかそんなはずはないよな……〉」
クリスはある理論に辿りつき、それを振り払おうとしたが、邑は前を見据えたまま首を横に振った。
「もう一つ聞く。貴様らはブラッド・ヴァースで死んだ者の魂だな?」
「……ふん、侵入者と聞いていたが、あの戦争に参加していた奴か。そうだ。俺らはブラッド・ヴァースででデス・スコルピオンの戦闘兵さ!」
敵兵の言葉にクリスは溜め息をつき、天空と瞹は顔を見合わせた。
「<デス・スコルピオンは何を考えているんだよ>」
「<天空、私にも判らないよ~邑~どういうこと?>」
「<俺にも実際は判らない。ただ、これは現実だ……>」
「<クソッ!!誰だよ。魂なんかでアンドロイドを完成させたやつは……>」
四人がそう言い合っていると、敵兵が叫んだ。
「確かに白いボディには人工皮膚を張っているが、この体だと痛覚に熱さや寒さを感じないから便利な体だよ!腕や脚が無くなっても変えがあるからな!」
「そしたら港の件も貴様らか!」
邑の言葉に敵兵は笑いながら答えた。
「暗殺部隊と共にな。腕慣らしだったが意外と反撃を食らって、三体も壊されたが……また魂をこのボディに入れればいいだけがな」
その言葉に敵兵達は笑い、邑達は顔を見渡し、敵兵は言葉に続けた。
「あの時は尋問しても答えない強情な奴らだったな。最後は意識虚ろで声も出て無くなっていたなぁ」
敵兵達は馬鹿笑い、瞹は怒り振るえ今にも飛び出しそうになり天空が止めていたが、天空の手もフルフルと震えていた。邑は静かに声を出した。
「それで、その後どうしたんだ……」
「あ?その後?吐かない奴は殺した。逃げていた奴らも追い詰めて殺したが、何人か半殺しだったな。まぁこっちが欲しいのは、何を探っていたかと魂だからな!貴様らや外にいる奴らを誘き寄せるために数人は生かしておいたんだよ!」
敵兵が大笑いすると、邑は黙ったまま動かなく、敵兵は声を上げた。
「さぁお喋りもお終りだ。居たら出てこい!遊んでやるよ!!」
敵兵の言葉に邑は顔を上げてクリス達に言った。
「……今の奴は生かしておけ。クリス行くぞ」
その言葉に、クリス・天空・瞹は頷き、邑とクリスがグレネードを通路に二個、部屋に一個投げ入れた。
敵兵が空を舞う物体を目で追いながら通路を見ると、瞬間的に眩い光と濃い煙が立ち込め、通路や部屋の中に居た敵兵は、強烈な光に目を焼かれ悶えていた。
邑達は、投げると同時に簡易マスクを着けて光と煙が収まると同時に、天空と瞹はサブマシンガンを撃ち込んだ。
銃撃音が鳴り響き、不意を突かれたアンドロイドの敵兵達は成す統べなく、撃たれ破壊されていき、邑の話していた敵兵が部屋から出ようとしたが、
「誰が逃がすか」
邑はバリケードの上から敵兵の足を狙って撃ち、弾は両太ももに当った。
「クソッ!!」
情けない声を出しながら倒れると、通路に残っていた敵兵が入ってきた。
「くそっ!何も見え……うわっ!!」
入ってきた敵兵に、天空が威嚇すると邑は天空と瞹に言った。
「三人は部屋に残れ!俺は通路の奴らを消す!!」
邑は、バリケードを乗り越えてドアに急いで向かい、ドアの近くで太ももを押さえていた敵兵に言った。
「そこで大人しくしてな、後で遊んでやるよ。たっぷりとな」
殺気を放ちながら言い、もう一度敵兵の背中を撃つと、殺気の重圧と打たれ衝撃に耐え切れず、アンドロイドの機能が麻痺していった。
「痛みはなくても死や気配は読めるみたいだな」
「フンッ!」と鼻を鳴らすと、片手を挙げて銃撃を止めさせ、入口の横に隠れた。
「銃撃が止んだ!突入!!」
敵兵達が部屋に入ろうとした時、邑は敵兵達の前に立ち塞ぐと、サブマシンガンを向けて言った。
「死を」
