表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

青と白だけ

 ひび割れている土を、ぼくたちは踏みしめた。かれこれ三日歩きとおしだ。


 ここは地球上で最も暑くて、不毛な場所だ。眺めたって、なにも見当たらない。あるのは青い空と、白い平野だけで、それもずっと変わらない。嫌になるほどの奥行きだけが、ぼくたちの目の前にあった。どっちが正しいか、どっちが間違っているかはわからない。導いてくれる星もなかった。


 コンパスも壊れていた。けれども、ぼくにはどっちでもよかった。かまどであぶられているカエルが、ハエが飛んでくるのを待つわけがない。ぼくは理由を考えるのも億劫だった。コンパスの針は風車のように回転していた。たけとんぼのように飛び出しそうだ。ストッパーさえ外してやれば、自由になるに違いない。N極の赤みは輪郭を失って、リングの形を描いていた。ぼくはそれを見たことがあると思った。


 ぼくはそれに手を伸ばそうとした。すると突然、コンパスは熱を発する。ぼくは反射的にコンパスを落した。手にはムカデに刺されたような痺れが奔り、やけどの痕ができていた。気づくと、コンパスはなくなっていた。


「水を、くれないか」ぼくはやけどを冷やそうと思った。仲間はぼくのやけどをみた。


「だめだ。水はもうほとんどない」


「でも、このやけどだぜ。冷やさなきゃ」


「お前が自分の水を大切にしなかったのが悪い」仲間はそういうと、ぼくのやけどを見捨てていった。ついでにぼくもおいていった。やけどを放っていくことはできなかった。



 ぼくは乾パンを食べた。水分が吸い取られるので、飲み込むのはむずかしい。それでも、ぼくはつばをひねり出して、乾パンを食べた。ぼくは水筒に口をつけた。水筒から液体が放出される。液体は口内にたまり、のどを伝わる。そうして身体を潤わせた。味は苦くて最悪だったが、それほど嫌だとは思わなかった。ぼくはかばんのなかから大きなビンを取り出した。かばんのほとんどを占めるほど、ビンは大きかった。ビンのなかにはたくさんのさそりが入れられていた。なかには毒をもつものもいる。ぼくはそのなかに手をいれた。さされようともかまわない。ぼくは一匹のさそりを取り出すと、それを噛み砕いて食べた。そうして満足するまで食べると、ぼくはゆっくりと大地に寝転んだ。


「これからどうしようかな」とぼくはつぶやいた。


「まだ、止まりたくはないな」


「でも、進むのも面倒だ」


「いや、止まるのは怖い」


「けれども、進んでいくのはもっと怖い」


 ぼくはため息をついた。頭をかきむしる。そうして寝返りを打った。自然と、地面に耳を押し当てるような格好になる。地面の奥のほうから、何かが聞えた。ぼくははっとして、腰を上げる。青空の向こう側から茶色い粒が、のっそりのっそりと近づいてきていた。


「らくだだ!」


 ぼくは急いで、らくだに走り寄った。


 そのとき、ぼくは確信した。ぼくは止まりたくなかった。ぼくは進みたかったのだ。


 しかし、近づいて、ぼくは唖然とした。らくだには、影がなかった。足から伸びる、黒い投影を持ってなかった。よくみると、あって当然のものがぼくにもなかった。


 ぼくは大空を仰いだ。

「太陽がない」

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