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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
番外編:真実の鏡を見よう!
91/100

(1)

※ 某ドラマCDのパロディとなっております。ご注意ください ※

 なんとなく時間を持て余した私はギルドに足を運んでいた。いつも通り陽気なテラとテトが声を揃えて迎えてくれる。


「「いらっしゃーい、マシロ」」

「う、うん。何かない?」


 カウンターに歩み寄りながらそう口にした。その私の問いに、二人はニコニコと顔を見あわせたあと、テラがカウンターの上にひらりと一枚の羊皮紙を広げた。それに続く形でテトが鏡をことんっと置く。三十センチほどの楕円形の鏡だ。

 紙の形式からして、CランクもしくはBランクのお仕事だろう。


「これね、国宝級の魔法具なんだよ」


 国宝知識にも魔法具知識にも乏しい私は、へぇと相槌を打って続きを促した。そのあっさり態度が気に入らなかったのか、テラが「国宝級なんだけど」テトが「凄いものなんだよ」と重ねる。


「うん。分かった、それで?」


 なおあっさりな私の返答に、もうっ! と二人揃って頬を膨らませたが可愛いだけだと思うよ?


「本当はこういう依頼は大聖堂に持ってくんだけどさ。マシロに渡したほうが面白いかなと思って」


 面白いか面白くないかで依頼を紹介しないでもらいたい。


「いや、それは幽霊屋敷の一件で懲りたのでは?」

「えー面白かったよー」

「他のメンバーじゃ」

「「ああはならなかったよね」」


 褒めてないっ! 褒めてないよねっ!!


「いや、本当ごめん。それにまた同じようなことになったら……さ、ギルド管理

者として信頼とか失わない?」


 本気で心配したのだけれど、テラとテトは顔を見合わせたあと私の方へ向き直りにこりっ


「「大丈夫!」」

「あんな物件扱おうって不動産屋」

「色々あって然りだから」

「「内緒にしてもらうもの簡単なの」」


 ―― ……つまり、後ろ暗いところをちらつかせて黙らせたのね。


 可愛い顔と耳しやがって、なかなかアクドイ兎たちだ。


「話し戻すけどね、この魔法具」

「鏡だね?」

「うん。鏡。鏡だけど不用意に覗き込んじゃ駄目だよ?」


 カウンターに無造作に置いてあるそれに顔を覗かせそうになって慌てて引っ込める。


「真実を映す鏡なんだよ」

「聞いたことに答えるってものなんだけどさ」


 私は意味が良く分からなくて、ふーんっと頷く。


「普通の状態なら、争いごととかがあるときに活躍するんだけど……これね……」


 いいかけたテトの話の続きを現すように、鏡は立ち上がった。細くて小さな手足がにょきこと出てきたのだ。私はとりあえず一歩下がった。立ち上がった鏡は私に向って鏡面を向けぺこりと頭を下げたように見える。


