第26話:森の迎撃戦!
上空を旋回する八体のガーゴイルに対し、カイルと元盗賊のハヤテは苦戦を強いられていた。
見晴らしの良い開けた土地では、ガーゴイルの急降下攻撃の格好の的となってしまう。
「ハヤテ、このままではジリ貧だ! 戦場を森へ移そう!」
「了解だ、カイル! 俺がヘイトを集めている間に移動してくれ」
カイルはハヤテの巧みな牽制に助けられ、生い茂る木々の中へと飛び込んだ。
戦いの場は、枝葉が視界を遮る森の中に移った。
大きな翼を持つガーゴイルにとっては、縦横無尽に飛び回るのが困難な場所だ。
「……合流できたな。ハヤテ、三時の方角に一体。高度を下げてきている!」
カイルが【気配探知】で、敵の位置を正確に把握し、ハヤテに告げる。
「よしきた! 引っかかれよ、化け物!」
ハヤテは即席で作成した蔦の罠に誘導する。
低空飛行で追ってくるガーゴイルは見事、蔦の罠に翼が絡まりバランスを崩す。
その一瞬の隙を逃さず、カイルが闇の魔力を込めた矢で胴体を鋭く撃ち抜いた。
この戦術により、彼らは着実に一体、また一体とガーゴイルの数を減らしていった。
しかし、残り三体となったところで、ガーゴイル側も強引な手段に出た。
障害物である木々を力任せにへし折りながら、三体同時にカイルたちへと襲いかかったのだ。
「カイル、危ねえ!」
一体はハヤテが身を挺して受け止めたが、残りの二体はカイルに殺到する。
「くっ……!」
正面の一体は射貫いたものの、側面から迫ったガーゴイルの鋭い爪がカイルの肩に到達した。
血を流して膝をついた絶体絶命の瞬間、ハヤテは目潰し閃光玉を投げつけ、強引にカイルを引きずって巨木の影へと隠れた。
「……すまない、ハヤテ。助かった」
「いいってことよ。だが、残り二体。状況は厳しくなったな……」
残るリーダー格の一体が、狂ったように周囲を破壊しながら二人を追い詰めていく。
逃げ場を失い、カイルが覚悟を決めたその時。
「――お待たせ! 露払いが必要かしら?」
木々の間から電光石火の勢いで飛び出した影が、ガーゴイルの首筋を短剣で一閃した。
ヤマイヌを仕留めて合流したリノだ。
断末魔を上げる暇もなく、リーダー格の一体は物言わぬ石塊となって地に伏した。
「リノ! 合流が早かったな」
「あんたたちが手こずってるみたいだったからね。ほら、エルナたちも来たわよ」
最後の一体は、ミラが電気霧で動きを制限させた後、ハルトが止めを刺していた。
ハイゴを撃破したエルナが駆け寄り、すぐにカイルの傷口を治癒する。
「カイル、動かないで。【ヒール】!」
柔らかな光がカイルの肩を包んだ。一時処置は完了し、出血が止まった。
エルナは周囲を見渡し、凛とした声で告げた。
「敵の部隊はすべて片付いたわ。残るは、あの大男だけね」
四人と元盗賊たちは、激しい戦いの余韻を残す採取場の中央――トオルとムシャが対峙する主戦場へと視線を向けた。
◇
《トオル vs ムシャ》
そして、採取場の中心。
そこは異様な静寂が支配していた。
周囲の木々は「絶望咆哮」の余波でなぎ倒され、剥き出しになった大地が二人の強者の足元に広がっている。
「魔導士と聞いていたが、戦士のような身なりをしているな。お主は一体何者だ」
大気が微かに震える中、ムシャが口を開いた。
トオルは、その巨体から放たれる圧倒的な威圧感を感じ取り、静かに中剣を構え直した。
「本来、これから戦う相手に素性を明かすのも変な話だが、本職は戦士だ。ただ魔法が使えるのはおまけみたいなものだと思っている。そういうお前こそ、一体何者だ」
足元の小石が、ムシャの放つプレッシャーを感じたかのようにカタカタと音を立てて転がった。
「こうやって人間と会話するのも久しいな。特別に教えてやろう。拙者は絶望の山脈に住むムシャ。種族はバーサーカーだ。一応、魔王さまの片腕として武力の幹部を名乗っている」
「魔王……!?」
トオルの背筋に、わずかな寒気が走った。
初めて聞く「魔王」という単語。
それはこの異世界における「最大リスク」を予感させるものだった。
「ほう、魔王さまを存じ上げないか。あの方は偉大だ。人間と魔族の住処を分け、面倒な衝突を極力避けておられる。しかし時折、娯楽も兼ねて、あの巨大な塔の町を破壊させたように、人間たちを屈服させている。愚かな人間どもはこの世界の中心であるかのように錯覚して付け上がるからな」
ムシャは淡々と語るが、その声には一切の迷いがない。
彼らにとっての破壊は、人間が害虫を駆除するのと同じ程度に「当然の摂理」であるかのような響きがあった。
「魔王と言ったら、世界征服を目論むものじゃないのか?」
「面白い質問だな。魔族は世界征服などに興味はない。己が思うように自由に過ごすのが本質だ。ただ、お主のような脅威とあれば、それは別だ。どんな魔族であれ、関心は持つだろう」
トオルとムシャの視線が交差する。
トオルは、ムシャの背後に見える歪んだ空間が、彼の闘気によって陽炎のように揺らめいているのを見逃さなかった。
「なるほど、それでお前はなぜここにやってきた」
「本題といこうか。拙者の配下であるガーゴイルがお主にやられたと聞いてな。そのお礼も兼ねて、挨拶をしにきたわけだ」
野獣が獲物を定めるような鋭く光る赤い瞳を宿した大きな体が、一歩、前に踏み出した。
次回、2026年3月5日19時10分更新です!
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