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パンッパンッと黄美絵先輩は二回手を叩くと、ニッコリと微笑み、その場をし切り始める。
「それじゃぁ・・・まずちゃんと自己紹介からして貰おうかしら?それから、赤城君との運命的な出会いのエピソードを聞かせて頂だい。」
顔をニコニコとさせながら、会長、黄美絵先輩、白澤君の順にソファーに座る。その向かい側には、沈んだ顔をして、翠ちゃん、黒木、赤城先輩の順に同じくソファーに座っていた。
「立ちっ放しもなんだから。」と、黄美絵先輩は一度全員をソファーに座らせ、ワンブレイクをし、一端全員を落ち着かせた。それから仕切り直しと言う事で、改めて詳しく黒木の事情を聞こう、と言う事になったのだ。黄美絵先輩の好奇心から・・・。
「それじゃあ、まずはちゃんとお名前から聞かせて貰おうかしら?」
黄美絵先輩が迷子の小学生の相手でもするかの様な口調で言うと、黒木は小さく頷き、自己紹介をし始める。
「自分は、1年の黒木遥って言う者ッス。ご存じの通り、赤城先輩と翠とは同じ中学出身で・・・。自分がこの高校に入ったのも、赤城先輩を追い掛けての事ッスよ。」
先程と違い素直に答える黒木に、白澤君は少し面白くなさそうな顔をする。
(なんだこいつ・・・。いきなり素直になって、言葉使いまで丁寧に変わって・・・。)
黒木の下の名前を聞いた黄美絵先輩は、嬉しそうに笑いながら言った。
「あらあら、遥ちゃんって言うの?顔だけじゃなくて、名前も女の子らしくて可愛いわねぇ。」
そんな黄美絵先輩の言葉に、黒木は顔を真っ赤にさせながら、大分遠慮がちに訴える。
「あの・・・下の名前で呼ばないで下さい・・・。かッ・・・顔と同じくコンプレックスなんッスよ・・・。」
微かに唇を震わせながら言う黒木に気付いた白澤君は、自然と黒木の態度の急変に納得をした。
(あぁ・・・恐ろしい者を見てしまったからか・・・。黄美絵先輩とか・・・黄美絵先輩とか・・・。)
「あっ!だから翠ちゃんも、黒木の事だけ苗字で呼んでたのか。」
白澤君は思い出したかの様に気が付いた事を言うと、翠ちゃんは無言で頷いた。そして黒木は、自分の生い立ちについて、語り始めた。
「そこに居る白澤の言う通り、自分は女みたいなこの顔が、ずっと嫌で仕方なかったッス・・・。小さい頃は、そんなに気にした事は無かったんスよ。自分、一人っ子で・・・両親は女の子が欲しかったらしくて、それで女みたいな顔をして産まれて来た自分に、いつも女の服を着せていたッス。その頃はまだ物心もついていなかったし、何の疑問も感じていませんでした・・・。でも・・・小学生の時に変質者に遭い、それを知った両親はそれ以来女の服を着せなくなったッス。それからは普通に男の格好で過ごしていたんスけど・・・。でも・・・でも・・・それでも痴漢にはよく遭ったッスよ・・・。男女関係無く・・・。」
話しながら、その時の嫌な体験をフッと思い出してしまい、黒木の体は小さく震えていた。そんな黒木の話を聞いた会長は、関心をしながら言った。
「おぉ!白澤の言った通りだったのか!凄いぞ白澤っ!よく分かったな!お前は人の心でも読めるのか?」
すると白澤君は、自慢げに言って来る。
「俺、推理は得意なんですよ、会長っ。些細な情報も見落とさずに掻き集め、そこからそいつの人物像や背景を推測する・・・なんて、本当は殆ど感なんですけどね。まぁ相手の反応とか表情とかを見て、何となくそうかなぁ~って思った事を、鎌を掛けながら言ってるだけですよ。」
ハハハッと笑う白澤君に、黒木は恨めしそうな目をした。
「すんません・・・自分の話ちゃんと聞いてくれているんッスか?一応真面目に話してるんッスが・・・。突っ込む所が違う気がするッス・・・。」
そんな黒木に、黄美絵先輩はマッタリとコーヒーを啜りながら言った。
「気にしなくていいわよ?話しが脱線するのはいつもの事だから・・・。気にしないで話の続きをどうぞ。私はちゃんと聞いているから。」
ニッコリと微笑む黄美絵先輩は、話を聞いていると言うよりも、楽しんでいると言った感じだ。黒木はとてつもなく不安そうな顔をすると、チラリと横に座る赤城先輩の顔を見た。赤城先輩は無言で何度も頷いている。更に不安な気持ちになりながらも、取り合えず話の続きをし始める。
「それで・・・余りに変質者に遭う事が多かったんで、中学に上がる時に、引っ越したんスよ。両親は、きっと小さい頃に女の格好ばかりしていたせいだから、その事を知らない人達の所に行けば、もう大丈夫だろうって・・・そう思ってッス。でもそれは間違いだったんッスよ・・・。そのせいで・・・前よりもっと酷い目に遭う様になり。・・・。中学に入ったら悪化してしまい・・・。そうッス・・・あの学校は・・・あの学校は・・・。」
黒木は両手をギュッと深く握り込むと、顔を真っ青にしながら叫んだ。
「あの中学は、変質者の巣だったんスよっ!」
プルプルと体を震わせる黒木の姿に、白澤君と黄美絵先輩は、黒木の左右に座る2人を見て、何となく納得をした顔をする。そんな黒木の言葉を、赤城先輩は不満そうに訴えた。
「それは違うぞっ!黒木!確かに変質者や未来の性犯罪者予備軍は多かったが、全ての生徒がそうだったと言う訳ではないぞ!少なくとも俺は違ったぞ?」
赤城先輩の訴えに、翠ちゃんも賛同し、訴えた。
「そっ・・・そうよ!私だって違うし・・・。確かに変な人は多かったけど、それは一部の過激派の人達だけよ!」
必死に訴える2人を見て、白澤君は思い切り白けた顔をしてしまう。
(いや・・・お前等2人に言われても説得力が無いぞ・・・。むしろ逆に黒木の言う通りの様に思えて仕方ないんだけど・・・。)
すると又も白澤君が更に心の中で思っていた事を、黄美絵先輩がサラリと言ってしまう。
「やあねぇ・・・。貴方達だって、十分変質者臭を漂わせているわよ?やっぱり赤城君達の中学出身者の人達って・・・こう変態が多いのかしら?」
黄美絵先輩の言葉に翠ちゃんはショックを受け、顔が真っ青になってしまう。
「黄美絵先輩!酷いですっ!俺は断じて変態なんかでは有りませんよ!」
赤城先輩が力強く否定をすると、白澤君は白い目で赤城先輩の顔を見て、ハァ~っと深く溜息を吐いた。そんな白澤君の態度に、今度は赤城先輩がショックを受け、その場に固まってしまう。
「白澤君・・・俺の事そんな目で見ないでよ・・・。」
一瞬シンッとなると、黄美絵先輩はまたパンパンッと手を二回叩いた。
「はいっ!また本題がズレてしまうから、話の続きでも聞きましょうか。」
「黄美絵の言う通りだな。黒木っ!変質者の巣だったとは、どう言う意味だ?」
会長に促されると、黒木は顔を青ざめさせたまま、続きを話し出した。左右に座る翠ちゃんと赤城先輩の事は、今は無視をしておこう。
