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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
番外編:真実の鏡を見よう!
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(4)

『じゃー、他に知りたいことを聞いてくださーい』

「エミルは何も聞いてないんじゃない?」


 ふと気がついてエミルに振ると、エミルは、そういえばと頷きうーん。と唸る。特にこれといって知りたいことなんて早々ない。根本的に他人の秘密を探るような真似あまり好ましいとはいえないのだから。


「あ。そうだ……君はどこまでなら見通せる?」

『この世界のことなら何でも可能でーす』

「もっと広範囲は無理なのかな? やっぱり駄目だよね?」


 とてつもなく残念そーに口にしたエミルにプライドを傷つけられたのか鏡はすっくと立ち上がり小さな手で拳を作る。


『私に不可能はあーりませーん。なんなりとお尋ねくださーい!』

「そう? ありがとう」


 ……王子……

 本気で敵に回さないほうが良いのはエミルだと思う。私が心の中で嘆息したことは誰にもばれていなくて良かった。そしてエミルは続ける。


「マシロの元彼ってどんな人?」

「えっ!!」


 吃驚しすぎて声が裏返った。


『うっ! まさかの異世界ネタですね…… ――』


 いって鏡は黙した。


「そんなの全然知らなくて良い情報じゃない?」


 国家機密よりも知りたいこととかじゃないと思う。価値なんてもっとない……。それなのに満場一致で知りたいらしい。こいつら……。

 ま。異世界まで対応してないだろうし。高を括っていたら『一件、ヒットしましたー表示しますかー?』と聞こえてきた。表示するなっ! と叫びかけたらブラックにあっさり片手で口を塞がれた。ふがふがと情けなく息が漏れる。


『トオヤ・オオサキ。こちらが画像になりマース』


 うわぁ……二度と見たくない顔を表示してくれちゃったよ……本当にこの忌々しい鏡めっ。手足と声がなかったらその場で割ってやるのにっ。


「なんか、フツーですね」

「想像と違うね」

「俺がいうのもなんだけど、地味だな?」

「―― ……」


 確かに、私も久しぶりに見て、地味だと思ったよ。なんであんなに好きだったんだろうと思ったよ。つか、現状が濃すぎるメンバーに囲まれているせいだとも思うよっ! つか、カナイは隅っこでいじけてなよっ! こんなときだけ戻ってきてさっ!


「何一つ負ける気がしませんね」


 馬鹿にしているというよりは、どこかほっとしたようにそう口にしたブラックを振り仰ぐと、目が合ってにこりと微笑まれた。


 ―― ……う


 じわじわじわーっと頬が熱持ち、私は慌てて顔を伏せると膝を見つめた。

 そんな私の頭を撫でつつ、ブラックは「さて、」と切り出す。


「他にないようなら、もう終わらせてはどうですか?」

『まだですー、まだまだ満足出来ませーん。何か聞いてくださいー』

「―― ……っていってるし、まだ駄目なんじゃないかな?」


 かくんっと首を傾げた私にブラックはくすくすと笑い「付き合ってたら、シル・メシア創世記時代までの秘密とかまで聞かないといけなくなりますよ?」と口にする。流石にそこまでお付き合い出来ない。


「心があるということは、それを抜けば済む話でしょう? この間の幽霊屋敷の一件があるので破壊するという選択肢は、マシロの為にも避けたほうが良いと思うので……」

「―― ……あ、もしかして、白化?」


 私の行き着いた答えにブラックはにっこりと微笑んだ。

 というか最初から解決方法が分かっていて、この状況を楽しんでいたのだと思うと非常に憎らしいっ! 憎らしいけど、ぴくんっとそばだつ猫耳に怒る気は失せる。どうせ、獣フェチですからね。ふんっ。


「と、いうわけでこの鏡は私預かりで構いませんね?」


 別に断る理由もない。他に解決方法も知らなければならない真実もないわけだから、みんな勝手にすれば? という感じだった。些か私が感じたことと同じことを感じたのだろうカナイの不機嫌指数が上がっているが、あえて気がつかない。


