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TS美少女転生した俺は女の子とイチャイチャしても許されると思った  作者: カタツムリ


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 さて、困ったことになったぞ。


 暖かな日差しの入る窓辺に置いた1人掛けソファに沈み込んだリリアンヌちゃんは目の前で泣き崩れるメイドちゃん二人を見下ろしながら小首を傾げてしまう。

 どうしたものか、と悩んでいると公爵家の使用人を取り仕切る家政婦長がそっと近づいてきた。

「リリアンヌ様、リリアンヌ様にお願いするのも筋違いと重々承知しております。ですが、この娘たちを救うことのできるのはもはやリリアンヌ様だけなのでございます」

 家政婦長は屋敷を取り仕切る女主人の最も近しい側近である。腰のチェーンにいくつも連ねられた屋敷の鍵は主人からの信頼の証。母亡き今、彼女は新たな女主人のもとで彼女の意を汲んで家内を執り仕切らなければならない。

 なお彼女の現在の主人は後妻として連れてこられた平民の女性であり、家内のことでリリアンヌちゃんに頼むのは確かに筋違いなのであーる。

 だって、これ、下手に口出したらリリアンヌちゃんが後妻さんのこと認めてないって使用人たちに思われることになるじゃん??? いや、うちの使用人たちちゃんと教育してるからそれを表に出すことはないだろうけどさ。それでも女主人が使用人に舐められてるって良くない状況だし、パパンに知られたらリリアンヌちゃんもやべえよ。あのクソ親父、リリアンヌちゃんのこと本当にどうでもいいと思ってるから、嫌がらせにやべえロリコンジジイとかに嫁がされる可能性あると思います。

 俺ちゃんはちゃんと貴族子女としての責任を果たす気はあるし、女の子のエッチを自分が経験するとか好奇心でお胸がムズムズしちゃうので男と結婚するのもやぶさかではないけど、変態はちょっと勘弁。

 女子になって分かったけど、どうでもいい相手に性的に見られるってマジ気持ち悪いのな。男子高校生の時にはモテモテじゃんとか思ってたけど、あれ違うわ、だって中身関係ねえんだもん、見た目だけエロ欲求を満たすために使われてんの。そこに人格ないのよ、リリアンヌちゃんが美しいのはママンが美しく産んでくれたおかげで、お前らのスケベ心の満たすためじゃねえんだわ。見るだけならいいだろって? バカめ! そういう視線は一発でわかるし見られるだけで俺ちゃんのか弱い精神が削られるのだ! こっち見るな! ましてや俺ちゃんはまだ未成年のお子ちゃまである! 子供をそんな目で見る変態は消えればいいと思うよ! ロリを愛でたければ脳みその中の架空のロリだけ愛でてろ! 現実に持ち込むな! 前世の親友田中くんを見習え!

 深呼吸ひとつ。リリアンヌちゃん、ちょっと脳内暴れちゃったから落ち着こうね。

 ともかく、目の前のこの子達をどうにかしなきゃいけない。

 淡い金髪に氷みたいな綺麗な水色の瞳のクール系お姉様なマキアと艶やかな黒髪の童顔美少女のラナ。マキアは子爵家の次女で来年の結婚が決まっている。ラナはまだ見習いメイドの16歳で田舎の男爵家出身だが遠縁の伯爵家から気の利く子だからと寄親の公爵家に紹介されてきた子だ。

 2人とも公爵家のメイドとして身内の期待を背負いながら誇りを持って仕事をしてくれている。

 ましてマキアは公爵家のメイドとして勤め上げた経歴を引っ提げて嫁に行くのだ。最後まで気が抜けないと、緊張感を持って完璧な仕事をしていた。その先に幸せな未来が待っていると分かっていたから、彼女は大変な仕事でも進んでこなしていたのに。

「このままでは2人とも紹介状なしの解雇となります。マキアは最悪来年の結婚が」

 家政婦長がため息混じりに言葉を濁す。マキアの肩がビクリと跳ね、押し殺した泣き声が溢れた。ラナはそんなマキアのお仕着せの袖を掴み俯いたまま、すみません、すみません、私のせいで、と泣きながら謝り続けている。

 修羅場である。ド修羅場である。

 俺ちゃん、本当にこういうの困る。女の子泣いてるの見ると可哀想で胸がきゅーっとしちゃうし、コミュ障だからどうしたらいいか分かんなくて釣られて泣きたくなっちゃう。

 でも淑女は泣いちゃダメだから頰に手を当てて首を傾げるのだ。淑女の困ったわあポーズ。

「まだ奥様には報告しておりません、今ならなんとか」


 なんとかっつうても、これ、もう今月3回目なんだよなあ。


 俺ちゃんはそっと遠い目をしてしまう。そもそも彼女たちはリリアンヌ付きのメイドじゃない。

 父の連れてきた異母姉、メリダ付きのメイドだ。

 メリダとその母が公爵邸に入って1ヶ月経った。俺は一切彼女たちに会ってない。

 彼女たちは父の部屋のある屋敷の右翼に部屋を与えられ、俺ちゃんと兄の部屋は左翼にあるからだ。公爵家めちゃ広いので生活空間離れてたら全く会わない。食事も一緒にとらないし、公爵家はまだ喪中で社交を控えてるし。まあ、今まで通りなんですけどね。父の顔なんて一年に片手で数えるほどしか見ねーもん。

