デートの邪魔をする奴大抵嫉妬厨
翠ちゃんの入会試験終了日。黄美絵先輩が翠ちゃんを迎えに部室へと行くと、既に赤城先輩がスコーンとコーヒーを用意して待っていた。黄美絵先輩は翠ちゃんを視聴室から出してあげると、会議室で赤城先輩と3人、スコーンを食べながら少しの間マッタリと過ごした。
黒木が襲いかかって来る事もやはり無かった様で、翠ちゃんは黄美絵先輩にコッソリと借りたお守りを返す。翠ちゃんは思っていたよりは、然程疲れてはいなかったが、今日の所は家に帰ってゆっくりと休む事となり、自宅へと帰宅した。黄美絵先輩と赤城先輩は授業へと戻る事にし、各教室へと戻って行った。
放課後になり、本日の黒木用ノート製作も無事終えた白澤君は、赤城先輩に捕まらない様にと、足早に教室から出て行った。スタスタと早足で歩きながら、途中赤城先輩と鉢合せにならない様に、遠回りをして校門へと向かう。白澤君は一度隣の棟へと行くと、そこから下駄箱へ行き、いつもとは反対側の校門から帰ろうとした。隣の棟から下駄箱へ行くと、普段のルートとは反対側から辿り着く。
下駄箱はちょうど、教室や実習室等が在る棟と、生徒会室や理事長室等が在る棟の中心部に在るからだ。赤城先輩が下駄箱で待ち伏せをしていても、コッソリと見付かる事無く確認が出来る、そう思っての行動。
「よしっ!今日は赤城先輩に捕まらずに帰れそうだ。」
白澤君は嬉しそうに廊下を歩いていると、前に見覚えのある姿が見えて来た。
「あれ?・・・あの小さい人影は・・・会長か?」
ゆっくりと目の前を歩く人物に近づくと、はやり会長だと確認をし、側まで行くと挨拶をした。
「会長、お疲れ様です。」
白澤君の声に気付いた会長は、振り返ると同時にニコリと笑い、同じく挨拶をする。
「あぁ、白澤か。今日も黒木のノート製作、御苦労だったな。・・・しかしお前、こちらの棟に居るとは珍しいなぁ・・・。誰かに用事でも有るのか?」
会長は不思議そうに首を傾げると、白澤君は苦笑いをしながら答えた。
「あぁ!いえ・・・まだこっちの棟に行った事無かったので・・・。せっかく同好会も休みだし、ゆっくり校内見学でもしよかなぁ~・・・なんて・・・。」
自分的にナイスな言い訳をすると、会長は疑う事無く頷いていた。
(赤城先輩から逃げる為・・・なんて言ったら、仲良し同好会を目指す会長だ、また面倒臭い事を言って来そうだしな・・・。)
すぐに真に受けてしまう会長に嘘を吐くのは、少し心苦しい所も有ったが、厄介な命令をされる位なら、と思った。
「そうか、そうだな!校内をちゃんと把握して置く事も、大事だからな!」
会長は白澤君の言う事を疑う事無く、関心をしながら何度も頷く。白澤君は「はぁ・・・。」と返事をしながら、苦笑いをした。
(なんか・・・純粋な子供を騙している気分で・・・後ろめたい気持ちになってしまう・・・。でも昨日の事聞かれて、赤城先輩が買った会長へのプレゼントを知られてしまうのも・・・それはそれで赤城先輩が可哀想だしな・・・。赤城先輩嬉しそうに買ってたから・・・。)
白澤君は自分に言い訳をしていると、ふと熱い視線を感じる事に気付いた。視線のする方をチラリと見ると、いつの間にか会長が、物凄い眼力でこちらをジッと見つめている。白澤君の体は一瞬ビクリッと跳ね上がり、驚きと同時に冷や汗が出て来た。
(な・・・何だ?何で会長、俺の事ジッと見てるんだ?・・・まさか・・・嘘がバレたとか・・・?)
白澤君は心の中では焦りながらも、冷静さを装い、もう一度チラリと会長の方を見た。するとやはり、会長はジッとこちらを睨み続けている。白澤君は会長から顔を背けると、もう一度チラリと見た。するとハッとある事を思い出し、改めて自分を睨み続ける会長の顔を、ジッと見つめた。
(やっぱり・・・会長、赤城先輩にした事と同じ事を、俺にもしているんだ・・・。これは睨んでいるんじゃない・・・見つめているのか・・・。てか・・・何で俺まで?)
