6.殺された容疑者
「お前か……。お前が殺したのか」
スキンヘッドの前に立っている黒い人影はそう言った。
「なっ、何の事だっ!?」
スキンヘッドの男はとぼけた。
目の前の人影はニッと笑い、懐から鋭利な刃物を取り出した。
「なっ、なんのつもりだっ!?」
「お前をっ、殺してやるっ!」
グサッ!──黒い人影は鋭い目つきでスキンヘッドの男の腹に刃物を刺した。
「うっ……」
スキンヘッドは呻き声をあげると、その場に倒れた。
「何だあれ?」
泰一は目の前にある数台のパトカーを指差して言った。
そのパトカーの脇には、Keep outと言う黄色いテープが張られ、一人の警官が立っていた。
「きっと事件ね」
奈々子はそう言うと、その警官の所に行き、何があったのかを訊ねた。
すると警官はこう答えた。
「さっきこの空き地で事件があって、調べてる所なんだ」
「そうなんだ? じゃあ失礼」
奈々子はそう言うと、黄色いテープをくぐって空き地に入った。
「こっ、こらこら、勝手に入らない!」
奈々子は振り向き、
「あんだってぇ?」
と、怖い顔で警官を睨みつけた。
奈々子の迫力に負けた警官は、
「どっ、どうぞ御自由に!」
と、震えながら言ってしまった。
「ありがとう」
奈々子はそう言うと、ニッコリと笑い、遺体を見つめてる刑事の所へ行った。
「こりゃ酷い。人情の欠片も無ぇな」
そう言ったのは、ちょっと老けた髭の生えた刑事だ。
「一体、誰がこんな事をしたんでしょうか……」
「そんな事より、被害者の身元を判明する物が何も無いなんてな」
「これじゃあ、このスキンヘッドが何者なのか、検討もつきませんね」
「小早川 博文。暴走族のメンバーですよ」
そう言ったのは、二人の刑事の後ろに立っている奈々子だ。
刑事はえっと言う顔で振り向いた。
「これは私の推理だけど、恐らくこの人は、何者かに鋭利な刃物で刺された後、何十回と斬られたのでしょう。害者の腹を見て下さい」
と、害者の腹を指差す奈々子。
そこには傷が化膿しているのが見られた。
「これは生活反応と言い、生きている間に出る反応。恐らく死因は、鋭利な刃物で腹を刺された事による失血死では無いかと思いますね……」
と、推理をする奈々子に、若い刑事はパチパチと拍手をした。
すると老けた刑事が咳払いをし、
「あんた誰だね?」
「あ、申し遅れました。私、こう言う者です」
奈々子はそう言って、懐から名刺を出して渡した。
「櫻井 奈々子。探偵です」
「それで、あんたはこの男を知ってるのかね?」
「勿論です! この男は先日、私立探偵の寺島 幹生を殺害した真犯人です!」
奈々子がそう言いきると、老けた刑事はこう言った。
「何言ってんだね君は? 寺島さんを殺したのは、三塚井 小百合だよ。第一、彼の死因は知ってるのかね?」
「それは、腹部を刺されたのが致命傷となって……」
「いや、彼の死因は頭蓋骨陥没による硬膜下出血。腹部を刺されたのが致命傷になった訳じゃないですぜ」
「それっ、一体どう言う事!?」
「現場に落ちてたんだよ。血塗られた岩がね。そしてそれを調べた結果、三塚井 小百合の指紋が出たので、三塚井 小百合を殺害容疑で逮捕したんだ」
(ばっ、バカなっ!? 小百合が俺を殺す筈が無い! きっと何かの間違いだ! 調べてやる。この不可解な事件を!)
そう心に決めると、奈々子は身の毛もよだつ程恐ろしい顔で空き地を去って行った。
(俺を殺した事を後悔させてやる!)