 お父様は愛しの妻と娘に不自由をさせないように執事と家政婦長に命じてあとはお任せ。いつものことだし、彼らはプロフェッショナルなのでもちろんキチンと仕事をしたのだが、まあ、なんですかね、アレです、あの問題。


 うちの上級使用人たちもメリダの下町訛り高速言語が理解できなかったのだ。


 母親の方はまだマシだった。彼女は下町のまだマシなほうの酒場で給仕をしていた。下級貴族もお忍びでやってくるくらいにはまともな店だったので言葉遣いを店主に直されたそうだ。まあ、治したって言っても所詮は下町の酒場仕込みなので下町訛りには変わりないが、ちゃんと聞き取って意思疎通ができる。

 ちなみに父は下級貴族の碌でもない友人に誘われて下町に行った際、よくない店でよくない酒を飲まされてぶっ倒れてたところを彼女に拾われ店で介抱され恋に落ちたそうだ。お兄様が教えてくれた。一体どこからそんな情報得てるんだ17歳よ。

 問題のメリダは下町生まれの下町育ち。昼から夜遅くまで働く母親を労り、家の手伝いを良くする下町でも評判の可愛い女の子だったとかなんとか。お父様、何してんの?愛人にお手当出さなかったの???そんなに働き詰めじゃお父様のお相手だってしてもらえないんじゃないか?

 不思議に思ったけど、お金目当てではなくお父様のことを愛してるから子供も産んだんだって、だからお金は受け取らないって言われたんだってさ。お兄様情報。

 えー、既婚者寝取っておいてそれ言うのー??? 愛してる云々の前に相手に嫁と子供がいるの知ってておせっせするのは人としてどうかと思うよ? それならせめて愛人としてお金で割り切った関係のほうがマシじゃねー? 

 ちょっと夢みがちがすぎるのでは? 父も後妻さんも。

 まあ、それはともかく、仕事が忙しくて子供は下町でご近所さんに可愛がられて勝手に育って? お父様はたまの休みを後妻さんと過ごすのに夢中で? 娘にはろくな教育もしないまま15歳まで?

 そもそも、母親の方には娘を貴族にって考えてなかったからかもしれんけど、父はさ、連れてくるなら言葉遣いを教育する程度は気を使ってもよかったんでない? 父はもう慣れちゃって完璧に聞き取れてるらしいけど、他の貴族には無理だから。

 なんか脳みそ緩いんだよなー、うちの父親。

 公爵家の嫡男で周りによちよちされて育ったせいか、気を使って先回りしてなんでもご用意されてることに慣れちゃってるんかね。

 でも、それだとお兄様も脳みそゆるゆるにならないとおかしいから、やっぱり本人の資質やろな。

 お父様のゆるゆる脳みそに付き合わされる後妻母娘は可哀想だけど、もっと可哀想なのはうちの上級使用人たちですわー。

 メリダにつけられた一番初めのメイドは結婚せずに公爵家に尽くすことを表明している二十代後半のベテランメイドさん。彼女はメリダに真摯に支えようとしたけれど、言葉が分からなくて何度も聞き返すうちにメリダの方が耐えられなくなった。言葉が分からないふりをして意地悪をする、下町の平民だとバカにしていると母親に訴えたのだ。彼女がメリダについて3日目のことである。3日であの高速言語に慣れるわけもなく、彼女はメリダの担当を外され左翼棟の俺ちゃんのところに回された。上級使用人の中でも中堅層のリーダーとしてメッキメッキ頭角を表していたデキる美女お姉様がしょぼしょぼになって家政婦長とリリアンヌちゃんに頭下げてた。ご期待に応えられず申し訳ありませんって。そんなことないよー! めちゃ頑張ってたの分かってるよー! もう少し時間があれば、言葉だってきっとわかるようになったよー! と一生懸命励ましてなんとか左翼棟で英気を養ってもらっている。美人でめちゃ有能メイドが増えてリリアンヌちゃん的にはラッキー。お風呂一緒に入ろ?

