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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
リク番外編:私が貴方に贈る物
95/100

(1)

 今日は久しぶりのデートだ。


 それが世界のルールだからといいながら、ブラックは割りと真面目に仕事をしている。いや、あれが仕事をしているってことは……正直良いことか悪いことなのかは私には分からない。寧ろ分かりたくない?

 本当に猫のように気まぐれだから、いつ会いにきてくれるのかも分からない。分からないから――会えるときはとても嬉しい――


「マシロ」

「何?」

「私は猫なので、猫舌なのです」

「うん。知ってるよ。ざりざりしてるよね?」

「いや、そちらではなくて……ええと、熱いのはちょっと、というかホットチョコは苛めだと思うのです」


 そうだねぇ。しかもブラックは猫の姿だし、銀のスプーンであーんしたら熱いよねぇ。私にSっ気はないと思ってたけど、ブラックが困る姿はとても可愛い。不安げに揺れてる尻尾とか心細そうに見上げてくる瞳とか。最高に可愛い。


 苛めたくてむずむずする。




「ありがとうございました」


 中途半端な時間に来るものだから、一緒にランチというわけにも行かなくてカフェでお茶になったわけだけど……一応、忠告を真摯に護って、明るいうちは猫の姿で居るのだから行動範囲を限られるしね。ペット同伴可はこのカフェのうりだ。


「支払いは私がするのに……――」

「猫が?」

「う」

「私この間ギルドランクを上げてもらったの。それでね、この間割りの良い仕事があって、ちょっとあったかいんだ」


 リアル私の悪いところ。あったら使いたい。いや、ちゃんと悪いと思って貯めてるのは貯めてるんだけど、実際どのくらいの額ブラックにお世話になっているのか分からなくなった。――聞いても本人は答えないし、王子様と騎士は金銭感覚狂っちゃってる系で、細かいこと気にしないし。一般人に見える術師さんは逆に細かすぎて、最終的に沢山。と答えられるし。あれってつまり説明が面倒になったってことだよね。明らかに――


 そのあと消耗品の買い足しで、エリスさんのところへいったらおまけにクッキーを貰った。

 エリスさんが焼いたらしい。本当に何でもこなす美人さんで頭が上がらない。


「えーっと、他に足りないものなかったかなー?」


 広場のベンチを陣取って、頂いたクッキーをぱくりとしながら本日のお買い物リストを確認。今日は細かいものばかりだから、大した荷物にもならなかった。最初は渋ったけど私が食べたので仕方なくブラックもクッキーを食す。


 膝に猫を抱えてのんびりなんてどこかのご隠居みたいだけど、そんなに悪いものでもないと思う。


 手持ち無沙汰だった私はクッキーの袋を縛っていた赤いリボンをブラックの尻尾に結んだ。やめてくださいとはいわれるけど、ブラックは私に爪を立てたり噛み付いたりはしないので――猫じゃなくて本来人だから当たり前だけど――続行する。


 黒い尻尾に真っ赤なリボン。なかなか愛らしいと思う。


「それにしても、ここの季節って良く分からないなー」

「気まぐれですからね。そういえば今年は寒くなるのが遅いような気がします」


 気まぐれな季節ってなんだよ。

 思わず突っ込みたくなるけどそれがこの世界だ。四季はあるにはある(らしい)が期間がまちまちなのだそうだ。そして、今年はなかなか寒くならない。なり始めたらあっという間というのも聞いたけど……。


「ついでだし、市も見ていこうか?」

「女性は総じて買い物が好きですね」


 む。誰と比べているんだ? 面白くない。別にこうなるまでの女性遍歴がどうであっても私は問わないけど、誰かと並べられるのは正直気分良くない。


「行く」


 ブラックを降ろすことなく、すっくと立ち上がる。膝から無残にも落とされたブラックは猫らしく、すとっと軽やかに着地する。そのくらい分かってるから確認もせずに私は歩き出した。

 そういえば、もしあのまま私が元の世界に居たら、もう寒い時期だろうしクリスマスシーズンとかかもしれない。

 いつもお世話になってるし、何かみんなにプレゼントでも買って帰ってあげようかな?




 市はいつも通り買い物客で賑わっていた。夕時が近いので食料品関係の店が盛況だ。だから、私が見ていた日用品とか雑貨とかのお店はそんなにごった返しているというふうではない。


「これカナイが好きそう」


 用途は不明だが、ちまちまこちょこちょした細工物だ。露天の店主が私が目に止めたものに気がついて説明してくれる。


「凄いでしょー。細かいでしょー? これね、底にネジがついていて回すとね……」


 いいながらネジを巻いてくれる。平らなところに置けば、不細工な音を奏で始めた。オルゴールの出来損ないみたいだ。でも、中でくるくる廻ってる小さな飾りとか、このどこかガラクタ染みているところは絶対気に入ると思う。


 普通に売れないだろうその一品を買い取って、私は次の店に。アルファとエミルへのお土産、違う、プレゼントを物色。


 う。女の子はやっぱり買い物が好きなのだ。認めたくはなかったけど、ブラックのいうとおり。曲げた臍が散財していく内に治ってしまっていた。


「ねぇ、ブラックにも、何、か……あれ?」


 ……逸れた。

 一回も振り返らなかったから全然気がつかなかった。きょろきょろと辺りを見回すけど、人ごみの中で猫一匹探すのは困難だ。


 まぁ、ブラックのことだしひょっこり出てくるかな?


「マシロ? それ買うの? どうするの?」


 丁度私が居たのはティンの露天の前だった。ティンの店は基本的に金属・魔法石加工がメインだけど、それだけは違っていたから目に付いた。

 話によれば、それはティンの作品ではなく委託販売というやつらしい。


「貰う」

「んじゃ、マシロ用ならサイズ調節してやるさ。腕出しなよ」

「良いよ、このままで」


 私はティンに簡単に包装してもらって店を離れる。足元に注意を払ってはいたけどブラックの姿がやっぱりない。折角きてくれたのに勝手に臍を曲げたのが悪かった。とは思うけど、居なくなる必要はないと思うしそれならそれでひと声掛けてくれても良いと思う。


 八つ当たりなのはわかってるけど、ちょっと酷い。


 市の外れまで出てきて、ブラックを探す。最悪一人で帰っておいたほうが良いのかなぁ?



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