 反射的に私も頭を下げた。根っからの日本人ですから。


『この方がなんとかしてくださるのですか?』

「うん。多分」

「壊されないように気をつけてね」

『ひいぃぃぃ、痛いのは嫌ですよぉ』


 ―― ……喋ってる。普通に会話がなってる。


 私は危険を感じて、暇つぶし程度の依頼ではないと直感して回れ右したら呼び止められた。三人に。

 背筋に冷たいものを感じて私は無視して出入り口まで大股で向った。背後でテトが「ゴー!」と呪いの言葉を吐いた気がする。


『待ってくださいーっ』

「い、いやぁぁぁっ」




 ―― ……で。


 私は例の鏡を胸に抱いて図書館に戻った。

 自ら依頼書を持って走ってきたのだ。そして、私は捕獲されてしまった。声を震わせて『助けてくださぃぃぃ』と縋られたのでは、断りきれない。


 がっくりと肩を落として、館内に足を踏み入れるとカーティスさんに「大丈夫かい?」と声を掛けられた。私が大丈夫だと答えるより早く。


『カーティス・ケリア。年齢三十七歳。ラウ=ウィルと同年齢でもあるにも拘らず、そう見てもらえないことを実は気にしている。あとー、最近頭部がさみし……ふががっ』


 勝手に口を開いた鏡を胸に押し抱いて、きょとんとしたカーティスさんの前をごめんなさいっ! と謝罪して走って逃げた。


 この鏡……他人の真実を勝手に明かしてしまうらしいのだ……よーするにおしゃべりな鏡。


 とりあえず、私は寮の自室に飛び込んで――鏡には申し訳ないけれど映った人の秘密を手当たり次第話そうとするので――布でぐるぐるぐるっと包んだ。ふがふがいってる。

 でも、気にしない。


「あ……この子が持ってた依頼書まで一緒に丸めちゃったよ……」


 がっくり。


 でももう一人で開封する気にもならなかった為、その包みを小脇に抱えて私は隣の部屋へ。


「エーミルー、居る?」


 ノックと共に掛けた声に返事がない。エミルに限って居るのに出ないということはないだろ。カナイならありえるけど。

 仕方がないから廊下を挟んだ隣のカナイたちの部屋をノックした。こちらもまた返事がない。でも先にも述べたようにカナイならありえる。居留守というわけではなくて、本当に気がついていないということが……。


 完全に留守ならドアは閉まっているだろうとノブに手を掛けると、あっさり開いた。中を覗くとカナイが窓辺で読書中だった。


「カナイ」


 気がつかない……。なんで気がつかないのかなー? もう! 少しの苛立ちを覚えて、私は声を張った。


「カナイっ!!」

「っ! あ、ああ……」


 びくんっと肩を跳ね上げてからこちらを見たカナイは、あからさまに不機嫌そうな顔をした。


「何? また変な依頼持って帰ったんじゃないだろうな?」


 鋭い。鋭いけれど決め付けは良くないよ。うん。


「なんでそう思うの?」


 私は勝手知ったる他人の部屋とばかりにさっさと入室して部屋の中央にあるテーブルの上に荷物を置いた。


「お前、暇だからギルド行ってくるーって出てっただろ? それにその妙な形状の荷物……俺の第六感が告げる。確実に厄介ごとだ」


 カナイは気難しそうにそういって、本を閉じると窓辺に置いて、こちらに歩み寄ってきた。そして苦々しく机に置かれた包みを睨みつける。もう鏡は大人しくなっていた。窒息死……とかしないよね? もともと静物だし。


 はぁ、と嘆息してカナイは顔に当てたままになっていた眼鏡の位置を直して私に片手を突き出す。何? と首を傾げれば「依・頼・書」と指先を振られた。私はちらりと包みに視線を送った。


「この、中なのか?」


 こくんっと頷いた私にカナイは、はー……と、呆れたように長く息を吐いた。


「いや、ちょっと待って。カ、カナイは隠し事とか、秘密とか……ない? 大丈夫? その秘密は露見しても平気?」


 包みに手を伸ばしたカナイの手を掴まえてそう重ねると、カナイは眉間に深い皺を刻んだ。いつも機嫌が良さそうというわけではないけれど、そんな顔を見ることも少ない。


「どういう意味だ?」

「あ、えっと、その……この中身、鏡なんだけど……それが、ちょっと暴走というか命を持ったらしくっておしゃべりなのよ」


 私の曖昧な返答にカナイはやや黙したあと、ぽつりと「真実の鏡……か」と零した。知ってるの? と驚きの視線を向ければ、口角を僅かに引き上げて「まあな」と、小さく肩を竦められた。


「あれー? 二人して見つめ合ったりしてどうしたんですかー? 僕お邪魔?」

「っ! あ、アルファお帰り」


 私は反射的にカナイの手を掴んでいた手を離し、声のしたほうを振り返る。カナイが苦笑したのが分かる。


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