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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
特別番外編:月を恋う・貴方を想う
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「ふーん。つまり話を纏めると、爆発に巻き込まれて気が付いたら種屋らしき、というかあそこは種屋だけどね? に居たんだね。それで建物に残っていた像にマシロの姿がブラックに次いで多かったから、それを追ってここまで来たわけか」

「爆発の痕跡が残ってたのは半地下だったから、あそこはなんだ?」

「作業場みたいなものだよ。私が調剤とかに良く使ってたの。ブラックも何か小難しいことをするときにはあそこに篭ってたみたいだけど」


 アルファが淹れてくれたお茶を注意深く見ていたから私はカナイの質問に答えつつ彼のカップをちょっとだけ取り上げて一口飲んでから渡してあげた。彼は私とカップを交互に見たあと、そっと口をつける。尻尾の先がぴこぴこしてるから多分美味しかったんだろう。


「それじゃあ、その小難しいことで爆破が起こったんだろうな?」

「ふーん。それでブラックが縮んじゃったんですね?」

「ぼ……私はブラックという名じゃない」


 今僕っていい掛けたよね。ブラックにも僕っていってた時期があったんだ。可愛いかも! カナイとエミルの見解ではあっさり少年はブラックだと決定付けられた。最大の特徴である容姿を決定打にしたのだけどそれで良かったのかな?


「じゃあ、今の君はなんて呼ばれてるの?」


 エミルがやんわりと問い掛ける。その問い掛けにブラックは、逡巡したあと、俯いて小さな声で答える。


「ミアと呼んで構わない」


 三人が随分可愛らしい名前だと笑っていたけど私は、ふと思い出してブラックの耳に口を寄せる。


「ルインシルじゃなくて良いの?」


 こそりといったらカシャン! と派手に驚いていた。どうして知っているのかというように赤面し、挙動不審だ。年相応に可愛い。


「そ、それは、す、捨てたものだ」

「ふーん」


 ルインシル=ミアは彼の本名だ。誰も知らないといっていたからこの頃からもう使っていないのだろう。蒼月教徒の人たちはブラックのことをルイン・イシル様と呼んでいる。それとどのくらい違うのか私には分からないけど、青い月を称してルイン・イシル。白い月を称してシル・マリルと呼ぶのだからそこから察するに、超有名人とほぼ同姓同名! みたいな感覚で恥ずかしいのかもしれない。そう思うとブラックってちょっと可愛い。


「じゃあ、ミア。君は今いくつ?」

「十三だ」

「……十三か……丁度、種屋が代替わりをする時期だな。俺の記憶から憶測すると多分十四もしくは五くらいでブラックは種屋になったはずだ。あー、ミア。お前、種屋になる予定なんだよな?」


 カナイの質問にミアは頷く。


「周りは五月蝿いが、ぼ……いや、私はまだ時期尚早だと思う。だから、彼らの声は聞かない。それに……蒼月教徒の本部にも行ってみた。私の部屋にはもう長い間誰も入っていないようだった」


 僕は一体誰なんだ……ぽつりと零したひと言に私は胸が苦しくなった。


「ま、要するにだ。爆発のときの煙の影響だろ。何の薬を作ってたのか知らないが、身体に沈着した成分を取り除ければ良いわけだ」


 ……俺の領分じゃないなと締め括る。そんな後生なと眉を寄せるとエミルが笑った。


「僕の領分ではあるけど……僕では多分無理。残念ながら力不足だよ」

「じゃ、じゃあ、エルリオン先生かな?」


 困りきってそう呟くとエミルは首を振った。


「ラウ博士とシゼに相談しよう。事実を知るものは身内だけにしたい。彼らなら何とかしてくれると思うよ」


 エミルの言葉に、そう、だよね。と私は頷きほんの少しだけ胸を撫で下ろした。しかし、ミアは「その必要はない」と拒否した。


「私は状況を確認したかっただけで、そうと分かったならあとは自分で」


 そういって立ち上がり、出て行こうとする雰囲気のミアをカナイが「お前はやることがある」と止める。その言葉にぴこんっと耳が跳ねてカナイをじっと見上げる。


「良いか? お前は今もう既に種屋の主なんだ。屋敷に残っていた像。獣族の方だ。あれが今のお前の姿だ。それを、はっきり掴めるか?」

「……ああ」

「じゃあ、それを傀儡にしろ。そして留守番させてお前が種屋の仕事をやれ。誰にも見付かるなよ。姿を晒すのはその傀儡だけだ。上手く立ち回れ。お前なら出来るだろう?」


 カナイの言葉にミアは不本意だという風だったけれど分かったと頷いた。私は子どもになんてことをさせる気なのかと止めそうになったのに、エミルにゆっくりと遮られる。


「ブラックを無事に元に戻したいならそれしかないよ。種屋に何かあったなんてことがことが表沙汰になったら、標的になる。今のブラック……ミアには其れ相応の力はあると思うけれど、経験値が圧倒的に足りない。大丈夫、薬は何とかするよ。マシロが悲しむようなことはしない」