「あの・・・会長・・・。」
白澤君は戸惑いながらも、会長に呼び掛けてみるが、会長は無言でこちらを見つめ続けてくる。白澤君は軽く溜息を吐くと、ジッと見つめて来る会長の顔を、自分も同じ様に見つめ返してみた。
(な・・・何か恥ずかしい・・・。視線が痛い・・・。やっぱり無理だ。赤城先輩・・・よくジッと見つめ返せるなぁ・・・。)
白澤君は逆にこちらが恥ずかしくなってしまい、会長から視線を逸らすと目を泳がせる。視線のやり場に困りながらも、ふと会長の顔を見ると、会長と目と目が合ってしまう。その瞬間、思わず白澤君の顔は赤く染まってしまった。
(うわあぁっ!目が合ってしまった・・・。いや・・・それはいつもの事なんだけど・・・。改めて自分だけを見ている会長の目と合ってしまうと・・・。な・・・なんか・・・。)
焦って会長から目を逸らすと、顔を真っ赤にさせ俯いた。そんな白澤君態度に、会長の顔も思わず赤くなってしまう。
(な・・・何だ・・・?今度は白澤で試してみたが・・・。白澤の顔が赤くなったと思った瞬間に、僕まで何だか恥ずかしくなってしまった・・・。あ・・・赤城の時とは・・・違う症状が・・・。)
会長は白澤君から顔を逸らすと、恥ずかしそうに顔を赤くさせたまま言った。
「そっ・・・それでは、僕は理事長の所に、予算議会の日程報告をしに行かなければならないからっ。先を急がせて貰う。おっ、お前は気を付けて帰れよ!」
会長は白澤君から顔を背けたまま、少し焦りながら言うと、白澤君も会長から顔を背けたまま、慌てて返事をした。
「あぁっ!はいっ!会長も大変ですね。きっ、気を付けて帰りますっ!それじゃぁ・・・。」
そう言って、会長と白澤君は、そそくさとその場を後にした。
(や・・・やっぱり・・・。女の子に見つめられると・・・恥ずかしいな・・・。)
白澤君は赤く染まった顔を抑えながら、足早に下駄箱へと向かって行った。
理事長への報告を終えた会長は、まだ少し顔を赤くさせながらも、ゆっくりと廊下を歩いていた。
(白澤の顔は、何故赤くなったんだ・・・?思わず僕の顔も赤くなってしまったが・・・。恥じらい・・・と言う物だろうか・・・。胸がドキッとはしなかったが・・・顔が熱い・・・。黄美絵に聞いてみようかな・・・。)
トボトボと考えながら廊下を歩いていると、その先から自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
「会長~!会長うぅぅ~!」
会長はふと声のする方を見ると、そこには満遍ない笑みで大きく手を振っている、赤城先輩の姿が在った。
「赤城か・・・。」
会長はニコニコを微笑んでいる赤城先輩の元まで行くと、不思議そうに尋ねる。
「お前も校内見学か?こんな所で何をしている・・・・。」
すると赤城先輩は、困った顔をしながら言った。
「いえ・・・会長、白澤君見ませんでしたか?今日も一緒に帰ろうと思って、教室まで迎えに行ったんですけど・・・逃げられてしまって・・・。」
赤城先輩がそう言うと、会長はふと白澤君と会った時の事を思い出し、じっと考えた。
(あぁ・・・あれは赤城から逃げてきていたのか・・・。それでこちらの棟に・・・。そうならそうと言えばいい物を・・・。白澤は何故あんな遠回しな言い訳をしたんだ?)
「白澤なら少し前にこの棟で会ったぞ。もう帰ったと思うがな。」
会長の言葉を聞いた赤城先輩は、頭を両手で抱えながら、悔しそうにした。
「ああぁぁっ!やっぱりこっちルートから帰ったのかぁー!途中全然会わないから、もしやそうではないかと思ったのだっ!白澤君、いつの間に回避ルートを発見したんだ!」
悔しがる赤城先輩の姿を、会長は少し呆れた様子で見つめると、軽く溜息を吐いてから言った。
「赤城、男メンバーが入って嬉しくてハシャグのは分かるが、少しは白澤の予定も考えてやれ。白澤だって家に帰って、お家のお手伝いとかが有るのかもしれないんだぞ!」
真剣な眼差しで会長が言うと、赤城先輩はゆっくりと頭から手を離した。
「あぁ・・・会長はお家のお手伝い・・・させられているんでしたね。料理とか裁縫とか・・・。女の子の自覚を芽生えさせる為にご両親が・・・確か・・・。」
赤城先輩がポツリと呟くと、会長は不満そうな顔をさせて言った。
「全く・・・日本男子足る者、女仕事は女々しいだけなんだが・・・。父の外国人精神には分からない様だからな・・・。」
「いえ、会長も立派に外国人精神が有りますよ?典型的な日本勘違い外人さんみたいになってしまっていますよ。それに、今の世の中男も家事が出来て当然の時代に変わっていますから、仕方有りませんよ。」
珍しく赤城先輩が会長の言う事にツッコムと、会長は不満気に頷いた。
「まぁ・・・確かに時代の変化に付いて行けなくなってしまうのも・・・嫌だしな。」
仕方なさそうに頷きながら言う会長の姿を見て、赤城先輩はニッコリと微笑むと、優しい口調で言った。
「会長、もしよろしければ、今日は一緒に帰りませんか?白澤君にも逃げられちゃったし・・・。会長のご都合さえ良ければ、ちょっとケーキでも食べに寄り道しませんか?」
すると会長は、『ケーキ』と言う言葉に反応を示し、嬉しそうな表情をさせた。
「ケーキか!うん、それはいいな!確か新しく出来たケーキ屋さんが在ったな!そこへ行こう!」
嬉しそうな顔をして言って来る会長に、赤城先輩も嬉しそうな顔をした。
(よかった・・・ケーキって言葉出して釣って・・・。会長は甘い物大好きだからなぁ~。白澤君は逃がしたけど、会長との下校デートはゲットしたぞぉ!)