「あ・・・はい・・・。中学生になって、自分は初めて女みたいな顔をしているせいで、痴漢やら変質者に遭っていたんだって、気付いたんッス。中学生になる頃って、思春期真っただ中じゃないッスか?だから周りは、男子生徒の制服を着ていた自分の性別が、本当は女なんじゃないのかって思ったらしく・・・。初めは制服の上から触られる程度でした・・・。それで自分が正真正銘の男だって確信したら、女共は自分に女子生徒の制服を無理やり着せてきて、それを見た男共は・・・かっ・・・可愛かったとか言って・・・変な目で自分を見る様になったんッスよ。」
自分で『可愛い』と言う言葉を口にしてしまうと、一気に顔は真っ赤になってしまう。そして更に顔を赤くさせると、体を小刻みに震わせながら、怒りと恥じらいを同時に込み上げさせながら話した。
「そっ・・・それからは地獄の日々でしたッス・・・。女共からはフリフリのワンピースやらメイド服やらを着せられ、男共からはブルマや女子のスクール水着を着せられ・・・。挙句に告白をしてくる男が日々増え・・・。気付けば校内では、自分はオカマだのホモだのと言う噂が広がり・・・泣きながら逃げ惑う日々だったッス・・・。この顔のせいで・・・この顔の・・・。」
黄美絵先輩はいつもと変わりない様子だったが、白澤君と会長の顔は、思わず引き攣ってしまった。翠ちゃんは、まるで自分の事かの様に、悲しそうな顔をしている。
「しかし分からんな。それで何故ピンク色の髪なんだ?」
突然会長が突拍子も無い質問をすると、黒木は、今度は落ち着いた様子で話した。
「あぁ・・・それは、ちょっとでも怖く見られればと思って、初めは金髪にしたんスよ。でも逆に、人形みたいだって女共を喜ばせる結果になってしまって・・・。」
「確かに、金髪は駄目ね。あれは可愛い子がしたら余計可愛くなってしまうから・・・。」
少し呆れた表情で黄美絵先輩が言うと、白澤君はチッチッと舌を鳴らした。
「違いますよ、黄美絵先輩。金髪って言うのは、そこまで可愛く無い子でも、金髪にする事により可愛く見えてしまうと言うマジックが有るんですよ!元々可愛い顔をした子は、結局何色にしたって可愛いんですから。」
白澤君の意見に、会長はうんうんっと、何度も頷きながら納得をした。
「確かに白澤の言う通りだな!実際悪趣味なピンク色の髪をしていても、黒木は可愛いからな。」
「だからっ!可愛い可愛いって連発しないで欲しいッス!」
恥ずかしそうに叫ぶ黒木に、黄美絵先輩は可笑しそうにクスクスと笑った。
「それで?何故ピンク色なんだ?」
やたらとピンク色に喰い付いて来る会長に、黒木は顔を引き攣らせながらも説明をする。
「それはっ・・・その・・・。しっ、白澤の言った通りッスよ・・・。他の色に変えようと思って色々と考えていたんスが・・・。自分は小さい時から女の洋服着たり、女が好きそうな色だったり物に囲まれて育ったんで、無意識に女が一番好きな、ピンク色を選んでいたんッスよ。」
それを聞いた白澤君は、可笑しそうにクククッと笑った。白澤君の笑い声に腹を立てた黒木は、顔をムッとさせて訴える。
「でもっ!ピンクは効果有ったッスよ!自分は悪趣味だって思った奴等が沢山いて、それからは告白の回数も減ったし、女装させようとして来る奴も減ったッスよっ!・・・只一部を除いては・・・。」
「一部?一部って・・・何だよ?」
白澤君が笑いながら聞くと、黒木ではなく赤城先輩が、顔を真っ青にさせながら言って来た。
「その一部とは・・・あれの事だろ?黒木っ!あの恐ろしきピンクとフリルと甘可愛い物を好む軍団・・・。」
すると黒木も顔を真っ青にし、真剣な眼差しで頷いた。
「そうです・・・赤城先輩・・・。あの中学の中で一番恐ろしい軍団です・・・。」
「あの・・・過激派軍団ね・・・。」
同じく翠ちゃんも顔を青ざめさせて言うと、3人揃ってゴクリと生唾を飲み込んだ。何の事だかサッパリ分からない他3人は、顔をキョトンとさせると、不思議そうに首を傾げた。
「・・・て・・・何の軍団なんだ?」
不思議そうに尋ねる白澤君に、赤城先輩はカッ!と目を見開き、顔を青ざめたままその場に勢いよく立ち上がりながら叫んだ。
「君は知らないのかいっ?この学校にも存在をしている同好会!『スイーツ(笑)を滅ぼす会』が在るではないか!そうっ!その軍団とは、スイーツ(笑)軍団なのだよ!君は奴等の恐ろしさを知らないのか?この俺だってっ!幾度となく襲撃に遭ったのだよ!」
「いや・・・そんなこと言われても、俺不登校者だったので・・・。」
冷めた口調で言う白澤君に続き、黄美絵先輩と会長も首を傾げたまま言う。
「私の中学には、そんな低俗な人は存在しなかったから・・・。ちょっと分からないわ。」
「僕の中学も至って普通だったからな。どちらかと言えば、真面目な者が多かったしなぁ・・・。」
そんな3人の回答に、赤城先輩は一気に勢いを失い、目を点にさせて言った。
「あ・・・あぁ・・・。そうだったね・・・。白澤君は登校拒否児だったっけ・・・。黄美絵先輩はお嬢様学校だったし、会長は私立のインターナショナルスクールでしたっけ・・・。」
「えっ?会長って、中学はインターナショナルスクールに通ってたんですか?」
白澤君は初めて知る会長の出身中学の方に思い切り驚き、反応を示すと、赤城先輩は悲しそうな顔で白澤君を見つめた。
「白澤君・・・そっちにはそんなに驚くんだね・・・。なんか寂しいなぁ~・・・。」
「いやっ・・・初耳だったんで・・・。」
ハハハッと苦笑いをする白澤君に、会長は淡々と説明をし始める。
「僕の父はイギリス人だからな、小学生低学年の時までは向こうに住んでいたんだ。だが日本の小学校が合わなかったから、中学はインンターナショナルスクールに通う事になったんだ。まぁ僕としても、様々な語学を見に付けられるからありがたかったしな。」
「はあっ?会長って、ハーフだったんですかっ?しかも帰国子女だったなんて、初耳ですよっ!」
会長の話に更に驚く白澤君。そんな白澤君に、会長は当然かの様に言って来た。
「あぁ・・・特に何も聞かれなかったから、言っていなかっただけだ。だが見て分からなかったのか?」
「いやっ!でもっ!確かに人形みたいに可愛らしい西洋風の顔はしてると思ってはいましたが・・・。瞳の色とかも普通に茶色かったので・・・。そう言う西洋っぽい顔立ちの日本人だっているから、普通に分かりませんでしたよ・・・。」
すると会長は、顔をムッとさせた。
「可愛らしいとは失礼だな。目はカラコンを入れているんだ。馬鹿にされない為にもな。」
そう言って、会長は左目に入れていたカラーコンタクトを外すと、その下からは青い瞳が現れた。
(なっ・・・マジで青い・・・。あぁ、そうか・・・確か会長、小学生の時は周りの男子にからかわれてたんだっけ・・・。でもそれって、結局小学生にはハーフとかが珍しかったからじゃないのか?)
