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ヒステリック・ヒストリー  作者: ラム
第1章 現代
3/5

来訪者

 ──翌日


「これ見て!」


 ヒスイに起こされ、時刻を見ると10時。思ったより長く眠っていたようだ。今日が休日でよかった。


 ヒスイに言われダイヤルを見ると、中央に浮かぶパーセンテージが0%だったのが、確かに100%になっていた。


「これは時間が経つと100%になるのか?」

「100%になったんだから回すと何かあるわよ、きっと!」

「どういう理屈なんだ」

「それに時間が経つと増えるなら今回さないとなんかもったいないじゃない」

「別に時間が経つと増えると確定したわけじゃないが……」


 俺は論理的に物事を考えるタイプで、直感的な考えが苦手だった。これにはある理由も関わっているが。

 ただ、ヒントが少なすぎて推理しようにも材料が無かった。


「ダイヤルが何を意味するか……ただ考えててもわからないよなぁ」

「やっぱり、回すしか……」


 まさか回したら爆発するわけでもあるまい。しかし、何故か回してはいけないという予感が収まらない。


「ダイヤルよりヒスイの身元の方が先だ。もしかしたら捜索願が出てるかもしれない。警察署に行こう」

「えぇー! ダイヤルの謎解きましょうよ! こういうのは何かしらお宝と紐付いてそうじゃない!」

「だとしたらなんで記憶喪失のヒスイが持ってるんだ」

「あまりに危険で誰かに襲われて、ショックで記憶を無くしたとか?」

「ならなんで俺の家に……?」


 テレポート……? 実験台にされてその拍子に……? いやいや、何を馬鹿げたことを考えているんだ。

 しかしまるで密室トリックのように不可解。

 そう考えているときだった。


 突然鳴るチャイム。珍しいな、とドアを開けると紳士然とした男が佇んでいた。

 いや、紳士だと……こいつは──


「久しぶりだな」


 黒髪を左右対称に分け、眼鏡をかけた理知的な風貌をした男。上品なスーツも卒なく着こなしている。だがこいつは……!


「石井……!」

「私を呼び捨てにするとはな。まあいい、それよりあいつはどこにいるか分かるか」


 耳障りな、低い声。


「知るか! 帰れ!」

「やれやれ、少しは落ち着いたらどうだ」

「誰がお前の話なんか聞くか!」

 

「鳥居、この人は……?」

「ん? これの恋人か? こんな欠陥品に……こいつはな、」

「やめろっ!」


 俺は咄嗟に石井の言葉を遮る。


 しかし石井の狙いは、俺から更に冷静さを削ぐことだったらしい。

 隙を見せた俺を強引に押し退け、家に入った。

 俺もあまりの唐突さに脳が処理落ちしていた。

 ──それが命取りだった。


「狭い部屋だな……まるでウサギの小屋だ」

「くそ、無断で入りやがって……仕方ない、要件だけは聞いてやる。他に何か喋ったらすぐに警察を呼ぶ」

「要件ならさっき言ったろう。あいつはどこだ、と。しかし相変わらず世間話も出来ないとはな」

「この人なんかイヤーな感じ……」


 石井は表情を変えずにちらり、とヒスイを見る。するとその手に持つダイヤルを見て目を丸くする。


「そ、それは……! それを寄越せ!」


 石井は突如豹変し、ヒスイから無理やりダイヤルを奪い、ヒスイは思わず転倒してしまう。


「これが例の物の完成形……? しかし何故これが……いや、素晴らしい、これさえあれば〝理想〟が……!」


 石井は目を見開き、心底驚き、歓喜しているように見えた。

 無防備な姿を晒していたが、やがて石井はダイヤルを回そうとする。


「させるか!」


 俺は石井からダイヤルを奪い取ろうとした。しかしなかなか手をはなさない。

 互いに奪い合いになるうちに──石井は深くため息をつき手を離す。

 奪い合いを制した。そう思ったが早計だった。石井はわざと手を離し、ポケットから手のひら大サイズの黒い機械を出したのだ。

 あれは……電気シェーバー……なんて物じゃない。スタンガンだ。

 けたたましい音を立てて威嚇する石井。

 もはや俺たちに抵抗権はなかった……


「そうだな……ちょうどいい。試しに私の前でダイヤルを回してもらおうか。私は〝飛べない〟からな。そこの娘でいい」


 こんなことならこいつを絶対に家に入れなかったというのに……! 無念に唇を噛む。挙句ヒスイを実験台にしようだなんて……


「誰があなたなんかの指図で!」


 反発するヒスイ。しかしまるで意に介さず、石井は無駄を極限までそぎ落としたかのような動きでヒスイに迫り、腕を捻って拘束する。


「ヒスイ!?」


「さあ、この娘を救いたいならどうするか考えてみろ」

「くっ……!」

「ちょっと鳥居なにやってんのよ! こんなおじさん二人がかりならなんとかなるでしょ!?」

「……わかった、回す」

「ほう、従順でいいことだ」

「そんな! こんなおじさんの言う事聞く必要な──あああぁああぁああああ!!」


 ヒスイが突如叫んだ。

 いや、違う、叫ばされた。

 石井がヒスイの背中に何か当てたらしい。

 おそらく、スタンガンだ。


「ちっ、予想より20dBはやかましいな」


 まあいい、と呟くと、石井はヒスイの顔面にスタンガンを向ける。


「さあ、お膳立てしてやったぞ。早くしたまえ」


 くそ、なんでこんな目に遭うんだ……ヒスイに暴行まで加えるなんて……

 だが白状すると自分自身、若干の好奇心も先ほどからあった。

 あの石井がここまで取り乱すのだ。何かがあるはず。もし回したらどうなるのだろう……?


 おもむろにダイヤルを手に取る。 


「ようやくか。早くしろ」


 不快なノイズは意識して遮断した。

 14に合わさるダイヤルの針を俺は静かに13に……合わせる。


 ──カチリッ


 ……何も起きない。やはりなんということのない代物だった。こんな玩具にむきになるなんて、馬鹿馬鹿しいと思った刹那──


 視界が歪む。

 眼前に、あるいは脳裏に2023という数字が浮かび、その数は2022、2021、2020と加速しながら、ルーレットのように目視できない速さで減っていく。


 2023 2022 20212020

 1762 1465 1122

 763 534

 91……


 その数は4桁から3桁、2桁となった。


 ──作用する……ないでくれ……


 また何かが聞こえた気がした。しかし全て聞く前に浮遊感の様な物を感じ、意識は遠くへ……


 ──このダイヤルは歴史に作用する劇薬だ。歴史を変えないでくれ

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