オマケ リリアンヌちゃんと元騎士くんのお話
気が付いたら生まれ変わってた。
びっくりだね! よくある神様とか会ったことないけど! おぎゃーって生まれて、なんかよくわからんうちに本能だけで生きてたら、三歳過ぎたあたりで、あれ? 俺ちゃん生まれ変わってね? と気が付いた。
遅いとか思わないでほしい。幼児は本能でしか生きてない。眠いとお腹すいたと好奇心だけで生きてるから。脳みそちっちぇえから。走り出したら止まらないし、気になるおもちゃは壊れるまでぶん回すし、飯食いながら寝るから。
ちょっと周りの言ってることが分かるようになってきて、論理的思考ってやつが芽生え始めて、やっと俺が気が付いたのなんて早いほうだろ。いや、比較対象いねえからわからんけど。
まあ、とにかく俺ちゃんは三歳くらいで俺だったことを自覚し、俺ちゃんが俺じゃなくなったことを自覚した。
前の家族に会えないのは寂しいし、悲しかったけど、もっと生きたいと思った最後だったから今の自分があることには感謝しかない。
電気も水道もないし、時代がかったドレスのお姉さんやおばちゃんは彫りの深い西洋人顔。行動範囲が狭いからまだよくわからないけど、部屋の中には天蓋付きのベッドに鮮やかな刺繍のクッション。家具は滑らかな流線を生かした優美なロココ調。どうも生まれた場所は現代日本でさえないようだが、家は金持ちで乳母みたいな人が至れり尽くせりで面倒を見てくれるし、飯もうまいし、菓子も出てくる。
スタート地点が勝ち組とか感謝感謝の雨あられよ。
たとえ父親をほとんど見ねえなと思ってたら愛人宅に入りびたりで、腹違いの姉がいるらしくても。
たとえ母親がそんな父親に執着して、父親そっくりな兄だけを溺愛してても。
たとえ俺が愛人とその子供に嫉妬した母親が父親を脅して強制的に作らせた子供だとしても。
たとえそのせいで父親からの愛情はもちろんのこと、肝心の夫の関心を買えないことで母親の愛情さえ貰えなくても。
たとえ俺のエクスカリバーがなくなり神秘のお饅頭(予定)装備となっても。
生きてるだけで丸儲けなのである。
さて、今生に感謝を捧げる三歳女児俺ちゃんであるが、前世に心残りがないわけではない。
十八歳に少し足りない男子高校生の心残り。
ずばり童貞卒業である。
ああ、俺のエクスカリバー(仮性)よ、お前で戦うことなく散った俺を許してくれ。
いつの日か鞘に収まる日を夢見ていた大切な相棒と二度と会うことがないのだと思うと涙が零れる。
お前がいれば、今度こそ悔いのない人生を送ったものを。
それだけがどうしても心残りだ。
心残りすぎて本当にないのか確かめてみる。
スカートを捲し上げ、ぱかーんとお股を広げると、そこにはつるりとした毛の一本もない秘密の花園。
ああ、寂しい。
この花園の割れ目に隠れてはいないかと指で押し開いてみようかと手を伸ばしたところで声がした。
「何してるのリリアンヌ…」
ヴェルサイユ宮殿を思わせる豪奢な装飾のドアを侍従に開けさせた少年が俺を見ていた。
正確に言うと、部屋の真ん中に置かれた猫足のソファに寝っ転がってお股ぱっかんして指でくぱあしようとしている三歳幼女を見ていた。
まあ、そりゃ何してるのって言うわな。
ドアを開けた侍従も後ろに待機していた護衛騎士も乳母も目が真ん丸である。
俺も目が真ん丸だよ。
だが、聞かれたからには答えねばならぬだろう。
俺ちゃんは三歳児の少ない脳みそをフル回転させて少ない語彙から言葉を紡いだ。
「にいたま、りりあんぬには棒がないので、探していました」
ものすごい形相の乳母が女の子には棒はありません! と叫んでスカートを直すまでお股は開きっぱなしだった。
いや、さすがに俺ちゃんも混乱してたから。
でも兄よ、めちゃガン見だったな…そっちに目覚めないことを祈る。
イエスロリータ、ノータッチ。ロリコンは二次元限定。
あと護衛騎士、お前のガン見はアウトだ。目が血走ってたから明日から配置換えな。
そんなこともございましたかしらー?