思わぬ所で会長の知られざる生態が明るみになり、白澤君はまだまだ自分の知らない事が、山ほど隠されているのだろうと悟った。会長だけでなく、赤城先輩や特に黄美絵先輩の事等・・・。
「白澤君・・・会長の昔の写真、見たいかい?物凄く可愛らしいよ・・・それはもうフランス人形の様に・・・。」
突然耳元から聞こえて来た赤城先輩の声に、白澤君は思わず体が一瞬宙に浮き、驚いてしまう。そっと声のした方を振り向いて見ると、いつの間にか赤城先輩は隠れるようにソファーの下から顔を出し、白澤君のすぐ真横へと移動していた。
「ちょっ!赤城先輩・・・いつの間に・・・。」
後退りしながらも言う白澤君に、赤城先輩はコソコソと小声で話し掛けて来る。
「見たいかい?白澤君には特別に、俺の会長コレクションの1枚を見せてあげてもいいよ。小学生の時の写真とか・・・。中学生の頃の方がいいかい?」
すると白澤君は、やはり変態だと思いながら、同じく小声で話した。
「なんで赤城先輩がそんな写真持ってるんですか?」
「黄美絵先輩から、1枚千円で買っているのだよ・・・。」
白澤君はチラリと黄美絵先輩の方を見ると、黄美絵先輩は不適に微笑みながら、視線だけをこちらに向けていた。
(うわぁ・・・最低だこの人・・・。人の恋心を利用して商売してる・・・。当然会長本人は知らないんだろうなぁ・・・。)
白澤君は顔をウンザリとさせながら会長を見ると、何も知らずに嬉しそうにキャラメルフラペチーノを啜るその姿が、なんとも哀れに思えて来た。
と、突然バンッと机を叩く大きな音がした。一斉に音のした方を向くと、黒木がプルプルと体を震わせながら、机の上に両手を置き、立ち上がっている。もう一度黒木は思い切り机を叩くと、声を露わにして言った。
「そんなっ!そんな同好会が在るんッスか?『スイーツ(笑)を滅ぼす会』!なんて素晴らしい同好会ッスか!自分は、是非そこに入会したいッス!」
「駄目よ、貴方はもううちの同好会のメイドさんって決まっているのだから。」
アッサリと黄美絵先輩に打ち砕かれてしまうと、黒木は涙ながらに叫んだ。
「えぇ!それはもう決定なんッスか?決まってしまっているんッスか?」
「当然でしょう?これは決定事項です。だから貴方は他の同好会にも、部にも所属する事は許されないし、その権利も無いわ。すぐに貴方にお似合いのメイド服を用意するわ。」
冷たく言い放たれる黄美絵先輩の言葉に、黒木はその場に泣き崩れてしまった。そんな黒木を元気付ける様な言葉を、白澤君は言ってあげる。
「おい黒木。ちゃんと考えろよ。この同好会に例えメイド服を着てメイドとして扱き使われるとしても、そこには赤城先輩が居るんだぞ?って事は、お前はこの部室に居る限り、コソコソと隠れる事なく堂々と、赤城先輩に愛!のアピールをする事が出来るんだぞ。」
白澤君の言葉を聞き、ハッと気付いた黒木は一気に顔を上げ、目を輝かせながら赤城先輩を見つめた。
「そっ・・・そうッスよね・・・。よく考えれば、毎日赤城先輩と一緒に居られるって事ッス!」
赤城先輩は顔を青ざめさせると、目の前に座る白澤君にしがみ付きながら泣き叫んだ。
「ひっ酷いぞ白澤君!俺に犠牲になれと?犠牲になれと言うのかい?君の仕返しの為に、俺を生贄にする気かい!」
「なに言ってるんですか?元々赤城先輩が俺を生贄にしたんじゃないですか?自業自得ですっ!」
冷たく言う白澤君に、赤城先輩は必死に泣き付き何度も謝り始めた。そんな様子をずっと黙って見つめていた翠ちゃんが、突然声を張り上げながら、勢いよく立ち上がった。
「わっ!私もっ!私もこの同好会に入会します!」
突然の翠ちゃんの入会希望宣言に、周りは一斉にキョトン、とした顔へと変わった。
「え・・・?なんで突然・・・翠ちゃんも?」
白澤君が戸惑いながらも聞くと、翠ちゃんは体を震わせながら言う。
「だって・・・だって・・・。黒木君がこんな事になってしまったのは・・・私のせいでもあるから・・・。拓実先輩にも、勇人君にも迷惑を掛けてしまって・・・。私・・・私、責任を取って入会しないと・・・。心配だし・・・。」
「いや・・・翠ちゃん・・・。責任の取り方間違ってるから・・・。」
「ふむ・・・入会希望は嬉しいが、我が同好会はB級ホラー好きの集いだからな。そう言った不純な動機での入会は賛同出来んな。」
少し不機嫌そうに会長が言うと、翠ちゃんは微かに微笑みながら言った。
「あぁ・・・それなら問題有りません。私も、ホラー映画自体は好きな方なので・・・。勇人君がこの同好会に入っているって聞いた時、なんだか楽しそうだなぁ~って・・・思ってたし。」
すると今度は、会長は少し嬉しそうな表情に変わり言った。
「そうか、君もホラー映画は好きなのか。うん、ならば入会試験を受ける権利は有るな。」
そう言って何度も頷く会長を、翠ちゃんは首を傾げて不思議そうに聞いた。
「え?あの・・・入会試験って・・・。」
「入会試験は、3日間ぶっ通しホラー映画を観て、その感想を完璧に言えた者だけが入会が許されるって言う恐ろしい物なんだよ。だから翠ちゃん、無理して入会する事ないよ。」
白澤君が心配そうに言うと、翠ちゃんは余り理解をしていない様子で、更に首を傾げる。
「そう・・・なの?じゃぁ・・・勇人君もその入会試験を受けたの?」
「いやっ!白澤は特別に入会試験をパスしている。真のB級ホラー映画好きだと説明の段階で分かったからな。実際に受けたのは赤城だけだ。」
会長にそう言われ、翠ちゃんは赤城先輩の方を見ると、その顔は土色をしていた。そして口をパクパクとさせながら、必死で何かを訴えようとしている。
「しかし翠は女性だからな。女性に余り夜更かしはさせられん!美容にも悪いしな。だから今回は、1日で構わない。」
会長がそう言うと、赤城先輩は思いっきり悲しそうな顔をしながら、涙声で言った。
「会長・・・それはヒイキじゃないですかぁ~。白澤君だってパスしてるし・・・俺だけですかぁ~?」
「白澤は黄美絵目当てでも無いと分かった事もあったからな。それに、黒木にもちゃんと受けて貰うぞ!無論っ!黒木は3日間だ!」
すると今度は黒木が涙声で叫ぶ。
「えぇ!なんで自分もッスか?自分は正式なメンバーじゃなくて、お手伝いじゃなかったんッスか?」
「例えお手伝いさんであろうと、我が同好会を理解する為にも受けて貰う。まぁ、お前の場合は落ちる事はないから安心しろ!」