赤城先輩は心の中で大喜びをすると、小さくグッと拳を握り締め、ガッツポーズをした。
*以下略*
「おぉ!食べ放題もやっているのか!」
赤城先輩と会長は、早速新しく出来た近くのケーキ屋さんに寄ると、オープン記念で期間限定のケーキ食べ放題をやっており、会長は嬉しそうに店内へと入って行った。赤城先輩も会長の後に続き、店内に入ると、先に席へと向かう。
「会長、先に席で注文しておきますので、会長はケーキを取って来て下さい。食べ放題と、飲み放題でよかったですよね?」
「おぉ!頼む!お前の分も取って来てやるぞ!」
会長は満遍ない笑みで返事をすると、軽くスキップをしながら、嬉しそうにケーキの並ぶ場所まで行った。赤城先輩はそんな会長の姿を、微笑ましい笑顔で見つめると、幸せそうな表情を浮かべる。
(あぁ・・・今日白澤君逃げてくれてよかった・・・。会長とケーキバイキングデートだ・・・。頑張って今日は、会長に可愛い洋服とケーキが似合うって事を、理解して貰おう!)
心の中で決意をすると、席に座り店員を呼んだ。
「あぁ・・・すいません!食べ放題と飲み放題2名で。一番長い時間でお願いしますっ!」
力強く赤城先輩が言うと、店員は少し困った表情で言った。
「はぁ・・・一番長い時間は、無いんですが・・・。一応食べ放題の時間は、90分と決まっております。」
「あ・・・そうなんですか?1時間半か・・・分かりました、それ2名でお願いします。」
赤城先輩は少し残念そうな顔をして、注文をした。
しばらくすると、てんこ盛りに乗せられたケーキのお皿を両手に持って、会長が席へとやって来た。会長は顔をニコニコとさせながら、お皿をテーブルの上に置く。
「両手がケーキで塞がってしまっていたからな、飲み物は今から取りに行って来る。」
会長はそう言うと、またバイキングコーナーへと戻ろうとした。そんな会長に、赤城先輩はニッコリと微笑みながら、席を立って言う。
「あぁ、いいですよ。飲み物は俺が取りに行って来るので、会長は先食べていて下さい。何がいいですか?」
「あぁ・・・そうか、すまんな。なら僕は、オレンジジュースで頼む。」
会長は席に座ると、嬉しそうに目の前に並ぶケーキを見つめた。
「はい、分かりました。」
赤城先輩は笑顔で返事をすると、飲み物を取りに向かう。
(会長・・・オレンジジュースかぁ・・・。かわゆいなぁ・・・。)
顔をヘラレラと緩めながら飲み物を取りに行くと、足早に席へと戻った。席では既に、会長がケーキに食らいついている。嬉しそうにケーキを頬張る会長の姿を、赤城先輩は幸せそうな顔で見つめた。
「会長、飲み物どうぞ。」
赤城先輩が会長の前に飲み物を置くと、会長はニッコリと笑い言う。
「あぁ、ありがとう赤城。」
そんな会長の笑顔と言葉に、赤城先輩は感無量の様子だ。
「会長、美味しいですか?」
赤城先輩はニッコリと笑い尋ねると、会長は満遍ない笑みで答えた。
「あぁ、ここのケーキは中々だぞ。お前も早く食べろ。」
赤城先輩はニコッと笑い頷くと、ケーキを食べ始める。そんな赤城先輩の姿にハッとした会長は、ケーキを食べる手を止め、ジッと赤城先輩の顔を見つめた。
(そう言えば・・・赤城は僕がどんなに見つめても、白澤みたいに顔が赤くなったりしないな・・・。何故だろう?・・・これは黄美絵でなくとも、赤城に聞いても問題は無いだろうか・・・。)
う~ん・・・と悩みながら赤城先輩の顔を見続けていると、そんな会長に気付いた赤城先輩は、不思議そうな顔をして聞いて来た。
「会長?どうしたんですか?ケーキ・・・食べないんですか?」
キョトンとした顔で聞いて来る赤城先輩を見て、会長は「うん!」と頷くと、意を決し赤城先輩に聞いてみる事にした。
「なぁ・・・赤城。聞きたい事が有るんだが・・・。」
「聞きたい事・・・ですか?何です?何でも聞いて下さい。」
ニッコリと微笑みながら言って来る赤城先輩に、会長は少し恥ずかしそうにしながらも聞いた。
「いや・・・実はだなぁ・・・。今日白澤の顔をジッと見続けていたら、あいつの顔が赤くなったんだ。けど・・・お前は僕がどんなに見続けていても、顔が赤くなったりしない・・・。それは何故だ?何か・・・特別な差と言うか・・・訓練された違いでも有るのか?」
真剣な眼差しで聞いて来る会長の言葉を聞き、赤城先輩は手に持っていたフォークを、カラン・・・とその場に落とした。そしてそのまま放心状態になってしまう。
(な・・・なにぃ?白澤君の顔を見つめただと?・・・黄美絵先輩・・・俺だけじゃなくて白澤君も見つめる様に言ったのか?白澤君はその事を知っていたのか?・・・てか・・・白澤君は何で顔を赤くさせるのだ・・・。もしやっ!白澤君も会長の事を秘かに好きだったりするのかっ?)
