1.櫻井奈々子
東京都赤羽中央病院。奈々子は此処の病室のベッドで未だ眠っている。
周りには、心臓の鼓動をチェックしてディジタル表示する機械や、緊急時に看護士を呼び出すボタンがある。
「奈々子、目を開けてくれ……」
そう言って奈々子の手を掴むのは、久瀬 泰一である。
その久瀬が手を掴んでいると、ピクッと指が動いた。
「奈々子!?」
久瀬がそう声を出すと、突然心電図がピーッと、心肺停止の音を鳴らした。
久瀬は慌てて呼び出しボタンを押した。
「どうしました?」
と、スピーカーからは女性看護士の声が返って来た。
「奈々子が、奈々子が大変なんです!」
「直ぐ行きます」
看護士はそう言い残し、回線を切断した。
それから数分後、看護士がドクターを連れてやって来た。
ドクターは奈々子の胸に手を置くと、
「頼むから戻ってくれよ!」
と、心臓マッサージを開始した。
しかし、奈々子の心臓は未だ動かない。
「AED!」
「はい!」
看護士は近くにあるAEDを取りに行くと、直ぐに戻って来た。
ドクターはそれを受け取り、素早く奈々子の胸に取り付けた。
「これから電気ショックを行います。患者から離れて下さい」
AEDはそう警告し、奈々子に電気ショックを与えた。
ドンッ!──奈々子の体が揺れた。
「げほっ!」
奈々子は咳き込んだ。
「も、戻った!」
ドクターはそう叫んだ。
「奈々子!」
久瀬が声を掛けると、奈々子は目を開けた。
「奈々子、俺だ! 解るよな!?」
久瀬のその問いに、奈々子はこう答える。
「誰?」
その瞬間、奈々子の周りにいるドクターと看護士、久瀬は沈黙した。
「先生……」
「記憶喪失ですね」
ドクターはそう判断した。
この時、奈々子はこう思った。
(記憶喪失!? この俺が!?)
「君、自分の名前解る?」
ドクターがそう訊くと、奈々子はこう言った。
「寺島 幹生だ」
「寺島 幹生だって!?」
久瀬は驚いた。
「寺島って言ったら、三日前に神奈川で殺害された男の名前じゃねえか!」
その言葉に、奈々子はこう言い返した。
「ちょと待て! 俺が殺された!? そんな馬鹿な!? 現に俺はこうやって生きてるじゃねえか!」
そう言う奈々子に、久瀬は鏡を渡した。
奈々子は鏡を受け取ると、自分の顔を覗いた。
「ぬぁっ、何だよこれ!? 女の子じゃん! てか、声も女の子だし!」
奈々子は驚きつつ、恐る恐るアソコに手を当てがった。
その奈々子から次に出たのは、
「無い!」
の一言だった。
「君、さっき『寺島 幹生』って言ったよね?」
ドクターはそう訊ねた。
「ええ、言いましたけど、それが何か?」
「君は本当に、寺島 幹生君? 事故のショックで頭がおかしくなってる訳じゃあ無いよね?」
そう聞かれ、奈々子は頭を押さえた。
(そう言えばさっきから頭ズキズキすんだよなぁ……)
と、その時、奈々子の脳裏に事故の時の記憶が過ぎった。
奈々子は顔を真っ青にしながら、
(なっ、何だよこれっ!? 俺の記憶じゃ無ぇ! この体のっ、奈々子とか言う子の記憶なのか!?)
ドクターは奈々子の顔色を見て、
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと記憶が蘇ったもんで……」
「と言うと?」
「私、ワゴンに跳ねられてるんですよね。それで頭打って、気絶して……」
奈々子のその言葉に久瀬は、
「お前、奈々子か?」
「そうよ」
と、奈々子は即答した。
(はあ……。俺とした事が、一体何を言ってるんだ?)
奈々子は心中でそう言い、全身を掛け布団で覆った。
ナ:「推理モノなのに、この展開ですか?」
作:「あ、いや、それはだな、・・・って事で」
ナ:「あの、最後の所、聞き取れなかったので、もう一度言って貰えます?」
作:(無視無視)