当然の様に言い、笑顔で親指をグッと上に立てる会長に、黒木はガックシと首をうな垂れた。
「それは・・・それはただの嫌がらせッスよ・・・。」
沈む黒木の姿を、白澤君はクククッと笑いながら言って来る。
「まぁ黒木、会長の場合悪気は無いから、諦めて受けて来いよ。」
「そうよ、この同好会がどんな物かを知る為にも、必要な事なのだから・・・。よく分からずに働かれても、邪魔なだけだし。」
同じく黄美絵先輩も顔をニコニコとさせながら、楽しそうに言うと、黒木の顔は更に沈んでしまう。
「所で・・・大分話がズレてしまったのだが、結局赤城との運命的な出会いとは何だったんだ?」
会長が首を傾げながら言うと、皆一斉にその事を思い出した。
「あぁ・・・そう言えばそんな話をしていたんでしたっけ・・・。」
「あらやだ・・・すっかり忘れていたわ・・・。」
「あ・・・ごめんなさいっ!私が突然こんな事言い出したせいで・・・。」
「あぁ!そうでしたね!余りのスイーツ(笑)軍団の恐ろしさに、忘れてしまっていました・・・。」
皆の言葉を聞き、黒木はうんざりとした顔をすると、その場に崩れてしまった。
「それじゃあ、改めて話の続きをするッス。」
黒木はコホンッと一つ咳をすると、本来の本題の話へと移った。
「あれは、中学2年の夏頃の事ッス。髪をピンク色にして間もない頃、あのスイーツ(笑)軍団の中でも飛び切り凶悪な3人に、無理やり体育館倉庫に連れ込まれたんッスよ・・・。あの時は・・・マジで犯されるかと思って恐怖しました・・・。」
顔を真っ青にしながら、ブルブルと体を震わせると、未だに白澤君にしがみ付く赤城先輩の方を見た。
「そんな時ッス。赤城先輩が、自分の事を助けに来てくれたのは・・・。」
そう言うと、今度は頬を淡いピンク色に染めた。
「獣3人に囲まれていた時、突然体育館倉庫の扉が開き、赤城先輩が現れたんッス!それはもうヒーローの様に突如現れ・・・。そして赤城先輩は、男らしく『何をしているっ!止めろっ!』って獣共に怒鳴り付け、蹴散らしたんッスよ!」
両手を両頬に当て、照れ臭そうに体をモジモジとさせる黒木。すると白澤君は、自分に纏わり付く赤城先輩に確認をした。
「先輩、本当にそう言ったんですか?」
「いや・・・正確には、次の体育の時間で使う三角コーンが足りず、体育館倉庫に取りに行っていたのだよ!そして扉を開けたら、たまたま黒木が魔のスイーツ(笑)軍団に襲われている所を目撃してしまい、俺は余りの恐ろしさに悲鳴を上げ『何してるんだー!犯罪は駄目だ!誰か警察―!』と雄叫びを上げたのだ!」
「あぁ・・・やっぱり・・・。人間恐怖体験をしている時って、錯覚に陥りやすいですからね・・・。」
白澤君は呆れた顔をすると、赤城先輩は恥ずかしそうにハハハッと苦笑いをした。
「それで、赤城君に恋をしてしまったの?」
横で2人の会話を聞いていた黄美絵先輩は、必死に笑いを堪えながら聞くと、黒木は真剣な眼差しで答えた。
「その時は、まだ恋とかじゃなくて只の憧れだったッスよ。赤城先輩は校内でも美形で有名だったので、名前位は知っていたッス。自分は身を守るのにずっと必死だったから・・・。今まで直接ちゃんと会った事も、話した事も無くて・・・。」
すると黒木の話の中の『美形』と言う言葉を耳にした赤城先輩は、白澤君にしがみ付きながら「アアアアァァァァー!」といつもの如く悶え始めた。
「ちょっ!赤城先輩っ!五月蠅いですよ!静かにして下さいっ!」
白澤君が必死にしがみ付きながら叫ぶ赤城先輩を引っぺがそうとすると、赤城先輩は「だって!だって!」と言いながら、体をムズ痒そうに捻じ曲げる。
「もう・・・分かりましたから、赤城先輩は耳を塞いでいて下さいよっ!」
赤城先輩の両耳を両手で無理やり塞ぐと、黒木に話の続きを促した。黒木は少し困った顔をしながらも頷くと、話の続きをし始める。
「えっと・・・。自分は、その時直接赤城先輩に会うまでは、余り先輩の事をよくは思っていなかったんッスよ。外見が良くて、頭も良いからって周りにチヤホヤされて、イイ気になってる嫌な奴だろうって・・・そう思ってたッス。でも自分を助けに来てくれた先輩は、噂以上にカッコよくて、男らしくて・・・勇敢で・・・正に自分の理想の男性像だって思ったんスよ!自分はその後、赤城先輩にお礼を言いに行ったんッスけど、その時も、先輩は優しく『対した事はしていないよ』って言ってくれて、とても謙虚で・・・。自分が思っていたのとは全く正反対の人で、赤城先輩の様な男になりたいと思ったんッス!」
瞳を輝かせながら言う黒木に、前に座る3人は白けた顔をした。
「随分と・・・美化されているのねぇ。赤城君・・・。」
「謙虚だと言う所は微妙に合っているぞ。勇敢かどうかは・・・微妙だが・・・。」
黒木は他の者の話し等耳に入らず、瞳を更に輝かせると、興奮気味に熱く熱弁をし出した。
「それから自分は、少しでも赤城先輩に近づける様にと、先輩を観察し続けたッス!赤城先輩を観察すればする程、先輩の良い所を沢山知ったッスよ!外見を鼻に掛ける事も、頭の良さを自慢する事も無く、他人に優しく、面倒見も良くて、その上真面目で!赤城先輩を目指す為に見つめていたのに、気付くとそこには、胸をトキめかせながら見つめている自分が居たッス!」
両手を胸に当て、頬を赤く染める黒木に、赤城先輩は思い切り顔を引き攣らせた。
「自分は気付いたッス!この胸の高鳴りは、憧れからなんかじゃない!きっとこれは、恋をしてしまった事への合図なんだって!その証拠に、先輩を見つめる度に、チクチクと胸が痛み、ギュッと締め付けられる様な感覚に襲われたッス!そして切なくも愛おしい気持ちになり、いつしかそれは、先輩に抱きしめられキッスをされたいと願う様に・・・。」
「やぁーめぇーろおぉぉぉー!止めてくれええぇぇぇー!俺は女の子が好きなんだ!普通に女の子が好きなんだぁー!キッスも女の子としたいんだあぁぁぁー!」
黒木が最後まで言い終える前に、赤城先輩は両手で頭を抱えながら雄叫びを上げた。そして一気にその場に立ち上がると、黒木を指差し、顔を青ざめさせながら叫んだ。
「それからと言う物、君は俺と顔を合わせる度に襲いかかり、無理やり俺の唇を奪おうとして来たではないか!」
「自分はただっ!欲望のままに動いていただけッス!」
「頼むから欲望に任せ動かないでくれ!」
泣き叫ぶ赤城先輩に、必死に訴える黒木。そんな黒木を、白澤君は気持ち悪そうな目で見ながら言った。
