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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
特別番外編:月を恋う・貴方を想う
80/100

(1)

お久しぶりです。

お気に入り登録数が三桁突入して感激のあまり特別番外編を書きました。

六日間連続、夜十時投稿になっています。

良かったらお楽しみいただけると嬉しいです。

―― 大好きで大切で……貴方のことだけ考えて

 何が一番貴方の為になるのか

 どうすれば貴方はいつでも微笑んでいられるのか

 月を見上げる貴方を見ると心が痛む

 手放す気はないけれど

 僅かな夢の雫くらいあっても良いと願っている ――



 辺境の町にある一際大きな屋敷。

 今夜も二つ月の光を浴びて、静かな夜に溶け込むように佇んでいた。


 ―― ……どんっ!


 突如そんな静寂を破る音が響き白煙を上げた。


 



「だからさー、何か読みながらご飯食べるのやめなよ、カナイ!」


 私は身を乗り出して人の正面の席で新聞を広げていたカナイの新聞を叩いた。カナイは物凄く迷惑そうな顔をしたあと、ぱんっと新聞を整えて、四つに折ると私のほうへ差し出した。


「お前も新聞くらい読め」


 いらないと突き返そうとしたら差し出された記事に目が留まった。そんなに大きな記事ではないけれど建物の一部が崩壊した写真に見覚えがある。


「ちょ、これ、何?」

「んー……これどこ? ……ええっと何々、辺境の町で爆発騒ぎ……爆発元は種屋と思われる。原因も爆発元も詳細は不明。調査困難……負傷者不明……って、これ記事の意味ないですねぇ。種屋に居るのなんてブラックくらいでしょ。他の建物に影響ないなら、負傷者も居ないと思うけどな」


 横から覗き込んでそういったアルファにエミルもふーんと相槌を打った。カナイは遅れていた食事を続けている。


「って、なんで皆落ち着いてるのっ! ブラック何かあったかも知れないじゃないっ! 怪我したとかもしかしたら、し」


 いい掛けて声を詰めた私にアルファが笑う。


「死にません死にません。絶対ないです。たかが家が爆発したくらいで死ぬような柄じゃないです」

「いや、普通に生活してて家が爆発することなんて滅多にないし、それだけじゃないでしょ! ……って、いってても仕方ない、私、見てくるっ!」


 がたっと立ち上がると、待ってとエミルに制される。私は、一秒でも早くここを出たいのに取り合えずエミルを見た。エミルは優雅にティーカップを傾けていたのを机に下ろすと一息。落ち着いてますね? 王子。


「今からいったって夕方になっちゃうよ? ほら、カナイ、見てきてあげなよ」


 カナイの肩を叩きつつそういったエミルにカナイは素直に面倒臭そうな顔をする。


「大丈夫だって。その記事しかないだろ? 種屋が代替わりしたとか、んなこと書いてないじゃん。無傷でぴんぴんしてるって」

「ついでに家が壊れたままなら直してきてよ」


 ありがとうエミル。やっぱりエミルは優しいよねっ! と感動した。

 カナイは「あいつに恩を売っても無駄だと思うぞ」とまだまだ面倒臭そうだったけど、恩ってなんだ。むっと眉を寄せるとエミルが「分からないよ。何かの役に立つかもしれないし」と答える。

 そっか、素直に救済なんて考えないんだね。皆。その寂しさについ肩を落とすと同時にカナイは深く溜息を落として「仕方ねーな」と立ち上がった。


「まあ、確かに撮られるほどそのままってのはオカシイよな」


 ぶつぶつとそんなことをいいながらカナイは食堂を出て行く。アルファはまだ食べていたし私は暫くそこに我慢していたが落ち着かない。そわそわしているとエミルが苦笑した。


「部屋で待ってると良いよ。直ぐ帰ってくると思うし、ひょっこり本人が来るかもしれないよ?」


 いわれて私はそうだよね! ともう一度立ち上がりそうするよ! と部屋に戻った。廊下を走るように戻って部屋の鍵を開ける。

 がちゃりと慣れた音で扉を開くと正面奥にある机に腰掛けている人影と目が合った。


「あ、ごめんなさい」


 ぱたんっと扉を閉めて、やや黙す。そして、きょろきょろ。角部屋だし、私の部屋だよね? そうそう、鍵だって開けたんだから私の部屋だよ。え? 鍵掛かってたよね? じゃあ、あれは何? なんで私の部屋でふっつーに座ってたの?

 だんだん混乱してきた私は、すーはーと一度深呼吸して改めて扉を開く。


 ―― ……やっぱり居た。


「ええっと、私の部屋だと思うんだけど、君は、誰?」


 恐る恐る入ると少年は椅子から降りて無遠慮に私に近づいてきて顔を覗き込む。私の鼻先くらいに頭の天辺がくる。猫耳に尻尾。獣族の男の子だ。綺麗な子だ。というか、見覚えがある。私は、まっさかー……と思いつつもぽつりと口にした。


「ブラック……?」


 私の呟きに少年は首を傾げた。やっぱり外れたのかな?


「僕の名は……いや、名は何でも良い。君は誰だ? 僕と何の関係がある?」


 私より小さいくせに物凄く大仰な態度だ。というか……私がこの子を知っている前提みたいだけど、私の知り合いの獣族に子どもというかこのくらいの子は居ない。黒耳に尻尾はやっぱりブラックくらいしか知らない。


「私はマシロっていうんだけど、君のことは知らないな? 君はどうやってここに来てここに入ってきたの?」


 普通の魔術とかではここへの入室は難しいらしいし、普通に入るにも許可が要る。軍艦さん、じゃなくて寮監さんに止められること必至だ。


「マシロの居るところに来ただけだ。マシロがここに居るから僕はここに来た」


 ……ん? 禅問答か何かか?


 私は混乱して首を傾げる。丁度そのときノックが聞こえカナイが声を掛けてくる。早いな。


「おい、マシロ。居るか?」


 私は居るよと真後ろのドアを開けた。


「屋敷は元通りになってたけどブラックの姿はなかったぞ? そんなことよりお前の部屋に誰かが……そいつ誰だ?」


 首を傾げたカナイに私も首を傾げる。


「私は種屋を継ぐものだ」


 とりあえず少年は私たちの時間を刹那止めてくれた。

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