 しゅんとしてしまった私の頭をそっと撫でながらそういってくれるエミルに頷いた。大丈夫かな? とミアを見ると目が合ったのに派手に逸らされる。もしかして、私は一瞬にして嫌われた? 結構子どもには好かれる自信があったのにショックだ。ああ、でもあの年代は微妙なのかも。シゼにも嫌われたし。うん。




 とりあえずラウ先生やシゼに相談……ラウ先生は物凄い笑いを堪えるのに必死という風だった。「そ、それは大変ですねぇ」という声が少し震えててちょっと涙目だった……して夕食をとったあと部屋に戻ってくるとミアは私の部屋の中にある物置のドアを見詰めていた。


「どうしたの?」

「この奥は何? マシロ使ってるのか?」


 重ねられた質問に私は一応と答えたが「ミアに何か考えがあるなら良いよ」と了承した。ミアは頷くと、ひょいと杖を出す。この頃から愛用品なんだ。少しだけ微笑ましい気分になった。

 エミルやカナイは部屋の中央にあるテーブルに必要そうな材料が書かれている紙を広げて入手方法を検討している。


 ミアはそのまま物置のドアを眺めていたが、すっと杖を上げドアの左上をこつんっと叩いた。その瞬間、ふわっと魔方陣が広がり淡く光る。続けて同じように右上もこつんと叩くと同じように魔方陣が浮かび、下の左右も同じようにこつんこつんと叩いた。その度に浮かぶ魔方陣が放つ淡い光が部屋の中を包む。そして最後に自分の足元をこつんっと弾くと一番大きな魔方陣が浮かび上がった。

 カナイが傍で「すっげ……」と感嘆の声を漏らす。

 続けてミアは聞き取れないくらいの小さな声で何事か呟くと叩いた順番に魔方陣が扉に吸い込まれるように消えていった。足元の魔方陣が消えてしまうとミアはふぅと嘆息しドアを開けた。


「……って、ええっ?! 何これっ! 何したの? ブラック! ……あ、いや、ミア」

「別に。不便だから種屋とここを繋いだだけ」


 うわぁ。どこでもドア? 未来の猫型ロボットだったの? ああ、猫だけに? 私はさっさと私の部屋と直通になった種屋の書斎へ消えていくミアの後姿を見送って、何度か部屋を行ったり来たりした。

 私はちょっと感心していたのに、やれやれというようなため息が聞こえて振り返るとエミルがちょっとだけ呆れていた。カナイはまだ少し感激しているようだ。アルファは……またおやつ中?


「今回のことが終わったらちゃんと閉じてもらうんだよ?」

「え? ああ、うん。でもこれって便利じゃない?」

「駄目だよ。いろんな意味で問題あり」

「ああ、物置つかえないもんね」


 そりゃそうだと納得した私にエミルは苦笑した。どうも違ったらしい。首を傾げた私に声が掛かり声のしたほうを振り返るとブラックが居た。


「マシロ。声はこのくらい?」


 その脇からひょいと顔を出してきたミアに問われて、ああと納得する。さっきいってた傀儡かぁ。凄いなーいわば人形でしょう? こんなに精巧に出来るなんて……感心していると少し急かすように傀儡が口を開く。


「マシロ、早く決めてくれ」

「え? あ、ああ。そう、だな。もう少しだけ低いかな? それで、うーんっと、もう少し艶っぽい声だよ」


 艶ってなんだよと横からカナイの茶々が入る。


「それから、人を小馬鹿にしたような敬語を使います」

「それはお前もだろ?」

「僕は敬意を表してない敬語を使うんです。カナイさんにはっ!」

「どういう意味だよ、あぁ?」

「言葉のままですーっ!」


 ぎゃんぎゃんといつものように騒ぎ始めた二人にやれやれと肩を落とすとぽんぽんっと肩を叩かれた。


「マシロ、これで構いませんか?」

「え……あ、ああ。うん」


 本人かと思った。いや、本人だけど……あれ? 本人じゃないのか? なんだか混乱してきた。


「マシロ、顔が赤い」


 ぼやっとしてたら目の前に居るのはミアになってて私の顔をまじまじと覗き込んでいた。わたわたと何でもないよと取り繕っているとエミルがカナイを呼び簡単に最終確認を終えると椅子から立ち上がりそっと私の肩に手を乗せた。


「今日は色々疲れただろうからゆっくり休んでね?」


 にっこりといわれて素直に頷く。続けてミアに視線を送ると念を押すように口を開く。


「ミアはちゃんと種屋に戻って休むんだよ? マシロも、可愛いからって甘くしちゃ駄目だからね?」


 と重ねられ、苦笑して分かったよと頷くと「うん」とエミルも頷いて私の頭をふわふわと撫でたあと皆と一緒に部屋を出て行った。

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