「リアル・・BL・・・。お前・・・キッスとかってそんなリアルな事まで求めていたのか・・・。」
「これでも自分は、最初は遠慮していたッスよ!ホモって言う噂が有ったし、そいつ等の言う通りになってしまった事への、後ろめたさとかはあったッスから。それでもっ!自分のこの気持ちを抑える事は出来なかったッス!」
真剣な眼差しで言う黒木を、白澤君は更に気持ち悪そうな目で見た。
黒木の赤城先輩に対する恋心の芽生えの話を聞いた会長は、何故か一瞬胸がドキッとした。
(キッス・・・。胸がチクチクと痛むと、キッスがしたくなるのか・・・?僕には・・・黒木の言っている事がよく分からない・・・。)
会長はチラリと黄美絵先輩の方を見ると、そっと胸に手を当てた。しかしその胸はチクチクとは痛んではいなかった。会長は首を傾げると、じっと黒木の顔を見た。黒木はこの上ない程に生きいきとした顔をしている。そして黒木は熱弁の続きをし出す。
「赤城先輩がこの高校に入学すると知って、自分も同じ高校に入学する為に、勉強だって必死に頑張ったッス!自分、授業だけは真面目に毎日受けていたんで・・・。それでもそこまで成績が良いって訳じゃなかったんで、塾にも通い、休みの時間も全て勉強に費やしたッス!」
「まぁ・・・赤城君の為にそこまで頑張るなんて・・・。本当に、心から愛していたのね?」
薄ら笑いを浮かべながら黄美絵先輩が言うと、赤城先輩は物凄く嫌そうな顔をして訴えた。
「黄美絵先輩!そう言う事言うの、お願いだから止めて下さい!」
黄美絵先輩の言葉には、翠ちゃんも反応をし、黒木の肩を持つかの様に真剣な眼差しで訴えて来た。
「黒木君は、本当に頑張ったんです!赤城先輩と同じ高校に通える様にって、毎日休み時間や放課後はギリギリまで図書室で勉強をして・・・。私・・・黒木君に勉強教えてあげていたから、よく知ってるんです!」
「止めてっ!翠ちゃんまでそんな事言わないで!お願い!」
赤城先輩は必死に訴えるも虚しく、黒木の赤城先輩への想いの強さを、翠ちゃんは更に訴えた。
「過激派から逃げながらも、頑張って勉強して、この高校を受験して受かったんですよ!」
黒木は翠ちゃんの言葉に、何度も無言で大きく頷いた。すると白澤君は、先程まで物凄く気持ち悪い物体でも見るかの様な目で見ていた黒木の事を、今度は馬鹿にする様な目で見始めた。
「え?お前って・・・一般入試でこの学校に入学したの?」
クスリと笑うと、黒木は顔をムッとさせ、力強く言う。
「そうだっ!自分は推薦して貰える程の成績は無かったから、一般入試で、なんとかこの学校に入学する事が出来たんだ!これも赤城先輩への愛故ッス!」
そんな黒木の言葉に、白澤君はケラケラと笑い出し、黄美絵先輩は驚いた様子で、嬉しそうに言った。
「まぁ!貴方、あの世にも珍しい一般入試での入学者だったのね!私初めて見たかもしれないわっ!あぁ・・・なら大変よねぇ~。3年生になるまで、生き残れるかどうか・・・。」
黒木は顔を真っ赤にさせながら、更にムッとした表情をさせると、恥ずかしそうに言った。
「しっ・・・知ってるッスよ・・・。この学校の入学者の殆どが、推薦で入っている奴等ばかりだって事は・・・。自分は、運動神経は良い方でしたッスが、追い回されるから運動部に入る事も出来なかったし・・・。頑張って一般入試で入るしか方法が無かったんッス・・・。」
ケラケラと笑っていた白澤君は、更に可笑しそうに笑い、思い切り黒木を見下した口調で言った。
「じゃあお前、2年間の平均点キープはまず無理だなっ!しかし可哀想だなぁ~。そんなに学校で嫌な思いをするなら、登校しなきゃいいのに、お前の頭じゃ嫌でも毎日登校しないと、授業にもついていけないんだもんなぁ・・・。アハハッ!」
可笑しそうに笑う白澤君を、赤城先輩は不満そうな顔で見つめた。
「白澤君・・・君が言うとなんだか無償に腹が立つよ・・・。」
「それは仕方が無い。白澤は産まれながらの優秀者だからな。僕や黄美絵と同じ様に。」
サラリと言う会長の言葉に、赤城先輩は体中の力が抜けきってしまう。
「会長・・・俺の名前は入っていないんですね・・・。そうですよね・・・。どうせ俺は・・・万年99点止まりの男ですから・・・。」
しくしくと泣く赤城先輩を励まそうと、翠ちゃんは穏やかな声をさせ、笑顔で言った。
「だ・・・大丈夫ですよ、拓実先輩。拓実先輩は十分優秀です!私なんか・・・成績推薦入学者と言っても、普通に勉強をしていないとダメでしたし・・・。やっやる事が無いから暇潰しに勉強をしていて、そのお陰で成績が良かったみたいな物ですから。」
すると今度は、黒木がしくしくと泣き始めてしまう。
「お前・・・暇潰しに勉強してそんなに成績良いのかよ・・・。いいよな・・・元から頭良い奴はさ・・・。俺なんか必死に努力しなくちゃ無理だったのに・・・。」
自分の発言で、今度は黒木が泣いてしまい、翠ちゃんは慌てて黒木をフォローしようとする。
「あっ!ちがっ・・・違うの!黒木君も十分優秀だよ?頑張って努力して、合格したんだもん!努力賞物だよ!」
「努力賞・・・。俺、努力賞止まりかよ・・・。」
更に落ち込む黒木に、翠ちゃんはどうしたらいいのか分からず、戸惑いながらも、ションボリとした顔をして「ごめんなさい・・・。」と一言だけ言い、黙り込んでしまった。
「まぁここで成績の話しをしても無意味だ。何故ならここは、B級ホラーへの熱愛を競い、共存する場所だからな。」
会長はゆっくりと立ち上がると、黒木の元へと近づき、ポンッと肩を叩いた。
「それにお前はこの学園に入学をして来て正解だ!何故ならこの学園は、変わり者が多い上、髪型も色も自由だからな!ピンク色の髪をしていても、それ以上に派手な髪型や色をしている者は山程居る!そのお陰で、今までお前はそこまで目立ってはいなかったんだ。中学時代の時の様に、追い回される事も無くなっているんだろ?」
会長に言われ、初めて自分の今の状況に気付いた黒木は、ハッと顔を上げた。
「そっ、そう言えば・・・。自分、高校に入ってからは追い回される事も襲われる事も無く、普通に過ごせているッス!赤城先輩の事で頭が一杯だったから、今まで気付かなかったッスけど・・・同じ中学出身の奴等も居るのに、特に何も言われる事も告白される事も無いッスよ!」
黒木は口をパックリと開け、微かに嬉しそうな顔をした。