言葉と同時に引き金を引くと乾いた音と叫び声が重なり、銃撃音が終わると通路の両端に居た敵兵達は、緑色の血飛沫を出しながら反動で後ろに飛び次々と倒れていった。
邑の異様な殺気を出しながら前へと進み、身体は、敵兵の緑色の返り血が付き、通路奥の階段へと頭を向け、敵兵達を睨んだ。
「お・お前、な・何者だ!?」
「ASSF副司令にして特殊部隊隊長だ」
「お・お前が、ASSFの“ヘル・イーグル”か!?」
「そうだ……」
敵兵達は驚き、アサルト・ライフルを構える者、今にも逃出しそうな者までいたが、邑はそれも気にもせずに通路奥にサブマシンガンを構えた。
「……逃がさない」
引き金を引き、乾いた音共に足元には空薬莢が転がった。
通路奥には、積み重なった人の山ができ、マガジンを交換して、今度は階段の方の通路へと構えたまま向きを変えるが、一足先に敵兵達が、アサルト・ライフルを構えて撃とうと引き金に掛けた指に力を入れたその時、横の部屋の壁が爆発し、大穴を開けてコナゴナに吹き飛んだ。
壁の破片は近くにいた敵兵達に降り注ぎ、そのまま瓦礫の下敷きになった。
階段の方にいた敵兵達は、またもや何が起こったか判らないままその場に凍りつき、大穴からは天空・瞹・クリスの順に出て来た。
「邑、俺も我慢できねぇわ」
「壁を壊して出てくるか」
「結果的に助かったろう」
天空は部屋の壁を拳で爆発“爆破相殺”という技で通路に出て来た。
「あれぐらい回避出来た……まぁいい、三人も暴れてこい」
「イエッサー!!」
三人は邑の言葉に動き出そうとしたが、何処からとも無く静止を促す声が聞こえた。
「待て!!殺すな!!」
その言葉と同時に通路の電源が落ち、薄暗くなると邑や天空達の横を二つの疾風が如く駆け抜けて行き、そのまま敵兵達は次々と力なく崩れていった。
階段の上階からは敵兵が転がり落ちてくると同時に通路の電気が回復し、階段付近には邑達を背にした二人がいた。
邑は天空達の前に立ち、天空達はサブマシンガンを構え、邑も構えながら声を掛けた。
「……諜報部か?」
「そうだ、撃つなよ」
階段を下りながら答えたのは、先ほど天海と多恵に会った二瓶で、邑達に背中を見せていた二人も振り向くと、邑達はその人物達に驚いた。
「二瓶副隊長!それに川崎副隊長と深澤副隊長!」
「よぉ、A・O・Aの皆さん」
と、タバコは吹かし手を上げながら邑達の元に歩いてきた。
「久しぶりね」
二瓶と同じく手を上げたのは、川崎 遊菜。女性で黒のロングでメガネを掛けており、多恵とはまた別の姉御肌であった。
「こんばんわです」
頭を下げてお辞儀したのは、深澤 友華。栗色のセミロングにこちらもメガネを掛け、身長も瞹と同じくらいで、天然少女でも知られていた。
「『アルテミス』の副隊長達がどうしたんだ」
「救援と伝言を持ってきた。ここじゃなんだからその穴から部屋に入ろう」
「あぁ。……どやってアンドロイドを機能停止させた?」
「それは……」
二瓶は足元で崩れていたアンドロイドを持ち上げた。
「こいつ等の首筋に埋め込まれている運動中枢神経のICチップ。これを破壊すれば気絶したように機能停止するのさ」
「なるほどね」
邑はそれを聞くと、ドア付近で倒れていた敵兵の首筋を触り、言われたICチップを破壊した。それは先程まで話していた敵兵だった。
「しかし……暴れすぎだろ。昔みたいに……」
二瓶の言葉は川崎と深澤に止められた。
「やめておきな。部隊が違うからと言って、部下の最後を笑われて怒らない人はいないよ」
「そうだよ。A.O.Aチームの隊長でありASSFの副司令官でもあるんだから……」
「そう……だな」
三人は緑色の返り血を拭き取っている邑を見ていた。