神衣一年目リリアンヌちゃんは淑女の困ったわポーズで記憶の片隅をホジホジしていた。そんな記憶がなきにしもあらず。
三歳、あの頃はちっちゃい体を生かしてメイドのスカートに潜り込むのがマイブームだった気がする。かくれんぼと称していろんなメイドのスカートの中に潜り込んでしこたま乳母に叱られた記憶は鮮明だ。
男の顔なんぞ覚えてもおらんのよ、俺ちゃんは。
「姫様はお小さかったから覚えていなくて当たり前ですよ」
元騎士くんは苦笑しながらカップに口をつけた。
エルネッラ様とお茶をしようと宮を尋ねたら元騎士くんもいたので一緒にお茶を啜ってる。
元騎士くんは神衣の中でも一際しっかりした体型で今でも体を鍛えている体育系ゆえかエルネッラ様の車椅子移動のお手伝いを良く買って出ている。いい奴なのだ、元騎士くん。
エルネッラ様とお茶をしばきながら、そういえば元騎士くんがどうして神衣になったのか知らんなあ、と思って聞いた。もしかしたら公爵家に不満があったのかもしれんし、それなら謝っとこと思ったのだ。
家族みたいなものと言ってくれた神衣仲間に蟠りがあるのは悲しいからね! リリアンヌちゃんは気の使える子!
そして、三歳リリアンヌちゃんの奇行が暴露されている。
なんということでしょう、リリアンヌちゃんへの名誉毀損行為である。断固として抗議する。
エルネッラ様は知っていたのか微笑ましげに俺ちゃんと元騎士くんを眺めながら桃のタルトを小さく切って上品に召し上がっていた。
内心ぷんぷんしているリリアンヌちゃんに気がついた元騎士くんは慌てて言い募る。
「いえ、リリアンヌ様が何かしたわけではございません! ただ、私が、その、小さいお子様の姿に、なんと言いますか、ある種、性的な興奮を覚えてしまったことに、罪悪感と言いますか、このような人間が公爵家に騎士として仕えていいのか、と」
声がだんだんと小さくなって、元騎士くんはすっかり項垂れてしまった。
真面目か、元騎士くん。
「何か間違いを犯してしまう前に、世を離れ、神に仕えるべきではないか、と選定を受けたのです……」
真面目だった。
そして、元凶は俺ちゃんです。
真面目な騎士の性癖を捻じ曲げて社会生活を送れなくした犯人では? 有罪判決では??
ほんますまんことで、覚えてないので後悔のしようがないのだが反省はしたわ。幼児に性的興奮を覚えたら普通の人は絶望するよね。リリアンヌちゃんが魔の美幼女だったばかりに、ごめんね。リリアンヌちゃんあんま悪くないけど。勝手に興奮したやつが全面的に悪いけど。お股ぱっかんしてたことだけは反省するね。
「ごめんなさいね?」
謝るのもなんか違う気がするので疑問系になってしまった。
「いえ、神衣となったことで自分が小さな子供をどうこうしたいという欲望を持っているわけではないと分かって、私は救われたのです。常に自分を疑い、嫌悪しながら生きることに比べれば、私はとても幸運なのです」
せやな、当時十七か八くらい? この世界ゆるゆるだから童貞捨ててもおかしくないし、そもそもお顔が神様好みじゃないと神衣にはなれんからな。童貞かつ神様好みのお顔のコンボは確かに幸運以外の何物でもないね!
それはともかく。
「小さい子がお好きではなかったの?」
ペドではございませんでしたか? 不思議に思って尋ねると、ギョッとした顔で元騎士くんが固まり、エルネッラ様がむせた。あらまあ、大変でしてよ。
慌ててエルネッラ様にお茶を差し出すと、涙目のエルネッラ様が笑いながら受け取ってくれた。
元騎士くんもぎこちなく動き出す。
「……そう、ですね、全ての小さい子に性的興奮を覚えるわけではありませんでした。私は、勝手に自分の中で偶像化して、美しく汚れないものの象徴としていた存在が、自分と変わらない人間であったことに劣情を持ってしまったのです」
なるほど、リリアンヌちゃんは人間離れした美幼女だったからな。妖精やら精霊やら言われるくらい愛らしいリリアンヌちゃんがお股広げておバカしてたからびっくりしてエロ妄想しちゃったと。
つまり、ギャップ萌え。
そして主家の娘にそんな感情を持ってしまった自分への罪悪感、なるほどなるほど。
「背徳感に興奮する性質ですのね」
分かる分かる。下剋上エロですね。前世の親友田中くんも「わからせ」とかいうやつが好きだったような気がするよ!
エルネッラ様が静かにお茶のカップをテーブルに置き、ふるふると震えた。笑っても良いと思いますよ、エルネッラ様。
元騎士くんはいや、そんなことは、いや、そうなの、かな? と混乱していた。
多分そうなんだと思うよ!
いつか姫と騎士でイメージプレイとかしてあげるからね!
リリアンヌちゃんが捻じ曲げた性癖の責任はちゃんと取ってあげようね!
あ、エルネッラ様が顔を覆って震えてらっしゃる。