「まぁ確かに・・・この学園に居る人達は、自分の目的に向かって突っ走っている人が多いわよねぇ。1年生は未だしも、2年生にもなれば退学が掛っているから、他人に構っている暇なんて無い人も居るし、余裕の有る人は自分の好きな事をし放題している人ばかりですものね。」
「それ以前に、変人が多いからだと思いますよ・・・。他の同好会だって変な物ばかりだったし・・・。学校のシステム自体オカシイし・・・。」
黄美絵先輩と白澤君の言葉を聞くと、黒木の顔は思い切り嬉しそうな表情へと変わり、目を輝かせながら言って来た。
「って事は、自分はこの学校では普通だって事ッスか?普通に過ごせるって事ッスよね?そうかっ!自分、赤城先輩を追ってこの学校に入学して、本当によかったんッスね!」
天にも昇る気分で、幸せそうな顔をしている黒木に、赤城先輩が思いっ切り意義を唱えた。
「いや待てっ!君は普通ではないぞ!そして何より、この俺が普通に過ごせないぞ!俺は中学の時と変わる事なく、君に襲われ続けると言う事なのだよ!」
力みながら言う赤城先輩を、黒木以外の者全員が、生温かい目をし、無言で見つめた。
「な・・・ちょっ・・・。犠牲になれと?やはり俺に、犠牲になれと言うのかい?」
白澤君は赤城先輩の肩を、ポンッと軽く叩くと、ニッコリと微笑んだ。そんな白澤君の笑顔を見た赤城先輩は、静かにその場に泣き崩れてしまう。
「でもまぁ・・・そんな変態だらけの中学なのに、この高校に推薦入学して来る奴が結構居るって事は、元々はレベルの高い中学なの?翠ちゃん・・・。」
赤城先輩にトドメを刺し終えた白澤君は、少し不本意ながら聞いた。
「あぁ・・・あの中学って、本当、真っ二つに分かれていて・・・。凄く真面目な人か、不真面目でまともに授業も受けない人の、どちらかしか居なかったの。だから、この高校に推薦で入学した人は、真面目だったグループの人達だよ。」
翠ちゃんから説明を受けた白澤君は、白けた顔をし、率直な感想を素っ気なく言った。
「あぁ・・・。優秀な変態紳士か、只のDQNのどちらかしか居なかったって事ね・・・。」
*以下略*
「それでは、黒木と翠にまず我が同好会の主な活動について、簡単に説明でもしておこう。入会試験は、明日からと言う事にする。」
改めて全員ソファーに座り直すと、会長は白澤君の時と同様、同好会活動の説明へと移った。赤城先輩は未だにソファーの上で体操座りをし、顔を埋めしくしくと泣いているが、周りは敢えて触れない様にし、そっと泣かせてあげる事にした。
「基本的には観たい映画があれば、好きな時に観る、と言う事だけだ。しかし観終わった後はちゃんと感想文を書き提出する事!それと、新作が出た場合は、全員で視聴をし、後に感想会を開き全員で意見を言い合う・・・とまぁ、こんな所だな。」
淡々と説明をする会長。黒木はやる気なさそうに頷いているが、翠ちゃんは真剣な表情で聞きながら、うんうんっと、何度も頷いている。
「それから我が同好会は、文化祭等の学園イベントの時に、定期的に新作ホラー映画の上映会を行う!上映をする映画は、日本未公開、未発売の物ばかりだから、お前達には字幕作りと言う仕事が有るからな。・・・と・・・黒木はいいか、お前は一般試験入学者だしなぁ・・・。英語もろくに分からんだろ?」
ここでもやはり、推薦入学者ではないと言う事を馬鹿にされてしまうと、やる気なさそうに聞いていた黒木の顔は、一気に真剣な顔へと変わった。
「なっ!英語位、自分だって分かるッスよ!そりゃあ、専門用語とかってなると難しいッスが、普段の会話程度ならペラペラッス!」
拳をギュッと握り締め、目の前に翳しながら、自信満々に言った。そんな黒木の言葉に、白澤君と黄美絵先輩はハァ・・・と軽く溜息を吐くと、呆れながら言って来る。
「話しにならないな。ここに居る人達は皆、何ヶ国語も話せるんだぞ?俺も含めて・・・。会長の言う通り、黒木は字幕職人としては要らないな。」
黒木は握り締めた拳を翳したまま、驚いた顔をし、パックリと口が開いてしまう。
「そうねぇ・・・。黒木には雑用の全てをやって貰おうかしら。買い出しと掃除と、私の肩揉みとか・・・全て。元々只のお手伝いさんなんだし、そうすれば、白澤君も赤城君も他の事に専念出来るでしょう?あぁ、でもドリンクの作り方位は、ちゃんと全部覚えてね。」
言い終えた後ニッコリと微笑む黄美絵先輩に、黒木の口は更にパックリと開き、不満気に訴えた。
「自分そこまで馬鹿じゃないッスよ!例え一般試験入学者でも、一応合格した身なんッスから!翠だって、そこまで何ヶ国語も話せるって訳じゃないだろっ?」
パッと横に座る翠ちゃんの方を向くと、翠ちゃんは体をモジモジとさせながら、言い難そうに遠慮しがちに答えた。
「え・・・?あの・・・私は・・・4カ国語程なら・・・。暇潰しに勉強していたから・・・その・・・。」
期待外れの翠ちゃんの回答に、黒木の顔は一気に暗く沈んでしまう。
「成績推薦入学者なんか・・・嫌いだ・・・。」
黒木はボソリと言うと、そのままガックシと首をうな垂れた。翠ちゃんも黒木に申し訳なさそうにし、顔を俯けてしまった。しかしそんな翠ちゃんの言葉を聞いた会長は、嬉しそうな顔をして元気よく言い出す。
「そうかっ!翠は4カ国語話せるのか!うん、流石我が同好会メンバーになろうと言うだけの事はある者だ!それ位優秀でなくてはな!」
会長の『優秀』と言う言葉に、更に黒木の心は傷付いてしまう。黄美絵先輩はクスリと笑うと、会長の変わりに翠ちゃんだけに、説明の続きをし始めた。
「それから、上映会の時は入場料を貰うから、その時のお金の管理にだけは気を付けてね。後で計算が合わないと面倒だし、他校や一般客の低俗の人達の中には、盗もうとする人も居たりするから。」
黄美絵先輩にそう言われると、翠ちゃんは俯けていた顔をゆっくりと上げ、首を横に傾げた。
「入場料を・・・貰うんですか?」
「えぇ、そうよ?同好会の活動費はそこから出ているから。他にも販売をしたり、他の部や同好会に機材の貸出料として貰ったりはして補っているけれども。」
顔をニコニコとさせながら淡々と言う黄美絵先輩の話しに、翠ちゃんは白澤君も気付かなかった、当たり前でもあり、当然とも言える疑問をぶつけた。
「あの・・・それって、違法なんじゃないですか?確か、お金を貰って勝手に上映をしたり、販売をするのは・・・著作権法で引っかかるんじゃ・・。」