「では、そういうことでお暇しましょう。マシロはこれをギルドに届けないと駄目ですよね? 一緒してください」


 ひょいと、真実の鏡をテーブルの上から取り上げて、カナイから依頼書を受け取ったブラックはさっさと部屋を出て行った。その後姿を追う形で私も皆にあとでね。と挨拶したあと、部屋を出た。


 図書館を出るなら、廊下の突き当りが非常口兼私の出入り口になっている。それなのに、ブラックはそちらに背を向けて歩いていく。

 とことこと追いついた私を、ブラックはちらりと見て「少し人の居ないところへ行きましょう」と告げた。私は不審に思いつつも断る理由もない。




 ブラックは中庭に出たところで、隅のベンチを私に勧めて座らせるとその隣に腰掛けた。


「どうしたの?」


 素直な問いだと思う。

 なのにブラックは私の質問になんともいい難い、曖昧な表情を取って、片手に抱えていた真実の鏡を膝に置いた。もう終わったのかとぐったりしている、魔鏡はちょっぴり可哀想な気もした。


「やる気出してください。最後に知りたいことがあるのです」


 こつこつと鏡の縁を叩きそういったブラックに鏡は喜色を示し『なんですかー?』と起き上がった。ブラックが皆を避けて鏡に聞きたいことってなんだろう?


 興味有り気でブラックに寄り添い鏡を覗いた私をブラックはもう一度だけ見た。何? と問い返してもブラックは軽く首を振った。そして、鏡に問い掛ける。


「マシロのご家族の今を、見せてください」


 ―― ……え?


 とくん……っと心臓が高鳴った。


『また異世界との交信ですかぁ? なかなか難しい質問ですー……』

「出来ませんか?」


 責める口調ではないことが不思議なくらい、落ち着いた声だ。どこか愁いを帯びている。どうしてブラックがそこまで……


「無理しなくて良いよ」

「先程は出来たのですから無理ではないでしょう? 私では手の届かない場所なのです。貴方もただの魔法具に戻ってしまっては、もう二度と異世界と繋がることはないでしょう。無理をおしてください」


 鏡は暫らく唸っていた。鏡面も明滅を繰り返し、辛そうにも見える。情報を引き出すのと動画では容量の差でもあるのだろうか……。


『―― ……、一件取得出来ました。ただ、音声は確保出来ませんでしたご了承ください』


 その言葉に、私とブラックが頷くと『では、再生します』と僅かに揺らいだ鏡面が、懐かしい顔を映し出した…… ――。

 私は思わずブラックの腕を強く掴んでいた。






「すごーい」

「壊さなかったんだー」


 無事に普通の魔法具へと戻った鏡をギルドに届けた私は、管理者にあるまじき発言に迎えられた。明らかに壊すと思われていた。国宝級の魔法具を……。


「兎に角、これで依頼は終了だよね」


 ほら早く手続きしてと促して、さくさくと完了手続きをしてもらう。そして、謝礼も受け取った私は事務所を出た。

 出てきた私の足元に黒猫が擦り寄ってくる。私はそれを慣れた手つきで抱き上げて、ぎゅっと抱き締める。猫は耳を後ろへと下げ額を摺り寄せてくる。

 私は通いなれた……といえるレンガ道へと踏み出した……。


「―― ……みんな、大丈夫そうだった」


 軽く双眸を伏せて呟き、ぎゅうぎゅうと擦り寄ってくる猫の額を感じて、持ち上げる。不安そうに見上げてきた猫に私は微笑んだ。


「笑っててくれて、良かった…… ――」


 鏡が映し出してくれたのが真実かどうかなんて確かめる術はない。だけれど、私が目にした一場面だけでも……お父さんも、お母さんも……臣兄も、郁斗も……なんとか笑えていた。時を止めては居なかった。そのことに私は救われた。




「ねぇ。ブラック……」


 ふわふわと頭から背に掛けて撫で付けながら、ぽつりと声を掛ける。


「私ね、ブラックが獣族じゃなくても、

      今と変わらないくらい好きだよ…… ――」



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