第25話:分断された一行!
ムシャの絶望咆哮によって広大な採取場へ吹き飛ばされた一行は、態勢を整える間もなく、それぞれを追撃してきた魔王軍の幹部らと対峙することになった。
◇
《リノ・元盗賊ハルトvs ヤマイヌ》
「ダーリン……! 今、助けに……!」
リノがトオルの窮地に駆けだそうとした瞬間、その視界を灰色の影が遮った。
風を切り裂くような速度で立ちはだかったのは、ハイウルフのヤマイヌだ。
「……ちっ、鼻に残る独特の獣臭ね」
リノは砂を払いながら短剣を構える。ヤマイヌは獰猛な牙を剥き出しにして嗤った。
「無駄だ。貴様の体臭、血の巡り、恐怖の汗……そのすべてを私の鼻が捉えている。隠れ身など通用せんぞ」
ヤマイヌが地を蹴り、目にも止らぬ爪の連撃を繰り出す。
リノは回避を試みるが、ヤマイヌの嗅覚は正確に実体の位置を特定しており、鋭い爪が彼女の黒装束を掠めていく。
「リノ、一人で抱え込むな! 俺たちがいることを忘れるな!」
横から割り込んで、細剣を扱うのは元盗賊ハルトだ。
素早い連撃でヤマイヌの追撃を遮る。
「……ハルト、悪いわね。少しだけ時間を稼いで。こいつの鼻を逆手に取る策を準備するから!」
リノは懐から特殊な薬品を調合し、「強烈な刺激臭を放つ煙幕」を完成させた。
そして、ヤマイヌとハルトの足元で破裂させた。
煙と共に広がる刺激臭に、ヤマイヌが鼻を抑えて激しく咽せ込む。
「ぐっ……おのれ、姑息な真似を……! だが、貴様の居場所など、この研ぎ澄まされた嗅覚ですぐに……」
ヤマイヌは混乱する嗅覚を必死に研ぎ澄まし、煙の向こうの「リノの匂い」へと飛びかかった。
その爪がリノの喉元を確実に捉えた――。しかし、手応えはない。
「残念。それは残像よ」
ヤマイヌが掴んだのは、リノの残像だった。本物のリノは、気配を完全に消し、ヤマイヌの死角へと回り込んでいた。
「残像だと!?なっ、どこへ消えた!……」
焦るヤマイヌの真上から、リノの冷徹な声が響く。
混乱に陥ったヤマイヌの隙を突き、本物のリノはヤマイヌの頭上へと跳躍していた。
「これで終わりよ。」
ヤマイヌが振り向き見上げた視界にはリノが大きく映り込んでいた。
「貴様のような小娘に……!グワァァァ!」
短剣が、ハイウルフの胴体を横断した。
断末魔の叫びと共に、ヤマイヌはその身体を地に沈めた。
◇
《エルナ・ミラ・元盗賊たち vs ハイゴ》
一方、採取場の東側。エルナたちはハイゴブリンのハイゴが放つ、老獪な魔術の掃射に晒されていた。
「無駄だ。数だけで勝てると思っているのか?」
ハイゴが禍々しい文様の刻まれた棍棒を振りかざすたびに、その先端から魔力を帯びた十数本の黒い棘がエルナたちへと飛来する。
「エルナさん、危ない!」
ミラが咄嗟に土魔法で厚い壁を築くが、黒い棘はまるでドリルのように回転しながら壁を穿ち、粉砕する。
魔術師の攻撃は、老いてもなお厚い壁をも破壊するほどの威力を備えていた。
「……みなさん、落ち着いて。相手は一人、こっちは複数。協力して立ち向かうわよ!」
エルナは村の再建を主導してきた指導者として、鋭い声で周囲の元盗賊たちを鼓舞した。
「全員、私の指示に従って! 二手に分かれてそれぞれ互い違いに盾を構えて前進! ミラはウォーターボムやエレクトリックミストで、相手の注意を引き付けて!」
エルナの的確な指示により、パニックに陥りかけていた男たちは冷静に態勢を整えた。
「おおおっ!」
元盗賊たちがエルナの号令に合わせて、呼吸を合わせながら波状攻撃のように動く。
ハイゴがミラの魔法に対応している隙に、二手に分かれた男たちが着実に距離を詰め、ハイゴに迫った。
しかし、さすがはハイゴブリンというべきか、ハイゴは魔術の射程に不適切と判断する同時に、棍棒を剣のように操る鋭い体術を見せ、近づく者を薙ぎ払う。
「なっ……! このような雑兵たちに接近を許すなど!? 」
想定外の動きを見せる人間たちに、ハイゴが焦りの表情を見せる。
エルナはその決定的な隙を見逃さなかった。
「ミラ、足元を凍らせて、動きを封じて!」 「はい、エルナさん! 【氷縄】!」
ミラの放った極低温の冷気がハイゴの足を地面ごと凍りつかせた。
足元の自由を奪われたハイゴがたじろいだ瞬間、男たちの剣が一斉にハイゴブリンの身体を貫いた。
「少々やっかいだったけど。――これで退場ね」
魔王軍の基盤を担っていた老ゴブリンは、エルナたちの連携の前に、絶叫と共にその生涯を閉じた。
◇
《カイル・元盗賊ハヤテ vs ガーゴイル軍団》
上空では、八体のガーゴイルが復讐の機会を狙って旋回していた。
「我々の仇はあいつだ。前回のようにはいかんぞ。あの忌々しい矢に気を付けろ」
リーダー格の一体が命じると、ガーゴイルたちは硬質強化した盾を構え、編隊を組んだ。
カイルは息を整え、闇魔法を纏わせた三本の矢を同時に放つ。
しかし、ガーゴイルたちは空中で見事な連携を見せ、盾でその矢を次々とはじき返し、弓矢は、地へと空しく墜落する。
「俺の矢は対策済みか。これは厄介だな……」
焦りを見せるカイルの元へ、元盗賊の中でも随一の俊足を誇るハヤテが駆け寄った。
「みんな女の子のところに行っちまったが、一人くらいは弓使いの手助けをしてやらないとな。カイルもこの村を再建してきた仲間だ。こんなところで失うわけにはいかない」
ハヤテは細剣を抜き放ち、カイルの死角を狙って急降下してくるガーゴイルの爪を間一髪で弾いた。
空を覆う翼の影の下、二人は背中合わせになり、武器を構え直した。
次回、2026年3月4日19時10分更新です!
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