色んな事が頭の中をグルグルと回り、赤城先輩の顔は段々青ざめて行く。会長はその場に固まり、ピクリとも動かない赤城先輩を、少し心配そうな顔をさせて言った。
「お・・・おい、赤城・・・。どうした?大丈夫か?お腹でも・・・痛いのか?」
そんな会長の声等聞こえず、赤城先輩は頭の中で葛藤し色々な事を考える。
(いやっ!落ち着け!落ち着くのだ!白澤君に限ってそんな事は有り得ない!何故なら彼は俺の恋を応援してくれている節が有る!・・・多分。黄美絵先輩も、白澤君もと言ったとしたら、それはきっと俺との違いを見付けさせる為だ!その証拠に、会長はその差に疑問を感じている!・・・多分。ならば何故白澤君は顔を赤く染めた?考えろ!よく考えるのだ俺!白澤君の性格を考えた上での回答をするのだ!)
赤城先輩は額に薄らと汗を掻くと、ゴクリと唾を飲み込んだ。そして心配そうに見つめる会長を見て、更に考える。
(何故白澤君は顔を赤く染めた・・・?そう・・・俺が会長に見つめられてもその様な現象が起こらないのは、長年会長を熟知し、見られ慣れているからだ!と言うより、俺の方が断然多く見つめているからだ。・・・そうかっ!慣れか!俺は可愛らしい会長に見られ慣れているし、見慣れているが、白澤君は長年引きこもり人との接触が少なかった為、かわゆい会長に見慣れていない!つまり結論は!)
「慣れです!」
赤城先輩は強く拳を握り、真剣な眼差しで力強くハッキリとした口調で答えると、会長は首を横に傾げた。
「慣れ・・・?」
不思議そうに聞く会長に、赤城先輩は更に力強く力説をし始める。
「そうです!白澤君は引きこもり生活が長かったせいで、可愛い女の子を生で見慣れていないのです!だから可愛い会長に見つめられ、恥ずかしくなってしまったのですよ!その点俺は、可愛い女の子も、会長も見慣れているので平気なのです!」
すると会長は目を輝かせ、納得をする様に何度も頷いた。
「おぉ!そうか!そうだったのか!慣れか!・・・しかし僕は男だぞ?白澤は男に見つめられても恥ずかしいのか?赤城や黒木の時もそうなのか?」
会長の思わぬツッコミに、赤城先輩はタラリと冷や汗を掻くと、少し声を震わせながら言った。
「それはほらっ!あれですよ!例え男でも、会長は可愛らしいし上級生の上に、生徒会長じゃないですか?だからほらっ!緊張をしてしまって、恥ずかしくなってしまったのですよ!」
(しまった・・・会長が自分の事を男の子だと思っている事を、すっかり忘れてしまっていた・・・。)
赤城先輩はハハハ・・・と苦笑いをすると、会長は更に不思議そうに首を傾げる。
「そうか・・・上級生で生徒会長だから緊張をしてしまった・・・と言うのは分からなくもないが・・・。今更ではないのか?それに、黒木だって男の癖に可愛らしい顔をしているぞ?あれは平気なのか・・・?」
会長の更なる攻撃に、赤城先輩の目は泳ぎ始め、声を震わせながらも、力強く言った。
「改めて見られて、会長の凄さを実感してしまったからですよ!それに黒木は、ほらっ!第一印象が悪かったので!それにあ奴の可愛らしいは擬い物です!」
苦しい言い訳にも聞こえるが、会長は赤城先輩の言う事を、うんうんと頷きながら納得をした様子だった。
「そうか・・・改めて僕の凄さを実感したからか・・・。まぁ・・・確かに黒木とは最悪の出会いだったからな。あれこそ今更恥ずかしくなる事は無いだろうしな・・・。」
何とか納得をしてくれた様子の会長に、赤城先輩はホッ肩を撫で下ろした。しかしそんな赤城先輩の安心を崩す様な言葉が、突然聞こえて来た。
「嘘を教えるのはよくないわよ。白澤君が生の女の子に慣れていないのは、その通りなのかもしれないけれど・・・葵君に見つめられたから、恥ずかしくなっちゃったんじゃないかしら?」
思い切り聞き覚えの有る悪魔の声に、赤城先輩は顔を真っ青にさせながら、声のした方に顔を向けた。
「あぁ・・・黄美絵先輩・・・。奇遇ですねぇ・・・。先輩もケーキを貪りに?」
ニッコリと薄ら笑いを浮かべながら、こちらを見ている黄美絵先輩の顔を見ると、赤城先輩の顔は更に青ざめてしまう。
「あらあら、本当、奇遇ねぇ~?貴方が葵君と新しく出来たケーキ屋さんに行ったって聞いたものだから、私も混ぜて貰おうと思って来たのだけれども・・・。お邪魔だったかしら?葵君を洗脳中で・・・。」