 んで、次にメリダについたのは王宮官吏をしている男爵家の三女。まだ見習いの15歳。歳が近いし、なにより彼女は王都育ちで街中にも遊びに出ていた地元っ子だったのだ。まだメイドとしておぼつかないところは先輩メイドたちがフォローしすればいいと抜擢された。一週間ほどは何ごともなかった。メリダは同い年のメイドに友達のように接し、楽しそうに過ごしていたらしい。このまま落ち着いてメリダが貴族教育を受けるようになればベテランメイドがそばにつくこともできるだろうとメイドたちはホッとしていたのだが、今度はメイドがやらかした。

 見習いメイドたちと掃除中にくっちゃべって、あれよく聞き取れるねと言われて、つい愚痴ってしまったのだ。

「正直つらい、下町って言うよりスラムの訛りだよ、アレ」

 しかも本人にそれを聞かれた。友達だと思ってたのに貧民だと蔑まれたとまたもや母親に泣きついた。

 はい、左翼棟送り。

 蔑んだわけでもなく本心からスラム訛りで聞きづらいなあと思ってただけなんですー、と泣いて反省していたが、思ってても口に出したらいかんのよ。

 部屋付きメイド見習いだったがお掃除メイドからやり直しになった。お口にチャックできない子は貴族のおそばに置いておけないからね。仕方ないね。

 そうして、メリダ付きのメイドは貧乏くじとなり誰もやりたがらなくなったのを、仕方なくマキアが引き受けた。まあ、あと一年だから少々不興を買っても出世に響くわけでもなしとメイドたちの打算で押し付けられたとも言う。

 田舎育ちで訛りのきつい領民と言葉を交わしていたおかげでなんとなくメリダの言葉がわかるラナが通訳として一緒につけられたのでツーマンセルでメリダに挑んだ。

 おっとりした雰囲気のラナはメリダに気に入られたが、クールビューティーマキアは苦手だったらしくあまり話しかけることもなく、たいていの用事はラナを通して伝えられた。それで問題はなかったのだが、たまたまラナを指導していたマキアを見たメリダが、自分のお気に入りになったラナをマキアが気に食わなくていじめている! と騒ぎ出した。

 例の小鳥のような早口で捲し立てられ、何を言われているかは分からないがマキアは申し訳ありませんととりあえず謝った。

 メリダにではなくラナに謝れ! とさらに小鳥のように囀るがマキアには伝わらずマキアはメリダに謝り続け、肝心のラナも意地悪されていない、指導されていただけだと伝えても聞いてもらえず、メリダは庇わなくていい! とさらにヒートアップ。

 そこに現れる諸悪の根源。

 お父様である。

 ぴーぴー鳴くメリダの話だけ聞いて、お前は出ていけ、とマキアに言い放ったそうだ。

 帰れ。こっちくんな、マジで余計な口出すな。

 女性使用人の雇用は女主人の管轄なんだよ、お前が直接口出すのは女主人をぞんざいに扱ってるって分かってる? せめて女主人に言付けて差配させるくらいの気遣いは見せろや、このボケ。

 お前が口出さなきゃ他の使用人が呼びに行った家政婦長が間に合ってその場を収めたのに。ほんっと、余計なことしかしやしねえ。

 あー、もう、公爵直々にクビ言い渡されたメイドがどうなるかなんて、ほんとどうでもいいんだろうなー。人の上に立つ立場の人間としてどうなのよそれー。お兄様はやく公爵家継いで。

 ラナだってこんなことになれば職場にいられない。だってラナに指導すればいじめてると思われてクビにされるのだ。指導されなきゃいつまでたっても見習いメイドのまま、針の筵だろ。

 幸せな花嫁と家族の期待を背負った15歳の女の子の将来を、こんな簡単に潰せるなんて、あの人は知ってるのかなー。知っててもどうでもいいのかー。

 啜り泣く女の子の声をこっちも泣きたくなる気持ちで聞きながら目を瞑る。


「わたくしは何も聞いてないわ」


 ゆっくり目を開けると、目を赤くしたマキアとラナが色を失った顔で呆然とリリアンヌちゃんを見上げていた。


「家政婦長、ウィンコットの伯母様のところ、確か上のお姉様がご結婚が近かったでしょう? 伯爵家にお嫁入りされると聞いてるわ」


 ウィンコット侯爵夫人はお父様の姉にあたる。ちょっとキツめの迫力美人だ。気位が高いが理不尽なことは言わない、筋の通った人柄がお父様は大の苦手。お説教されるからね。されても仕方ないけどね。

 リリアンヌちゃんはもちろん伯母様が大好き。美人でおっぱいも大きいし、ぎゅってすると薔薇の香りがして素敵。キツめ美人に仕方ない子ねって目元緩ませて抱きしめられたら好きー!ってなるでしょ。

「今年の秋にお輿入れかと存じます」

 家政婦長の言葉に頷く。メイドたちは訳が分からず家政婦長とリリアンヌちゃんに視線を迷わせた。

「うちにも伯爵家に嫁ぐ予定の子がいたでしょ? 伯母様にお願いしてお姉さまのお輿入れのお手伝いをさせてもらえないかしら。たしか、子爵家の子じゃなかったかしら? 家格の上のお家に嫁ぐのは不安でしょ? 伯爵家に嫁ぐ際のお勉強をさせていただけないかしら?」

 実際のところ、侯爵家から伯爵家に嫁ぐのだから参考になどなる訳がない。でもリリアンヌちゃんは14歳だからそんなことはわからないのです。分からないと言ったら、分からない。

