宗教が霊を襲う事故物件
集まったのは四人の若者。国籍がバラバラであり宗教もバラバラ。
そしてこの場所はフランスのボルドー。そこに最悪の事故物件と呼ばれる一軒家。
霊が現れ人を襲うからお祓いできるのならば助けてほしい。そんな悲痛な不動産業者の言葉。そんな物騒なもの近づきたくもないのが常だろう。しかし人が集まらず不動産業者によ。甘い誘いがつけ足された。
『この家の霊を祓えたら賞金が出る』
常に金欠の若者が食いつかないわけもなかった。
「何はともあれ自己紹介からしようか」
四人は英語で会話をする。最初に口を開いたのはイギリス人の男性【アラン・ヒース】
「僕は信仰とかしてないけれど強いて言うならスピリチュアルかな?」
クスクスと笑う男。
次に口を開いたのは日本人女性の【古谷仁奈】
「あ、その…私は神道と仏教…普通に…日本人ならみんなそう…」
「日本って無宗教じゃないの?」
「あ?」
その言葉に古谷が振り向いた。
と付け加える古谷にアメリカ人男性【サビオン・ジョンソン】は固まった。
「なんかごめん…」
「い、いえ…すみません…こちらこそ声を荒げて…」
咳払いをして最後の一人スイス人女性の【コレット・マイヤー】が自己紹介をする。
「サビオンはキリスト教のプロテスタント。わたくしはカトリック。その辺間違えないように」
プロテスタントは聖書を信じイエス・キリストのみを信仰する。カトリックはローマ教皇と聖書を信じイエス・キリストのみならずマリアや聖人、天使も崇敬する。
「あ、はい」
宗派による違いは仏教にもあると古谷は納得した。ぶっちゃけ日本人にとって宗派の違いはあまり重要には感じないが。
「所でさ、この家どうするよ…俺としちゃあ早く祈って終わらせたいね」
サビオンはゴソゴソと聖書を取り出した。
「じゅ、準備してきますね〜」
「わたくしも荷物を整理してきます」
それぞれ部屋をあてがい自分の荷物を整理しに向かう。廊下はギシギシと音を鳴らしあまり手入れがされてないのが分かる。
部屋に入った古谷は肩の荷を下ろし吐き捨てるように愚痴る。
「日本って調べて神社と寺が目に入らない目をしてるのか?そもそも日本には皇室があるだろう。神道のトップだぞ。」
「あークソ」
本人を前に口に出せないのが悔しい。性格的にひよってしまう。日本語で愚痴を吐くがすぐに深呼吸をする。こんなことしてはいけない。自身の為にならない。落ち着いて務めてにこやかに。
一方コレット
「不必要なものと必要なもの…」
それぞれバッグの中で小分けして包んでいたからすんなりと準備が終わった。しかし部屋に入る必要も無かった。古谷の動きに流されてしまった。
戻ってきた古谷とコレットが目にしたのはザビオンとアランがおやつを食べている光景。そしてアランがスピリチュアルを解説している様子。
「チャクラってのが…アニメで見た?なら次は守護霊…え?それもアニメで…?」
ザビオンはアニメで聞いたとはしゃいでいる。少し違う気もするが。
「クラシック音楽には良い周波数があってね…」
尚も続くアランのスピリチュアル講座。
「よく見かける数字はエンジェルナンバーと言って…」
「なにそれカトリック?」
「違いますって─」
ザビオンの言葉にコレットはすかさず否を唱える。その瞬間
─ドガン!!