そう言って黄美絵先輩はクスリと不適に笑うと、赤城先輩は慌しく弁解をし始めた。
「ちっ違います!断じて違います!俺は只、会長の質問に真面目に考え答えていただけです!」
そんな赤城先輩を、黄美絵先輩は可笑しそうにクスクスと笑っていると、会長は嬉しそうな顔をして言って来た。
「黄美絵も来たのか!よしっ、黄美絵の分のケーキも、僕が取りに行って来てやるぞ!」
「そう?じゃあ、お願いしようかしら。お願いね、葵君。」
黄美絵先輩はニッコリと微笑むと、会長は嬉しそうに席を立ち、再びケーキバイキングコーナーへと向かった。
黄美絵先輩はゆっくりと赤城先輩の前に座ると、両手を組んで顎に乗せ、テーブルの上に肘を乗せた。
「それで?貴方は何を教えていたのかしら?」
薄ら笑いを浮かべながら聞いて来る黄美絵先輩に、赤城先輩は涙目になりながら必死に訴えた。
「違いますよぉ~!俺は只、会長が白澤君を見つめた時に、白澤君の顔は赤くなったのに、何故俺は赤くならないのかと聞かれたので・・・。白澤君の性格を考えた上で、俺なりに考えて答えてあげたのですが・・・会長が女の子と言う前提の話しで話してしまったので・・・。っと言うか、何故会長に白澤君まで見つめる様に言ったんですか?酷いですよ黄美絵先輩・・・。俺だけだと思っていだのにぃ・・・。」
そう言うと、赤城先輩はそのままテーブルに顔を伏せ、シクシクと泣き出してしまった。
「あら・・・貴方の場合は悲しむ所はそこなのねぇ?まぁ・・・白澤君もと言ったのは、差が出たりした方が分かりやすいと思ったからよ。でもまさか、白澤君の方が顔を赤らめてしまうとはねぇ・・・。意外だったわ。」
クスクスと笑う黄美絵先輩を、赤城先輩はゆっくりと顔を上げ、恨めしそうな目で見つめた。
「黄美絵先輩・・・これで白澤君が会長の事を好きにでもなってしまったら、どうしてくれるんですか・・・。只でさえ会長は人気有るのに・・・これ以上ライバルを増やさないで下さい・・・。」
「あらあら?今更1人増えた位で、どうって事無いでしょう?それに、白澤君は葵君の事を好きになったりはしないわ。」
そう言って、黄美絵先輩はクスリと笑った。赤城先輩は泣きながら、不思議そうに首を傾げる。
「何故そう言いきれるのです?」
「だって・・・彼は私の事を好きになるからよ。」
黄美絵先輩はニッコリと微笑むと、赤城先輩は更に首を傾げた。
「ますます分かりません・・・。と言うか・・・白澤君の顔は何故赤く染まったんですか?」
赤城先輩が不思議そうに尋ねると、黄美絵先輩はクスクスと笑いながら答えた。
「さぁ?赤城君の言った通り、見慣れていない可愛い女の子に見つめられて、恥ずかしくなったからじゃない?それを葵君が男の子、と言う前提で説明をするのは、難しいわね。それは私から教えてあげるから、貴方は余計な事を言わないでいいわよ。」
「はい・・・。そうですね・・・俺には上手く会長に教えてあげれませんでした。己の力不足を実感してしまいましたよ・・・。」
赤城先輩はそのまままたテーブルに顔を伏せると、シクシクと泣き始めた。そんな2人の元に、会長がまた、てんこ盛りに乗っけたケーキのお皿を、両手に持って戻って来た。
「待たせたな。新しいケーキの出待ちをしていたから・・・遅くなってしまった。」
会長は嬉しそうに黄美絵先輩の前にお皿を並べると、黄美絵先輩の隣に座った。
「ありがとう、葵君。それと、赤城君は急用が出来たみたいだから、もう帰るみたいよ?」
黄美絵先輩の言葉を聞いた赤城先輩は、一気に顔を持ち上げると、驚いた様子で口をパクパクとさせた。
「そうか・・・用事が出来てしまったなら、仕方がないな・・・。赤城、残念だが、また今度ゆっくりと来よう。今度はメンバー全員でだ!」
会長はニッコリと笑い、親指を上に上げグッとすると、赤城先輩の顔はこの上なく悲し気になる。
「本当、残念ねぇ~赤城君。せっかくの葵君とのデートがもう終わってしまって・・・。諦めて大人しく帰りなさい。」
黄美絵先輩はニヤリと不敵に笑うと、赤城先輩はうんともすんとも言う事が出来ず、トボトボと肩を落とし、力無くお店を後にした。
「黄美絵先輩・・・この恨み・・・この恨み・・・いつか必ず・・・。」
ブツブツと言いながら赤城先輩はお店を出ると、チラリと2人の方を見て、悲しそうな顔をする。そしてガックシと首を落とし、寂しそうに家路を進む。