翠ちゃんの話を聞き、今初めてその事実に気付いた白澤君は、目を真丸くさせ突然慌て始めた。
「そっ!そうだっ!そう言えば、そうじゃないですかっ!今まで他の事が濃すぎて気付かなかっけど、それって思いっ切り犯罪じゃないですか!」
アタフタとする白澤君を余所に、黄美絵先輩も会長も、落ち着いた様子で言う。
「まぁそんなに慌てるな、白澤。心配しなくとも、販売をしている物はこちらで正規に購入した物だ。まぁ、ちょっと金額は上乗せしてあるがな。」
「それに、上映している作品は、物凄くマイナー映画ばかりだし、制作者側にはちゃんと許可を取ってあるわよ?」
そんな2人の言葉を聞いた翠ちゃんと白澤君は、ホッと肩を撫で下ろした。
「な・・・なんだ・・・。そうだったんですか・・・。なら最初からそう言って下さいよ。危うく犯罪に加担させられるかと思っちゃったじゃないですか・・・。」
ハァ・・・と溜息を突くと同時に、一気に体の力が抜けると、白澤君はそのままソファーの背にもたれた。
「それに制作者側は、こちらで上映をしてくれれば、ネット購入者が増えるかもしれないからって、結構喜んでいるのよ。まぁ当然、私達が上映する物と違って販売されている物は、字幕も吹き替えも無いけれども、購入されれば、こちらの物ですものねぇ。」
クスクスと笑う黄美絵先輩に、白澤君は口元を引き攣らせながら言った。
「それって・・・有る意味悪徳商法ですね・・・。」
「宣伝活動と言って欲しいな!」
会長がムスッとした顔で言うと、白澤君からはまた溜息が零れる。
「はぁ・・・なんだかよく分からないけれど・・・凄いんですね。そんな、その・・・制作者側から許可とか貰えるなんて・・・。只の学生なのに・・・。」
唖然とした顔で言う翠ちゃんに、白澤君は黄美絵先輩のコネにつて、適当に気だるそうにしながら説明した。
「あぁ・・・黄美絵先輩に、海外にそう言った事を頼める知り合いが居るみたいなんだよ・・・。たまに海外で公開し始めたばかりの映画とか、それで取り寄せてるみたいだし・・・。」
「あぁ・・・そうなんですか・・・。黄美絵先輩は、国際的で凄い方なんですね。」
関心をしながら言う翠ちゃんに、白澤君は自分の発言にしまったとハッと気付き、慌てて黄美絵先輩の方を見た。黄美絵先輩は微笑んだまま、「ありがとう。」と一言だけ言う。そんな黄美絵先輩の姿を見て、白澤君はホッと安堵する。
(よかった・・・無意識に黄美絵先輩の事を勝手に話してしまったから、首絞められるかと思ったけど・・・大丈夫そうだ・・・。多分翠ちゃんの突っ込む所の違う感想のお陰・・・かな・・・?)
安心をする物の、まだどこか不安だった白澤君は、話題を逸らそうと、入会試験について会長に言い始めた。
「それより会長っ!入会試験の説明を、詳しくしてあげた方がいいんじゃないですか?ほらっ、3日間となると、その間授業も受ける事が出来ないですし・・・。」
白澤君の話に、会長はあぁ・・・と思い、今度は入会試験について説明をし始める。
「それもそうだな。まぁ翠は1日だが、その間の授業の事は心配するな。我が学園は知っての通り、最低出席日数は少ないからな。お前達それぞれの担任には、僕から伝えておく。それから入会試験で観る映画だが、好きな物を選んでいいが、まだ観ていない作品じゃなきゃ駄目だ。明日視聴室内を説明するが、中にトイレも設置されているし、食料も飲み物も沢山あるからな、終わるまでは部屋からは出られない。外から鍵を掛けるが、防音壁だから緊急事態が起こった場合は、携帯で警備室にでも電話しろ。合い鍵を警備員に預けておくし、電波はちゃんと届くんだしな。だから充電器は忘れずに持って来いよ!」
恐ろしい事をサラリと言う会長に、黒木と翠ちゃんは慌てて質問をし始めた。
「ちょっと待って下さい!自分は授業ちゃんと受けないと、付いていけなくなるッスよ!補習とかってないんッスか?」
「あのっ!外から鍵を掛けるって事は・・・黒木君と2人きりで防音壁の中で、監禁されてしまうって事ですか?け・・・警備員の人とか・・・夜中にコッソリ襲いに来たりとかって・・・しませんか?」
2人の質問に、会長は至って落ち着いた様子で、淡々と答えた。
「心配するな。黒木に関しては、補習授業は無いが、その間の授業内容は白澤がキッチリノートに取って置いてくれる。翠に関しては、鍵を預ける警備員は長年務める長だから、信頼も厚いし何より老体だ。それに黒木と一緒なんだから、余計安全だろう?黒木は・・・赤城にしか興味が無いんだし、お前を襲う事は100%無いだろう!」
それを聞いた黒木と翠ちゃんはホッと安心するも、翠ちゃんはそれが悲しくも思えた。
(100%無い・・・。私を襲う事は・・・100%無いって・・・ハッキリ言われてしまった・・・。なんだろう・・・この女として悲しい気持ちは・・・。確かに黒木君は拓実先輩しか見えていないし、どちらかと言うと女の子を恐れているけれど・・・。そこまでハッキリ言わなくても・・・。逆に襲われない事が悲しい・・・。)
そして涙を滲ませながら俯いてしまた。
会長の話を聞いていた白澤君は、勢いよく立ち上がると、物凄く嫌そうな顔をして意義を唱えた。
「異議有りっ!会長っ、なんで俺が黒木の為に、授業内容をノートに取らないといけないんですかっ?そんな義理は有りません!黒木が馬鹿なのがいけないんですっ!」
力強く言い放つと、ジッと黒木の顔を睨みつけた。すると黒木も立ち上がり、白澤君の顔を睨み付け、不満そうに言った。
「自分も、こんな奴に恩を受けるのは物凄く嫌ッス!でも翠も1日は授業受けられないし、他に同級生で頼める奴なんか誰も居ないし・・・。自分は1日でも授業内容が抜けると、付いていけなくなってしまうんで・・・。白澤!物凄く嫌だけど、せめて翠が居ない1日だけでも、ノート取っといてくれよ・・・。物凄く嫌だけど頼む・・・。」
仕方なさそうに頼んで来る黒木に、白澤君は更に嫌そうな顔をし、腹を立てながら言った。
「おい黒木っ!さっきから物凄く嫌とか連発してるけど、俺はその100倍物凄く嫌だぞっ!そんなに嫌なら、他にノート取ってくれる人を自分で探してお願いしろよ。可愛い顔したお前に頼まれれば、皆喜んで受けてくれるんじゃないのか?」
「かっ・・・可愛いとかって言うなよ!い・・・いいよじゃぁ・・・。1日位、なんとか頑張って乗り切りってやるから・・・。翠、残りの授業、お前ノートに取って置いてくれないか?」
