8.いなくなった小百合
神奈川県警地下牢。そこには鉄格子のついた部屋が幾つかあり、逮捕された犯罪者達が一人ずつその部屋に閉じ込められている。その部屋の一つに、三塚井 小百合は閉じ込められている。
その小百合の前に、奈々子がやって来た。
「奈々子ちゃん」
その言葉に奈々子は、一瞬ニコッと笑うと、真剣な表情で鉄格子を調べ始めた。
(やはり、外からしか開けられないか)
「何やってるの?」
「あっ、いやっ、これはそのっ、何でも無いです! 所で、今日は事情聴取とかってありました?」
「いいえ、ありませんでしたけど・・・。何故そんな事をお聞きに?」
と、小百合は真剣な表情で訊いて来た。
「何と無くです。それじゃ」
奈々子はそう言うと、その場から去って行った。
小百合は、去って行く彼女の背中を、ジッと睨みつけた。
「フフ」
小百合は小さく笑った。
地下から階段を二つ昇って2階へ出ると、奈々子は捜査一課の部屋の前にやって来た。
「おや、奈々子ちゃん」
と、後ろで声が聞えた。
振り向くとそこには、例の老けた刑事が立っていた。
「あ、刑事さん……。丁度良い所で会いましたね。
あの、例の声、誰の声か解りましたか?」
「君には悪いけど、あの声は三塚井 小百合のモノだった。しかしどうやって抜け出したんだ?」
(やはりアイツの声か。それに、マスターの証言もある……。この二つがある限り、アイツがあそこでオッサンを殺したと言う状況は覆せ無いだろうな)
「あ、そうだ。刑事さんにお願いあるんだけど」
「何かね? 君の頼みなら何でも聞こう。寺島君には生前世話になったからね」
「殺された小早川の交友関係調べてくれます?」
「分かった。調べておく」
そう言うと刑事は部下を呼び出し、奈々子の前から部下と共にいなくなった。
「ふう……」
奈々子は一息吐くと、上の階の交通課へ行った。
神奈川県警交通課には、高村 宮子と言う敏腕婦警がいる。彼女に交通事故を捜査させたら必ず犯人が検挙される、と言っても過言では無い。
奈々子は今、その交通課に来ている。
「えーと、宮子さんですよね?」
奈々子は、警部席に座っている女性に声を掛けた。彼女が噂の<高村 宮子>だ。
「そうだけど、貴女は?」
「私、探偵の櫻井 奈々子です。表のお巡りさんから手紙を受け取ってますよね?」
「ああ、貴女が手紙の差出人ね。例の件、調べておいたわよ。あのナンバーの車は、三塚井 小百合さんのね」
「それ本当ですかっ!?」
「ホントよ。でもね、あの日は彼女、車には乗って無いの」
「どう言う事?」
「彼女が言うには、双子の妹に貸してたそうよ」
「えっ、小百合さんに妹がいるんですか?」
「いるわ。名前は百合子、三塚井 百合子よ」
(三塚井 百合子……。少し話を訊いてみよう)
「ありがとうございます」
奈々子はお辞儀をすると、再び地下の鉄格子の部屋の前に行った。
(なっ、小百合がいねぇ!)
奈々子はしゃがんでベッドの下を覗いた。しかし、小百合の姿は何処にも無い。
奈々子は慌てた様子で、牢屋の鍵を借りに行った。




