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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
番外編:幽霊屋敷に行こう!
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(4)

 ゆっくりと瞼を落とした私――もう、どうとでもして下さい――ぴくりとエミルの体が強張り、突然私の頭を抱え込むと自分の胸元に引き寄せた。


 ―― ……ガシャン!!


 銃声が響き、窓が割れたのはそれとほぼ同時だった。


「危ないな……マシロに傷がついたらどうするの」

「貴方が死んでも守るでしょう? というか、私はマシロを傷つけません」


 私にとって聞きなれた足音に、声だ。


 そして廊下からもばたばたと足音が聞こえる。多分、音に驚いてアルファたちが踵を返したのだろう。

 私の背後でぴたりと止まった足音は、まだ、エミルの腕の中に居た私の肩を掴まえて、多少強引にエミルから私を引き離し、自分と向かい合わせる。


 ―― ……良かった。


 予想通りそこにあったブラックの姿に、ブラックならなんとかしてくれると私は安堵したのに、私の身体は強張った。


 その機微にブラックが気がつかないはずはないけれど、ブラックはそれを無視して、私の身体を片手で固定すると、こつこつと右手の中指で私の胸元を突いた。


 ―― ……いやっ!


 私の中で何かの声がした気がする。


 けれどそれは分からず、そのまま突いた指先を後ろに引いたブラックの指に絡みつくように、白化される種と同じように……ずるずるっと光が引き出される。


 ぷつんっと全てが出て終わると、私は大きく深呼吸した。


「もう、残っていませんね?」


 ブラックの言葉に私は頷いた。それは良かったと微笑んでブラックは軽く私の額に口付けてから矛先をエミルに向ける。

 苦々しく睨みつけてくるブラックに、エミルは軽く肩を竦めた。


「君の不始末?」


 にこりと告げたエミルにブラックは眉を寄せた。


「あ」


 二人がいがみ合っている間に、ふわりと、また光の球体が逃げ出した。良いの? とブラックの袖を引くとブラックは、ああ……と零し「すぐ消えるでしょう」と苦笑する。


「それで、どうしてあんな状況になるわけですか?」

「うーん。それは拒む理由がなかったからかなぁ?」


 室内の温度が三度は下がった。

 まぁ、ブラックによって窓が破壊されたのが原因だとは思うけど、二人は笑顔で体感温度を下げる天才だと思う。私は、はぁと嘆息して、まだ熱い頬をぺちぺちと叩いた。


 開いたままになっている扉から賑やかな音が聞こえた。それを覗こうと傍まで寄った私の目の前をばたばたとアルファとカナイが通り過ぎていく。


 私たちを探していたのではないのだろうか?


「結婚してくださいっ!」

「っちょ、アルファ、待て、おま、色々問題が……!!」

「どうして、愛してるっていったのにっ!!」


 逃げ出した思念体は今度はアルファに憑いたらしい。どうやら無差別だ。


「ブラック、放っておいて良いの?」

「強い思いと嫌な記憶はなかなか消えないので、残っていただけだと思います」

「あの人裏切られたのかなぁ? 物凄く辛くて哀しくて寂しくて……って気持ちばかりだったよ」

「例えそうだったとしても、もう、とても昔の話です。マシロが気に病むことじゃない」

「それで、幽霊はあれだけ?」


 二人が消えてしまった廊下の先を見てそういったエミルにブラックは頷いた。


「あとは魔物が数体、住んでいましたが……アルファが片をつけました」


 そのうちここも売りに出されるでしょう。と、続けたブラックは、ふと顔を挙げ何もないところを見ると「出ましょう」と私の手を引いた。出るって行ってもそっちはブラックが壊した窓だけど。


「このくらいならいけますよね?」

「うん」


 いや、無理。私が声を出す前にエミルが頷く。


 ―― ……え、いけるんだ?


「マシロは私にしがみ付いてくださいね」


 にこりと、いわれて冗談じゃないのは分かった。私は慌ててブラックの首に腕を絡めるとひょいと抱きかかえられて、窓から飛び降りた。

 エミルもひょいと身軽に降りて、着地には少しブラックが手を貸したようだ。


 私たちが無事に屋敷から出た、その瞬間……

 鈍い地響きがした。


「え?」

「あー……カナイ切れたね」


 ぽろっと聞こえたエミルの台詞を問い返す暇もなく、


 ―― ……ずんっ


 と足元がひずんだような感じがすると同時に、轟音が響き土煙が上がった。

 煙を吸い込まないように配慮してか、ブラックが私を胸に引き寄せて片腕で抱き締める。

 ちらりと顔を盗み見ると……凄く楽しそうだった……。


 はぁ……。


 次に視界が戻ったときには……屋敷は瓦礫の山となっていた。


「ちょーっ! もう! カナイさん危ないじゃないですかっ! 何破壊してんですかっ!」

「それはこっちの台詞だっ! きっしょいことすんなっ!! 戻ったのか?! 正気に戻ったのかっ!」

「僕だって好きでやってたわけじゃないです。気持ち悪いよぉぉ!」


 その中央で屋敷に残っていたと思われる二人は健在。

 喧嘩真っ只中だった。元気そうで何よりだ。




 そのあと私たちは懇々と不動産屋に叱られた。


 これから売りに出そうという屋敷を調べにいっただけなのに、跡形もなく破壊したのだから仕方ない。

 カナイに、こっそり直せば? といったのだけど、面倒臭いと断られた。

 それに古いものだったから、復元するにも正確な資料が足りなかったとか何とか、まぁ、面倒臭かったんだと思うけど、ね?


 そして、ギルド管理者のテラとテトには盛大に爆笑された。いや、管理者としてその反応は間違ってる。間違ってると思うけど、まぁ、良いや。


 不動産屋は王宮に屋敷代の請求をしたらしく、その詳細がラウ先生を伝って私たちのところまで届いた――ラウ先生はどうして呼んでくれなかったのかととても残念そうだった――エミルが半分くらい出せば? とブラックに渡すと、にっこりその場で燃やされた。


 どうか不動産屋さんが潰れませんように。


 私はこっそりお願いし、悲しみだけでこちらに残っていた光が無事に昇華されていることを願った……。




―― 余談 ――

「ねぇ、ブラック」

「はい?」

「屋敷の中で私の肩を叩いたり、押したりしたの、ブラックの悪戯だよね?」

「―― ……?」←身に覚えがない。

「……うん、なんでもない」←これ以上追求したくない。

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