「それはよろしゅうございますね。きっと、そのメイドも安心して嫁げます」

 家政婦長が目を細めて言う。マキアがハッとしてリリアンヌちゃんを食い入るように見た。

「お義母様は、まだそういうことはお分かりにならないでしょうから、リリアンヌが特別に伯母様にお願いしてあげるわ」

 リリアンヌちゃんの手書きで紹介状も付けたろ。

「一人では覚えるのも大変でしょうからもう一人つければいいわ。ちゃんとお仕事ができれば伯母様からもお褒めいただけるからしっかりやるように伝えてね」

 目の前のメイドとは目を合わせずに家政婦長に言う。

 リリアンヌちゃんは何も知らない、何も聞いてないのであーる。

 歳若く生意気盛りのリリアンヌちゃんは元平民のお義母様では貴族の嫁入りのことなど分からないであろうと余計な気を回し、メイドにいらぬ世話を焼くのであーる。

 家政婦長はリリアンヌちゃんのごっこ遊びに付き合って指定されたメイドを侯爵家に出向させるのであーる。

 

 マキアは最終職歴が公爵家クビじゃなくて出向侯爵家メイドになり、ラナは侯爵夫人の紹介状を手に入れることができる。

 経歴ロンダリングよ!

 リリアンヌちゃんはこれ以上はできなくてよ!


 さっさと準備させて屋敷を出させろ、と家政婦長に指示してリリアンヌちゃんは伯母様に宛てた手紙を書く。この手紙が紹介状代わりだ。さっさと書いて伯母様に送らなきゃいけない。

 背中から何度もありがとうございます、という掠れた声が聴こえたが、なーんも知りませんことよー。

 急げ急げですわよ。

 タイムリミットはお義母様がお父様の言葉を聞くまで。家政婦長も俺ちゃんもお父様の言葉を直接は聞いていない。その前にリリアンヌちゃんはマキアを侯爵家に出向させるよう指示していたことにしなければならない。

 マキアを屋敷から出す前にお義母様からクビにするように指示が出たら家政婦長は逆らえない。

 侯爵家まで辿り着けば何を言われたって平気だ。

 リリアンヌちゃんはお義母様を気遣って代わりにメイドの面倒を見たのだもの、クビにしたければ伯母様に仰れば? と言えばいい。それにお父様は出て行けと言ったのだから、ちゃんと言葉通りに出て行ってるじゃないですかー。

 文句言われる筋合いないですねー。うけけけけ。

 書き上げたお手紙を家政婦長に渡すように部屋の外にいたエマを呼ぶ。

 エマは手紙を受け取るだけなのに椅子に座ったリリアンヌちゃんの足元に跪いた。

 エマの翡翠色の瞳が優しくリリアンヌちゃんを見上げる。

 差し出した手紙ごとリリアンヌちゃんの手がエマの手のに包まれた。

「ありがとうございます、リリアンヌ様」

 エマの笑顔に、リリアンヌちゃんもニッコリだ。

 マキアはエマの指導もしていた。クールビューティーで冷たく見えるけど、優しく根気強く指導をしてくれる素敵な先輩だと以前エマが教えてくれた。

「リリアンヌはなあんにも知らなくてよ」

 そう言ってエマの鼻先にリリアンヌちゃんの鼻をくっつけた。猫ちゃんみたいなノーズキスにエマもリリアンヌちゃんもくすくす笑う。

 女の子は笑顔が一番なのさあ。


 

 母が亡くなって3ヶ月が過ぎた。寂しさは消えないのに日常はもういつも通りの顔をしていた。薄情なもんだなあとリリアンヌちゃんは思う。

 最近、家庭教師の授業になぜかメリダが参加するようになった。

 やめたほうがいいと思うけどお父様じきじきのご命令らしい。

 俺ちゃん、これでも頑張り屋のご令嬢だから授業はそこそこ高度だし、近隣諸国の言語と歴史とか学ぶ前に学ばなきゃならんこと山ほどあると思うよ。

 俺ちゃんは家庭教師に渡されたテキストさえろくに読めずに涙目になるメリダを眺めながら自分の課題をこなした。

 お父様はなんでメリダのために基礎教養の家庭教師を雇ってあげないんだろうか? 金の問題じゃない、公爵家お金持ちだもん。今来てもらってる家庭教師はお母様が付けてくれた。無視されてた子だけどリリアンヌちゃんも公爵家の血を引いてるからね、そこはちゃんと手を回してくれたのだ。

 それなのに、お父様は可愛がってる娘の家庭教師の手配さえしない。家令か家政婦長に言いつければいいだけなのに。


 不思議だなあ、本当にメリダかわいそう。


「十四歳のリリアンヌ様ができることが、十五歳のメリダ様にできない訳ないと思ってらっしゃるんじゃないですか?」

 一日の疲れを取るためにゆっくりお風呂に浸かりながら、リリアンヌちゃんの髪を洗うのはメリダ付きから三日で移動した出来るお姉様のパトリシアだ。

 彼女は絶妙な力加減の頭皮マッサージ技術を持っていた。素晴らしい。あと足がめちゃ長くて綺麗だった。一緒にお風呂入りました。ありがとう、寿命が延びました。

「受けた教育が違うのに比べるのは無意味だとおもうの」

 読み書きができる程度の子と五歳から家庭教師つけられてる子を一緒にするのはどうかと思うよ?