会長は赤城先輩の座っていた席へと移動すると、黄美絵先輩とは向かい合わせに座り直した。
「しかし赤城は、残念だな。まだたっぷり時間は余っているのに・・・。」
「そうね・・・でも仕方がないわよ。急用だし・・・。」
2人してケーキを食べながら、有意義な時間を過ごす。そんな中、黄美絵先輩は会長に、先程赤城先輩が話していた事の続きをし出した。
「葵君、赤城君が言っていた事は、後半は忘れてね。」
「赤城が言っていた事・・・?あぁ、白澤の顔が赤くなった事か・・・。」
会長はケーキを食べながら答えると、黄美絵先輩の顔を見つめた。
「なぁ・・・黄美絵・・・。黄美絵に言われた通り、2人の顔をジッと見つめてみた。だが・・・赤城の時は一瞬胸がドキッとしたんだが、白澤の時はしなかった・・・。逆に白澤の顔が赤くなるから、思わず僕まで何故か恥ずかしくなり、顔が赤くなってしまった・・・。これは・・・何かが違うからなのか?」
少し不安そうな顔をして聞いて来る会長に、黄美絵先輩はケーキを食べながら、会長の方を見る事なく答える。
「そうね、違い・・・は有るわね。白澤君は、葵君に見つめられて照れて顔が赤くなったのよ。それは彼が・・・そう言う経験が久しぶりだったからじゃないかしら?相手が照れてしまうと、思わず釣られて、自分も照れてしまう事が有るから・・・葵君も、それで釣られて照れてしまったのよ。」
「だから・・・僕の顔もあんなにも熱かったのか・・・?」
黄美絵先輩は無言で頷いた。
「そうか・・・。なら、何故赤城の時は、胸がドキッとしたんだ?白澤の時は・・・その・・・照れてはいたんだろうが、そう言う症状は無かったんだ・・・。」
会長は俯きながらも、チラリと黄美絵先輩の顔を見た。すると黄美絵先輩は、ケーキを食べる手を止め、ニッコリと笑い会長の顔を見ながら話し始める。
「それは赤城君に対して、特別な意識を持っているからじゃないかしら?葵君、男子生徒の中では赤城君にはよく懐いているから・・・。生徒会メンバーの人達とは違う、接し方をしてるでしょ?」
「た・・・確かに・・・生徒会の奴等とは接し方は違うが、それは仕事と娯楽をキチンと分けているからだ。」
「でも、生徒会の人達と普段校内で話す時だって有るでしょう?その時とも、違うんじゃないの?」
黄美絵先輩にそう言われると、確かにそうだと思い、会長は困った顔をして更に俯いた。
「ねぇ、葵君。どうして赤城君には、そんなにも心を許せるの?」
黄美絵先輩は優しく聞くと、会長は顔を真っ赤にさせながら答えた。
「それは、あいつは優しい良い奴だから・・・。安心出来るし・・・。黄美絵、赤城に嫉妬しているのか?だったら心配無いぞ!僕は黄美絵の事が一番っ・・・。」
会長が言い掛けている途中、黄美絵は会長の言葉を遮り否定した。
「嫉妬じゃないわよ。赤城君に嫉妬しても無意味でしょう・・・。ねぇ・・・じゃぁ、葵君はどうして私には何でも話してくれるの?」
黄美絵先輩が質問をすると、会長は嬉しそうな顔をさせ答える。
「それは当然、黄美絵の事が好きだし、信頼しているからだ!黄美絵には安心して何でも話せる。」
それを聞いた黄美絵先輩は、ニッコリと微笑むと、嬉しそうに頷いた。
「そう、ありがとう。私もよ。なら・・・今私としている話しを、同じ様に赤城君と話せる?胸がドキッとした事も、包み隠さずに・・・よ?」
すると会長は、嬉しそうにしていた顔から笑顔が消え、ゆっくりと俯くと、小さい声で答えた。
「きっと・・・出来ない。全部は話せない・・・。」
「それは何故?」
更に黄美絵先輩は質問をする。
「それは・・・は・・・恥ずかしいからだ・・・。」
会長は黄美絵先輩から目を逸らして言うと、頬を赤く染めた。
「そう・・・恥ずかしいの・・・。女の私には話せて、男同士の赤城君には恥ずかしくて話せないのね。同じ様に安心感を抱いている相手なのに・・・。」
黄美絵先輩にそう言われると、会長はチラリと一瞬黄美絵先輩の顔を見て、顔を沈ませながら言った。
「黄美絵の言いたい事は・・・分かってる・・・。それは僕もちゃんと分かってるし・・・本当は・・・自覚しているよ・・・。」
黄美絵先輩は微かに微笑むと、少し意地悪をする様に言った。
「分かっているって?何が分かっているの?ちゃんと葵君の口から聞きたいわ。」
