僕の生きる理由
僕は自殺志願者だった。今まで人生を生きてきて、良いことなんてなかった。
親は僕のことを捨てていた。育児放棄というやつだ。
周りの人間はそんな僕を嗤った。蔑んだ。苛めた。
友達と言える人も一人も居なかった。助けを求められる人もいなかった。
自殺なんて、今の世の中法律も認めてない絶対的悪のように言われるけど、そんなのは幸せな人生を謳歌してる人間の理論にすぎない。と、僕は思う。
僕も含めて自殺志願者っていうのは、幸せな人には到底理解できないような苦痛、苦しみ、悲しみ、苦境をかかえていて、それを統合した上で死んだ方がましっていう結論に辿り着いた人達なんだ。
だから、僕は死ぬことにしたんだ。苦しみから逃れるために。
そんな時だった。僕が彼女と出会ったのは。
彼女は僕のことを好きだと言った。こんな…僕なんかを好きだと言ったんだ。
初めてだった。他人からプラスの眼差しで見られたのも、話したのも……初めてだった。
彼女のおかげで僕は自殺志願者ではなくなっていた。
僕はどんどん彼女に惹かれていった。
彼女は僕にとって女神だった。僕たちは毎日学校が終わり、夜になったら公園のブランコで会っていた。
毎日が楽しかった。彼女と会うだけで、彼女の存在を感じるだけで…僕は幸せだった。
しかし、神様ってのはどうも僕のことを心底嫌いだったらしい。
ある日、僕はいつものように彼女の待つ公園へと向かった。
彼女に会いたかった。早く彼女に会いたかった。
しかし、いつもなら僕より早く来ている彼女の姿がそこには無かった。15分待っても、30分待っても、彼女は来なかった。僕は我慢できずに公園を出て走り出した。
彼女の家からこの公園への道を僕は知っていた。
そこを逆に行けば会えると思った。
実際、僕は彼女を見つけることができた。
人だまりの中心で、彼女は血の池の上に横たわり、血を流していた。
体は通常ではあり得ない角度に曲がり、下半身は投げ出されたように無造作に叩きつけられたように放り出されていた。それはそこで起きたことがどれだけ悲惨だったのかをこれでもかと表していた。
僕はフラフラとした足取りで、人を押しのけ彼女の元へと行った。
出ない声を振り絞り、彼女の名前を呼び続けた。
彼女に会う前の僕がまた顔を出した。生きる理由がなくなった。
彼女の葬儀は翌日行われた。僕も参加した。多分…これが僕の過ごす最後の日だろう。
「あなたが家の娘の彼氏さん…」
彼女の親が僕のとこへきた。僕は軽く会釈を返す。
「あなたに渡したいものがあるの」
そういうと僕に携帯電話を渡してきた。
この携帯電話には見覚えがあった。彼女の携帯だった。
「多分…死ぬ間際にあなたに向けて打ったものだと思うの」
携帯電話を開くとメール作成画面で、こう書いてあった。
『ごめんねわたしきょういけないやわたしのぶんもいきてわたしはあなたのなかにいつまでもいきつづけ』
平仮名だけなのと句読点がなくて、最後の方も無くてめちゃくちゃだけど読めた。
「ごめんね私今日行けないや。私の分も生きて。私はあなたの中にいつまでも生き続けるから」
僕は涙が止まらなかった。人生で初めてだった。誰かを思い、自分の為じゃなく涙を流したのは。
その日、僕に生きる理由が出来た。
どうもです。遊部です。
今回は敢えて主人公、その他登場人物の名前を書きませんでした。
登場人物の名前は読者のあなた自身できめる、または自分に置き換えて感情移入しやすくするため…のつもりです。
感想などお待ちしております。