「旦那様は、あまりお子様の教育には関わっていませんから、そういったことに考えが及んでらっしゃらないのでは」

 今日は湯船の外でマッサージの準備をしていたエマがお父様のフォローをする。

 フォローしなくてええで、あんなクソ親父。

「お可哀想なのはメリダ様だわ。お父様はメリダ様に何の不満があってあんな仕打ちをなさるのかしらね」

 読んでも意味のわからないテキストに、何を言ってるのかわからない言語での会話。家庭教師は困って、とうとう彼女に子供向けの隣国の絵本と辞書を渡した。絵本を辞書を引きながら訳すのはリリアンヌちゃんが六歳くらいの時によくやってた課題だ。

 つか、そもそもメリダに外国語必要か? その前に話し方とマナー学ばせて、何か楽器か歌とか芸術系で得意なもの身につけさせてやったほうが貴族女子としては潰しが効くぞ?

 どこへやろうとしているのか方向性が全くわからん。

 髪を洗い上げられ、湯船の中に沈みながらため息をつく。

 今日は珍しく一人風呂なのでちょっと淋しい。

 パトリシアが濡れた髪にジャスミンの香りがする髪油を付けて丁寧に髪を梳く。

 メリダの言葉遣いは少し改善しているらしいが、リリアンヌちゃんとは挨拶くらいしかしないからよくわからない。

 彼女は家庭教師の前では涙目で黙り込み、授業が終わればそそくさと部屋を出ていく。

 身の置き所がないのだろう。かわいそーになー。

 どうにかしてあげたい気持ちもあるけれど、これ、リリアンヌちゃんから言うと拗れる案件の気がする。

 危機管理能力大切。見える地雷原は避けるものです。

「本当に、お可哀想」




 なんて思ってたらお父様に呼び出されたよ!

 生まれて初めてじゃないかな! お父様に呼び出されるの! 嫌な予感しかしないね!

 左翼棟から右翼棟へ行くのも結構大変よ。エッホエッホと屋敷を横断していたら中央の玄関ホールでお兄様にお会いした。

 朝から王太子のご機嫌伺いに王宮へ行ったのに、昼前に帰ってくるなんて珍しい。

「どこか出かけるのかい? 珍しいね」

 俺ちゃん引きこもりだからね、お兄様に珍しいとか言われちゃうくらいよ。

「いいえ、お父様に呼ばれて執務室へ伺うところよ」

 リリアンヌちゃんの言葉を聞いてお兄様の眉間に皺がよる。わかるー、ろくな用事じゃないよね。

「私も一緒に行くよ、ちょうどご報告もあったし」

 ラッキー、お兄様が一緒なら百人力ですわー。

 着替えに部屋に戻ることも後回しにしてくれたお兄様の腕に俺ちゃんの手を預ける。

 お兄様にエスコートされながら執務室へ到着すると、不機嫌そうなお父様が俺たちを一瞥した。

「レオナルド、お前は呼んでいない」

 お父様の不機嫌そうな声を気にすることもなく、お兄様は微笑んでいた。

「たまたま行き合ったので、一緒に来ただけですよ。私がいてはできないお話でもあるんですか?」

 お父様は小さく舌打ちをした。貴族とは思えぬいささか粗野な仕草だ。お行儀が悪くてらっしゃるわー。

 お父様はお兄様から目を逸らしてリリアンヌちゃんを忌々しそうに見た。

「リリアンヌ、お前がメリダを見下して虐めているのは分かっている。すぐにメリダから取り上げたメイドを返して、メリダに謝るんだ」

 なんのこっちゃ?

 意味がわからず淑女の困ったなあのポーズをしてしまう。

「家庭教師と一緒になってわざとメリダに分からないように授業をしているのも知っているぞ。あれもクビだ。あんなものを雇うなど、本当に役に立たない奴だ」

 こいつ本当に何言ってんだ?

 どうしよっかなー、と思っていた俺ちゃんの怒りに触れたぞ? おい、役に立たない奴ってもしかしてお母様のことか?

 俺ちゃんに家庭教師をつけて、きちんと公爵家の娘としての教育をしてくれたお母様を、お前如きが? 役に立たないと? 

 おへそで茶が湧きますわー!

