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【鋼の青魔】鋼の肉体を持つ青魔導士~敵の技をラーニングするが、自分を最強の戦士だと勘違い~  作者: ハリネズみ


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第9話:それぞれの思惑!

 夕刻の静かな村の中で、一際目立つ存在感を放っていたのは、腕を組み、足元を小刻みに鳴らして待つエルナだった。

彼女はまるで「地獄の門番」のごとく広場の中心で仁王立ちしており、その鋭い視線はトオルたちが視界に入るや否や、逃がさぬと言わんばかりに固定された。


「おかえりなさいトオル、リノ! ……って、ちょっと、そのボロボロの方はどなた? まさか、道中で野蛮人でも拾ってきたんじゃないでしょうね?」

 エルナは呆れたように腰に手を当て、トオルの背後にいるカイルを不思議そうに、かつ警戒を込めて見つめた。

西日に照らされた彼女の勝ち気な瞳と、ふわりと広がる豊かな髪。その躍動感あふれる姿を真正面から捉えた瞬間、カイルは思考が停止し、思わず息を呑んだ。


「(な、なんだ……この女性は……。凛とした佇まい、太陽のように暖かく眩いオーラ……なんて美しいんだ。

 これまで見てきたどんな高貴な令嬢よりも、圧倒的な生命力に満ちている。泥臭い村の広場にいるはずなのに、彼女の周囲だけが神聖な光を放って見える……)」

 カイルはあまりの衝撃に、治癒されたはずの身体は、今度は別の意味で、逃れようのない深い衝撃を受けていた。

それは、防具や防護魔法では決して防ぐことのできない、一目惚れという名の「致命傷」だった。


 トオルは、いつものように感情の起伏を見せず、淡々と経緯を報告した。

魔物に襲われ瀕死の状態で倒れていたカイルを発見し、治癒魔法を施していたために、予定していた帰還時刻を大幅に遅れたことを。

「……なるほど。人命救助なら仕方ないわね。(リノとは何もなかったようで一安心……)でもトオル!」

 安堵も束の間、エルナは一転して鬼の形相となり、トオルをにらみつけた。

「人助けは立派だけど、家の補修に使う『良質な木材』はどうなったのよ!? 次の雨の日には、あんたが屋根の上で背中を盾にして雨漏りを防ぐのとでも言うのかしら?」


「(……こんな可憐で美しい人を、あんな無感情でデリカシーのない男が怒らせるなんて。到底許されることではない)」

 トオルに対して「命の恩人」という感謝と、「運命の人を困らせる敵」という矛盾した感情がカイルの中で渦巻く。

その瞳の奥には、一瞬だけ鋭く禍々しい闇属性の魔力が宿ったが、トオルはまったく気づく様子もなく

「悪い、木材調達は再調整リスケだ。また明日行く」と、極めて事務的な回答を返すだけだった。


「ダーリン、またリノがお手伝いします。木材だけでなく、リノのことも……いいえ、身体の隅々まで調達してくださって構いませんのよ?」

 トオルの袖をぎゅっと掴み、口を尖らせ、潤んだ瞳で熱っぽく見上げるリノ。

彼女にとってカイルの感情やエルナの剣幕などは些末な問題であり、ただトオルの意識を自分だけに向けたいという、狂おしいほどの純粋な恋心しかなかった。


――数日後。

新たに人員が加わり、家の補修プロジェクトは完了した。

カイルはトオルに命を助けられた恩義を返すため、そして何よりエルナに良いところを見せるために、スマートな見た目にそぐわず懸命に働いたのだ。


 そして、ある夜、焚き火を囲み、酒を片手に、今後のキャリアに関する議論が始まった。


「私は、黄金竜ゴールデン・ドラゴンの探索を再開したいわ」

 エルナが火を突きながら切り出した。

「おかげさまで、村は一定の再建を成し遂げることができました。次は、より本格的に資金を蓄え、村をさらに良くしていきたいと考えています」


「……現実的ではないな。ドラゴンの生態系や生息域は不明瞭で広大だ。今の我々のリソースでは、ターゲットを発見する前にこちらの活動資金が尽きる。プロジェクトも完了したことだし、俺は大きな街でギルドの依頼クエストをこなし、生活資金の確保と安定した住環境を整えたい」


 トオルの要望リスエストに対し、エルナはぐうの音も出ず沈黙する。

 エルナの本音を言えば、ドラゴン探しは半分建前で、本当は「トオルを逃がしたくない」という一点に尽きていた。

この規格外の男との契約コネクションをここで切ってしまえば、二度と手に入らないという焦燥感があった。

「……まあ、そうね。冷静に考えれば、あんな伝説の化け物がその辺の藪にゴロゴロ転がってるわけないわ。長期戦を覚悟するなら、まずはアージェンの街で仕事を探すのが定石ね。もちろん、ギルドの手続きは私がエスコートしてあげるわ」

「ダーリン、リノはたとえその先が地獄の底であろうと、喜んで同行いたしますわ」


 最後に、複雑な表情で議論を見守っていたカイルが、静かに立ち上がった。

「俺も同行させてもらおう。トオルさん、あなたへの恩義は、数日の仕事で返せるほど安くない。それに……」

 カイルの視線は、無意識のうちに焚き火の光に照らされたエルナの横顔を追っていた。

「……恥ずかしながら、俺も生活の基盤となる資金が必要なのでな」


「(お世話になったことを建前にしてるけど、カイルはエルナのことばかり凝視してるわね……)」

 リノが冷ややかな視線でカイルを分析するが、

トオルは「人員が増えるのはリスク分散の観点からも望ましい。パーティの負荷を平準化できるし、好都合だ」と、相変わらず血の通わないビジネスライクなコメントを呟いた。


 エルナはトオルを。

 リノもトオルを。

 カイルはエルナを。

 そしてトオルは、この異世界における自分の市場価値と立ち位置(ポジショニング)を。


 四人の想いはベクトルがバラバラのまま、一行は再びアージェンの町を目指して出発した。

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