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【鋼の青魔】鋼の肉体を持つ青魔導士~敵の技をラーニングするが、自分を最強の戦士だと勘違い~  作者: ハリネズみ


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第11話:クエストの完了!

 アージェンの地下深く。そこは旧市街の地底に広がる暗部、数年以上清掃が途絶えた「猛毒の魔窟」であった。

 一歩踏み入れるなり、鼻をつまんでも防ぎきれないほどの腐敗臭と、触れるだけで鉄さえ溶かす酸のヘドロが溢れている。

「ちょっと待って、トオル! ここに入ったら溶けるわよ! 私の空気魔法エアーカバーでバリアを……」

「おっと、やはり下水は刺激が強いな。……いや、強炭酸ソーダを全身に浴びているかのようなピリピリ感だ。血行が良くなりそうだな」

 エルナが魔法を唱え終えるより早く、トオルはくるぶし付近まで浸かる強酸のヘドロの中に飛び降りた。

靴が溶け始めていたことに気づかず、平然とした足取りでジャブジャブと進んでいく。

カイルが呆然とする中、エルナは大慌てで一行に空気魔法をさらに重ねがけし、魔法で明かりを灯し、トオルの後を追った。

(テロップ:スキル【強酸ヘドロ】をラーニングしました)

(テロップ:スキル【エアーカバー】をラーニングしました)


 下水道の深部、排水管が完璧に塞がった地点に、それはいた。

 無数の粘液を垂れ流し、周囲のゴミや汚泥を飲み込んで巨大化した「ハイドラ・スライム」だ。

単純な物理攻撃を無効化し、魔法も反射する魔物が、配管を完全に占領し、都市の代謝を止めていた。

「これか、詰まりの原因ボトルネックは。大きいし、ちょっと粘着質だな。……よいしょっと!」

 トオルは新調した中剣を抜くと、「排水溝のゴミを取る」程度の軽い感覚で、スライムを横に一閃した。

本来なら瞬時に再生するはずの怪物は、トオルの圧倒的な物理圧力パワーによって叩き潰され、再生の暇すら与えられず霧散した。


 だが、トオルは眉をひそめた。

「……おかしいな。メインの障害物スライムを排除したはずだが、まだ水の流れが改善されない。リノ、何か分かるか?」

「任せてダーリン! 隠密スキルで影を渡るよ」

リノが音もなく壁を走り、配管のさらに奥へと潜り込む。

 数分後、彼女は驚愕の表情で戻ってきた。

「ダーリン、大変! 向こう側に、石みたいに固まった『大きなゴミ』が詰まってる! それが完璧な栓になって、流れをせき止めてるんだわ!」


 リノの案内で辿り着いた場所には、土砂と建材、そして魔物スライムの粘液でガチガチに固まった巨大な塊があった。

「よし、このデカいゴミをどかすぞ。これが今回の依頼クエストの最終工程だ」

 トオルがその「塊」に手をかけ、鋼の指先を食い込ませて思い切り引き抜いた瞬間――。

 パリン、と粘液の幕の一部が剥がれ、150年前の刻印が刻まれた金貨や宝石の山が、中から顔を出した。

魔物スライムの粘液は、コーティング後、時間が経過することで本来の輝きを取り戻される効果があったらしい。

財宝が、仄暗い闇の中で人工的な眩い輝きを放つ。


「……これ、歴史的価値があるお宝じゃないかしら? 見て、この150年前の王立商会の刻印よ!」

「トオルさん、これは『ゴミ』なんてレベルじゃない。……一国の予算に匹敵する、超ド級のお宝かもしれません!」

カイルとエルナが確信を持って叫ぶ。

 トオルが栓を引き抜いた直後、溜まっていた汚水とヘドロが激流となって押し寄せたが、トオルたちは速やかに退避し、流れが引くのを待った。


 ヘドロが流れ去っても、壁には依然として汚れが目立つ。トオルはエルナに尋ねた。 「エルナ、仕上げだ。何か全体を一気に綺麗にする便利な魔法はあるか? 」

「ええ、生活魔法の『広域清掃クリーン』ならできるわ。私たちとその周囲にかけるくらいならできるけど……」

 エルナが手本を見せると、トオルは深く頷いた。

(テロップ:スキル【クリーン】をラーニングしました)


「なるほど、広域展開スパン洗浄力パワーのバランスか。……こうかな?」  

トオルが手をかざした瞬間、アージェンの地下通路全域を飲み込むほどの、白く輝く光が放たれた。

一瞬にして下水道は新品の宮殿のように磨き上げられ、カビ一つ残っていない。

「……規格外ね。もう驚くのも疲れたわ」


 清掃を終え、一行は回収した「財宝の塊」を台車に乗せ、人目に触れないよう隠しながらギルドへと向かった。

その道中、エルナとカイルは深刻な面持ちで「原因究明およびギルド対策会議」を行っていた。

「エルナさん、あの金貨の刻印……これの正体がわかりました。150年前、この町を搾取していた悪徳商人が追放された事件……町では『正義の市民が彼を追い出した』と美談になっていますが、真相はこれだ。

 彼は追い出される直前、下水道の真横に極秘で建設した巨大金庫の中に財宝を隠していた。しかし、ここ数年の大雨などで地盤が緩んで崩落し、さらには『金庫の残骸』がさらに奥へと滑落。

 金庫そのものが下水道をせき止め、建材と財宝が混ざり合って『強固な栓』になってしまったんです」

「なるほど、それで完璧に塞いでいたのね。これが『ここ最近、急に耐えがたい悪臭がするようになった』原因というわけね」


「もしこれを悪徳商人の隠し財産だと正式に公表すれば、当時の不祥事を隠したい正義の市民の子孫である今のギルドの重鎮たちの面目は丸潰れ、最悪、僕たちは口封じに遭いかねません」

「そうね、表立って申告するのはリスクが高すぎるわね。あえて『清掃中に見つけた出所不明の遺失物』として、ギルドの重鎮たちに秘密裏に処理を委ねましょう。

 調整ごとは彼らの得意分野だわ。それが一番安全に、かつ合法的に私たちの安全を確保できる方法よ……」


 二人が険しい顔で密談する横で、リノはトオルの腕を離さなかった。

「むー、難しい話は後にして! ダーリン、この依頼が終わったら、約束の『アージェンのアイス』、あーんして♪ それから夜には私のことも召し上がって♪」

「ああ、依頼成功の打ち上げ(オフサイト)も大切だな。リノ、冷たい甘味は……疲れた身体への報酬としても最適だな」


 ギルドに到着すると、重鎮の一人がトオルが持ってきた「落とし物」を視界に捉え、真っ青な顔を浮かべた。

 やはりこの150年前の財宝は、現在の名家(商人ギルドの重鎮たち)にとって、先祖が裏金を回収しきれなかったという「歴史的恥部」そのものだったのである。

「あの……このゴミの山の中に、落とし物(金貨や財宝)があったので持ってきました。適切に処理をお願いします」

 トオルの事務的かつ無垢な報告に、重鎮は「これ以上掘り下げるな」と言わんばかりに、即座に特例の追加報酬を決定した。

「こ、これは、歴史的偉業だ! 報酬は清掃代に加え、回収物の半分。……アージェンの年間予算分に相当するが、それで手を打ってくれないか! な、後の面倒なことは我々がすべて『適切に』処理をさせていただく!」


 トオルの「事務的な善意」が歴史の闇を葬り去り、一行の活動資金という課題は、一瞬にして解決してしまったのであった。

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