黒木はソッポを向くと、今度は翠ちゃんに頼んだ。俯けていた翠ちゃんは、チラリと黒木の顔を見ると、戸惑いながらも言う。
「え?あの・・・別に構わないけど・・・。正確には1日と半日分の授業しか無理だけど・・・それでもいいなら・・・。」
「え・・・なんで1日と半日分なんだよ?お前は1日だけだろ?」
不思議そうに黒木が聞くと、翠ちゃんは申し訳なさそうに答えた。
「あの・・・丸1日起きて映画を観続けていたら、流石に力尽きて寝ちゃうと思うから・・・。頑張って起きても、午前中の授業は寝ちゃってまともに受けられないと思うし・・・だから・・・。」
翠ちゃんにそう言われると、黒木はハッと気付き、顔を真っ青にさせた。
「え・・・?ちょっと待てよ?1日は24時間だから・・・自分の場合それが3日間って事だろ?って事は・・・えっと・・・。」
頭の中で必死に計算をする黒木に、白澤君はハァ・・・と溜息を吐くと、呆れた顔で言った。
「72時間だよ。お前、女の子の翠ちゃんにそんなに無理させるなよ・・・。それにお前の場合は、終わる日は土曜日の朝だから、そのままグッスリ寝れるけど、翠ちゃんは普通に登校日なんだぞ?本当なら家に帰ってゆっくり寝る事だって出来るのに・・・。お前の為に無理して授業受けさせるのか?」
白澤君の説明を聞いた黒木は、顔を青ざめさせたまま、申し訳なさそうに、頭をその場で下げながら翠ちゃんに謝った。
「わっ悪い翠・・・。そうだな、お前にそんな無理させてまで、頼めないよな。」
「いっ、いいの別に・・・。元々私のせいなんだし、私はこれ位身を削ってでも頑張らないと・・・。」
そんな翠ちゃんの言葉に、黒木は更に申し訳なさそうな顔をし、何度も謝り始めた。
(また翠ちゃんは・・・。自虐的発言で更に黒木を追い詰めて・・・。)
またもハァ・・・と溜息を吐くと白澤君。
「まぁそう言う事だから、白澤!お前がノートを取れ!これはリーダー命令だぞ!」
改めて会長が言うと、白澤君も改めて露骨に嫌そうな顔をした。
「えぇ~・・・嫌ですよ会長・・・。なんで俺が・・・。」
すると会長は、不機嫌そうに顔をムスッとさせ、力強く言い放つ。
「お前と黒木は仲が悪すぎるっ!確かに原因はいきなり殴った黒木に有るかもしれんが、それはメイドさんとして働く事で良し!とされただろ?少しは許す心を持て!それに黒木っ!お前もだ!白澤に嫉妬するのは分からんでも無いが、白澤は赤城の事を愛している訳ではないぞ!2人は只の仲良しさんだ!見苦しくいつまでも嫉妬を向き出しにするな!」
2人に喝を入れる会長は、珍しくリーダーらしい事を言い、頼もしく感じた。しかしチンマリとした背に可愛らしい顔で、所々可愛らしい発言が交じっていた為か、小さい子供がペットにめっ、と叱っている様にも見え、周りはホンワカとした気分になり癒されてしまう。
(何・・・?この可愛い小動物・・・。)
ずっと沈んでいた翠ちゃんの目は、突如キラキラと輝き出した。そんな翠ちゃんに気付いた黄美絵先輩は、ニヤリと笑い、そっと翠ちゃんの耳元で囁く。
「貴女、可愛い物が好きなのねぇ・・・。黒木が知ったら、嫌われてしまうかもしれないわね。」
突然耳元から聞こえて来た黄美絵先輩の言葉に、翠ちゃんの胸は一瞬跳ね上がり、一気に顔色は真っ青に変わってしまう。そしてゆっくりと声の聞こえて来た方を振り向くと、赤城先輩と同様、いつの間にか翠ちゃんのすぐ真後ろから、そっと顔を覗かせる黄美絵先輩の姿が有った。翠ちゃんは、隣で立ち上がったまま会長の姿に釘付けになっている、黒木の存在を気にしながら、コッソリと黄美絵先輩に言った。
「き・・・黄美絵先輩・・・。何の事でしょうか・・・。私にはサッパリ・・・。」
恐る恐る言う翠ちゃんを見て、黄美絵先輩は更にニヤリと笑い、小声で囁く。
「いいのよ?隠さなくても・・・。私はちゃぁ~んと分かっているから。ねぇ・・・今日は一緒に帰りましょうね?」
そう言ってニッコリと笑う黄美絵先輩に、翠ちゃんに拒否権等無く、無言で何度も頷いた。
(終わった・・・終わったわ・・・。私の人生・・・きっともうここで終了なんだ・・・。)
しくしくと静かに泣くと、赤城先輩と同じ様に体操座りをし、顔を埋めて固まってしまった。
黄美絵先輩はそっと元の席に戻ると、何事も無かったかの様に、揉め続けていた黒木の授業ノートについて、提案をした。
「こう言うのはどうかしら?わざわざ黒木の為にノートを取るんじゃくて、白澤君が自分のノートに取った内容を、見せてあげると言うのは。そうすれば、白澤君も手間ではないでしょう?」
ニッコリと笑って優しく言った黄美絵先輩の提案を、白澤君はバッサリと切り捨てた。
「すみません、黄美絵先輩・・・。俺ノートとか取ってないんですよ・・・。そんな事しなくても覚えられるし、大事な事は直接教科書にメモってるんで。」
ニッコリと笑っていた黄美絵先輩の口元が一瞬引き攣ると、黄美絵先輩は白澤君の方を向き、笑顔を固めたまま静かに言った。
「白澤君、貴方はちゃんと黒木のノートを取ってあげなさい。これは副リーダーの命令です!」
白澤君は背筋をゾッとさせると、「はい・・・。」と一言だけ言って頷いた。
「よしっ!これでこの問題は無事解決だ!これを機に、白澤と黒木は仲良くなれ!我が同好会は、どこよりも仲良し同好会でなくてはならないんだ!」
会長が嬉しそうな顔をしながら叫ぶと、また親指を上にグッと上げた。
「結局会長は、そこに辿り着くんですね・・・。」
白澤君はガックシと首をうな垂れると、力無く言った。黒木は白澤君に助けられる事への不満を感じながらも、取り合えずはよかったと一安心をする。
「と言う事で、黒木と翠は、明日は登校したら、すぐにこの部室まで来る様に!お泊りセットもちゃんと忘れずに持って来いよ!それからお家の人にはちゃんと話してから来いよ!白澤は3日間の黒木用授業ノートの製作!黄美絵は明日、2人に視聴室の説明をしてあげてくれ!朝一で悪いがな。僕は明日朝一で、2人の担任と警備員の長に、説明をしに行って来る!赤城は・・・あぁ・・・赤城はいいか。よしっ!分かったか?皆の者!」
元気よく会長がそれぞれに指示を出すと、白澤君と翠ちゃん、黒木は「はい・・・。」と力無く答えた。黄美絵先輩は、ニッコリと微笑み頷く。
「よしっ!では本日は解散だ!」
会長が終了の合図をすると、皆一斉に溜息を吐いた。