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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
番外編:真実の鏡を見よう!
93/100

(3)

 ―― ……と、いうわけで


『さぁ、いつでもどうぞっ! なんでもこの私にお尋ねくださいっ!』


 やる気満々の鏡を中央に、私たちは唸った……明かされる真実って……急にいわれても聞けない。何かない? と私に振られても困るのだけど……知りたいこと、知りたいこと


「ぐん……いや、寮監さんの髭は本物?」


 かなりどうでも良いことが口からついてでた。カナイがお前それ本当に知りたいのか? という目を向けてきたが、沢山聞くんだから別に良いじゃん。


『図書館寮・寮監の髭の謎……本物です』

「本物なんだ!」

『今朝の髭は乱れに乱れてしまった。これでは生徒に示しがつかない。いや、しかし、大丈夫だ、この型にさえ押し込めば今日も完璧な美しき髭に整うはず……――』

「待て、それなんだ? その鏡に映ってる文字はなんだ」


 ―― ……ねぇ、髭が型押しだというところには突っ込まなくて良いの?


『日記です。他人の秘密を明らかにするには日記を読むのが一番ですー』

「日記っ! うわっ! 悪趣味ーっ。でもマシロちゃんの日記が気になる出して出してっ!」

「ちょ、アルファっ! わ、私は日記なんて書いてないし、だから読むのは」

『マシロ・ヤマナシの日記ー検索しますか?』

「しないっ!」


 止めたのにアルファの「する!」の方が早かった。エミルも女の子の日記を読むなんて失礼だよといいながらも止めない。くぅっ。


『八百件ヒットしました』

「めちゃめちゃ書いてるじゃないですか」

「書いてないってば」

『何を閲覧しますか?』

「マシロが、私の何を愛してくださっているか、で、お願いします」


 突然輪の外から声がして、私は慌てて背後を振り仰ぐ。にこにことブラックが「面白そうなことをやっていますね?」と、私の両肩に手を置いて来て、肩口から鏡を覗き込む。


『一件ヒットー、閲覧しますか?』

「やめて」

「「します」」


 なんか声が多かった。


『今日は週末だからブラックが遊びに来てくれた。嬉しい。猫の姿だったので超嬉しい。しなやかな手足に美しい毛並み。撫でれば光が泳いでいく。やや硬さのある肉球もそれにしか有り得ない弾力で応えてくれる。可愛すぎる。はぁ、このまま永遠に猫の姿だったら良いのに…… ―― マシロ・ヤマナシ。獣フェチ』


 真っ赤になる私とは対照的に、三人は一斉に吹き出した。そして頬を寄せていた人はがっくりと肩口に額を乗せて「獣族だから、獣族だからなんですか……」とぶつぶつ零している。