 俺ちゃんは教えられた通りの淑女の微笑みを浮かべてお父様を見た。

 貴族令嬢がよくやる仮面のように優雅な笑み。お父様の大嫌いなお母様とそっくりな。

「メリダ様のメイドを奪ったことなどございませんわ。わたくしのもとに異動したメイドたちは皆、メリダ様自身がお側から外すように指示したものたちです。家政婦長にご確認ください」

 マキアたちが屋敷を去ってからもメリダの意地悪なメイドはどっか行って攻撃は収まらなかった。あの後も六人ほど左翼棟に島流にされた。もういっそ左翼棟のほうがメリダに怯えずに仕事ができるとメイドたちには言われている。公爵の執務室がある右翼棟の方が本来は格が高いんだけどな。

 結局、メリダには平民のキッチンメイドがつけられた。キッチンメイドの仕事は料理人の指示で動く雑用係。屋敷の住人の前に出ることさえない裏方仕事には平民もそこそこいる。もちろん、きちんと身元を保証する紹介者がいることが前提だが。

 キッチンメイドが当主の娘付きのメイドになるなんて前代未聞だし、本人も恐れ多いと辞退したがっていたが家政婦長直々に頭を下げてお願いしたらしい。

 部屋付きメイドとしての知識と教養を学べること、何かあった場合には家政婦長と家令が紹介状を出してくれることを条件に引き受けてもらったのだとか。もちろん給料は何倍にも跳ね上がる。それでも本当に渋々引き受けてもらったと家政婦長が珍しく愚痴っていた。そりゃそうだ、公爵家の屋敷内にキッチンメイドがうろちょろしてんのは彼女の矜持からすれば許されざることだ。救いはキッチンメイドが貴族の家で働くためにきちんと教育を受けてきた子だったことくらい。貴族家出身のメイドに囲まれて肩身の狭い思いをしながらも頑張ってくれている良い子だからメリダの犠牲者にならないことを祈るしかない。

 いまのところ、平民という気安さと言葉が不自由なく伝わることでメリダから不満は出ていない。

 ろくに会話をしたこともない娘に反論されて、怒りが湧いたのかガタリと立ち上がった父が何かを言おうとする前に更に言う。

「それに家庭教師の先生とメリダ様の分からない話をするとおっしゃいましたが、そもそもメリダ様にはリンガ諸国連邦の共用語が理解できますの?」

 気勢を削がれた父が何を言われているのか分からないとばかりに俺ちゃんを見る。俺ちゃんの方がクソ親父が何したいのか分からねえよ!

「わたくしに今ついてくださってる家庭教師は近隣諸国の言語と風俗を専門としてらっしゃいます。授業では外国語を使ってその言葉が話されている国の風習などを教えていただいてます。最近はリンガ諸国連邦が主題ですので授業もリンガ諸国連邦の共用語で行われています」

「専門の教師ではなく教養の教師の話だ!」

 大人気もなく机を叩く。ねえ、リリアンヌちゃん十四歳よ、そんな悔しそうに睨みつける相手? 俺ちゃんがマジモンの十四歳で貴族のお嬢様なら、きっと何も言えなくなっちゃっただろうね。でも俺ちゃん童貞男子高校生だったから、いい大人が情けなく見えちゃう。

 兄をチラリと見上げると呆れたように父を見ている。兄と俺ちゃんはキチンと情報の共有が出来る仲良しちゃんなので、俺ちゃんが言いたいことも分かってるだろう。俺ちゃんを見て頷いてくれる。

「父上、リリアンヌは十二歳で教養の教師から合格をもらっていますよ。今来てもらっているのは外国語の教師だけです。他は社会学と統計を私と一緒に家庭教師から教わっています」

 貴族の子供たちに最初につけられるのは基礎教養を教える家庭教師。文字や簡単な計算、行儀作法に言葉遣いなど、基本的なことを広く浅く教えてくれる。貴族として十分な教養を身につけられたと判断されれば合格をもらい、専門的な内容を教えてくれる家庭教師にバトンタッチされる。この専門の教師は親と教養の教師が相談して、本人が向いてることや興味があること、もしくは不得意なことを補えるように決められる。リリアンヌちゃんの外国語は後者です。苦手だからやってんだよ。お兄様の授業に参加してるのは前世数学のアドバンテージで数字に強いと思われたので、それを伸ばすための統計学を教養の先生が勧めてくれたから。社会学は普通に興味あったのでお兄様にお願いして受けさせてもらっている。貴族令嬢だと普通は音楽や詩作なんかの芸術系の家庭教師をお願いすることも多いんだけど、そっちは正直苦手だからお願いしなかった。社交ダンスや乗馬なんかは定期的にじゃなくて、体を動かしたい時なんかにお願いする。家政婦長にお願いすると来てもらえる。芸術系の教師って自分たちでも活動してるから、何人か確保しといて空いてる人にお願いするシステムみたい。どうしても空いてない時は教師同士で紹介しあったりしてお声がかかった時に空いてる人が来ることもあるとか。もちろん公爵家に来る人たちは厳選された一流ばかり。空いてなくても空けて来てくれる。俺ちゃんちはとっても偉い公爵家なので。

