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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
リク番外編:私が貴方に贈る物
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(3)

「掴まえた」

「え?」

「ふふー、これね。この小さなピンがないと外れないの」


 素材は皮だけど、コーティングしてあるから水も大丈夫っていってた。鍵はちっちゃなヘアピンのような形状のものでこれを一旦抜いちゃうと同じものでないと外れないらしい。


「なるほど」


 いいつつも私の巻いたブレスレットを眺めながら、ちょっぴり不思議そうだ。


「拘束具」

「違うからっ! そんないい方すると怪しいからっ! プレゼントだっていってるじゃんっ!」


 ぼそっと呟いたブラックの台詞に全力否定した。真っ赤になってしまった自覚はある。いや、私の発言も拙かったのだと思う。思うけどいうにことかいて拘束具はないっ! もうっ! と怒った私にブラックはふわりと瞳を細める。


 う、これは確実にからかわれた。


 私がそれに気がついてたじろぐとブラックは艶っぽく溜息を吐く。

 何? 何かまだ問題があるの? 首を傾げて見上げた私に瞳を細めたあと、心底困ったという風に改めて嘆息する。


「困りました。私には今お返しがありません。ないので、ここは身体で奉仕させて」

「しなくて良いからっ! しなくて良いからねっ!」


 全力否定したのに、そんなつれないこといわないでください。と私の手を取り、唇を寄せる。そのまま、つつっと唇を滑らせ指先を口内に入れぺろりと舌を這わせる。


 ひぅっ!

 ぞくぞくと、背筋に熱が走り、私は煽られる羞恥心に顔を伏せる。


「ブブブラック! 道端! まだ、明るいーっ!」

「路上でなければ良いのですか? 暗くなれば良いのですか? 誰も私たちを気に留めたりしませんよ。誰にも私たちは見えません」


 ブラックが声を発するたびに、吐息が指先に絡んでいく。

 誘いこむように、堕とすように指先に舌を滑らせ、指の間を舐められると、膝がかくんっと折れそうになる。私が弱いのを知っていてやってる確信犯だからムカつく。


 ムカつくけど……駄目だ。負けちゃう。

 

 じわりと目尻に生理的な涙が浮かぶと、ぐいっと腕を引かれて抱き留められる。そして可愛らしく耳元にちゅっと口付けられ、腕を解かれる。


「すみません。嬉しすぎて、つい苛めてしまいました」


 ほんの少しだけ頬を上気させてそう口にしたブラックに私は口をぱくつかせたが、文句もそれ以外も音にならなかった。


「続きは屋敷で……と、これも駄目、なんですよね? 明日は授業があるんですよね? 学生は勉強が本分なんですよね?」


 駄目なんですよね? と重ねて、ゆらりと尻尾を揺らす。尻尾が揺れる。リボンがなびく。ふっと口角が上がるのを我慢できない。間抜けすぎる。


 そして、私はここで駄目だといわないといけない。明日は授業だし、アルファに荷物を預けっぱなしだし……でも……。


「ちゃんと、授業に間に合うように送ってよね」


 ―― ……負けてしまった。


 私の返答にブラックの表情がぱあっと明るくなった気がした。


 降参です。もう、可愛いよ、この人……。


「マシロさっきのピン貸してください」

「ん? はい」


 あ、取り上げとくつもりだったのに、あっさり渡してしまった。

 そう思ったことに気がついたのかブラックは、ふふっと楽しそうに笑って、ピンを両手で包む。次に手を開いたときには、鍵を開けることくらいしか出来そうになかったピンは通常仕様のヘアピンくらいの大きさになっていた。


「じっとしててくださいね」


 そして、そっと私の髪にとめてしまう。

 するすると髪を撫でていく綺麗な指先……傾いた夕日に彼の腕のものがキラリと光った。


「ずっと掴まえていてください」


 ずっと……と、反芻させ細めた瞳は少し寂しげだ。もうどっぷりと沈んで、掴るとか掴らないとか以前の問題になってしまっているということを、一体どうすれば伝えられるのだろう?


「放さないから、覚悟してね……」


 ちゅっと背伸びして軽く口付ける。私の精一杯の頑張りだ。それは楽しみだと微笑んだブラックに笑って返す。




 再び並んで歩き始めた。もちろん、手も繋いで、心もきっと繋がっているはずだから。


「ねえ、絶対ワザとだよね?」

「何がですか?」

「尻尾のそれ」

「ああ……マシロが結んでくださったのですから、マシロに解いてもらわないと駄目かと思いまして」

「―― ……ふーん……じゃあ、そのままで」

「構いませんけど、マシロ笑いを我慢出来ますか? 途中で噴出したらいくら私でも臍を曲げますよ?」

「ごめんなさい、外します」


 するりと尻尾から取り除いたリボンを指に絡める。まるで赤い糸のようだとか思ってしまう辺り、やっぱり私の方が囚われていると思う。




【 余談 】


「ちょっとーっ! マシロちゃんが帰ってこないんですけどっ!」

「あー。僕のところにわざわざ傀儡が来たよ。授業には間に合うってさ」


 それからといって、預かっていたマシロの荷物を解き


「これはプレゼントだっていってたよ? サンタクロースとかいう篤志家からの」

「誰それ?」

「僕に聞かないでよ。メッセンジャーがいってただけだから」

「マシロちゃんの友達ですかねぇ」


 謎はへんてこな方に深まっていた。



※ メリークリスマス♪

 クリスマスの季節だし真白からブラックへ何か贈り物をvというリクを頂いて、もさもさと書かせていただきました。

 少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。ご愛読ありがとうございました。

 もし良かったら感想など寄せていただけるととっても嬉しいです。

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