3.幹生と奈々子の関係
「俺は此処で刺殺されたんだ」
奈々子はそう言うと、再び駆け出した。
「ちょっと待てよ!」
と、久瀬は追い掛ける。
「うっせー!」
奈々子はそう言い、全速力で走り、久瀬を引き離して行った。
「はっ、速え!」
久瀬がそう言った時には、奈々子は4メートル離れていた。
(寺島さん……速すぎる……。奈々子でさえあんなスピードは……)
そう心中で呟きながら、久瀬は止まる事無く追い続けた。
すると、奈々子の速度が段々と遅くなり、ついには止まってしまった。
そのおかげでなんとか追い着くと、奈々子は顔を真っ青にし、胸を押さえて前屈みになっていた。
「奈々子は……心臓……病か?」
その問いに、久瀬はこう言う。
「何の事だ?」
「お前……彼氏の癖して何も知らないのか。ってのはどうでも良い。俺の家で一休みだ」
奈々子はそう言って、道ばたにある二階建ての家を指差すと、門を開けて入って行った。
その門の横の表札には、<寺島 幹生>と書かれている。
ガチャ──奈々子は扉を開けた。
「カギ掛けてねえのかよっ!?」
「仕事上、家にカギは掛け無えんでね」
「どんな仕事だよ?」
「私立探偵だ」
と、奈々子は土足のまま上がった。
「靴脱がなくて良いぞ」
奈々子はそう言うと、階段を上って行き、部外者立ち入り禁止と書かれた部屋に入った。
幹生曰く、<自分の部屋>らしい。
その部屋に、久瀬も入った。
「奈々子の部屋と比べて随分立派な部屋じゃねえか」
「奈々子の部屋は散らかってるのか?」
「散らかってるなんてもんじゃない。ゴミの山だ」
久瀬のその言葉に、奈々子は顔色を悪くした。
「奈々子、部屋がゴミの山だから、周りの奴らに<ゴミ子>なんてあだ名付けられてるぜ」
(俺はそんな奴の体に入れられたのか)
と言うのは、敢えて口にしない奈々子である。
「何やってんだ?」
久瀬は、机の引き出しを開けてゴソゴソと何かを探している奈々子に声を掛けた。
「これを見ろ」
そう言って、奈々子は引き出しから、幹生と少女が写った一枚の写真を出し、久瀬に渡した。
久瀬はその写真を受け取ると、
「これっ、奈々子の部屋にあるのと一緒じゃねえか! 何であんたがっ!?」
「お前には奈々子が世話になってるから教えてやる」
奈々子はそう言うと、数秒黙り込み、
「奈々子は、俺の実妹だ」
「何だってっ!?」
久瀬は奈々子の言葉に驚いた。
「寺島さん、それホントかっ!?」
「俺の本当の名は櫻井 幹生・・・。<寺島>は15年前に俺を引き取ってくれた爺ちゃんの姓だ」
奈々子がそう言うと、暫くの間沈黙が続いた。
「さて、そろそろ行こうか」
と、奈々子は言い、部屋を出て行った。
久瀬は部屋を飛び出すと、
「おいっ、行くってどこへっ!?」
「周辺の聞き込みだ!スキンヘッドの情報を集めなきゃな!」
奈々子は久瀬を見ながら言うと、階段を降りて行った。
幹生と奈々子を兄妹にした理由は、ストーリー展開に必要だからなんですよね。