「ひゅぅ…っ!?」
古谷が肩を跳ねさせる。
「ポルターガイストか?」
「ラップ音じゃないかい?」
「デカすぎますが?」
口々に推理をする。
「何?怖い?」
「音にびっくりしただけ!大きい音はびっくりするものだよ!」
コレットの言葉に古谷は怒りを顕にする。怖くない。音にびっくりしただけというのは事実。仏の守護があるなら身に危険など及ぶはずもない。
古谷は改めて資料を手に取る。
『シングルマザーと子供二人の無理心中』
そして無理心中は風呂場で起きた。
「水場…役満すぎる…」
「水場だからどうということはないでしょ?」
宗教観の違いだろう。日本人は水場は汚れが溜まるとか良くないと言い伝えている。
『音だけではなく中にいる人も怪我をするなど被害は甚大』
しかし集まった四人は宗教により覚悟がキマった若者。つまり怖いものなどない。
「それじゃあ早速霊が久々の客に舞い上がり切る前に終わらせようか」
アランの言葉に奮い立てられ各々が準備を始めた。
暫し古谷とコレットがお祓いに使う道具を並べ始めたが…アランとザビオンが目にしたのは
「アフタヌーンの退魔パーティー?」
「なんか強そう」
カトリックのロザリオと祈祷書、更にには聖ベネディクトのメダイが並べられる。神道のお守りに仏教の数珠も
がいくつもクリスマスのごとく家中にに飾り付けられていく光景だった。
しかしそれでは終わらない。
「霊には酒が効く。フランスのお酒で良いか…。玄関に撒いてくる。後塩も粗塩とかね。四隅に…」
「聖水も一緒にかけようか」
古谷とコレットが部屋の至る所で除霊を開始した。
室内がビチャビチャになってる。お酒臭い。
─ゴトン、ガシャ…
ポルターガイストなのか物が落ちているがそんなのもう気にならなかった。
「神道のお祓いと仏教の真言宗の真言宗流すか…」
一つのスマホでお祓い動画、もう一つの動画で光明真言に大日如来真言、不動明王真言がメドレーになり流れ始める。
「なんか宇宙と繋がる波動も流そうか。生は強いからね」
「聖書唱えるか…イエス・キリストの御言葉があればなにも問題はない。」
プロテスタントは聖書を信じる。特別なものはいらない。
プロテスタントの祈りの言葉
カトリックのミサの祈りの言葉
仏教の真言宗の真言
神道のお祓いの動画
スピリチュアルの空気浄化と宇宙と繋がる波動。
この風呂場が大変やかましい状況だ。幽霊じゃなくても逃げ出したくなるだろう。
更にアレンは交響曲第九番『歓喜の歌』を流し始めた。
女と子供の声が聞こえている。最初は子供のはしゃいでいた声が悲鳴や泣き声に変わる。そして女性の怒鳴り声。
しかし怯えていた古谷や怯えていない他の面々は勇んで除霊を続けていた。
自身の信仰するものが守ってくれるのだと信じて疑わない。それが何よりの力になっていた。
家が軋みあり得ない現象が止んだ。
女と子供の声は負の感情から来た声から穏やかな笑い声に変わり胸をざわつかせる嫌な雰囲気も消えた。
「救われたんだ…やはりキリストは偉大だ…」
「異論無し」
キリスト教2人の言葉に待ったをかけた。
「いや、それは良いけれど仏と日本の神もね…?」と付け加えようとしている。
「何だろうが人間が1番頑張ったんだが」
とアランのヘラヘラした声。
この家は祓われたのか一応確認しようと回る。
すると数珠が弾け飛び盛り塩が変色している。酒くさいのは変わらないが。
「聖ベネディクトのメダイに傷が…」
霊が抵抗したのか戦いの痕跡はあった。しかし4人とも無事。勝ったと言うことだろう。
「ふ、ふふ…勝利の祝賀会開こうよ…」
古谷の言葉に3人は頷く。
数日後霊が祓われたと家主が納得したようで賞金が渡された。しかし四人で分けることになりお金はそれなりにしか手に入らなかったが…縁は出来た。
偶然四人で同じ日にお祓いをした仲だ。信仰する宗教も違う。だが戦仲間として友情が築かれていた。
人とは不思議なものだ。出会って間もないのに同じ敵を前に戦うと長年の友のように感じてしまう。
「怖くなかった?」
「全然?」
「だよねー」
アランの質問にコレットは平然としている。主が守ってくれるからという絶対的な信頼。サビオンもまた怖くないと返す。
古谷は(やっぱり人間が一番怖いってオチかよ)
と内心苦笑いした。生きてる人間の覚悟は恐ろしい。良い方に働いて良かった。
それから数日
この事故物件はお祓いの後直ぐに売れた。元々家自体はかなり広く気に入る人も出るのも納得だ。心理的瑕疵で霊が出るとなると手が伸び悩むのもやむなしだった。事故物件も解決し若者達は端金と共に祝賀会の為にフランスの観光地へ繰り出したのだった。