「あ、じゃあ、闇猫の日記とかどうですか、凄い黒そう」

「私は日記なんて形の残るもの作っていませんよ?」


 だから私も書いてないってば、捏造だよ。いや、猫派に完全鞍替えしたのは事実だけど……。


『種屋店主の日記。検索しますか?』

「します」


 あたりがぴんっと静まり返った。そして僅かな間のあと『ヒットしました』と返ってきて続けられる。


『貴方は二十五歳以上ですか? イエス? おあ、ノー? 適正年齢以下には不適切な発言・表現。など多数含まれて居ます』

「フィルタリングされてる」

「閲覧不可なようですね」


 ―― ……どんだけ黒いんだよ。


「さて、私の情報は非公開ということが確認できたので、次は何を聞きましょうか?」


 みんな一つ溜息を落とした。


「あ、俺一つ良いか?」


 珍しくカナイが前に出る。


『なんでもどーぞー』

「大聖堂の学長って幾つだ?」

「カナイー、女性の年齢を聞くのはどうかと思うよ?」


 私はまだ大聖堂の学長の顔を知らない。というか、ここの学長だって面識がない。とりあえず女性なんだな。

 窘めたエミルの台詞から情報を得る。


「いや、でも俺結構昔からあの人知ってるけど、外見的特長が一切変わらないんだぞ?」

「ああ、私もかなり昔から知っていますが、あの人は変わりませんねぇ」


 予想外にも話しに乗っかったブラックに「だろ?」と同意を求め、どうなんだよと鏡を見る。鏡は既に検索済みのようでその画面には……。


『この頁を開くとウイルスに感染する恐れがあります』


 ―― ……魔女怖ぇ……。


「推して知るべしというところでしょうか?」

「えー、もう全然役に立たないじゃないですかーっ!」

『そ、そんなことありませんっ! 私はこれでも有能な魔法具。国宝級であり、かの時代ではそれはもう良い働きをしたのですよー! もっと質問を考えてください』


 なかなかいってくれる鏡だ。このちょっと間の抜けた声じゃなかったら、苛っとしてくる。


「んーじゃあ、昨日カナイさんがどこにいってたか、教えてください。なんかこそこそしてて気持ち悪かったので」

「そーいえば、見かけなかったよね?」

「べ、別に俺の行動なんてどうでも良いだろ! 別のにしろ」


 ああ、焦っちゃったよ。カナイさん。そんなことしたら「早く出してっ!」アルファがせっつくのは分かりきってるのに……。


『昨日のカナイの秘密。一件ヒットしました』


 やめろと、暴れるカナイをアルファががっちりホールドして「表示して」と続けさせる。


『危うくアルファの面倒なロードワークに付き合わされるところだった。今日は多分これで足りるだろう。ああ、可愛い仔猫たん。一、二、三、四……あれ? 五、増えてる。まぁ良いか。可愛いから、あ、マシロがまた真っ黒になっている…… ―― カナイ、隠れて仔猫を世話をしている。名前はマ……』

「やーめーてくれーっ!!」


 カナイ本人は真っ赤になってしまった。そして、完全にどこかに逃避した。ふらりとアルファから離れると部屋の隅っこで丸くなる。別段珍しい情報ではない。珍しい情報じゃないけど……気の毒に……。


「―― ……ええと、私は突っ込んで良いの?」

「放っておいてくれ」

「たん、はないですよね……その上、名前まで……カナイさん、気持ち悪い」

「なんとでもいえば良いさ。ああ、今すぐ俺を消してくれ……」

「今なら格安で消して差し上げますよ? お望みなら無料でやりましょう。今すぐ実行させてください」


 一歩、カナイのほうへ踏み出そうとしたブラックの尻尾を引っつかむ。


「やめて。ブラックのは冗談に聞こえないから」

「大丈夫です。本気ですから」

「なお悪いわっ!!」


 反射的に殴ってしまった。

 そんな揉め事は関係ないとばかりに、エミルはのんびりと口を開く。


「これ、もしかして研究棟の奥じゃない? 最近野良猫の数が異常に増えてて夜が五月蝿いってシゼがいってたよ? それにあの辺で飼うのは宜しくないよ……実験台にされたらどうするの? そのマシロちゃんだけでも確保しないと」


 いやもう、エミルの基準も考え直して……。

 カナイの顔が一瞬にして蒼白になった。エミルの悪い冗談だと思うけど、カナイの肝はかなり冷えたようだ。直ぐにでも飛び出しそうなのを押さえた。


「貰い手探すの今度手伝ってあげるよ」


 そっと声を掛けるとカナイは膝の間に頭を埋めてしまった。


「カナイさんは暫らく復活出来ないと思うので、先に進めましょう」

「エミルが今作ってる薬」


 次は何を聞こうかと、思案し始めたところで、ぼそりと消沈中のカナイが口を開いた。エミルが「え?」と僅かに動揺を見せたが、鏡はあっさり検索をかけてしまう。


『読み上げますー』

「ちょ、別に変なもの作ってないよ?」

『……あとは、テングマダラダケを入れて煮詰めれば完成する。アルファにはいつも逃げられてしまうから、今回もカナイが……』

「テングマダラダケって、猛毒キノコじゃなかった?」


 思わず口を挟んでしまった。アルファ以外が、普通にこくんと頷く。いや、その反応はおかしくないですか?


『―― ……と、なるはずだけど少し、分量を変えてみたらきっと新しい反応が見られると思う。九割は失敗すると思うけれど一割の成功が残ってる。僕はそれにかける。楽しみだ。―― ……エミルの次の薬は効果は不明。そして失敗は意図的ー、以上です』


 ―― ……意図的。


「やだなー、意図的なんて酷い。そんなはずないよ。一割の成功が残ってるからね」


 ……十分意図的です。


『あのー、皆さん。もーっと国の機密事項とか知りたくないですかぁ?』


 あまりに内輪的な秘密に飽きたのか、そう提案してきた鏡に、返答は私以外、全員一致だった。


「知りたくない(です)ね」

『どーしてですかー?』

「私の知らないことなんて、マシロの心とくだらないこと以外、ありませんし」

「僕、興味なーい」

「王宮に戻れば嫌でも触れることだから今は知りたくないよ」

『隅っこの術師さんはどーですかー?』


 カナイは顔を挙げることもなく片手を振って拒否した。まぁ、この人たちがそんなことをわざわざ知りたがるとも思えない。


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