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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
リク番外編:私が貴方に贈る物
96/100

(2)

「はっけーんっ!」


 ―― ぐぇっ!


 どうしようかと迷っていると背後から抱きつかれた。この高さは、ブラックじゃない……。


「アルファ……」

「そうですよ。どうしたんですか? ブラックと出て行ったってエミルさんに聞いたんですけど、一人?」


 ひょいと私から離れて顔を覗き込んでくるアルファに私は眉を寄せる。お説教モードだ。


「あのね、アルファ、背後からいきなり抱きついてくるのはやめなさいっていってるよね」

「え、でも、女の子に声を掛けるときはそうするのが普通だって教えてもらったんですよ」

「……因みに誰情報?」

「ラウさんです」


 ―― ……あの似非教師め。


 私の眉間の皺は深まる一方だ。だけどそんなことは微塵も気にしないのがアルファの良いところだ。


「僕、お遣い頼まれてこっちまできたんですけど、一人なら一緒に帰りますか? そろそろ市も閉まっちゃうし、マシロちゃんの一人歩きは危険ですよ」


 何気に私限定にするのはどういう意味だろう。アルファのことだから、戦えるかどうかというのが基準だとは思うけど、ちょっと失礼だ。


「多分、もうすぐブラックが来るから遠慮するよ。そうだ、良かったらこれ持って帰って預かっておいてくれる? 戻ったら、取りに行くから」


 買い物袋をアルファに軽く持ち上げてお願いすると、良いですよ、とにこりと天使の笑みで受け取ってくれる。


「マシロちゃん居ないとつまんないですから、早く戻ってくださいね?」


 ぶんぶんっと手を振ってそういってくれたアルファに私も分かったと手を振り返す。さて、断ったのは良いけど待ち人は来ず。かなぁ? 日が暮れるとこんな季節でも冷えるし、帰ったほうが良いのかも、というか、良いんだよね。


 アルファのいった通りこの辺、市が閉まった後はあまり治安が良いとはいえないし。ぼちぼちと市が閉まっていくのを見て私は頷く。


「あ、買い物終わっちゃいましたか?」

「……遅い」


 私が一歩帰路に踏み出すと声は掛かった。足元を見ても猫は居ない。隣に並んだ姿をちらと見上げる。待ち人だったのだけど、何の気なしに出てきたのが癪に障った。


「すみません。少し野暮用に巻き込まれちゃって、えーと、その、楽しそうにしてらしたので、ちょっと抜けてすぐ合流するつもりだったんですけど、えーと……時間が掛かっちゃって……怒ってます?」

「別に良いよ。帰るところだったから」

「あ、えっと、送ります」

「―― ……そうして」


 思わず拒絶しそうになったけど、今日はデートだったということを思い出した。なんとか怒りを押さえ込んで頷いた。でも気分が悪いから手を取ってくれようとしたブラックを交わして、つかつかと足早に帰っていく。

 視界の隅でブラックがしょぼんとしたのが見えてしまった。


 う……。罪悪感。


「ねぇ、マシロ。食事をして帰りませんか?」

「いい、寮で食べる」

「ええと、じゃあ……ええと……本当に帰っちゃうんですか?」


 誰のせいだと思っているんだっ。誰の!


 なんだか私が悪者になったような気がする。私、悪くないよね? 悪いのかな? 心狭いかな? ブラックに常識を求めるのが間違ってるのかな?


 いやいやいや……。ここで甘やかしては駄目だ。うん。今後のためにならない。


 うん。……うん。


「―― ……遠回りして帰ろうか?」


 はー……負けた。負けるよね?


 だって、気がついてるのかついてないのか知らないけど……リボン残ってます。噴出すのを我慢するだけで精一杯です。どうしよう、これ、計算だったら。

 そんなことを思いつつも恐る恐る手を伸ばしたブラックの手を腕ごと取った。





「―― ……というのがあってね」

「なるほど。凄い篤志家の方がいらっしゃるのですね」


 いうと思った。いうと思ったよ。剣と魔法の世界のクセになんてロマンのない世界なんだ。私は道々ブラックにクリスマスの話をしていた。大抵、無知識の人に伝えればそういう話になるだろうけど。


「マシロも貰っていたんですか? そのサンタクロースから?」

「貰ってたよ。でも私はいつもはお父さんが、都合がつかないときはお兄ちゃんが私の枕元に置いてくれてたのを知ってたんだけどね。なんとなくこそっそりしてるところが可笑しくて、突っ込む気にはならなかったな。だから結構長い間騙されていたと思うよ」


 私の話に益々疑問符ばかりが浮かんだのか、ブラックは可愛らしく首を傾げる。


「子どもには夢を与える話なんだよ。本当はね? まぁ、私くらいになって信じてる人は居ないけど、でも変わりに大切な人と過ごせる日なんだよ。感謝とか愛とか? を込めてプレゼントを贈ったり、プレゼント」


 そうだった、すっかり忘れるところだった。私はアルファに預けた荷物から抜いておいたものをポケットから抜き出した。


「ブラックって右利きだよね?」

「使おうと思えば両方使えますけど? 急にどうしたんですか?」

「両方か、じゃあ、左手で良いや」


 掴まえていた腕を持ち上げえてそっとティンのお店で買ったブレスレットを宛ててくるりと撒くと、止め具でかちりと固定した。



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