邑は血を拭き取りながら天空と瞹に命じた。
「天空と瞹は中から外の監視を」
二人は頷き、二瓶達と邑達は中へと入ると、穴の付近で天空と瞹が外を監視し、邑とクリスはバリケードに寄りかかりながら、二瓶達の話を聞いた。
「伝言とは?」
「まずは、ECMの事です」
「後は?」
「春野司令よりこれを預かりました」
二瓶は深澤に合図すると、深澤はポケットから音声再生機を取り出した。
「春野司令からの伝言が入っています……え~と、遊菜ちゃんどう使うの?」
深澤の言葉に、邑とクリスは寄り掛かっていた机からずり落ち、天空と瞹もガクッと肩を落として、二瓶は頭を抑えながら川崎に合図した。
「……遊菜。使い方教えてやりな」
「友華~出動前に教えたでしょ?」
「ごめんなさい……忘れた」
今度は全員が溜息をついた。
邑は諜報部のコントをしている中、レイに連絡を入れた。
「ANGEL2応答せよ」
『こちらANGEL2。溜息がこちらまで聞こえていますよ』
「そうか、このまま話しを聞いてくれ」
『判りました』
「川崎、どうだ?」
「OKよ」
「今度こそ流します」
そう言うと、深澤は再生スイッチを押した。
『皆さん、これを聞いている頃には、作戦が一時間程経ったと思います』
腕時計を見ると、既に一時間を経過していた。
『色々と邪魔や未確認情報など、不確定要素があると思いますが、今から皆さんに新しい作戦を伝えます。作戦内容は、そのビルにある輸入・輸出物及び薬品をすべて破壊、もし敵兵及びデス・スコルピオンが阻止してきた場合は力の開放を許可しますので、完全排除してください。保険として0:30にそこから30km沖合の海上より、ASSF専用ミサイル巡洋艦クワイークス・パーディション・ヴァニッシュの三艦隊から中距離巡航ミサイル“トマホーク”と“ハープンミサイル”合計4発を発射。弾頭は“無酸素爆弾”へ換装をさせています。着弾時刻は1:00丁度ですので、それまでに半径七km以内から脱出してください。皆さん生きて帰ってください、ご武運を祈ります』
「……これが司令より伝言です。司令はこれを賭けだと言っていました」
二瓶は、新しいタバコに火をつけ言った。
「なるほど……本当の賭けだ。俺らがミサイル着弾時刻までに任務を終わらせ、脱出する。出来ない場合は、ミサイルの巻き添え」
「だな。分の悪い賭けだが、いい保険だ」
邑とクリスの言葉に天空と瞹も頷いた。
『けど、今から急げば何とか間に合いますね。天海と多恵に連絡しますか?』
「ああ、頼む。レイ」
『了解しました』
「お前達、下の階は見てきたのか?」
邑は二瓶達に聞くと、
「見てきたが、倉庫には何も無かったな。研究所は発見出来なかったが、ビル周辺に出していたECM装置は破壊できた」
「そうか」
と、答えていると天然ボケをしていた深澤が身体を低くした。
「どうした、友華」
「……嫌な空気がする」
皆は深澤の言葉に辺りを見渡すと、確かに空気がピンッと張詰めていた。
「蒼野さん、レイさん連絡を」
川崎の言葉に邑はマイクイヤホンを触り、連絡を取った。
「ANGEL2応答せよ」
『ANGEL2。ANGEL4とANGEL7との連絡がまた途切れました』
「ECMか……破壊したの……」
二瓶の言葉をレイが遮った。
『ANGEL2より各位!!コールレッド!繰り返す!コールレッド』
コールレッドは自分自身に危険が迫っていることで、邑は
「なにがあった!?」
『デス……オンの襲……受け……ます!あっ!!……・』
レイの言葉は途切れ途切れで、最後には爆発音と共に無線は切れ、邑は舌打ちすると、今度は外から爆発音が聞こえた。
「なんだ!?」
声と同時にクリスが走り報告した。