会長は少し顔をムッとさせると、恥ずかしそうに体をモジモジとさせながら言う。
「それは・・・これが、女の子同士の会話だからって・・・事だよ・・・。黄美絵は女の子で・・・僕も女の子で・・・これはこ・・・恋の話しだから・・・。だから男の赤城には言えないんだ・・・。」
会長がそう言うと、黄美絵先輩は満足そうな顔をし、両手を合わせた。
「あらぁ~よく出来ました!でも意外だったわ。葵君が、これが恋のお話って事までちゃんと理解出来ていたなんて・・・。」
嬉しそうにニッコリと笑うと、会長は更に恥ずかしそうに、顔を赤くさせながら言う。
「そっ・・・それ位、僕にだって分かる。只・・・どう言う物なのかが・・・分からないんだ・・・。そのっ・・・感覚がよく分からないと言うか、理解出来ていないと言うか・・・。」
恥ずかしそうに顔を俯ける会長の姿を、黄美絵先輩は嬉しそうにクスクスと笑った。
「それは仕方がないわよ。まだ一度も経験した事が無いのだから・・・。それはこれから、知って行けばいいんじゃないの?」
「ぼっ僕は!・・・その、黄美絵で経験したつもりだったんだ・・・。だけど、それとは違ったから・・・。それはやっぱり・・・相手が男だから・・・なんだよな?」
会長が恥ずかしそうに聞くと、黄美絵先輩はニッコリと笑い頷いた。
「そうね、相手が異性だと、感じ方も違ってくるでしょうね。」
黄美絵先輩の言葉を聞き、会長はまた不安そうに尋ねた。
「僕は・・・赤城に恋をしているのか?・・・だから・・・その、胸がドキッとなったのか?他の奴には・・・そんな症状出た事も無かったのに・・・。」
不安そうにする会長に、黄美絵先輩は優しく答えた。
「それは、これから葵君が自分で気付いて知って行く事よ。自分の気持ちなんて、本当に自分にしか分からないから・・・。今は気付かなくても、いつかは嫌でも気付いてしまう物なのよ。」
そう言うと、黄美絵先輩はどこか遠い目をした。
会長はチラリと黄美絵先輩の顔を見ると、静かに話し出した。
「なぁ・・・黄美絵・・・。本当は僕は・・・ちゃんと分かっているんだ。自分が女の子だって事は・・・。確かに前は、自分の事を本気で男だと思っていた事も有ったけど・・・。今は・・・違う。今は自分が男だと思っていないと、また弱い自分に戻ってしまいそうで怖い。女の子だって認めてしまったら・・・昔の自分に戻ってしまいそうで怖いんだ・・・。それに・・・赤城から貰った洋服にも申し訳がない・・・。」
黄美絵先輩はクスリと笑うと、またケーキを食べ出しながら言った。
「いいんじゃない?戻ってしまっても。それに、今まで燃やしてしまった洋服に申し訳ないなら、これからは燃やすのも捨てるのもしなければいいのよ。着ないとしても、タンスに仕舞って置く位、してあげたら?」
「僕は・・・戻りたくないんだ・・・。」
会長は少し顔をムッとさせて言うと、黄美絵先輩はそんな会長を気にする事無く、ケーキを食べながら言う。
「いいじゃない、弱くなってしまっても。女の子は弱い物なんだから・・・。そんな弱い女の子を守るのが、男の子の役目でしょ?だったら葵君は、守ってくれる人を見付けて、守って貰いなさいな。そうしたらもう怖くなんて無いでしょ?」
「それは・・・そう言う物なのか・・・?」
会長は不満そうに聞くと、黄美絵先輩は無言で頷いた。
「そうか・・・。」
会長は仕方なさそうな顔をして、自分もケーキを食べ始める。しばらくは2人無言でケーキを食べ続けていたが、突然黄美絵先輩が、ふと話をし出した。
「そう言えば・・・覚えてる?チャットで知り合った、不登校の男の子の事・・・。」
黄美絵先輩の言葉に、会長は手を止めると、ニッコリと笑って頷く。
「あぁ・・・覚えているぞ?まだ最近の事だしな・・・。それがどうした?急に・・・。」
会長は不思議そうに首を傾げると、黄美絵先輩は優しく微笑みながら言った。
「いえね・・・そう言えば、もう入学しているなって思って。」
「おぉ!そう言えばそうだな!ちゃんと楽しい学園生活を、送れているといいんだがな・・・。」
会長は嬉しそうに笑うと、黄美絵先輩も嬉しそうに笑った。
「そうね。あれから一度も話してないし・・・元気ならいいのだけれども・・・。」
「それは、入学が決まれば、後は自分の足で歩ける様にと、もう話さない事を決めたのだから。仕方が無い事だ。」
