一度寝た相手とは二度と会わない遊び人の、友達と。
ショウさんとは、友達になって3年になる。
出会った場所もゲイバーでお互いそうなんだと知っていたし、ショウさんは中でも有名だった。
来るもの拒まずで、特定の相手は作らない。
だけれど一度寝た相手とは、次は絶対にない。
会うどころか、顔も合わせてくれないそうだ。
なのに、彼と一晩だけでもという人が次々に立候補している。
顔がよくて、特に愛想がいいわけでもないけど、きゃあきゃあできる相手としてアイドルみたい存在で、目立つなあというのが印象だった。
俺が知っていることといえば、みんなが知っていることと同じくらいで、歳は5か6個下で、気安い飲み友達だということくらい。
「お兄さん、はじめて見る。一緒に飲んでもいい?」
そう言って声をかけられて飲んだ時、思いの外楽しくて、俺はショウさんとは一線を越えないとこの時決めた。
単純に気が合って、この関係をなくしたいとは思えなかった。
友達なら次も約束できるし、飲んだり遊んだりする1人になっていった。
ショウさんにとっても、俺はタイプじゃないみたいだし、ちょうどよかった。
「タイキさん、飲み過ぎ」
「あはは、楽しくてつい」
「ほら、家着いたよ」
「んあー、ごめんね送ってもらっちゃって」
「そんなフラフラしてたら危ないもん」
「君はみんなが騒ぎ立てるより優しいねえ」
「なにそれ」
不服そうな顔に歪めてもかっこいいもんなあと思いながら、その頭を撫でた。
「ありがとう、助かったよ」
「…タイキさんのたらし」
「ショウさんには負けるよ」
家の前でなんとか鍵を探し出した。
それから財布も出して、万札を出した。
「こんなところまでごめんね。タクシー代足りる?」
「いいよ、勝手に送ってきただけだし」
「だめだめ、俺はショウさんより年上なんだから」
「急にガキ扱い」
「違うよ、大事な友達をこんな遅くに帰すことになっちゃったんだから」
酒で締まりのない顔になっているなあと思いつつ、ショウさんの手に札を握らせる。
「それに、誰かお持ち帰りしたかったかもしれないのに、結果邪魔しちゃったからねえ」
「……俺を、送り狼にはさせてくんねえの?」
一瞬間ができて、見上げるとその目が揺れているように見えて、ふふっと笑ってしまう。
「ショウさんには、させないかな」
さっきのように、今度は頬を撫でる。
その肌は思ったよりも柔らかくて、吸い付くようだった。
ショウさんがそのまま何度も大人しく撫でられているから、可笑しくて声を出して笑った。
「くっふふ、そんなに睨まなくてもいいのに」
「タイキさんって、寝る相手だとこんな感じになるの?」
「んー?恋人だったら甘やかしたいかな」
「……俺は今どういう状態?」
「あれ、甘やかしているね?」
夜風に吹かれるままに首を傾げると、見えていた月が揺れて、その代わりきつく抱き締められていた。
「……俺じゃダメなの?」
掠れた声が耳元で聞こえて、酒で回った頭に響いてくるようだった。
「だめ」
「どうして」
「ショウさんとは、長い付き合いでいたいから」
自分でも迷いのないしっかりとした声が出て、少しびっくりする。
顔を覗き込まれて、月を背負うショウさんのさっき撫でた頬の輪郭がグッと濃くなった。
「君と飲んだり遊んだりするのは楽しいからね。この関係をなくしたくないんだよ」
「……俺はもう友達やめたい」
「それは、しょうがないね。今日までありがとう」
「なんで」
「なんでって…」
「俺はタイキさんの恋人になれない?」
ショウさんがよくする不機嫌そうな表情が泣きそうに見えて、一気に酔いが覚めるようだった。
えっと、聞き間違い…?
「………………恋人、なりたいの?」
「さっきからそう言っていると思うんだけど」
「ショウさんは特定の相手を作るの、嫌なタイプじゃなかったっけ?」
「あれは、人より性欲が強い自覚があるから」
「?」
「一度きりの相手の方がどれだけ求めても罪悪感ないでしょ。恋人作るとずっとしたくなるし、そのうち嫌がられるようになるってわかってるから」
「それは、はじめて、聞いた…」
瞬きをして、ショウさんの顔をじっと見てしまう。
夜風の温度が変わったのかと思うほど、顔周りが冷えていく。
だけど、抱き締められたままのところは、ずっと熱い。
「タイキさんの恋人になれるなら、ちゃんと頻度は合わせるし、我慢もするよ」
「それは、よろしくない気が」
「タイキさんの一番になれる方が大事」
そう言って、苦しそうに俺の肩におでこをぐりぐりくっつけてくる。
みんなのアイドルくんが、執着してくる様子は、なんというか現実味がなかった。
「いつから、それ思っていたの?」
「……それ、訊く?」
嫌そうな声がすぐそばから聞こえて、鳩尾あたりがぞわぞわしてくる。
「いや、意外というか、衝撃というか、君とはそうならないように気をつけていたから」
「だから、いつも一線引かれてたんだ」
「ショウさんは、一度相手した人は見向きもしなくなるってみんな言ってたし」
「俺がこんなに懐いてるの、タイキさんだけだと思うけど?」
そう言われると、そうかもしれない。
「俺じゃ嫌?」
「こんな年上でいいの?」
「タイキさんがいいの」
「明日になったらやっぱなしとか、なしだからね?」
俺の言葉にハッと顔を上げたショウさんを見て、いつもより素直で可愛くて、また頭を撫でた。
そのまま頬、首と手を下ろして、その首を指先で辿った。
ビクッとしたショウさんは熱っぽい目でこちらを見ていた。
それを見て、俺はもう一度笑った。
「じゃあ、送り狼になってもらおうかな」
彼の腰に手を回すと、ショウさんはようやく普段の顔に戻って頷いた。
月に照らされるショウさんは、いつもより美しかった。
了
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