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追放された「効果不明」のエンチャンターは、隣国で計測不能と言われる  作者: まる


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第二十八話 ガルディアの焦り

ガルディア王城。


 国王イグノスが、外務大臣のタールを呼んだのは、夕刻だった。


 王の執務室は、いつもは整然としているが、今日は書類が乱雑に積まれていた。それだけで、王の苛立ちが見て取れた。


「冒険者の質の低下報告が、また来た」


「拝見しております」


「三ヶ月連続だ。商人組合から直訴状が来た。護衛の質が落ちて、輸送コストが増加している。それに対して、どう答えるか」


「施策としては、訓練強化と、新規冒険者の登録奨励を」


「それは先月も言った。効果が出ていない」


 タールが、少し間を置いた。


「アインの問題が根本にあることは、陛下も承知の通りです」


「分かっている。だから対処を求めている」


「外交的な手段は、アルヴェインに正式に拒否されました。非公式の打診も、侯爵家が即座に却下しています」


「他の手段は」


「強引な手段は、両国関係を損ないます。現在の条約関係を考えると」


「条約など、更新しなければいい」


「陛下」


 タールが、少し声のトーンを変えた。


「条約を破棄すれば、国境地帯の魔物対応が、双方にとって不利になります。ガルディアの冒険者の質が落ちている現状で、国境の対応を一国で担うのは、現実的ではありません」


「では、条約を交渉の材料にしろ。条約の内容を見直すと言えば、アルヴェインも交渉に出てくるだろう。そこで、アインの身柄を条件として出す」


「……それは、かなり強引な手です」


「強引でも、効果があればいい」


「効果があるかどうかが問題です。アルヴェインのヴォルドハルト侯爵は、賢い人間です。交渉の裏を読みます。アインの件が目的だと気づいた時点で、交渉を有利に進めてきます」


「それでもやれ」


 タールが、一礼した。


「承知いたしました。ただし、想定外の展開に備えて、撤退の基準を決めておくことをお勧めします」


「撤退など、考えるな」


「陛下、策の失敗は損害を広げます。出口を持った策のほうが、長持ちします」


 イグノスが、少し黙った。


「……分かった。条件を詰めて、提案書を作れ。三日以内に持ってこい」


「御意」


 タールが退室してから、イグノスは窓の外を見た。


 夜の王都が見える。街灯が並んでいる。


 三ヶ月前まで、この街の冒険者たちは、もっと良い仕事をしていた。


 一人の補助員を追放したことで、こうなった。


 それが、王の判断の問題ではなく、ギルドの判断の問題だということは、分かっている。でも、国王として、対処する義務がある。


 イグノスは、ため息をついた。


 あの男は今、何をしているのか。


 その答えが、アルヴェインから届いた情報の中にある。王国付与魔法師として公式登録、師団遠征で記録的な成果、S級冒険者との深層攻略。


 向こうで、活躍しているらしい。


 自国で三年間、「効果不明」と言われ続けた男が。



◇



 数日後、ガルディアから、正式な文書が届いた。


「魔物討伐協定の再交渉要請」。


 ライナード侯爵が、その文書を受け取り、一読してから、書斎で長い間、黙っていた。


 夕食の席で、レイアに言った。


「ガルディアから、条約の再交渉申し入れが来た」


「予測していましたか」


「半分は。条約を手駒に使ってくることは、考えていた。ただし、今回の文書には、表向きの内容だけで、裏の条件がまだ明示されていない」


「次の手順が来るまで、待てということですか」


「そうだ。ただ、読み方としては、条約交渉を始めて、席についてから本題を出してくる。その本題に、アインが含まれている可能性が高い」


 俺は、その話を、少し離れた席で聞いていた。


 俺一人のために、また、国と国が動こうとしている。


 三年前、荷物番だった俺を巡って。


「アイン」


 侯爵が、俺を見た。


「はい」


「今回は、あなたにも状況を伝える。前回は伏せていたが、今回は当事者として、知っておいてほしい」


「……ありがとうございます」


「怖がる必要はない。こちらで対処する。ただ、あなたが何も知らないまま、事が進むのは、良くないと判断した」


 俺は、頷いた。


 当事者として、扱ってもらえる。


 それは、少し怖いことでもあったが、それ以上に、信頼されているという実感があった。


 三年間、俺は、何も知らされない立場だった。パーティの方針も、依頼の内容も、いつも後から知らされるだけだった。


 でも今は、違う。


 俺は、当事者だ。


 この件の、当事者として、ここにいる。

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