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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
番外編:真実の鏡を見よう!
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(2)

「丁度良い。アルファ、これ開けろよ」


 カナイは机の上の国宝を! 国宝を無造作に放り投げた。私が息を呑むより早くアルファはそれを「なんですか? これ」と受け取る。


「真実の鏡だってさ。なんか……」

『アルファルファ・ルチル・シーザス 年齢十七歳 十年前騎士塔での師匠・ムスカの強い騎士道に不満を抱き、ムスカの寝台の中に毒蛇を七匹ひそませて、その罰として一昼夜蛇(毒なし)樽に放り込まれて以来、蛇が苦手』


 カナイの説明を待たずにシュールな秘密が漏らされた。

 アルファもアルファだけど師匠も豪快すぎる。


「うわっ! 何これ! 気持ち悪っ!」


 つるりっとアルファの手の内から落とされた鏡は、うひゃあと間抜けな声を上げて、着地した震動に耐えかね、ばたんっと倒れると短い両手両足をぱたぱたとさせる。


「アルファ、駄目だよ。国宝だよ」


 私は拾い上げて鏡の面を胸に向けて抱きかかえた。


「お前蛇が苦手なの?」


 ぶふっとカナイに噴出されてアルファは眉を寄せる。


「カナイさんだって、蛇樽に放り込まれたらトラウマになりますよ、絶対」


 うん。なると思うよ。私は心の中だけで頷いた。


「とりあえず鏡面に映らなければ大丈夫なのか?」


 いいつつカナイは床に落ちた依頼書を拾い上げた。そして、ざっと黙読したあと


「―― ……黙らせれば良いらしい」

「じゅあ、破壊しましょう。必要ないですよ、今、真実の鏡なんて」

『ひぃぃぃっ、や、やめてくださいぃぃ』

「魔法具が、心を持ったのが間違いだったな。気の毒だとは思うし、依頼書には傷をつけずに正常な状態に回帰させることとあるが……」

「うっかりってことで良いですよね?」


 ―― ……この二人も極端だった……。


 真実の鏡は両手両足をばたばたと動かして私の腕の中で必死に助けを請う。ここまで懇願しているのだから助ける術があるなら助けるべきだと思う。


「可哀想だよ」

「えー、マシロちゃん。それの味方なんですか? 僕なんてマシロちゃんたちの前だから良いけど、フルネームに苦手なものまで暴露されたんですよ」

「ああ、俺は心に書きとめた。一生忘れない」


 にやにやとそういったカナイにアルファは永遠に思い出せないようにしてあげます。と、腰の刀に手を掛けそうになったから一応止めた。長くなるから二人でもめるのはやめろ。


「とりあえず」


 私の声じゃない。

 揉み合いそうになる二人を無視して扉のほうを見るとエミルが立っていた。賑やかだったから気がついてもらえなかったんだよ、と苦笑しつつ部屋へ入ってくる。そして私の手の中から鏡を取り上げる。私は思わず「あ」と声を漏らした。


『エミリ――』

「黙って」


 にっこり。

 変なオーラ出てます。王子。とりあえず全員黙った。


「うん、良い子だね。質問以外には答えない。分かった?」


 反射的に私は頷いてしまった。なんだろう、このエミルの有無をいわせない感じ。


「分かったかな?」

『わ、分かりましたー』


 おお……一瞬にして魔鏡を掌握してしまった。流石エミル。滅多にやらないだけあってその強引さは絶大だ。鏡の返答に微笑んで頷くと、エミルは鏡をテーブルの上に載せた。上手に足を伸ばしてバランスを取り座っている。


 ―― ちょっとだけ可愛い……。


 カナイも同じことを思ったのか、目があったら気まずそうに逸らされた。


「大体、聞いていたと思うんだけど……つまり、宝物庫でも黙ってくれてれば良いんだよね?」

『い、いぃ、嫌ですー。あそこは暗くて静かで寂しすぎます。もう、気が遠くなるほどあの場所で待たされました』

「カナイ。こういう場合大聖堂でならどうするの?」


 魔鏡の嫌々と首? いや身体を振る姿にエミルは小さく嘆息。私に座るように椅子を引いてくれ、促されるまま座ると自分も腰を降ろした。


「大抵は破壊する。ときどき魔法具が心を持つことがあるという話は聞いたことあるが、俺は初めて目にした」

「壊しちゃうなんて、可哀想じゃない! お話出来るのは便利だよ、ね!」


 思わず口を挟んだ私にカナイは仕方ないなという顔をする。


「あのな、魔法具は道具で、心は必要ない。今だって、こいつの勝手な意思で幾つかの秘密が明らかになってしまったわけだろう? それは使用者の意思とは異なってる。もうそれじゃ、道具としての価値は無いんだよ」


 カナイのいい分も分かる。分かるから私は不満顔を隠すことはなかったが口を閉じた。


「……分かった。壊さなくて良いように、考えよう。それに国宝級の魔法具をそう簡単に破壊するわけにもいかないだろうし、依頼書にも破壊厳禁って書いてあるしね?」


 といってエミルは不満顔の私の頭を撫でた。


「それで、どうします?」

「―― ……ようするに、使われない鬱憤がたまって心になったんだろう? だから、勝手に暴露してまわってたわけだから……」

「んー……じゃあ、満足するくらい真実を明らかにしていけば……もとの鏡の姿に戻れるかな?」


 うーんと唸りながら、エミルは鏡にどう? と訪ねる。鏡は『わーかりませーん』と答え、でもー、と続ける。


『確かに私は使われない、満たされない思いを抱えていました。だから、それが満たされれば、昇天出来るのかも知れませんー』

「え、死んじゃうの?」

「死とは違うだろ? 本人満たされるっていってんだしさ」

「そんなもんかなー……」


 この企画が全ての悪夢の始まりとなった(主にカナイにとって)…… ――


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