第8話:正統派イケメン!
元盗賊団がアシュレ村の住人となったことで、村は一気に活気づいた。
しかし、長らく放置されていた空き家はどれも傷みが激しく、そのままでは冬を越せない。
トオルは、男たちを数チームに分けて、補修用の木材調達や屋根の葺き替え作業へと向かわせた。
「現場の進捗管理はエルナに任せよう。俺はリノと共に、森の奥の良質な資材を調達してくる」
トオルがそう告げた瞬間、リノが「やったぁ!」と心の中でガッツポーズをしたのを、エルナは見逃さなかった。
「ちょっとトオル、なんでリノと二人っきり……」
「エルナ、君の事務処理能力と統率力はこの村の心臓部だ。バックオフィスが機能してこそのプロジェクトだよ」
トオルに真面目な顔で「信頼」を説かれ、エルナは「……ん、もう、わかったわよ!なんなのよ、プロジェクトって!」と頬を膨らませて送り出すしかなかった。
森の小道を歩きながら、リノはここぞとばかりにトオルの逞しい腕に己の胸を押し当てるように密着した。
「ねえダーリン、今の私たちって『お忍びデート』みたいじゃない?」
「リノ……君は本当に私のような年上の男がいいのか?」
トオルは、腕に伝わるリノの柔らかい感触を記憶に刻みつつ、冷静を装って問いかけた。自分は三十歳、彼女は十九歳。
社会人的な常識がブレーキをかけようとするが、目の前のリノの愛くるしい笑顔を否定しきれない自分がいる。
「何言ってるの。ダーリンほど逞しくて、優しくて、余裕のある男、他にいないもん! リノは、ダーリンだから隣にいたいの」
トオルの顔がわずかに熱を帯びる。悪い気はしない。
むしろ、このままこの空気に身を任せてもいいかもしれない――リノがさらに身を乗り出し、決定的なアプローチを仕掛けようとしたその時――。
キィィィィィィィン!
空気を引き裂くような高周波の鳴き声と共に、空から巨大な影が舞い降りた。黄金に輝く羽を持つ希少種、サンダーバードだ。
「リノ、危ない!」
トオルは反射的にリノの体を抱き寄せ、自らの背中で彼女を覆った。
直後、バチバチという激しい音と共に、サンダーバードから放たれた数万ボルトの電撃がトオルの鋼の肉体を直撃した。
「ぐっ……おお、今のは結構キタな……」
トオルの全身を突き抜ける電撃。視界が一瞬白く染まった。
(この胸の鼓動……まさかこれが、リノへの恋心なのか? ……いや、そんなはずはない。これはただの過電流による物理的な動悸だ。惑わされるな、自分)
(テロップ:スキル【サンダー】をラーニングしました)
トオルが必死に理性を保とうとする一方で、腕の中で守られたリノは、自分を盾にしたトオルの背中を見つめ、完全に目をハートにさせていた。
「ダーリン……ッ(ポッ)」
一撃を見舞って満足したのか、サンダーバードは興味を失ったように再び空へと消えていった。
「……この世界の魔物は、本当に自由な勤務形態だな。フリーランスでももっとまともだぞ」
トオルは痺れる腕を回しながら、再び歩き始めた。
木材採取の現場へ向かう道中、茂みのそばに一人の旅人が倒れているのを見つけた。
おそらく、先ほどのサンダーバードのきまぐれな電撃を受けたのだろう。
「救護する」
急いで駆け寄って仰向けにすると、そこには驚くほどの美少年が横たわっていた。
茶髪にエメラルドのような瞳、スリムながらも気品ある体格。「伝説の勇者」か「隣国の王子」かと見間違うほどの正統派イケメンである。
「……重度のショック状態か。ヒール!」
トオルが手をかざすと、青魔導士のスキルによる癒やしの光が青年を包み込んだ。
「……っ!? ……ここは……」
青年がゆっくりと目を開ける。その瞳には、助けてくれたトオルへの感謝よりも先に、抜き難い警戒心が宿っていた。
「気がついたか。俺はトオル。こちらはリノだ。サンダーバードにやられたようだが、体の具合はどうだ?」
「……助けて、いただいたのですか」
青年は立ち上がり、衣服の汚れを払った。
地味な旅装だが、身のこなしには騎士のような気品がある。
しかし、その立ち姿の影は、彼が動くたびに周囲の光をわずかに吸い込むような錯覚を覚えさせるほど、底知れない陰鬱さを湛えていた。
「私はカイル。……見ての通り、ただの弓術士です。……あの、お礼をしたいところですが、今の私には謝礼を払える余裕がありません。命の恩を盾に、高い報酬を要求するつもりならお引き取り願います」
カイルと名乗った青年は、冷めた口調でそう言い放った。
その端正な顔立ちとは裏腹に、言葉の端々には金への執着と、他人への強い不信感が滲み出ている。
「謝礼などいらないさ。適切な救護は大人のマナー(道徳)だからな。しかし……なぜこんな場所で一人に?」
トオルはカイルに問いかけた。
「……顔しか見てこない連中や、嫉妬に狂う男たちに疲れまして、旅に出ていたところ、電撃を浴びてしまいました。やはり……信じられるのは、お金だけですね」
カイルは自嘲気味に笑った。
その孤独な瞳に、トオルはかつての自分――数字とプレッシャーをかかえ、さらには人間関係に摩耗していた日々――を重ねた。
「そうか。金が信じられる、というのは一つの真理だな。だが、一人で稼ぐには限界がある。……カイル君、もし行く当てがないのなら、我々の村をのぞいてみないか? 少なくとも今夜の宿と食事の提供は俺が約束しよう」
トオルの言葉に、カイルがわずかに表情を緩めようとしたその瞬間。
「ちょっと待ったぁ! ダーリン、何勝手に『お持ち帰り』しようとしてるのよ!」
リノがトオルとカイルの間に割って入り、カイルを鋭い視線で睨みつけた。
「この男、顔だけは無駄に良いし、なんだか闇の気配が漂ってきて気味が悪いわ! ダーリンの優しさにつけ込んで、きっと夜中に財布やダーリンの貞操を盗もうとしているんだわ!もしそうならリノが承知しないんだからね!」
「……誰があなたの連れを襲うというんですか。失礼な」
カイルは露骨に嫌そうな顔をしたが、リノはトオルの腕を再びぎゅっと抱きしめ、所有権を主張するように胸を押し当てて舌を突き出した。
「ふんっ、ダーリン以外の男なんてみんな碌もないんだから! ダーリン、こいつは村のハズレの家畜小屋にでも放り込んでおきましょう!」
「リノ、それはあまりに非人道的なおもてなしだ。……カイル君、彼女は少し警戒心が強いだけだ。気にする必要はない」
こうして、鋼の肉体を持つトオルのパーティに、人間不信のイケメン弓術士カイルが新たな「中途採用」メンバーとして加わることとなった。
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※2026/2/19
(テロップ:スキル【サンダー】をラーニングしました) が抜けていましたので追加しました。すみません