「十二歳、」

 お父様がなんか言ってる。

「少し早いですが、リリアンヌが優秀だったということでしょう」

 お兄様がリリアンヌちゃんを見下ろしてニッコリ微笑む。

「あら、お兄様は十歳で先生から合格をいただいたと家令が教えてくださったわ。先生もお兄様ほど優秀な生徒はいなかったって」

 十二歳は早いけれどいないわけじゃないし、リリアンヌちゃんは算数チートだったけど言語が足引っ張って最終ジャッジはそこそこ出来る子だった。

 先生曰く、大体十三、十四くらいで基本を修めて専門の教師を

お願いするのが多いみたい。女の子の社交界デビューが十五歳からだから二年くらい専門の先生に学んでスキルを磨いて婚活市場に乗り込むのだとか。女の戦場、コワイとこだよ、武器は多い方がイイヨ。下位貴族だと予算の都合で専門の家庭教師を雇わないこともあるらしいけど、そこは行儀見習いに出るとか身内で教えあったりするらしい。

 言語学はともかく、社会学も統計学も淑女の武器になるとは言い難いが、そのへんはリリアンヌちゃんの事情というものもあるのでお目溢しされている。

 まあ、それはともかく、十二で合格の俺が優秀なら十で合格の兄は神童である。

 母の自慢の息子だったわけだが。

「お父様、もしかしてご存知なかったのですか」

 父が何も言わないので不思議に思って俺ちゃんが聞くと、父の顔が醜く歪んだ。

 俺ちゃんも兄も実は知ってるぞ。お父様が教養の先生に合格をもらったのは十五になってからだって。伯母様に散々聞いたのだ。授業から逃げ出して伯母様に椅子に縄で縛り付けられて何とか合格をもらったって。おかげで高位貴族の男子が修める高等数学も社会学も経営学も学ぶのに時間がかかって同年代の高位貴族の男子と交流が持てなかったって。知ってるんだぜー。けーけけけけ。

 お父様、もしかして俺ちゃんがまだ基礎教養の先生に学んでると思ったの? 嘘でしょ? 十四なら合格もらってておかしくないよ? お父様じゃないんだからさあ。ちゃんと確認しないと、可哀想なのはお父様の可愛いメリダちゃんじゃん?

「家政婦長にも申しましたわ。基礎教養を修めていないのにいきなり言語学の授業を受けさせるなんて、メリダ様がお可哀想だって」

 お聞きになってないのかしら? と小首を傾げる。

 淑女の笑顔は崩れない。聞いてないわけがない、公爵家の家政婦長は有能なのだから。

 お父様がグッと拳を握って震えた。

 まさか、メリダちゃんが可哀想ってとこだけ聞いていじめられてると思ったの? マジで?

「お父様はメリダ様をどうなされたいの? 公爵家の娘として表に出されるならきちんと教養の先生をおつけになった方が」

 このままじゃ社交界に出すこともできないし、すでに公爵家にいれてしまったので平民に嫁がせることもできない。後妻母娘の将来のことを考えたら、結婚して公爵家へ入れることなどせずにメリダを公爵家の息のかかった商会にでも嫁がせるのが一番不自由させなかったろうに。

 お父様のやっていることはまるで海の魚を淡水で飼うかのように無邪気で残酷だ。

 彼女たちの息苦しそうな顔がお父様には見えていないのかな。

「だまれ!」

 お父様が叫び、手元にあったペーパーナイフを投げつける。

 ウッソだろ! こんな可愛いリリアンヌちゃんにペーパーナイフとは言え刃物を投げつけるなんて!

 咄嗟にお兄様に抱き寄せられ、ペーパーナイフは俺ちゃんが背にしていた扉に当たって落ちた。

 ねえ、顔の高さだったんですけど? 貴族女性の顔に傷つけるの? 親が? え、マジありえない。目に当たって失明でもしたらどうする気だったの?

 リリアンヌちゃんを抱きしめるお兄様の手が痛いくらいに肩を掴む。バクバクいう自分の心臓の音を聞きながら見上げたお兄様は、アメジストの瞳をギラギラと殺意で輝かせてお父様をみていた。やべえ、お父様が殺される。

「お、」

「黙れ! 『売女』の娘が! その生意気な口を閉じろ!」

 声を荒げて叫ぶお父様から庇うように兄の背に庇われる。

 あかんって、お父様、マジでお兄様に殺されるやでー。別にお父様が殺されても惜しくないけど、お兄様が父殺しはダメですわー!