「そうね・・・でも・・・。葵君は、会ってみたいとは思った事はないの?」
黄美絵先輩にそう言われると、会長はケーキを食べる手を止め、俯きながらも、優しく微笑んで言った。
「そりゃ・・・思った事は有る。だがそれが、彼の為かどうかも分からないし、向こうも望んでいるとは限らないからな・・・。僕は自分から探したりはしないよ。」
「そう・・・私は、会ってみたいと思うわ・・・。」
会長は黄美絵先輩の言葉を聞き、ふと黄美絵先輩の顔を見ると、そこから笑顔は消えていた。
「ねぇ、葵君・・・。良い事を教えてあげましょうか?チャット相手の正体よ。」
真面目な声で言って来る黄美絵先輩に、会長も思わず真剣な顔つきへと変わってしまう。
「黄美絵は・・・知っているのか?」
恐る恐る会長が聞くと、黄美絵先輩は無言で頷いた。
「そうか・・・知っているのか・・・。だが僕は知らなくていい。相手の為にも・・・。」
「駄目よ!葵君にもちゃんと知って貰わないと、私が困るの。」
会長の言葉を遮り、黄美絵先輩は少し強い口調で言うと、会長はそっと俯いてしまった。
「今日は意地悪な事ばかり言ってしまって、ごめんなさいね。でもこれはちゃんと聞いてね。私、葵君の事、本当に大切なお友達だと思っているから、傷付けたくないのよ。」
真剣な顔で言って来る黄美絵先輩に、会長は無言で頷いた。そんな会長の姿に、黄美絵先輩は優しくニッコリと微笑む。
「ありがとう・・・。実はね、チャット相手は、白澤君だったのよ。」
「白澤・・・?」
思いもよらぬ名前に、会長はキョトンとしてしまう。
「そう、白澤君。私も初めは分からなかったけれど・・・。彼が始めて部室へ来た時に、すぐにピンと来たの。不登校だったって言う白澤君の話しを聞いて・・・。その後、帰ってすぐに調べたわ。葵君は・・・そう言うの嫌いでしょうけど・・・私はどうしても気になってしまって・・・。確信が欲しかったし・・・。そしたら見事ビンゴ!IDからすぐに割り出せたわ。」
黄美絵先輩の話しを聞いた会長は、驚きながらも、嬉しそうな表情をさせた。
「白澤・・・そうか!あいつだったのか!そうか・・・よかった、なら楽しく過ごせているんだな。」
嬉しそうにする会長の姿に、黄美絵先輩は少し眉間にシワを寄せると、また真剣な表情へと変わり、静かに言う。
「だから、葵君・・・。葵君は、白澤君の事、好きにならないでね?」
「え・・・?あぁ・・・よくは分からないが、分かった。しかし白澤はこの事を知っているのか?」
「知らないわ。だから白澤君には、内緒よ?」
「あぁ、分かった!」
会長はニッコリと笑い、また嬉しそうな顔をすると、ふと首を傾げ黄美絵先輩に聞いた。
「だが何故・・・白澤を好きになってはいけないのだ?それが黄美絵の困る事なのか?」
不思議そうに会長が言うと、黄美絵先輩は無表情のまま、真剣な眼差しで答えた。
「えぇ・・・。私、白澤君の事が好きなの。だから葵君が白澤君を好きになってしまうと、葵君の事を傷付けなくちゃいけなくなるから、困るの。私は葵君を傷付けたくないから、絶対に好きにならないでね・・・。私を・・・困らせないでね・・・お願い。」
そう言うと、黄美絵先輩は勢いよく席を立ち、会長の顔を見る事無くそのままお店から出て行ってしまった。
「黄美絵・・・。」
会長は1人お店に取り残されると、只茫然としてしまう。
お店を出た黄美絵先輩は、ゆっくりと会長の姿を外から見つめると、その顔はほんのり赤く染まっている。
「お願いね・・・葵君・・・。お願いだから、赤城君を好きになって・・・。」
黄美絵先輩は赤くなった顔を隠しながら、バス停へと向かって行った。
1人お店に残された会長は、黄美絵先輩の言っていた言葉を、ケーキをチマチマと食べながら考えた。
(黄美絵は・・・白澤の事が好き・・・。それはどう言う好きなんだろう・・・。きっと、僕が黄美絵の事を好きだと言う気持ちとは・・・違うんだろうな・・・。特別な好き・・・なのだろうか・・・。)
山盛りにお皿の上に乗せられたケーキを、ジッと見つめると、なんだか寂しい気持ちになって来てしまう。
「1人で食べても・・・美味しくないな・・・。」
ボソリと呟くと、ケーキの上には一粒の涙が零れ落ちる。無意識に涙が出てきてしまった事に、会長は驚き、慌てて涙を拭った。