青と白だけ
ひび割れている土を、ぼくたちは踏みしめた。かれこれ三日歩きとおしだ。
ここは地球上で最も暑くて、不毛な場所だ。眺めたって、なにも見当たらない。あるのは青い空と、白い平野だけで、それもずっと変わらない。嫌になるほどの奥行きだけが、ぼくたちの目の前にあった。どっちが正しいか、どっちが間違っているかはわからない。導いてくれる星もなかった。
コンパスも壊れていた。けれども、ぼくにはどっちでもよかった。かまどであぶられているカエルが、ハエが飛んでくるのを待つわけがない。ぼくは理由を考えるのも億劫だった。コンパスの針は風車のように回転していた。たけとんぼのように飛び出しそうだ。ストッパーさえ外してやれば、自由になるに違いない。N極の赤みは輪郭を失って、リングの形を描いていた。ぼくはそれを見たことがあると思った。
ぼくはそれに手を伸ばそうとした。すると突然、コンパスは熱を発する。ぼくは反射的にコンパスを落した。手にはムカデに刺されたような痺れが奔り、やけどの痕ができていた。気づくと、コンパスはなくなっていた。
「水を、くれないか」ぼくはやけどを冷やそうと思った。仲間はぼくのやけどをみた。
「だめだ。水はもうほとんどない」
「でも、このやけどだぜ。冷やさなきゃ」
「お前が自分の水を大切にしなかったのが悪い」仲間はそういうと、ぼくのやけどを見捨てていった。ついでにぼくもおいていった。やけどを放っていくことはできなかった。
ぼくは乾パンを食べた。水分が吸い取られるので、飲み込むのはむずかしい。それでも、ぼくはつばをひねり出して、乾パンを食べた。ぼくは水筒に口をつけた。水筒から液体が放出される。液体は口内にたまり、のどを伝わる。そうして身体を潤わせた。味は苦くて最悪だったが、それほど嫌だとは思わなかった。ぼくはかばんのなかから大きなビンを取り出した。かばんのほとんどを占めるほど、ビンは大きかった。ビンのなかにはたくさんのさそりが入れられていた。なかには毒をもつものもいる。ぼくはそのなかに手をいれた。さされようともかまわない。ぼくは一匹のさそりを取り出すと、それを噛み砕いて食べた。そうして満足するまで食べると、ぼくはゆっくりと大地に寝転んだ。
「これからどうしようかな」とぼくはつぶやいた。
「まだ、止まりたくはないな」
「でも、進むのも面倒だ」
「いや、止まるのは怖い」
「けれども、進んでいくのはもっと怖い」
ぼくはため息をついた。頭をかきむしる。そうして寝返りを打った。自然と、地面に耳を押し当てるような格好になる。地面の奥のほうから、何かが聞えた。ぼくははっとして、腰を上げる。青空の向こう側から茶色い粒が、のっそりのっそりと近づいてきていた。
「らくだだ!」
ぼくは急いで、らくだに走り寄った。
そのとき、ぼくは確信した。ぼくは止まりたくなかった。ぼくは進みたかったのだ。
しかし、近づいて、ぼくは唖然とした。らくだには、影がなかった。足から伸びる、黒い投影を持ってなかった。よくみると、あって当然のものがぼくにもなかった。
ぼくは大空を仰いだ。
「太陽がない」