 緊張感の高まりにブルブルと震えたその時、扉がノックされた。

 息を荒げるお父様を無視してお兄様が入れ、と許可を出す。家令が失礼します、と顔を出した。

「旦那様、お客様がお見えです」

「約束のない客とは会わん! 誰か知らんが追い返せ!」

 感情的で横柄、お母様はこの男のどこに惚れてたんだろうか? やっぱり顔? 元男子高校生の俺ちゃんには永遠の謎である。

「ですが、」

 家令を言い募ろうとするのをお兄様が止めた。

「ああ、いい、父上はお加減が悪いようだから私が代わりにお出迎えする。よろしいですね?」

 確認する兄に父は勝手にしろ、と不貞腐れた子供のように言い放った。

 乱暴に椅子に座りふんぞり返る姿にはガキ大将の風格がある。

 中年男性の中に垣間見える少年性が女性にはたまらないとか? わっかんねえなあ、本当に。

 兄と一緒に部屋を出ようとした時、兄が家令に尋ねた。


「それで、王太子殿下をどちらにご案内したんだい?」


 扉が閉じると同時にガタン! と何かが倒れる音がした。





「ご存知でしたのね」

 王太子をご案内した中庭のガゼボに向かいながら呟く。

「報告したいことがあると言ったろう? 朝、殿下のところへ行ったら暇だからリリアンヌの見舞いに行くと言われたんだよ」

 暇だからって、うちは喫茶店じゃないんだけど。

 まあ、王太子が行ける喫茶店なんてないから仕方ないね。

「だから、先に戻って来て父上にご報告しようとしたのに、あのご様子だったからね。先にベルニッドに伝えておいて良かったよ」

 ベルニッドはうちの出来る家令だ。歳はお父様より少し上らしいが、お父様の100倍くらい頼りになる。今も俺ちゃんたちの前をキビキビと歩いている。お父様は数字にめちゃんこ弱いらしく帳簿から何から全てをベルニッドに任せている。うちの全てはこの家令のベルニッドが握っていると言っても過言ではない。

「ところでお兄様、」

「なんだい? 可愛いリリ」


「『売女』ってなあに?」


 お兄様とベルニッドが急に立ち止まりリリアンヌちゃんはつんのめった。

 なあに? 悪い言葉なのはわかったけど、リリアンヌちゃんの辞書にはない言葉なんですけどー。

 ゴホン、とベルニッドが空咳をしてお兄様と目で意思疎通をしていた。リリアンヌちゃんには分からぬ、悔しい。

「リリが知る必要のない言葉だよ」

 兄はそう言って、リリアンヌちゃんを再度エスコートする。

 そうか、知る必要ないならいっか。正直リリアンヌちゃんの脳みそはすでに限界が近いので余計な単語を覚えたくない。リリアンヌちゃんが丁寧に話そうと思っても、どうしてもたまに幼い感じが出てしまうのは小さいころに覚えた言葉が矯正できてないからだ。中の男子高校生のせいで誤学習が定着してしまってるので、ほんと大変。下手に崩した言葉とか覚えちゃうと、元男子高校生にはそれがその場にふさわしい言葉か判断できない。仕方ないので常に丁寧な言葉で話すように気をつけている。

 使わない言葉まで覚える余裕なんぞないのであーる。

 ふむふむ、と頷いて兄の腕に寄りかかる。

 お兄様が言うなら間違いない。見上げてニッコリと笑うとお兄様も笑顔になった。おう、イケメンの笑顔もいいもんだぜ。

 

 そうしてリリアンヌちゃんとお兄様が公爵家自慢の薔薇が咲き誇る初夏の中庭にたどり着いて見たものは。


 薔薇の茂みに倒れ込む王太子十四歳と、その王太子に押し倒され、大きく開いた足の間に王太子の腰をしっかり挟んで、その御尊顔をたわわなお胸の名山で受け止めた真っ赤な顔をした十五歳の乙女。


 すごい! むかしの少年漫画のラッキースケベシーンじゃん!

 あれ、でも、なんか見たことあるような、引っかかるような。


 くんず解れず二人の組体操を凝視しているとお兄様がぼそりとつぶやいた。


「どちらが『売女』の娘だか」


 お兄様の声が聞こえたわけではないだろうが、倒れ込んでいた二人がこちらに気がついて慌てて立ち上がった。

 メリダは真っ赤な顔をして小鳥のような声でピルルルーと鳴いて走って去って行った。たぶん、ごめんなさいとかその辺の言葉を言っていたのではないかと予想される。

 そのメリダを真っ赤な顔をした王太子が見送る。

 ハチミツのように赤みがかった金髪をした青い目の王子様が、熱に浮かされたように自分の頰に触れた。

 まあ十四歳の童貞にカニバサミとぱふぱふは刺激が強すぎたのだろう。一生忘れられない思い出になったろうね! よかったね!

 と思ったところで、俺ちゃんはとうとう引っかかっていた何かを思い出した!


 これ! 女性向けR18エロゲーの王太子ルートの回想スチルだー!!!!


 前世の親友田中くんちでお姉さんがDL購入したやつを勝手にやってエロシーン見たさにめちゃ周回したやつー!!!

 あとでバレてめちゃくちゃ怒られて罰にくっそ濃ゆいR18ボーイズラブゲームやらされた!! やめろ! そこは思い出すな!!!


そして俺ちゃんは! なんと! 悪役令嬢!! やだー! ありがちー!!!


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― 新着の感想 ―
まだ2話しかないのにすでにめちゃくちゃ面白い続き期待してます
このゲームの思い出し方はそうていがい(^q^)
王子様もその高速言語、何言ってるかわかるのだろうか? 肉体言語を使うから大丈夫? いや、恋(発情)から冷めた後が最悪やろ いやなんていうか…救われると良いなぁ主人公…というか王子様、閨教育は受けてな…
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