「クッ!自衛隊が何者かの攻撃を食らっている!」
「デス・スコルピオンだ……本気で攻めてきたぞ」
邑の言葉に皆は真剣な面持ちをしたが、深澤だけが天井を見ていた。
「……奥へ」
「なに?」
二瓶が聞きなおすと、深澤が叫んだ。
「奥へ逃げて!!上から来ます!!」
その言葉通りにドア近くの天井が壊れて、埃が舞い上がり、瓦礫と一緒に大きな影が降って来た。
「!A・O・Aは部屋の奥へ!!遊菜は友華のサポート!!」
「はいよっ!」
川崎も両針、千年針を取り出して構えた。
邑達は部屋の後ろに移動すると、埃の向こうから声が聞こえた。
「ニ・ニガサナイ・コ・コロス!コロス!ミナゴロシ!!」
言葉と同時に大男が踊り出た。
体格とは似合わず俊敏な動きを見せ、邑達の所へ向かおうとジャンプしたが、空中には深澤が前を塞いだ。
「多連脚!!」
深澤は大男と一緒に跳んでおり、空中で大男と鉢合わせすると片足の連打を大男に打ち込み、大男は元居た瓦礫に勢いよく押し戻され落ちた。
「ここは任せて!二瓶君!!」
「おうよ!」
深澤の言葉に二瓶は火のついたタバコを右手で持ち、床に向け呪文を唱えながら言った。
「《地獄の業火。その黒き炎ですべての物を焼き払え!》」
するとタバコの先端から、黒い炎の球体が生まれ、一気にサッカーボール並みの大きさに膨れ上がった。
邑達は驚きながらも、その光景を黙って見ていた。
「黒炎弾!!」
黒球体の炎は言葉と同時に発射して、床にあたると、直径一メートル黒い火柱を出しながら床を貫通して行った。
「いけ!!倉庫までの床はブチ抜いた!これで直行できるぞ!」
「判った!……お前は炎使いだったか?」
「タバコを媒介にした。それに他の能力を多少は使えるぞ、これでな」
そう見せたのは、腕に呪文の刺青であった。
能力が無くても呪文の刺青で使えるが、それでも素質が無ければ刺青をしても使えないのが能力である。
そうこうしている内に、大男が起き上がっていた。よく見ると普通ではありえない程の筋肉で目は白目になって息遣いも粗かった。
それは“ある薬”の効果だった。
「A/N……アイス・ニトロでの狂戦士か」
クリスの言葉を黙って聴き、邑は皆に言った。
「A・O・Aは翼で守りながら倉庫に向かうぞ!!」
「了解!!」
皆は次々と穴へ飛び降り、最後に邑は三人に叫んだ。
「作戦が終了したら飯でも食いに行くぞ。絶対に死ぬなよ!!」
そう言うと、邑は床の穴に消えていった。
消えたのを確認すると川崎は、
「よかったね、憧れの人から『一緒に飯食いに行くぞ』だって、友華」
「皆とだよ!」
二人は声こそ笑っていたが、狂戦士を前に目は笑ってなかった。二瓶は新しいタバコに火をつけて言った。
「フー、厄介な相手だが速攻で倒すぞ!」
言葉と同時に川崎は千年針を三本投げ、深澤は両袖からクナイを出して、腕を振り切りながら投げたが、狂戦士は全身の筋肉に力を入れて、千年針とクナイを弾き返し、また片言葉を言いながら襲ってきた。
「ジャマノモ、コロス!」
しかし、深澤はこの行動は予測済みで、呪文で隠していた武器を展開していた。
川崎は薙刀を上段で構え、深澤は身丈以上の鎌を出して構えていた。二人は狂戦士の攻撃を避けながら、後ろから攻撃をした。
二人は交互に攻撃をしたが、どれも本気での攻撃ではなく、狂戦士の身体に程ほどの傷を付けていき、後ろから二瓶が叫んだ。
「退け!二人共!!」
二人は両サイドに飛び去ると、二瓶はまたタバコを狂戦士に向けた。
「お前も食らっとけ!!《黒炎弾》!!」
部屋は赤く燃え上がり、轟音は穴を降りている邑にも聞こえた。
倉庫室に向かった邑達は、そこで“あるモノ”に遭遇する……