第7話:廃村再生の第一歩!
アージェンの町の商人ギルドで、トオルが差し出した黄金竜の鱗は、鑑定士の目玉が飛び出るほどの価値を叩き出した。
「剥がれ落ちた角質のようなものだと思っていたが、意外と高値がついたな。しかし、これでも控えめに査定されたんだろう」
無造作に言うトオルの横で、提示された額を見たエルナは泡を吹いて倒れそうになっていた。家数軒を余裕で建てられるほどの、驚愕的な数字。
さすがに即金で全額受け取るのは不可能だったため、エルナが「村長代理」として手際よく契約をまとめた。
「一部を前払い金として受け取り、残金は武装警備付きの輸送便でアシュレ村へ直接届ける……。これなら安全ね」
慣れない大金に、エルナのテンションはどこかおかしくなっていた。
買い出しに向かった市場では、「これも必要! あ、あっちの農具も予備で十セット!」と、普段の堅実さが嘘のように次々と物資を買い込んでいく。
エルナが必要物資の調達に奔走している間、トオルとリノは武具店へと足を運んでいた。
「ダーリン、いつまでも素手じゃ大変でしょ? ほら、この辺の剣なんてどう?」
リノに促され、トオルは陳列された武器を吟味した。
これまでは鋼の肉体と無自覚にラーニングしたスキルで乗り切ってきたが、今後の「業務領域の拡張」を考えれば、標準的な装備は必須だと判断したのだ。
「そうだな。いつまでも素手というわけにはいかないな。現場の安全管理の観点からも、最低限の武装は必要だ」
トオルが手にとったのは、派手さはないが造りのしっかりした、一般的な中型の直剣だった。
「……ふむ、バランスがいい。重すぎず軽すぎず、標準的なスペックだ。これが鋼の剣か、やっぱり俺には鋼が似合うな。これをメインのデバイスとして活用しよう」
トオルが剣を振ると、その鋭い風切り音に店主も目を見張る。リノもまた、自分用に黒い塗装が施された上質な短剣と、より動きやすさを追求した斥候用の防具を新調した。
二頭立ての大型馬車を借り、荷台いっぱいに食料や建材、種籾、そして新調した武具を積み込んだ一行は、帰路の途中で例の盗賊の隠れ家に立ち寄った。
「待たせたね。再就職先に行こうか。……さあ、引っ越しの準備をしたまえ。新しいプロジェクトの始まりだ」
トオルの言葉に従い、元盗賊たちとその家族、総勢二十名ほどを連れて、一行はついにアシュレ村へと向かう。
道中、トオルは「福利厚生の一環だ」と言って、町でこっそり購入していた小包を取り出した。
「エルナ、リノ。これは今回の報酬をいただいた御礼だ。君たちのパーソナルカラーに合わせて選んでみたよ」
そう言って手渡したのは、さりげない意匠の施された贈り物だった。
エルナには琥珀色の瞳を引き立てる髪飾りを、リノには彼女の隠密行動を妨げない、音の出ない柔らかなシルクの濃紺のスカーフ。
「えっ、私に……? トオル、あなたって人は……! ありがとう、大切にするわ」
「わぁ、ダーリンからのプレゼント! これなら音がしないから、ずっと身に着けていられるね! 一生外さないんだから!」
二人の表情がパッと華やぐ。
さらにトオルは、不安げな表情を浮かべていた元盗賊の男たちにも、自分とおそろいの黒い革のリストバンドを配り歩いた。
「これはチームの結束を表現する証のようなものだ。今日から君たちは私の『同僚』だ。誇りを持ってほしい」
そして、トオルの配慮は彼らの家族にも及んだ。
怯えていた盗賊の妻たちには町で評判の香りの良い石鹸や手鏡を、子どもたちには色鮮やかなキャンディの詰まった小袋を一人一人に手渡していく。
「慣れない土地への移動で疲れているだろう。甘いものは脳の活性化に役立つし、清潔を保つことは健康管理の基本だ。これからは家族含めて、村の『大切なメンバー』だからね」
野蛮な男たちは、トオルからの「信頼の証」と家族への温かな配慮を目の当たりにし、顔を引き締めた。
大人の社交性をさりげなく発揮し、一気に集団の統率を高めるトオルの手腕に、一行の不安は消え、その目には新たな忠誠心が宿る。
そうして、総勢二十名を超える一団は、ついに廃村アシュレへと帰還した。
村の入り口では、自警団の男たちが武器を構えて身構えていた。
「おい、エルナが帰ってきたぞ! ……って、なんだありゃ。おいおい、エルナ! 無事だったのはいいが、その後ろの連中は一体どうしたんだ!?
まさか旧道の盗賊団か! トオルの次は、またそんな野蛮な連中を連れてきて……。お前、一体何をしに町へ行ったんだ」
自警団のリーダー格である男が、深いため息をつきながらあきれたように声を上げた。
トオルという「毛皮一枚の野蛮な不審者」を連れてきた前科があるだけに、村人たちの視線には「またか」という困惑が混じっている。
緊迫した空気が流れたその瞬間、リノが黒猫のようにしなやかな足取りで、自警団の先頭にいた強面のおじさんの元へ駆け寄った。「リノ、本当は盗賊なんてしたくなかったの……。こんなイケメンのおじさんがいる村だって知ってたら、もっと早く来てたのにー♪」
リノは上目遣いで、豊満な胸をさりげなくおじさんの腕に押し当てる。
「ねえ、おじさんって結構筋肉質ね! もし迷惑じゃなかったら、その太い指でマッサージしてもらいたいな♪」
一瞬で村の男たちの顔が真っ赤に染まった。先ほどまでのあきれた空気はどこへやら、一気に鼻の下を伸ばし始めた。
「よ、よしきた! 任せとけリノちゃん!」「リノちゃんの家族だけじゃなく、みんなが溶け込めるように協力しちゃうぜ!」
殺気は霧散し、男たちは競い合うように荷物運びを手伝い始めた。
「……なるほど、現場の士気を一瞬で掌握し、敵対勢力を融和させる。質の高い人心掌握術だ」
トオルが腕組みをして深く感心する一方で、エルナは頬をリスのように膨らませていた。
「ただのハニートラップじゃない……。あんなの、村の風紀が乱れるわ!」
しかし、リノが村のおじさんたちをコロリと手懐けたおかげで、盗賊たちが村に溶け込むのに時間はかからなかった。
エルナも感情を脇に置き、村長の娘としての冷静な采配を振るう。
「隠密と罠設置のスキルがあるなら、それは『警備』や『魔獣調達』の適性があるということね。もちろん村の整備や農業で人手が必要になったら手伝ってほしいわ。
あなたたちの住まいは、ここの空き家を使ってくれてかまわない。少し古いけど、生活するには困らないはずよ」
元盗賊たちは、久しぶりに実りある「仕事」と「温かい寝床」を与えられ、目に涙を浮かべてやる気をたぎらせた。
「へへっ、任せてください。俺たちのスキルが村の役に立つなんて……。精一杯働かせてもらいます!」
夕暮れ時、アシュレ村の煙突からはいくつもの煙が立ち上っていた。かつて廃村寸前だったこの地に、若者の活気と子供たちの笑い声が戻ってくる。
「トオル、ありがとう。……あなたの、その……お人好しのおかげで、村が本当に生き返ったわ」
エルナはトオルの横顔を、今度は、一人の女性として見つめた。
元悪党の若い力が加わり、アシュレ村の再生プロジェクトは、ゆるやかに始まった。
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